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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
序章 始まりの日々2 マグエルを目指して
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031 マグエルでの新生活

 季節は7月を迎え、気温がどんどん上がってきた。マグエルに着いてから1ヶ月くらい経ったのかな?


 この世界には日本に近い四季があるそうで、7月は日本に居た時と同じく灼熱の季節らしい。おかげで雑草の伸びるペースも早まって、除草作業がいつまで経っても終わらないよぉ。

 


 暦も1日の長さも地球と殆ど変わらないこの世界だけど、カレンダーも無いし日付感覚が曖昧で仕方ない。


 俺達の場合ギルドに仕事を回してもらうわけでもないので日付なんて知らなくても困らない。注意すべきは納税のタイミングくらいだ。



 今日も教会の子供達に除草作業を依頼して、我が家に訪れた子供達と一緒に朝食を囲んでいる。



「済みません。いつもお食事までいただいてしまって……」


「いや別に良いよ。そんなに大人数でもないね。ニーナも嬉しそうだし」



 恐縮しっぱなしのムーリさん。


 その横で、ニーナがニコニコと子供達の相手をしている。



「みんな、いーっぱい食べてくださいねっ。遠慮は要りませんよ、沢山作りましたから。でもお腹いっぱい食べた分、いっぱいお手伝いしてくださいねー?」


「「「はぁいっ!」」」



 ……なんかニーナのほうがシスターみたいになってない?



 元々心配してなかったけど、ニーナはなんの問題もなく子供達と仲良くなった。


 破格の報酬に追加して、除草作業の前後に食事まで振舞っているのだから、孤児の胃袋をガッチリと鷲掴みにしてしまっている。

 ニーナにとっても料理の練習にちょうど良いということで、毎回楽しそうに料理を振舞っている。おかげで手伝ってる俺も簡単な料理なら作れるようになった。


 

「本当にお2人には良くしていただいて、申し訳ないくらいです。報酬といいお食事といい、私達がお2人の負担になっていないか不安で仕方ありませんよ……」


「ニーナが楽しそうにしてるので大丈夫。無理な時はちゃんと無理って言うよ」



 ニーナが子供達の相手をしているので、俺は子供達に同行してきたムーリさんと会話する。


 正直に言えば負担は負担なんだけどね。でも俺とニーナで背負えるくらいの負担だから問題ない。



「ほらほら、そんなしかめっ面して食事しても美味しくないでしょ。気にせず食べちゃってよ。せっかく振舞った食事を残される方が残念だから」


「はい。ありがたくいただきます」



 ようやく肩の力を抜いて食事に手を出すムーリさん。毎回このやり取りするのが微妙に大変なんだよなぁ。



 これでも俺も強くなって、稼げる額も順調に増えつつある。


 今や日当は700リーフに届きそうな勢いだし、スポットでの集団戦にもかなり慣れることが出来たと思う。今のところ日帰りツアーしかしていないけれど、そろそろお泊り合宿も視野に入れているほどだ。



 まだまだ納税額や装備代には手が届きそうもないけど、毎日除草を依頼しても問題なく黒字に出来る。その証拠に、インベントリには1万リーフ以上のお金が手付かずで収納されている。


 うん、マグエルでの新生活は順風満帆と言っていいでしょ。



「お2人がいらしてから、子供達は本当によく笑うようになって……。始めは井戸が使えなくなるかと思って途方に暮れていたのですけど、今ではみんなここに来るのを楽しみにしてますよ」


「ご近所さんと仲が良いに越した事はないからね。俺こそ子供たちに嫌われずに済んでホッとしてるよ」



 子供に囲まれて笑顔で食事しているニーナをぼんやりと眺める。



 マグエルの教会では現在16名の孤児を預かっており、そのうち1名が年が明けたら15歳になる。つまり年が開けたら借金奴隷になる子がいるということだ。


 幸いと言うべきか、その子は魔物狩りをするには大人しすぎて命を落す心配はないのだけど、もちろん150万リーフなんて大金を稼ぐアテだってない。


 ニーナの傍で笑っているあの子はきっと、迫ってくるタイムリミットに怯える日々を過ごしている事だろう。



 ……なんとかしてやりたいと思わなくもないけど、最低限俺達の分の税金を貯めてからの話だよな。


 ニーナと俺が最優先だ。俺がいなきゃニーナも生きていけないのだから、自己犠牲なんて絶対にするわけにはいかない。


 誰かを助けたいならまずは自分たちからだ。



 大丈夫、資金的なアテはある。日当は微々たるものだけど、魔玉は手をつけてないからね。


 あとはプラスアルファをどこまで稼げるか、それが勝負だろう。




 順調なのは金策だけじゃない。職業の育成も進んでいる。


 俺の戦士とニーナの旅人がめでたくLV30となり、戦士LV30で兵士が、旅人LV15では派生職が見つからず、LV30の時に冒険者が現れた。




 兵士LV1

 補正 装備品強度上昇- 体力上昇- 敏捷性上昇-

 スキル 全体補正上昇-



 冒険者LV1

 補正 体力上昇 持久力上昇 敏捷性上昇-

 スキル インベントリ ポータル




 2つとも上位職だけあって、補正効果がかなり大きいようだ。



 冒険者のスキルであるポータルとは移動魔法のことで、自分の行った事のある場所なら一瞬で移動できる魔法らしい。いいねっ、是非とも覚えたいっ。


 ただし屋内では使用も出来ないし、スポットの内部でも使用は出来ないとのこと。



 移動魔法にはめちゃくちゃ興味はあるけれど、ニーナに適用されない魔法を習得させるわけにはいかない。ポータルを試すのは自分で覚えてからにする予定だ。



 今の職業設定は俺が旅人LV18。ニーナが戦士LV12だ。ちょうどお互いの職を交換した形だ。


 俺もインベントリを使えるようになる事でドロップアイテムの回収量が増えるし、ニーナの戦闘力を上げる事でスポット内での安全性と狩りの効率を上げたかったからね。

 それに持久力上昇補正のおかげで、体に疲労が溜まりにくいのが地味に嬉しい。


 兵士の全体補正上昇-っていうのはちょっと気になるところではあるけど、まずは基本職から少しずつ、だ。



 ニーナと2人でずっとパーティを組んでいるのに、レベルの上昇に差が出ている原因は不明。


 経験値はパーティメンバーに均等に入ってるものだと思ってたんだけど、戦闘の貢献度だったりラストアタックボーナスだったり、なにか細かい変動があるのかもしれない。


 

 それと育成とは別に、1つちょっと面白い職業が手に入ってしまった。




 慈善家LV1

 補正 幸運上昇 魔力上昇-

 スキル 全体幸運上昇-




 あっはっは。まさか俺が慈善家を名乗る日が来ようとはね! 当たり前だけどニーナも転職可能だけど。


 俺達と教会との関係は慈善活動の一環として見做されたらしい。普通に仕事を依頼してるんだけどなー?



 面白い職業ではあるけど補正とスキルの効果がいまいち曖昧なので、育成は後回しにさせてもらおう。


 兵士と慈善家に記載された、全体上昇スキル。

 名前通り、パーティメンバー全員に効果が及ぶってことだと思いたいね。



 賑やかな朝食を済ませ、子供達と一緒に庭の草を毟っていく。


 報酬の出る正式な依頼の為か子供達はいつも真面目に作業に勤しんでくれる。勿論ムーリさんも一緒にだ。

 けどムーリさん、ちょっと草むしりには不利かもしれませんね?




 朝は教会の子供たちと賑やかな食卓を囲んでいるけれど、夕食は夕食で騒がしかったりする。



「ダンー? ちょっと聞いてるのー!? あの女、ホンット頭に来ること言ってきてさー!」


「なんでお前は毎日ウチに入り浸ってんだ会長夫人殿? 当然の様に我が家の夕食に乱入しないでくれますぅ?」



 ティムルはほぼ毎日うちに夕食を食べに来る。最早ニーナも、ティムルが来る前提で夕食を用意している始末だよ。


 流石に泊まっていった事は今のところないけどね。



「なによー! やっぱりダンも若い子がいいわけー!? ムーリだって毎回一緒に食事してるくせにさー!」



 椅子に座ったままでバタバタと暴れるティムル。


 酒は出してないはずなんだけど、酔ってんのかコイツは?



「シュパイン商会の会長夫人が毎夜毎夜入り浸ってるとか、うちの外聞悪すぎでしょ。俺は大商会の会長に睨まれたくないんだよ」


「へーんだっ! 旦那様は若い娘にご執心で、もう私のことなんか気にしてないですよーだっ。だから私の事はいいのよっ!」



 え、まじで? ティムルって相当な美人だと思うけどなぁ。若くないって言ったってまだ32じゃなかったっけ? それでもう乗り換えちゃうとは恐ろしい。



「いいじゃないっ! せっかく出来た友達に会いに来るくらい、いいじゃないのよーっ!」



 ……おかしいなぁ。ティムルって、凄く頼りになる商人だと思ってたんだけど。


 これじゃただの駄々っ子じゃね?



「……本当に友達のつもりで来てるんでしょうねこの人?」



 ニーナ、それについては触れないでおこう。藪から蛇が出てきそうだから。


 こほん。と可愛く咳払いして、話題を変えるニーナ。



「それにしても大規模な商隊が壊滅、ですか。物騒な話ですね。やっぱり魔物の襲撃だったんでしょうか。それとも野盗とか?」



 俺は半分聞き流してたけど、ニーナはティムルが持ってきた情報に興味を持ったみたいだ。


 どうやら最近スポットの中で、大きな商隊が何者かに襲撃され、商隊の人間が皆殺しにされる事件が起きたらしい。



「んー、それがいまいちよく分かってないのよね。野盗にしては荷物が放置されていたみたいだし、だけど武器を使用した痕跡があったそうだから、恐らく魔物じゃないでしょうね」



 商隊の荷物はそのまま、犯行には凶器が使われていたのか。ならまぁ十中八九事件だろうな。


 1体の魔物に村が滅ぼされるような世界なのに、人間同士ですら殺し合いしてるのかよぉ……?



「物騒。うん、まさに物騒な話よね。貴方達も気をつけるのよ? 反対側とは言え、スポットの中で起きたことなんだから」


「そういう縁起でもないこと言うのやめてくれる? 前回の野盗の件で懲りてんの、俺は」



 犯人は不明。目的も今のところ不明。商隊の荷物が放置されていたことから、物取りの線は薄い。


 強盗目的じゃないなら、あとは快楽殺人者か……、それとも怨恨とか?



「壊滅した商隊って何を扱ってたんだ? 本当に商品はなにも失われてなかったのか?」


「えー? そんなの私に分かる訳ないじゃない。商隊が襲われました。商人の皆様はご注意ください。私に届けられた情報なんて精々こんなものよ?」



 ああ、マグエルに向かう途中、アッチンの宿でも似たような注意喚起されたっけ。あんな感じだったんだなきっと。



「ま、壊滅した商隊を率いてた商会の事なら多少は知ってるけどさぁ」



 流石ティムルは大商人だけあって、一般に流布された警告とは別の情報を持っているらしい。


 商売人同士、面識もあったのかもしれない。



「拠点は別の街だけど、シュパイン商会と同等以上の規模を持つ商会でね。ウチ以上に手広くやってたらしいわ」


「ふーん。シュパイン商会よりも手広くねぇ……」



 手広く、の部分が引っかかる。なんせこの世界では奴隷も普通に商品として扱われているからなぁ。


 身内を奴隷にされた恨みを晴らす為にとか、奴隷にされた誰かを助ける為にとか、そんな理由で商隊を襲う奴が居てもおかしくはなさそうだけど……。



 黙り込んだ俺の顔を、ニマニマしたティムルが覗き込んでくる。



「あれぇ~? 興味あるんだ? 野盗の時みたいに、またダンが解決してくれたりするわけ?」


「だから縁起でもないこと言うなってば。大規模商隊を壊滅とか、普通に野盗よりやべー相手でしょ。俺になんとか出来る相手とは思えないね」



 今にして思えば、野盗討伐もかなり綱渡りだったしなぁ。賞金稼ぎなんて俺には手を出せそうもない。



「そんなこと言っちゃってー。私が襲われたら助けておくれよー。ダンだけが頼りなんだよー。お礼になんでもしてあげるからさー」



 ん? 今なんでもって?


 だがなティムル。このくだり、ムーリさんでもうやったから。



「ティームールー? 友達までは許しますけど、ご主人様に色目を使うの看過出来ませんよ?」



 流石に話の流れが不味いと思ったのか、ニーナが不機嫌そうに割り込んでくる。



「心配しなくてもご主人様は助けに行ってくれますからね。お礼は結構ですよ。トっ、モっ、ダっ、チっ! を助けるのは当たり前ですからっ」


「なによーニーナちゃんのケチー! ニーナちゃんはずっと一緒にいるんだからちょっとくらい貸してよー! っていうかニーナちゃんのどこが奴隷なのよー!」



 ……百歩譲って、奴隷の貸し借りの話ならまだ理解できるんだけどさぁ。


 なんで奴隷が所有者の貸し借りを交渉してるわけぇ?



「バカ言ってないでそろそろ帰れ、この酔っ払い。なんで酒飲んでないはずなのにそんなテンションなのよ?」


「やだー! 帰りたくないー!」


「この中で最年長のお前がダダこねんなっての!」



 シュパイン商会会長夫人殿。

 スラリと伸びた美しい両手両足で我が家の食堂の椅子にしがみつくの、やめてもらっていいっすかね?



「……まったく、送ってってやるから早く支度してくれ」


「え!? ダンが送ってく「勿論私もお友達を送る為にご一緒しますよ」んもーっ!」



 5人以上の子供たちと一緒に食べる朝食よりも、3人で食べる夕食の方が騒がしいんですけどぉ。






 ティムルも無事送り届けて、ニーナと2人だけの時間がやってくる。


 2人っきりで今日の出来事を振り返る、ニーナと過ごす大切なひと時だ。



「ニーナ。今日もおつかれさま。とうとうティムルに言われちゃったね。どこが奴隷なんだってさ」


「う~、あれはティムルが悪いのっ。普段はちゃんと奴隷として振舞えてるもんっ」



 2人っきりなので素の口調のニーナ。この時間はニーナの奴隷モードが解除されるのだ。


 でもニーナの言い分にはちょっと引っかかってしまう。普段も結構危うい気がするけどねぇ?



「ダンー? 何か言いたそうな表情してないー?」


「いや、ニーナが怒ったり笑ったりしてて、マグエルに来て良かったなーと思っただけ」


「絶対違うこと考えてたくせにっ」



 人差し指で俺のほっぺをつつきながら俺の嘘を容易く見破るニーナ。


 俺って全然ニーナに隠し事できないよなぁ。



「でも、私もマグエルに来てからずっと楽しい。マグエルに来て良かったって思ってるよ」



 ニーナは俺の頬を手の平でさわさわと撫でながら、マグエルに来て良かったと微笑んだ。



「子供たちとも仲良くなれて、お友達も出来て、ずーっとダンと一緒に居られる。こんな日々が送れるなんて、夢にも思ったことなかったよ」



 怒ったと思ったのに、凄く穏やかな顔をしてマグエルの生活を語るニーナ。



「でもさー! マグエルに来てから、ダンの周りに綺麗な女の人が集まってくるのがさーっ!」



 ……かと思ったら、また怒ったように俺に詰め寄ってきたぞ?


 コロコロ変わるニーナの表情。見ていて楽しい。最近のニーナは随分感情豊かになってきたよなぁ。



「ムーリもティムルもお友達だけど、それとこれとは話が別なのーっ」


「はは。ニーナには悪いけど、ニーナに独占したいって思われるのは光栄だね」



 可愛く暴れるニーナを腕の中に捕まえて、宥めるように頬ずりをする。



「ニーナ、大好きだよ。って毎日言葉でも行動でも表してるつもりなんだけどなー。それでも不安になっちゃうの?」


「……だってティムルもムーリも美人なんだもん。おっぱいも大きいしさっ」



 拗ねたニーナも最高に可愛いなぁ。


 なんて暢気に思っていると、ニーナは少し声を沈ませて小さく呟いた。



「……でも、感じてるのは不安だけじゃないかな。どっちかと言えば罪悪感、かも」



 罪悪感……。


 ニーナ、多分それ、俺も同じ事を感じてると思う。



「自分が幸せで申し訳なくなるってこと? じゃあニーナには悪いけど、一生罪悪感を抱えて貰う事になるかもね?」


「……うん。世界中の人に申し訳なくなっちゃうくらいに幸せにしてね?」



 そして今日もまた、ニーナと肌を重ね合わせる。



 家を借りてから、睡眠時間が少しだけ減ったかもしれない。


 そして引越し前に予想した通り、早朝に寝具を洗濯するのが日課になりましたとさ?

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