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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
1章 巡り会い1 スポットでの出会い
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034 フラッタ

 戦闘が終わり、俺の身を案じたニーナが駆け寄ってくる。



「ご主人様。大丈夫ですか?」


「ん、大丈夫。とりあえずアイテム回収してくるから、これ、お願いしてもいい?」



 倒れている女を指差す。



「移動させるのも手間だし、スポット内じゃ安全地帯もないよね? ちょうど良いからここで夜営しちゃおう」


「そうですね。この人も呼吸してますし、じきに目が覚めるでしょう」



 助けは要らないって言ってたけど、流石に放置するわけにもねぇ。

 話をするにも相手は気を失ってるわけだし、コイツが目を覚ますまでは話が進まない。


 ニーナに警戒をお任せして、ドロップアイテムの回収に勤しんだ。



 かなり広範囲に散らばっているドロップアイテムを回収してみると、どうやらこの女、1人で相当な数の魔物を倒していたことが分かる。


 ま、ドロップアイテムはこのまま貰っちゃいますけどね? 共闘したわけじゃないんだし、回収せずに気絶する奴が悪いんだい。


 

 アイテムの回収を終えてニーナのところに戻る。女はまだ目を覚ましていないようだね。



「一応楽な体勢で寝かせておきました。寝苦しいとは思いますけど、スポット内で装備を外させるわけにもいきませんので、鎧は着せたままです」



 そればっかりは仕方ないね。危険地帯で勝手に装備品を脱がされたら、こいつだって困るでしょ。



「ご主人様としては脱がせた方が良かったですか?」


「ニーナだけで満足してます。むしろたまに手に余……、いえなんでもないです」



 じとーっと睨んでくるニーナから目を逸らして、寝ている女を改めて見てみる。



 金属製の西洋甲冑、プレートメイルとか言うんだっけ? ともかくかなり重そうな鎧を着込んでいる。


 目を引くのが鮮やかな銀髪で、少なくとも腰くらいまではありそうだ。ただし身長は低いし見た目も幼い。

 140cm台前半、限りなく小学生に近い中学生って感じか。甲冑の下の体のラインは全く分からない。



 銀髪と合わせても埋もれないほどに肌が白く、幼いながらも凄まじい美形だ。ここまで来ると美人というより芸術作品みたいだなぁ。



「かなり幼く見えるけど、戦闘能力は高かったよな? 俺は殆ど確認できなかったけど」


「はい。かなり消耗していましたが、万全であればご主人様より手練れかと」



 だよねぇ? ドロップアイテムからの逆算になるけど、50体以上の魔物に追われてたのは間違いなさそうだし。


 やだなぁ、自分より強い相手が友好的じゃないのって。やっぱり放置して逃げるのが最善策じゃないかなぁ。



「ま、なんにしてもコイツが目を覚まさないと始まらないね。せっかくだから護衛の練習だとでも思おう。どうせ今晩は移動しない予定だったし、支障はないっしょ」


「確かに私も移動阻害がかかりますし、移動できない防衛任務、護衛の経験が積めるのは有意義ですね」



 俺の言葉に感心したように同意してくれたニーナだったけど、直ぐに表情を引き締めて警告してくる。



「ですが彼女が目を覚めたら必ず2人で対応しましょう。回復した彼女が敵対的だった場合、非常に危険ですから」



 ニーナの言葉に頷きで答える。



 まったく、ティムルが居なくなって静かになったと思ったら、まーた変な騒動に巻き込まれちゃったよ。これってやっぱ異世界転移者の宿命って奴だったり? 勘弁して欲しいよ。


 

 さてと、とりあえず消化に良さそうなスープでも作るかね。


 嵩張るから迷ったけど、多少でも食材に余裕持たせておいて正解だったよ。






「ん。……む、ここは、いや貴様らは……」



 食事の準備が済んだ頃に声がする。ようやく目を覚ましたのか。



「スープ出来た途端に起きやがって。優秀な五感してやがる。食欲はあるか? ホレ」



 体を起こした少女にスープの入った器を差し出す。


 適当に作ったスープだけど、出来立てなんだから文句は言わせんっ。



「ぬぅ……。妾は人間族の施しなど……、施しなど……」


「うるさい。黙って食え。お前、ここスポットの中だよ? お前にも戦ってもらわないと困るわけ。それとも空腹を理由に俺たちに守ってもらうつもりなの?」


「んなぁっ!? そ、そんなわけなかろうっ! 寄越せっ! 貴様らが戦う必要がないほど奮闘してみせるのじゃっ」



 俺の差し出した器をひったくるようにして、具沢山スープをガツガツ貪る少女。


 こいつくっそチョロそうだな? だけど身につけてる装備品は高品質っぽい。戦闘力も高かった。



 ん~、扱いにくいなぁ……。


 さっきから鑑定するか迷ってるんだけど、コイツの素性って厄介事の気がして仕方ないから知りたくないんだよねぇ……。



「食料には余裕がありますので、遠慮なく召し上がってください。貴方が私たちに敵対的であったとしても、私達は敵対したくないですから」


「……ふん。ありがたく貰っておこう。話は腹を満たしてからなのじゃ」



 だな。せっかくのスープが冷めたら勿体無い。話は食ってからにしよう。


 ほいっと、ニーナにもスープの入った器を手渡す。



「ありがとうございますご主人様」



 ニーナは両手でスープを受け取って、スープにがっつく少女をぼんやりと眺めながら呟いた。



「スポット内で他の人と会うのは初めてではないですけど、一緒に食事をしたのは初めてです。少し新鮮ですね」



 スープを貪る少女の姿に、ニーナは毒気を抜かれてしまったみたいだね。


 この調子で、少し新鮮くらいで済めば平和でいいなぁ。



 ……正直、食事が終わったらそのまま解散でも全然良いんだけどぉ?






 食事の後始末を終え、改めて3人で向きあう。


 たった今食事中に襲撃してきた魔物を撃退したばかりなので、当分の間は安全なはず。



「馳走になったの。それに助けてもらった礼も言っておらなんだ。世話になった。お主らのおかげで助かった。心より感謝するのじゃ」


「たまたま居合わせただけだし気にすんな」



 ペコリと頭を下げる少女に、その必要は無いと頭を上げさせる。こいつを助けられたのは完全に偶然だったし。



「俺はダン、こっちはニーナ。ここで1泊したら明日には東側のマグエルに戻る予定っと。そっちの事情は無理に聞くつもりはないからね」



 聞かされたって手に余るのは間違いない。ならなにも聞かない方がマシだ。



「ダンにニーナか。覚えたぞ。妾の名はフラッタ・ム・ソクトルーナ。フラッタと呼ぶが良いぞ」


「良いぞ、じゃねぇっての。家名持ちかよ。関わりたくない相手でぶっちぎりなんだけど?」



 おっと、コイツって燃えるような真っ赤な目をしてるんだな。正面から向き合って今更気付いたよ。



 ニッコリと笑いながら自己紹介する少女に、嫌な予感が加速していく。


 白い肌、銀髪、そして赤い目か。

 貴族か稀少種族だろコイツ。絶対鑑定しないぞ。



「フラッタ。私達の予定はさっき告げた通りです。貴方の邪魔にならないのでしたら、夜営が終わったら解散で良いですか?」


「む。ニーナよ。つれないことを言うでない。せっかくの縁なのじゃ。同道するのが良かろう」



 ズバッと切り込むニーナに対して、解散を渋るフラッタ。


 いやなんでだよ? 俺はお前の嫌いな人間族なんだからこっちくんな。



「ここに居たってことは、フラッタも目的とか予定とかあんだろ? そっち優先しなよ」


「目的か。聞いてくれるか。実は妾は「聞いてないです興味ないです話さないで聞かせないで、俺を巻き込まないでもらえますぅ?」


「なんでじゃーっ! 話くらい聞いてくれても良いじゃろうがーっ!」



 拳を握りながら万歳の形で怒りを顕わにするフラッタ。


 危ない危ない。あと1歩で変なイベントに巻き込まれるところだった。



「フラッタ。ここはスポットの中です。あまり大きな声を出すのは控えてください」


「お、そうじゃったな。済まんの。ダンがあまりにもつれないので、つい叫んでしまったのじゃ」



 ニーナの言い分にあっさりと反省して見せるフラッタ。


 コイツ、チョロいっていうか素直なんだな。

 家名持ちでナチュラルに偉そうなのに、感謝は出来るし謝罪も出来るし、人の話に耳を傾ける事も出来るみたいだ。



「目的は置いといて。フラッタはどうしてあんなに消耗してたんだ? 正直フラッタが万全だったら、俺たちに会う前に魔物全部倒せてただろ」


「ほう? 人間族の割には良い目を持っておるのぅ」



 感心したように息を洩らすフラッタ。


 お前の中での人間族の評価ってどうなってんだよ? お前が実力者だってことくらい誰でも分かるっての。



「じゃが流石の妾も、3日3晩飲まず食わずでは実力も発揮出来ぬというモノよ。食事の提供はほんにありがたかったのじゃ」


「3日3晩飲まず食わず、ですか。ということはフラッタ、貴女もしかして……」



 恐る恐るといった様子でフラッタに問いかけてしまったニーナ。


 ダ、ダメだニーナ! その先を聞いてしまったら、このまま解散できなくなるぞぉっ!



「うむっ。察しの通り道に迷ってしまっての。途方に暮れておったのじゃ!」



 よくぞ察してくれたと言わんばかりに、実に嬉しそうに遭難の報告をしてきやがるフラッタ。


 かと思えば突然捨てられた子犬のような表情になって、俺とニーナに懇願してくる。



「そこにお主らが現れたのも縁というものじゃ。妾も同道させてくれぬかのう……?」


「ぐああああ最高に扱い辛えぇぇ……。ここで放置したら俺完全に鬼じゃんかぁ……」



 予想通り過ぎるフラッタの反応に思わず頭を掻き毟ってしまう。


 いっそ敵対してくれてたらスルーも出来たのになぁ! めっちゃ友好的で素直になりやがって!



「んー……。これは流石に連れていくしかないんじゃないですか? ご主人様」



 ニーナが諦め混じりに小声で進言してくる。


 ニーナぁ、諦めるの早いってばぁ。確かに放置できる状況じゃないんだけどさぁ……。



 頭を抱える俺の代わりに、ニーナがフラッタに語りかける。



「ねぇフラッタ。さっきも言った通り私たちは東側のマグエルに行くんですよ。貴方もそれで大丈夫なのですか?」


「構わぬよ。まずはスポットを出ないことには話にならぬからのぅ。妾1人でスポット内を歩き回るのは無理なのじゃ。それは理解したからの」



 フラッタ1人でも戦闘力だけなら充分なのになぁ。それ以外の部分がポンコツ過ぎて危なっかしいよぉ……。


 まぁいいや。ここでゴネても無駄だろう。諦めたわ。



「フラッタ。とりあえずマグエルまでは一緒に行こう。マグエルに着いたら解散。それでいいね?」


「良い良いっ、それで充分なのじゃっ」



 くぅぅ、フラッタの背後にブンブンと振られる犬の尻尾が見えるようだよぉ……!


 出会いは険悪だったってのに、声を弾ませて無邪気に喜びやがってぇ……!



「ふぅむ、人間族は残虐非道の悪鬼羅刹で、見かけたら絶対に関わってはならぬと言われておったのじゃが、お主らはだいぶ印象が違うのぅ」



 極端すぎるなお前の人間族像!? 人間族さんに警戒しろってのは間違っちゃいないと思うけど。


 なんか心配になる奴なんだよなぁ。

 このままズルズルと、マグエルについてからも世話することになったり……。



 ……いやいやっ、縁起でもないことを考えるのは止めておこう。



「それにしてもフラッタは目の覚めるような美人ですよねぇ」



 ニーナが今更のようにフラッタの容姿に言及する。


 嫉妬とかの悪感情は感じない。単純に感心しているような口調だ。



「またご主人様の周りに美人が増えてしまいました。ご主人様って美女を惹き付ける呪いにでもかかってるんですか?」


「流石に今回のは濡れ衣でしょー? ニーナに言われたから向かったんだよー?」



 そんな呪いにかかってたなら、日本でも効果が発揮されてなかったらおかしいんだよなぁ。


 その呪いでニーナを惹きつけられたなら、呪われた甲斐もあるんだけどさ。



「かっかっか。美人などと照れるではないか。そう言うニーナだって美人なのじゃ。胸を張るが良いぞ」


「……なんかご主人様が扱い辛いって言ったの理解できました。なんでしょうねこの、全体的に能力は最高水準なのに、どこか危なっかしくて見てられない感じは……」



 ニーナさん。日本ではそれをポンコツって言うんです。


 頭が悪いわけでもなく、人の話を聞けないわけでもないのに、なーんか話が噛みあわないんだよねぇ。



「褒め殺すではないかニーナよ。じゃがそなたとて捨てた物ではなかろう。妾とて未だ修業中の身。互いに研鑽し更なる高みを目指すのじゃっ」


「……うわぁ~だめですご主人様。マグエルで解散しちゃったら、私心配で何も手がつかなくなっちゃいそうですよぅ」



 ニーナをこの短時間で篭絡するなんて。フラッタ、恐ろしい子!


 ……思い返すと、ニーナはいつもスピード攻略されてるような気がしないでもないけど?



 しっかし厄介なもの拾っちゃったなぁ。

 お荷物ってわけじゃなくて、1兆円の宝石を拾ってしまって途方に暮れる感じだよぉ。


 自分で持ってるのは怖いけど、行く先が心配になる、みたいな? 勘弁してよねぇ……。

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