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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者
341/637

341 リュート

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

「ダンーっ。お待たせなのーっ」



 幸福の先端を家に帰したタイミングで、ようやくニーナが呼びにきてくれた。



 ……ってか遅くない? 大分長時間放置されてた気がするんだけど?


 ワンダ達が来てくれなかったら、ずっと1人で剣振ってたよ俺?



「あはっ、ごめんねーっ? みんなで大好きなダンの話をしたら盛り上がり過ぎちゃったのーっ」



 んもー、ズルいよニーナってばぁ。


 笑顔で胸に飛び込みながらそんなことを言われたら、文句の1つも言えないってばぁ。よしよしなでなで。



「それじゃ今度はリーチェの話を聞いてもらうからね。大好きなリーチェの話、大好きなみんなにもちゃんと話しておきたいんだ」


「勿論聞くよっ。大切な家族の話なんだもん。聞かないわけにはいかないのっ」



 ニーナと手を繋いで家に戻る。



 思えば俺の異世界生活は、いつもニーナと手を繋いでいたなぁ。


 誰の目も憚ることなくニーナと手を繋ぎたくて、奴隷解放を目指して頑張ったっけ。



 異世界生活の始まりがニーナの手を取ったことなら、目指した先はリーチェだった。


 リーチェの抱える事情は知れた。あとは解決するだけだ。



 ニーナの手をぎゅっと握って、改めてリーチェを幸せにすると決意する。


 握り返してくれるニーナの手の感触が心強く感じられた。



「……っと、食堂じゃないのね?」


「我が家で大切な話をするのはいつだってここなのっ」



 1階の食堂をスルーしてニーナに誘導されたのは、2階の寝室だった。


 中に入るとベッドは綺麗にセッティングしなおされていて、飲み物や軽食が用意してあるようだ。



 ……でも、飲み物や軽食は既に結構手を付けた形跡があるなぁ? 盛り上がりすぎたってこういうことぉ?



「あはーっ。待たせちゃってごめんなさいねー」



 ごめんねー、と顔の前で両手を合わせて首を傾げるティムルお姉さん可愛いよぉ。


 さっきのニーナもだけど、可愛い姿を見せられちゃうと怒りとか不満とか全部吹っ飛んじゃうから困るんだよぉ。



「それと、お話をするのは寝室でいいわよね? 食堂とどっちにするか迷ったんだけど、寝室で話すほうが我が家らしいかなって」


「寝室でも構わないんだけど……。我慢できるかなぁ俺……?」



 寝室で話すのは構わないんだけど、話の途中でみんなを押し倒してしまわないか心配だ。


 でも食堂でも始める時は始めるから、掃除の手間まで考えると寝室のほうがいいなっ。



「おいでリーチェ。話が終わるまでぎゅーっとしててあげるからね」


「えへへっ。お邪魔するねっ」



 全員でベッドの上に乗り、俺はリーチェをバックハグして他のみんなと向き合うように座る。



 気持ち良さそうに深く息を吐くリーチェの体を苦しくならない程度の強さで抱きしめながら、建国の英雄譚の真実を暴く覚悟を決める。


 そして俺の怒りがぶり返さないように、平静を保つ覚悟も決める。



「それじゃ始めるよリーチェ。もし俺の話に間違いがあったら可能な範囲で指摘してね」


「うん。よろしくねダン。みんなにも知って欲しいんだ、ぼくのこと」



 リーチェを抱きしめる腕に力を込める。


 腕の中のリーチェを安心させる為に。リーチェを抱きしめている俺が安心したい為に。



 お前が誰であっても俺達の愛する家族には変わりない。


 だからずっと俺の腕の中で笑っていてくれ。



「全ての始まりは、やっぱり邪神ガルクーザからだったんだ」



 リーチェを腕の中に閉じ込めながら、メナスから聞いた話をみんなにも伝える。



 6種族が共生していたアルフェッカという場所のこと。ガルクーザのこと。


 建国の英雄譚が捏造されたものだったということ。スペルディア家の台頭とエルフ族の暴走。



 そしてリーチェは実は偽者で、彼女の正体がリュート・マル・エルフェリアであるということも……。



「こうしてこいつはリーチェとなって、ずっと独りで世界中を旅することになった」


「「「…………」」」



 みんなは全く口を挟まずに、俺の話を黙って聞いてくれた。


 リーチェからの訂正や指摘も特に無く、寝室には俺の声だけが聞こえていた。






「コイツがリーチェでもリュートでも、俺の愛する女性だってことに変わりはない。みんなも俺と同じ気持ちでいてくれたら嬉しいと思ってるけど、どうかな?」



 最後に、腕の中の女性を今まで通り愛することを宣言してみんなの様子を窺う。



 あー……、ニーナはあんまり興味無さそうだなぁ。ヴァルゴもリアクションが薄い。


 2人はスペルド王国の歴史や成り立ちに殆ど関心が無いのだろう。



 そんな中、フラッタは1人でうんうん頷いているね。フラッタも俺と同じ気持ちだって意味の頷きかな?



 ムーリは偽りの英雄譚に対して明らかに嫌悪感を滲ませている。


 ムーリもガリアに弄ばれる寸前までいったから、エルフ族に詐称を強要されたリーチェに共感する部分があるのかもしれない。



 ターニア、ラトリア、エマの大人組はかなり衝撃を受けているようだ。


 建国の英雄譚は獣爵家、竜爵家の人間には常識として伝わっているスペルド王国の起源だから、今まで信じてきたものを根底から覆されたような想いなのかもしれない。



「なんで……、なんでどいつもコイツも下らない理由で人を縛り付けるのよっ!?」



 みんながそれぞれの反応を見せてくれる中、誰よりも激しい怒りを見せたのがティムルだった。



「捨てるなら、立ち去るなら黙って消えなさいよぉっ!! リーチェ1人を置き去りにして、リーチェ1人に全て押し付けて……、それで自分たちは引き篭もってるですってぇ……。馬鹿にするのもいい加減にしなさいよぉっ!!」



 かつてロジィに弄ばれ、捨てられ、なのに縛られ続けたティムルが咆える。



 ティムルは詐称を強いられたわけじゃなかったけれど、何の実も無いロジィの妻という立場に縛られ続けていた過去がある。


 他人の都合で縛られ囚われていたリーチェに、誰よりも強く共感してしまったのかもしれない。



「私、ドワーフに生まれて良かったわ。心からエルフ族を憎んでも不自然じゃないんだもの……!! リーチェには悪いけど、やっぱり私はエルフ族のことが大っ嫌いよっ……!!」



 エルフ族を嫌いと言いながらリーチェを抱きしめるティムル。そんなティムルを抱きしめ返すリーチェ。


 ……リーチェもティムルも俺の女なんだけどなぁ。俺より仲良くないかな? この2人って。



「ふふ。ティムルに嫌われるの嫌だなぁ? ぼくも一応エルフ族だよ?」


「リーチェのことなんか大好きに決まってるでしょ! ダンがいなかったら私がもらってあげたいくらいリーチェのことが大好きなんだからっ!」



 俺以外の相手に愛を告白するなんて、と思わないでもないけど、ここで2人の邪魔をするほど野暮なこともない。



 犬猿の仲と呼ばれるドワーフ族とエルフ族なのに、こんなに仲良くなってくれたティムルとリーチェ。


 出会った時なんかティムルは濡れ衣を着せられていて、リーチェはそれを糾弾する立場だったっていうのに、人生って分からないものだよねぇ。



「ねぇねぇリーチェ。貴女のことは今まで通りリーチェって呼んでいいの? それともリュートって呼んだほうがいいのかなぁ?」


「ちょっ、ニーナっ!?」



 ティムルとリーチェが抱き合う中、普段と変わらない軽さでニーナが火の玉ストレートを放ってくる。


 ……ニーナさん、もうちょっと空気読んでもらえませんかねぇ?


 

 ニーナにとっては名前なんてどっちでも良くて、今までと何も変えるつもりはないんだろうね。



「あ、もしかしてこれって答えられないかな?」


「ううん大丈夫。詐称の内容を知っている人には普通に話せるよ。秘匿に当たらないからねっ」



 心なしか少し弾んだ声でニーナに返答するリーチェ。


 秘密を知っても態度を変えないニーナの対応が嬉しかったのかな?



「ぼくとしては今まで通りリーチェでお願いしたいかな。もう450年もリーチェとして生きてきたんだ。リーチェだってもうぼくの一部だからね」



 もうリーチェも自分の一部かぁ。



 現在リーチェは471歳。スペルド王国は建国455年。


 スペルド王国建国と同時に詐称が始まったのだとしたら、リュートでいられたのは16歳までということになる。



 ……もう普通に、リーチェはリーチェとして成立してる気がするなぁ。



 でもコイツは間違いなくリュートで、そして俺はリュートを諦める気は無いんだよ。



「リーチェ。もう隠す必要は無くなっただろ。お前のステータスプレートを見せてくれないかな?」


「あ、そうだね。見てもらおうかなっ」



 あれほど嫌がっていたステータスプレートの提示をあっさり了承するリーチェ。


 直ぐにステータスプレートを取り出し、そしてみんなに見せてくれた。




 リーチェ・トル・エルフェリア 女 471歳 巫術士 仕合わせの暴君

 ダン ニーナ ティムル フラッタ ヴァルゴ

 ダン(婚姻) 誓約(詐称) 誓約(秘匿) 誓約(純潔)




「名前の表示はリーチェなんだな? ここはリュートって記載されてるのかと思ってたけど」


「ぼくのステータスプレートは詐称の誓約によって、リーチェのステータスプレートとして扱われているんだよ。詳しい原理は分からないけどね」



 ステータスプレートって結構本人の認識に影響されて、曖昧なところとかあるもんなぁ。


 俺の年齢とか、俺も知らないうちに1歳サバ読んでたりしたし?



「だけど詐称の誓約はバッチリ表示されちゃってるからね。ステータスプレートを見られると、ぼくがリーチェを騙る別人である事は伝わってしまって……。毎年の納税は面倒事になることも多くさぁ……」


「む? ダンの話に誤りが無いのであれば、リーチェの事情を知っているスペルディア王家の者に協力してもらえば良いのではないのかの?」



 フラッタが可愛く首を傾げながら疑問を口にする。



「フラッタ。ボンクラ国王との謁見を思いだしてみなって。あのボンクラ、リーチェの純潔の誓約のことも知らなかったんだよ?」


「……あ~。事情、知らなんだかぁ……」



 謁見の時も今回の騒動の時も、あのボンクラはリーチェの誓約の事を知っている様子はなかっただろ?


 多分スペルディア王家には真実が伝わってないんだよ。



「今回あの無能がリーチェと対峙したところを見ると、王自らがレガリアと繋がりを持っていた可能性が高いですからね。もしかしたらレガリアが時間をかけてスペルディア家を無能に仕立てあげていったのかもしれません」


「王がレガリアと繋がっていたのではなく、レガリアが無能を選別していたと?」


「真実は分かりません。ですがレガリアとはスペルディアを蝕む呪いであると、槍持つ鬼が言っていましたから」



 ヴァルゴが戦った先代メナスゼノン。


 組織運営にやる気を見せない今代メナスに変わって、レガリアという組織を率いていたという。



 そんな男が語った、スペルド王国を蝕むレガリアという名の呪いの話。



 ゴブトゴさんもそうだけど、この国の貴族には危機感があまり無く、無能が目立つ者が多い印象だった。


 弱者に優しく悪意を寄せ付けないはずのこの世界の仕組みを理解せず、弱者を虐げ悪人が笑う社会が完成して成熟していた。



 レガリアが国王に直接コンタクトを取れる組織であったのならば、スペルド王国を蝕むために支配者に無能を据えてきたのかもしれない。



「ガルクーザを滅ぼした6人の英雄を尊敬しているからこそ、その英雄達が守った人々の幸せを許せないなんて、そんなの狂ってますよ……! 許せないと出て行ったのなら、黙って別々に過ごせば良かったのに……!」



 万人に無償の愛を提供するトライラム教会のシスターであるムーリには、レガリアの考え方は到底理解できないもののようだ。


 レガリアのやっている事は尊敬する英雄を貶める行為に他ならないもんなぁ。



 ……っとそうじゃないよ。


 こんな話をするためにリーチェのステータスプレートを見せてもらったわけじゃないんだ。



「話は変わるけど、俺はリーチェもリュートも諦める気は無いんだ。だから宣誓させて貰うよ」


「えっ?」



 憤るムーリをよしよしなでなでしながら、自分のステータスプレートを取り出す。


 そしてリーチェの……いや、リュートの顎を優しく引き寄せて、唇が触れ合いそうな距離でリュートを見詰める。



「俺はリーチェ・トル・エルフェリアと婚姻を結んだまま、リュート・マル・エルフェリアにも婚姻を申し込む。リュート、お前も俺と婚姻を結ぼう」


「ふぇぇっ!? ダ、ダン!? そんなこと……!?」


「リーチェもリュートも俺のもんだ。絶対に誰にも渡さないから」



 びっくりして俺を見詰めるその翠の瞳に、改めて永遠の愛を誓う。



「お前がリーチェだろうとリュートだろうと構わない。むしろ2人分愛し抜いてあげるからね。リーチェもリュートも愛してる。だからお前も2人分愛されてくれるかな?」



 彼女の返事を待たずにキスで口を塞いでしまう。


 一方的に押し付けた唇の先のリーチェは、なんだかいつもよりもぎこちないように思えた。



 ……ひょっとしてこれ、リュートのファーストキスだったのかな?



 次第にリュートの方からもキスに応じてくれ始めた頃、俺のステータスプレートが淡く光った。




 ダン 男 26歳 勇者 仕合わせの暴君

 ニーナ ティムル フラッタ リーチェ ヴァルゴ

 ニーナ(婚姻) ティムル(婚姻) フラッタ・ム・ソクトルーナ(婚姻)

 リーチェ・トル・エルフェリア(婚姻) ムーリ(婚姻)

 エマーソン・ソクトヴェルナ(婚姻) ヴァルゴ(婚姻) ターニア(婚姻)

 ラトリア・ターム・ソクトルーナ(婚姻) リュート・マル・エルフェリア(婚姻)

 奴隷契約(非表示) 貸付契約(非表示)




 どうやら無事に、リーチェの名前も残ったままでリュートと婚姻を結ぶ事に成功したようだ。


 キスをやめて、蕩けた顔のリーチェとリュートを抱きしめる。



「10人目の妻はお前だリュート。お前は1人でリーチェとリュートの2人分俺に愛されるんだ。覚悟しろよ?」


「え、えへへ……。1人分でも受け止めきれないのに、2人分も愛してもらえるなんて参っちゃうなぁ……! ダンにそんなに愛してもらったら、ぼく、壊れちゃうよぅ……!」



 あーもう可愛いなぁコイツは!


 壊れるのはお前じゃなくて、俺の理性の方だってーの!



 トロトロリーチェを衝動のままに押し倒しそうになったけれど、突然耳に届いたティムルの笑い声が俺を止めてくれた。



「あはーっ! リーチェってば、好色家を得られたみたいじゃないっ!」


「ええっ!? ティムル、それって本当っ!?」


「まだ最後の一線を越えてないっていうのに好色家になれるなんて、リーチェってダンのこと好きすぎだからねーっ!?」



 ティムルの笑い声に直ぐに自分自身を鑑定したリーチェは、一瞬だけ固まった後、満面の笑みを浮かべて俺を見る。



「ダン! やった、やったよ! 間違いなく好色家だよー! これでぼくと姉さんも心置きなくダンに愛してもらえちゃうよーっ!」


「身も心も俺に捧げるなんて可愛すぎるだろっ、このエルフのお姫様は。ちゃんと責任持って、リーチェもリュートもめちゃくちゃにしてあげるからねー?」



 俺にベタ惚れで、肌を重ねてもいないうちから好色家を得てしまったリーチェ。


 そんな極上の女に仕上がったリーチェを生涯2人分愛さなきゃいけないなんて大変だなぁ!



「リーチェとリュートを愛する準備も万端だ。さっさと宣誓を破棄させたら、あとはもうずーっとずーーーっと寝室でイチャイチャしようねっ!」



 トロンしたリュートをよしよしなでなでしながら、俺達2人を見守ってくれていたみんなに向き直る。



「リーチェもリュートも愛してるけど、ニーナもティムルもフラッタもムーリもヴァルゴも、ターニアもラトリアもエマのことも、みんなみんな大好きだよーっ!」



 俺の言葉に、私もー妾もーと抱きついてくるみんなが愛おしすぎるぅ!



 あーもうっ、やる気が漲ってきちゃうなぁ!


 さぁみんな! 今夜は盛大に愛し合って英気を養おう!

※こっそり設定補足。


 リュートの宣誓はあくまで秘匿であって、秘密を保持したり情報漏洩を防ぐことは誓約に含まれていません。

 なので自分から話すことは出来なくても、自分以外の誰かが真実を語る事を妨害したりする義務はありません。

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