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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
5章 王国に潜む悪意1 嵐の前
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302 ※閑話 アイテム開発?

※閑話と銘打ってありますがほぼ本編です。

 ダン視点で、時系列も本編の軸とほぼ一緒です。

 閑話としたのは、この世界の設定の説明に丸々1話を費やしてしまったからだと思います。

 オリジナルアイテムの開発方法を知り、スキルジュエルを作り出すことには成功した。



 どうやらアイテム開発には、明確なイメージが大切らしい。


 スキルジュエル作成も、半信半疑で行なった咆哮のスキルジュエルの作成には梃子摺り、出来る確信があった獄炎のスキルジュエルは意外とアッサリ作り出すことが出来たことからもそれは証明されている。



 だけど、それ以上のアイテム開発は上手くいかなかった。



「んー、難しいわねぇ……。ダンが手本を見せてくれたおかげで、魔力操作に関しては不安が無くなったけど……」



 現在は俺とティムルとリーチェの3人で、ウンウン唸りながら試行錯誤を繰り返しているんだけれど……。


 お姉さんの言う通り、難しいなぁ……。



 ちなみにニーナはターニアと家のリフォームに、フラッタはヴァルハールの手伝い、ヴァルゴは守人たちの浸透の手伝いをするためにそれぞれ出掛けている。



「作りたいアイテムを明確にイメージしながら、それに見合った素材を用意する……。これがなかなか上手くいかない感じねぇ」


「アイテム開発は国家機密って話だったし、独学じゃ難しいとは明言されていたからね。難航するのは仕方ないよ。 ぼくが世界樹の護りの製法を知っていれば、もう少し役に立てたかもしれないけど……。ごめんね?」



 ふざけんなっつうの。


 もしリーチェが世界樹の護りの製法を知っていたとしたら、俺以外の男の子供を宿したってことじゃないか。



 そんな悪い事を言う口はこれかなぁ? ちゅっちゅっ。



「そうだなぁ。実用品に拘るのはやめて、まずはアイテム開発を成功させる事を優先させてみない?」



 ちょっと手詰まり感を感じてしまっているので、アプローチする角度を変えてみる。



「こんなアイテムが作りたいからこの材料を、っていう考え方じゃなくて、この素材からはこんなアイテムが出来そうだなぁって感じで、素材から完成品をイメージしてみようよ」


「ふぅん。作りたいアイテムをイメージして素材を探すんじゃなくて、素材から完成品を予想してみるのか……」



 俺の提案に、ティムルが感心したように思案し始める。


 完成した料理から食材を連想するのは難しくても、食材を見てどんな料理が作れそうかなぁって想像するのは比較的簡単だと思うんだよ。



「うん、やってみましょう。まずはダンの言う通り、なんでもいいから開発を成功させたいわ」


「完成品から素材を探るよりは、素材から完成品を辿る方がイメージもしやすいね。今のままでは手応えもないし、気分転換も兼ねて試してみようかなっ」



 モチベーションが低下していた2人もやる気を取り戻してくれて、集めた素材を漁りながらあーでもないこーでもないと話し合っている。



 ……エルフとドワーフの仲が悪いって、どこ情報なんだろうな?


 確かスペルド王国のマジックアイテム開発局でも一緒に働いてるっぽいこと言ってたし、実は別に仲悪くないんじゃ?



 楽しそうに話し合うティムルとリーチェにほっこりしながら、俺はアイテム開発についてもう1度考え直してみることにした。



 オリジナルアイテムの開発。


 その方法自体は簡単で、既存のレシピを使用せずに生産スキルを発動するだけだ。


 スペルド王国で開発が進んでいるスタンプ型の契約系マジックアイテムや、アライアンスプレート、アライアンスボードなどが、生産スキルのレシピに含まれていない人工的に開発されたマジックアイテムという事になる。



 最近何かと使う機会の多いサークルストラクチャーも、レシピに掲載されていないマジックアイテムの1つだ。


 転職魔法陣の設置ってこの世界の人類には必要不可欠な要素だと思うのに、なんでこれはレシピに掲載してくれなかったのかなぁ?


 悪用・乱用を恐れた、とか? 誰が? 神様が?



 我が家のセキュリティであるステータスプレート認証システムとか、既に存在するマジックアイテムを再現しようと色々試してみたんだけど、材料が連想できなくてどうしても上手くいかなかった。



 ……もしかしたら、素材に使用するアイテムから開発している可能性もあるんじゃないか?


 契約干渉系のマジックアイテムにスタンプタイプが多いのも、材料が一緒だから、とか……?



 マジックアイテムの開発には、基本的にアイテム作成が用いられている。


 けれどリーチェの世界樹の護りがレシピに載っていないアクセサリーだということを考えると、他の生産スキルでもオリジナルアイテムを開発することは恐らく可能だろう。



 リーチェの装備品の殆どはアウターレア製だというけれど、もしかしたら過去にエルフが作り出した装備品だったりするのかもしれない。


 いや、神鉄装備以上のアイテムを他の種族が作りだせるかと言ったら微妙か?


 イントルーダーからのドロップアイテムと思ったほうが自然かなぁ?



 んもう、思考が脱線しちゃって困るなぁ。


 雑念を払うように頭を振って、改めてアイテム開発の考察を続ける。



 アイテム作成に使える素材は基本的に、インベントリに収納できる物に限られている。


 ミルクを素材にチーズや生クリームを生み出せないか試してみたんだけど、インベントリに収納できない物品には生産スキルの効果が及ばず、素材として使用することが出来なかった。



 ミルクはインベントリに収納できないから、ドロップアイテムじゃないのは前々から分かっていたけど……。


 この世界でどうやってミルクや卵を生産しているのか、物凄く気になるわぁ……。



 ドロップアイテムには切り身や各種食用肉などがあって、それらは少しでも加工してしまうとインベントリに収納できなくなってしまう。


 だからこの世界では、食べ物はインベントリに収納できないのが当たり前だった。



 でももし仮に、生産スキルを使って料理を生み出すことが出来たら……?



 インベントリの価値は大きく跳ね上がり、移動魔法を用いた食品輸送にも革命が起こるんじゃないだろうか?


 まぁそれ以上に混乱しそうではあるんだけど?



「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。アイテム作成」



 ドロップアイテムで得られる食材と調味料を素材にして、アイテム作成スキルを発動していく。



 ティムルとリーチェが真面目にマジックアイテム開発に取り組んでいるというのに、俺は切り身や食用肉で干物や干し肉作りに挑戦していていいのだろうか?


 いや、俺だって大真面目にやってるもんねっ! 文句は言わせない!



「今回もダメかぁ~……。素材が失われないだけマシだけどぉ……」



 文句は言わせないけど……、結果は芳しくないなぁ。



 塩や胡椒みたいな調味料はドロップアイテムだから、アイテム作成で一気に保存食を作れないものかと思ったんだけどね。


 残念ながら全く成功しないわ。



 う~ん。アイテム作成で調理をするのは難しいのかなぁ。


 料理人に生産スキルが無かったんだから、アイテム作成でいけると思ったんだけど……。



「……待てよ? 服用するという点では、ポーション作成を試してみるのもアリか?」



 よくよく考えてみたら、アイテム作成で食べ物を作れた例は無かった。


 調剤士のスキルで作ったポーションは基本飲み薬だし、経口接種するという意味では、料理も同じスキルで作れないかな?



 でもポーション作成って、レシピにあるのは飲み薬だけなんだよなぁ。


 咀嚼して摂取する料理と魔法薬を同列に語るのは、流石に乱暴すぎるだろうか?



 大体美味しくないんだよな。ポーションの類いって。


 バイタルポーションはそれほど酷い味じゃないんだけど、フロイさんに飲まされたヒールポーションは激マズだったなぁ……。



 あっそうだ。料理は無理でも、魔法薬の味を改良できたりしないかね?



「練って合わせて混ぜて溶かせ。神秘の泉。明月清樽。想いの結晶。顕現。ヒールポーション」



 ヒールポーションの素材に砂糖や蜂蜜を加えてスキルを発動するも、悉く失敗判定をいただいてしまう。


 不味い物には甘みを加えればマシになるだろ、という料理下手の発想じゃ味の改良は難しそうか。



 ……いや? 素材を増やして完成品を作るんじゃなくて、ポーションの現品を素材にして改良することは出来ないかな?


 装備品だって現品が素材として扱えるわけだし、やってみよう。



「……ダン、貴方さっきからなにやってるのかしら? なんで食材ばかり選んで生産スキルを試してるのよ?」



 必死に激マズポーションの改良を試みている俺を、ティムルが呆れた感じで見詰めていた。


 大真面目に試してはいたけど、遊んでるように見えても仕方ないなっ。



「ん、ああ。インベントリに食料を入れて持ち運べたら色々革命的だなって思ったんだけど……、上手くいってないんだよねぇ」


「……インベントリをもっと活用する方法かぁ。そういえばスポットに潜っていた時は、食料よりも水の運搬に苦労していたよねぇ」


「あはーっ。懐かしいわねぇ。最初は私とダンの2人で大量の遠征物資を運んだのよねぇ」



 水、水かぁ。確かに苦労したなぁ。


 俺自身が行商人になって、行商人だったティムルを家族に迎えた事で遠征が一気に楽になった覚えがある。



「私たちは恵まれてたわねー。普通の魔物狩りパーティじゃ、馬車でも持ち込まなきゃ水も食料も充分な量を持ち運べないのよー?」


「あー、水の運搬に苦労してたのは俺達に限った話じゃないのかぁ」


「そりゃあね。ある意味一般的な魔物狩りの1番の悩みの種かもしれないよ? 水玉じゃ一瞬喉を潤す程度の効果しか期待出来ないし、水の運搬から解放されたら、魔物狩りももっと活性化するかもしれないね」



 確かにリーチェの言う通り、所持アイテム重量軽減スキルが無ければ、水って嵩張るわ重いわでやってられないもんなぁ。



 もしもインベントリに水を入れられれば、水の分の重さは無視できてしまうことになる。


 その恩恵は計り知れないだろうなぁ。



「あっそうだ。スポット内って水源が全く無いじゃん? だからフラッタも遭難した時死にかけてたわけだしさ」


「え? ええ。確かにスポット内に水源は確認されてないわねぇ」



 ここで1つのアイディアが思い浮かんだ。


 水の運搬に悩まされているのであれば、逆にアウター内に水源を設置することは出来ないだろうか?



「水の運搬が大変なら、例の井戸を掘るマジックアイテムで、スポット内に水源を確保したりとかって出来ないのかな?」


「井戸を掘ると言えば……、プライミングポストのことかしら。でも残念ね。それは出来ないのよー」


「へ?」


「確かにあれを使えばほぼ確実に水源を得ることが出来るんだけど、スポット内にあれを設置することは無理よ。過去に実践した例もあったはずだしね」



 む、既に試した例があるのか。なら信憑性はありそうだ。


 でもちょっと興味があるから、もし知ってるなら詳しい話を聞かせてくれないかなー?



「詳しい話なんて分からないけれど、考えれば単純な話だと思うわよー?」


「単純な話? んーごめん、分からないよ。教えてお姉さん」


「アウター内で人が死んだ場合って、遺体も装備品もアウターに吸収されて消失しちゃうのはダンも知ってるでしょ? アウターが自ら生み出したものじゃない限り、長期間設置することは難しいんだと思うわ」


「アウターの中に水場があればみんな助かるんだけどね、装備品やマジックアイテムは失われちゃうんだよ」



 ああ、アウターって生きてるようなものなんだったね。異物は消化されちゃう訳か。



 手で加工した物は吸収されないらしいけれど、装備品などの生産スキルで生み出したものは消化されてしまうと。


 なんとなく、インベントリと似た様な仕様に感じるな。



「ああ。そういう意味では、変化しないらしい奈落の中継地点には水場を設置することができるのかな? だから牧場なんて運営できていたのかも?」



 なるほど。アウターの変化に伴ってマジックアイテムが消化されるけど、変化の起きないセーフティゾーンの中継地点ならマジックアイテムも失われないかもしれないのか。


 なんだか思わぬところで、敵が奈落に牧場を構えていた理由の1つに到達してしまったなっ。



「……って、あれ? ほぼ確実に水源を確保できるマジックアイテム、プライミングポストだっけ? それがあればドワーフの里だってここまで困窮してなかったんじゃ?」


「あはーっ。それはドワーフの間では有名な話なのよねー」



 連鎖的にドワーフの里の水源確保を連想してしまったけれど、どうやらティムルは俺の抱いた疑問に心当たりがあるらしかった。 



「過去にプライミングポストの設置を試されたことがあるみたいだけど、ドワーフの里では1度たりとも水が湧き出ることがなかったそうなのよ。ドワーフなら、子供の頃に1度は聞かされる話ねぇ」


「え? なんでドワーフの里ではマジックアイテムを用いても水源が確保出来ないんだ? そもそもプライミングポストって、どうやって水を発生させてるのかな?」


「んー、これはあくまでぼくの推察でしかないんだけど……。プライミングポストって、地中から吸い上げた魔力を使って水を発生させるマジックアイテムだと思うんだよね。だから場所を選ばずに水を得ることが出来るんだ」



 俺の問いかけに、ティムルとリーチェが代わる代わる回答してくれる。


 このエルフとドワーフ、仲良すぎだからね?



「だけど、ドワーフの里って魔物すら沸かない場所なんでしょ? これって分かりやすく言えば、魔力枯渇を起こしている土地だと思うんだよね」


「土地が、魔力枯渇を……?」


「あくまで例えだけどね。魔力が枯渇している土地だから、仮にプライミングポストを設置しても、水を作り出すための魔力が確保出来ないんじゃないかなぁ」



 マジックアイテムの燃料である魔力そのものが足りていないのか。


 う~ん……。ドワーフの里って少し、色々な面で違和感があるんだよねぇ。



 ドワーフは腕のいい装備職人と言われながら、ドワーフの里には魔物すら出ないという。


 なら職人たちはどこで職業浸透を行なっているんだろう?



 マグエルの冒険者ギルドのお姉さんは、アウターで生計を立てていると言っていたけど……。


 それだとティムルの言ってた、ドワーフの里は幾つも存在していて、自分の故郷が分からないって話と矛盾する気がする。


 だって暴王のゆりかごだけが生活の基盤であるとしたら、広範囲に集落が広がってるのっておかしいでしょ。



 ドワーフ族が暴王のゆりかごで職業浸透をしているとしたら、それをティムルが知らないのも変な話だ。


 魔物狩りが出来る場所が他にあるとも思えないのに。



 とと、また脱線した。ドワーフの里の違和感はこの際置いておこう。



 ティムルとリーチェの話を総合すると、もしかしたら魔力さえ供給できれば、ドワーフの里にも水源を設置できる可能性があるってことだ。


 これはかなり重要な情報だと思う。



 魔力の供給と聞いて真っ先に思い浮かぶのが呼び水の鏡だけど……。流石にこれは使えないよな?


 セーフティである聖域の樹海から距離が離れすぎているから、不測の事態が起こった時に対処出来ない可能性が高い。



 魔力という単語で次に思い浮かぶのは……。



「ねぇ2人とも。プライミングポストを改良して、魔玉を使って水を生み出すような装置に改良できないかな?」


「…………そう、か。土地に魔力が足りないなら、外部から供給してあげれば……!」


「スレイブシンボルの1件を思い返すと、同じマジックアイテムの性能を微調整することも可能っぽいし、出来るんじゃないかと思うんだよ」


「でも、こんなことは誰かが昔に試して……、いえ、試されてないのね……! レシピ外のマジックアイテム開発なんて、国の上層部しか知らない秘密だったんですもの。立場が弱いドワーフ族なんかが試しているはずが、ない……!」


「しかもダンの言う通りの改良なら、完成品もかなりイメージしやすいよ! プライミングポストの素材に魔玉を混ぜるか、完成品を素材に魔玉を付与する感じで充分にイメージが固まるよっ!?」



 プライミングポストの改良に成功すれば、助かるのはドワーフだけじゃない。


 朝露や木々の水分で生活している守人の集落の生活も一変する。



 これはなんともして成功させないといけない案件だなっ!



「「「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。プライミングポスト」」」



 3人でアイテム作成を繰り返す。



 失敗判定を繰り返して全然成功しないんだけど、なぜか出来るという確信だけがある。


 これがスキルによって齎されている確信だとしたら、失敗している理由はなんなんだろう?



 何かが間違って……、いや、どちらかと言うと素材が足りていないような気が……。


 プライミングってどういう意味だったっけ……。確かポンプとかを使う際の呼び水とか……。



「……そうか! 呼び水か……!」


「ん? ダン、どうしたの?」


「……ティムル。コレも追加して試してみてくれる?」



 そう言ってティムルに手渡したのは水玉。俺が初めて手にしたドロップアイテムだ。


 聖域の樹海でもドロップするのか、守人たちから回収してきたドロップアイテムの中に混じっていたみたいだ。



 コレ単体ではほとんど使い道の無いアイテムだけど……。もしかしたら。



 俺から水玉を受け取ったティムルは、素材からプライミングポスト作成を試す。



「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。プライミ……、いえ違う!」



 スキルを発動する前にティムルは詠唱を止め、改めてアイテム作成を発動する。



「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。アイテム作成」



 アイテム作成が発動する。


 スキルをキャンセルしなかったということは、ティムルには失敗の予兆を感じられなかったということだ。



 俺とリーチェが固唾を呑んで見守る中で、少しずつスキルの発動光が弱まっていく。


 そして完全にスキルの発動光が収まると、そこには今まで見たことのないマジックアイテムが完成していた。




 レインメイカー




 鑑定を試すと、レインメイカーという名前のマジックアイテムのようだ。


 鑑定が通るということはマジックアイテムに間違いない。



「レイン、メイカー……?」



 見た目はツボ、いや水瓶か?



 大きさ的にはさほど大きいわけではなく、多分10リッター前後しか水が入らないんじゃないだろうか?


 両手で持てるように取っ手が2つ付いていて、水瓶の底には魔玉が嵌められそうな台座があった。



「……ティムル。一緒に試してみよう?」


「あ……、うん……」



 放心した状態のティムルの手を取って、一緒に魔玉をはめ込んでみる。


 すると水瓶の底から結構な勢いで水が湧き出てきて、水瓶の口いっぱいになった所で水の生成が停止した。



「ま、間違いなく魔玉から水が生み出せているけど……。これ1杯で魔玉1つを消費するのは、流石にコストがかかりすぎるね。まだ水は生み出せるのかな?」



 リーチェの言葉に従って水を全部捨ててみると、魔玉はまだ光を失ってはいなかった。


 性能テストという事で、水を生み出しては捨て生み出しては捨てと繰り返してみた結果、どうやら発光魔玉1つでゼロから満タン、10リッター程度の水を10回ほど産み出すことが出来るようだった。



「毒見スキルにも問題なし……。味も……普通だね」



 恐る恐る生成された水に口を付けてみるけれど、特に何の問題も無かった。


 気持ち美味しい気がするけど、これは錯覚かもしれない。



「魔玉から飲料水を生み出せるマジックアイテムか。……これ、結構ヤバい発明だったりしない? 魔玉1つで水100キロ生み出せるとか、遠征の荷物や行商の常識が覆されるんじゃ……?」


「い、今更過ぎるよぉ……! トライラム教会の子供達だって、毎日苦労して井戸から水を汲んでいるの、ダンだって見てるじゃないかぁ……! 常識が、世界の常識が変わっちゃうくらいの大発明だよぉっ!?」


「魔玉を使って水を生み出すなんて、普通に考えたら正気の沙汰じゃないけど……。アウター内に水を持ち運ばなくて良かったり、ドワーフの里でも守人の集落でも、魔玉さえあれば飲み水に困ることは、もう無い……!」



 震える声で呟いたティムルは静かにレインメイカーをインベントリに収納し、俺に向かって抱きついてきた。



「んもーっ! ダンったら本当にこの世界の人をみんな救っちゃう気なのーっ!? コレがあったら、ドワーフの子供達が喉の渇きから解放されちゃうじゃないのーっ!」



 ドワーフの里には何の思い入れも無いと言いながら、今なお苦しむドワーフたちが救済される事を心から喜ぶティムル。



「もしかしたら作物を育てることも出来るようになるかもしれない! 先祖から受け継いだとかいう不毛の大地で、命を育むことが出来ちゃうかもしれないじゃないのーっ!」


「ははっ! そうなったらティムルはドワーフの面汚しどころか、ドワーフ族を救う女神様になっちゃうね! まぁ俺にとっては始めから女神だったけどさっ」



 感激しているティムルお姉さんを抱きしめて、ついでにリーチェも一緒に抱きしめてよしよしなでなで。



「あーもうダンったらどこまでかっこいいのよーっ! お姉さん貴方のことが好きすぎて、ほんと困っちゃうわーっ!」


「いやいや、レインメイカーを作り出したのってティムルお姉さん本人だからね? でも俺を好きになってくれるのは大歓迎だから、全然困らなくていいよーっ」


「作ったのはティムルだけど、そこまで導いたのはどう見てもダンだったからね? というかダンはどうして自分で試さないで、ティムルに水玉を渡したの? ぎゅーっ」


「んー……? なんでって……。なんでだろ?」



 リーチェの問いに答えられない。どうして俺はティムルに水玉を渡したのかなぁ?



 ひょっとしたら、予感がしたのかもしれない。


 ドワーフ族の問題を解決する糸口になり得る水の発生装置。それを作りだすのは俺じゃなくて、ティムルのほうが相応しいんだって。



 当初の目的はオリジナルアイテムの開発だったはずなのに、いつも通りずいぶん脱線してしまったよ。


 でも脱線した結果がティムルのこの笑顔なら、結果オーライって奴だねっ。

※ひと口メモ?

 まさかここで水玉さんの出番があるとは、私自身思っておりませんでした。


 このお話の肝はインベントリの仕様説明です。

 この世界では料理をインベントリで運搬することは出来ないし、飲料水もインベントリに入れることが出来ないので、大量の食材を持ち歩いてるから兵糧攻めは効きませーんっ、みたいな展開は起こらないですよ、と説明している回です。

 その煽りを受けてミルクもインベントリに収納できない、何らかの生物から採取されている食材であることになりました。


 アウターに吸収されるもの、されないものの設定なども改めて確認しています。

 基本的にスキルを使用しているか、魔力を使用しているかの2点が、この世界のシステム上の大きな分岐点となっております。


 発光魔玉を使って飲料水を生み出すなんて、この世界ではあまりにもコストがかかりすぎて本来なら受け入れられません。

 しかしレインメイカーも発光魔玉もインベントリに収納して運搬することが可能なので、高いコストにも見合った運用が出来る可能性があります。

 魔玉発光促進スキルが知られていない状況では、もしもの時の備え、みたいな扱いをされるのが関の山かもしれませんが。

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