285 父の行方
「ニーナの父親が、生きてるっ……!?」
ターニアさんの口から告げられる、ニーナの父親の生存報告。
それは本来なら吉報で、すぐにでもニーナに知らせるべき話のはずなのに、俺の気分もターニアさんの表情も優れない。
世界中を旅して解呪の方法を探していたというガレルさん。
それが2年前に……、年が明けたから3年前かな? 3年前に出先で死亡したと認識され、それ以来ニーナとターニアさんとは一切接触していなかったはずなのに、そのガレルさんが生きていたって……?
「まだ本人に会ったわけでもないし、顔を見たわけでもないの」
戸惑う俺に構わず、ターニアさんが報告を続ける。
「だけど、あのアウターを取り仕切っているというガレルって獣人の男性が主人じゃないと考える方が無理があるでしょ?」
「う~ん、状況的に見て間違いないとは思うけれど……。ターニアさんの時もだけど、なんでこんなに事実誤認が起こるんだろう? 人の生死って簡単に間違われるほど軽い情報じゃない気がするんだけどなぁ」
そもそもの話、なぜニーナの家族ばかりこうも事実誤認が起こるのか。
思わず口に出てしまった疑問に、ターニアさんはあっさりと答えてくれる。
「ああ、それはやっぱり私達家族が特殊な環境下に居たのが原因かな。普通は大勢の人たちと交流しなくちゃ生活していけないけど、私達は家族以外に頼れる人もいなかったから」
「ターニアさんたちは家族しか頼れなかった……。だから家族の安否も家族の印象が優先された?」
「優先って言うか、私たち家族の事を知っているのは私たちだけだったから。私達が死んだと思ってしまえば、ガレルは死んだ事になっちゃったの。探しに行くこともできなかったわけだしさー」
「なるほど……」
世界中を旅して解呪の方法を探しているガレルさんがパーティ登録と婚姻契約を解消して失踪したら、移動阻害の呪いを受けているニーナとターニアさんでは確かめる術も無く、死んだと思うしかなかったわけだね。
「ん~……。ニーナの抱いている父親像とガレルさんの行動が重ならないな……」
ターニアさんから聞いた話をそのまま受け取ると、ガレルさんは娘のニーナと妻のターニアさんを見捨てて、自分だけ別の場所で別の生活を送ってたってことになるのか?
14年間は2人の人頭税を払い続けていたみたいだし、ニーナがガレルさんに抱いている印象も決して悪くない。
ガレルさんが妻と娘を捨てるような人物だとは、とても思えないんだけど……。
「うん。私もガレルの事を悪く思ってるわけじゃないけど、ガレルに何が起こったのか分かるまではニーナに伝えるのはちょっと怖いなって」
「確かにね……。この状況じゃ俺からも伝えられないよ……」
「だからダンさん。明日ガレルに会いに行くのに付き合ってくれないかな? ニーナには内緒でね」
どうやらターニアさんは、今日の間にある程度事前調査を済ませてきたようだ。
ガレルさんはアウターがあった場所に屋敷を建てて、アウターの存在を秘匿しているらしい。
アウターからのドロップアイテムを独占する事で商人として大成し、ターナ商会と言えばまぁまぁの規模の商会になっているのだそうだ。
当然アウターの占有は公にはなっていない。
道に迷った振りをして屋敷の使用人に話を聞いたターニアさんは、ちょうど自分が現在冒険者だった事を利用して、ターナ商会の商品運搬係として雇って貰えないかと、明日ガレルさんにアポを取り付けたようだ。
い、意外と積極的に動くなぁ。ターニアさんって何気にコミュ力の塊だよね……。
「使用人の話では、ガレル商会長は5人の妻を娶って仲睦まじく暮らしているらしいの。もしそれが本当だとしたら私達は捨てられた事になっちゃうから、ニーナに伝える前に確認しておきたくて」
「妻を迎えて家族仲よく……。そこだけならニーナから聞いたガレルさん像と重なる気がするけど……」
「私1人で会いに行っちゃうと、冷静でいられなくなるかもしれないから……。お願いダンさんっ、付き合って欲しいのっ!」
「いや、ニーナとターニアさんの事情を無視する訳ないじゃない。当然ご一緒させて貰うよ」
ご一緒しますからニーナそっくりのその顔で、必死に付き合って欲しいとか言うのやめてくださいね?
別に他意は無くても、ちょっとニーナにバツが悪く感じちゃいますからね?
「それにしても、ターニアさんの様子ががいつもとあまり変わらないのが意外だよ。捨てられたー、なんて言っているわりには動揺してるようにも見えないし」
「あ、あ~……。それはちょっと、心当たりがねぇ……」
バツの悪そうに俺から視線を逸らすターニアさん。
愛し合っていたはずの旦那さんに捨てられる心当たりって、なに……?
ニーナもターニアさんも死にかけたのに、それでも冷静でいられる理由って?
「ガレルは無鉄砲だけど、利己的で計算高い面もあってねぇ。情が深い人で、本当に心から私達を愛してくれた日々を疑ってはいないけれど、私達を抱えたまま生きる将来と切り捨てて生きる将来を比較した時、私達を切り捨ててもおかしくない部分はある人なのよねー……」
「か、家族を切り捨ててもおかしくない……?」
ターニアさんのことは本当に愛していたそうだけれど、始めにターニアさんに近づいた目的は、孤児という無力な存在から抜け出す力と後ろ盾が欲しかったからなのだと、ガレルさん本人に聞かされたことがあるって?
長く一緒に過ごすうちに、利用する相手から愛する女性に変わったというだけで、ガレルさんの本質は損得勘定で物事を判断する利己的な人物なのか。
「ニーナはあまり印象に残ってないみたいだけど、私達の呪いを解く方法を探すと言って、あの家には段々寄り付かなくなっていったのよね」
「へ? だ、だってそれは世界中を旅してたら仕方ないんじゃ……?」
「当時の私もポータルを使えなかったから仕方ないと思っていたけれど、職業浸透の知識があるガレルなら冒険者にだってなれたはずじゃない? 今にして思えば、別の場所で家庭を持ってそっちと過ごしていたんでしょうねぇ」
つまりガレルさんは妻と娘を一方的に切り捨てて、自分だけ別の家族と幸せに暮らしてたってこと?
これって割と胸糞悪くなる話だと思うんだけど、ターニアさんはやっぱり怒ったりしているようには見えないなぁ。
「捨てられたって言いながら、そんなに冷静なターニアさんにびっくりするよ。頭にきたりとかしないの?」
「んー。呪われた私とニーナはガレルの負担にしかなっていなかったわけだし、私としては切り捨てられるのも仕方ないかぁって感じだよ。むしろ15年は金銭的な面倒を見てくれていたわけだし、ガレルには感謝しかないの」
「う、う~ん……。この国の人たちの呪いの受け止め方に異を唱えても仕方ないのは分かるけど、う~ん……」
「流石にもう1度ガレルと一緒に暮らしたいとは思わないけどー。私は、ね?」
自分はガレルさんとの関係を修復する気はない。
だけど、娘のニーナがどう思うかは分からないってことか。
「というかダンさんが異常なの。自分も村人でお金も装備も仲間も拠点も無いのに、勢いだけで呪われたニーナの手を取っちゃうなんてありえないからっ」
にひひっと笑いながら、人差し指で俺をつんつん突いてくるターニアさん。
こんな魅力的な人を呪いを理由に切り捨てたりするぅ……?
「呪われたニーナとの生活は大変なことも多かったでしょ? なのにニーナはニコニコしながらダンさんとの呪われた日々を振り返って、幸せだったって私に話すことが出来るの。これって本当に凄いことだと思うよ?」
「ええ? 俺ってニーナに苦労させられた記憶なんて殆ど無いけどなぁ?」
ターニアさんの言葉に当時を思い返してみるけど……。ピンとこないな?
むしろニーナがいなかったら俺はとっくに死んでいたと思えるくらい、ニーナには常にお世話になっていた印象しかない。
「あははっ。ダンさんが色んな人の世話を焼いているのを見てると納得しちゃうの。普通の人とダンさんだと、苦労とか迷惑の基準が全然違うんだなぁってね」
「く、苦労や迷惑の基準って……」
「移動魔法が使えない。乗り物に乗れない。ステータスプレートを安易に提示できない。税金が高い。これだけでも普通の人は、一緒に旅をしようとは思わないんだからっ」
「ん~。確かに移動阻害の呪いは旅には不向きだったけど……」
今になって振り返っても、結局はそれだけだった気がするなぁ。
マグエルまではボロボロになって辿り着いたけれど、それでも俺とニーナはいつも笑い合って過ごしていた気がするよ。
「あは。ニーナが素敵な旦那様を見つけてくれて嬉しいのっ」
本当に嬉しそうに笑って俺を抱きしめてくれるターニアさん。
こんなに美人な人に抱き締められているのに、エロいと感じるよりも褒めてもらって照れくさい気分の方が強いなぁ。
「それじゃダンさん、明日は私と一緒にガレルに会いに行こうね。ニーナにもガレルが生きている事は教えてあげたいけど、まずは本人に話を聞きたいから」
「了解ですよお義母さん。是非ご一緒させてください」
抱き合ったまま至近距離で会話をしているのに、好意を向けられているのが単純に嬉しく感じる。
ニーナの母親であるターニアさんに、ニーナとの関係を祝福されてるみたいに感じちゃうね。
「ニーナとターニアさんを切り捨てた事に思うことが無いでもないけど、ターニアさん自身がガレルさんと過ごした日々を疑ってないなら俺から言う事は無いよ。ガレルさんの出方次第だけど、ニーナの夫として挨拶したいくらいかな?」
「あはははっ! お前に娘は渡さーん! とかって喧嘩になったりしてねっ」
「残念だけど既に貰った後だから、今更返品は出来ませーん」
なんだか面倒そうな話が持ち込まれちゃったけれど、最後は笑いあって話を切り上げることが出来た。
明日はよろしくねーとターニアさんと別れた俺は、みんなへの差し入れ用にスイーツサンドを大量に作って奈落に転移した。
「んふー。やっぱりダンの作ってくれるゴハンは美味しいのーっ」
「美味しいのじゃーっ。甘いのじゃーっ。ほれ、もっと寄越すが良いのじゃーっ」
「ななな……!? なんですかこれ……!? こ、こんなに甘いものがこの世に存在しているなんて……!」
「ヴァルゴは大袈裟ねー。でも早く食べないと、我が家の可愛い腹ペココンビに全部食べられちゃうわよー?」
「う~~っ……! 反論したいのにっ! 反論したいのに手が止まらないよ~っ! もぐもぐ」
腹ペココンビの食事ペースを少しでもセーブするため、もぐもぐとほっぺを膨らませているフラッタとリーチェを背中から抱き締める。
お前らってさぁ。俺の手を振り切って料理に手を伸ばす姿まで最高に可愛いのは反則だと思うんだよ?
合流したみんなを鑑定すると、職業浸透が順調に進んでくれているようだ。
凄いなぁ。弑逆者も悪魔祓いも斥候も全部浸透してるじゃん。
劣化アウターエフェクトの群れは職業浸透速度がめちゃくちゃ早くて助かるなぁ。
リーチェもクルセイドロアを使えるようになったそうなので、間違いなく職業浸透は終わっているね。
「お疲れ様ー。みんな間違いなく浸透が終わってるよ。次は何になりたいかな?」
「私は戦闘職の浸透数が少し少ないから、兵士、騎士、聖騎士の浸透を進めようかなっ」
ニーナは改めて戦闘職を浸透させるのね。
獣戦士まで現れているのに、まだ兵士さえ浸透させてなかったんだなぁ。
「私も聖騎士まで進めて、その後は盗賊から暗殺者を目指そうと思ってるの。みんなと比べてどうしても戦闘力が劣っちゃう私には、暗殺者は向いてると思うからねー」
アウターエフェクトをソロ撃破できるティムルが戦闘力で悩む必要はないと思うけれど、暗殺者になりたいのは了解だよー。
ニーナとティムルを兵士に設定っと。
兵士 最大LV50
補正 体力上昇- 敏捷性上昇- 装備品強度上昇-
スキル 全体補正上昇-
「妾は侠客から英雄を目指すのじゃ。もぐもぐ。やはり妾は物理攻撃力を高めていきたいからのぅ。もぐもぐ」
無双将軍フラッタがどんどんムッキムキになっていくよぉ。
能力的にはムッキムキの癖に、外見的には世界一可愛いとかズルすぎるぅ。よしよしなでなで
侠客 最大LV50
補正 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇 体力上昇- 魔力上昇- 幸運上昇
スキル 陽炎
「ぼくは騎士まで浸透済みだから、あとで聖騎士になってこようと思ってる。もぐもぐ。イントルーダーが複数襲ってくる可能性を考えると、ぼくもアニマライザーを使えるようになっておきたいんだよね。もぐもぐ」
リーチェはフォアーク神殿で聖騎士を狙うらしい。
巫術士の条件は分からないけれど、リーチェならもうなれてもおかしくないと思う。
だけど不確実な要素よりも、確実な職業浸透を優先したいのね。よしよしなでなで。
聖騎士 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇 物理攻撃力上昇+ 物理防御力上昇+
敏捷性上昇+ 身体操作性上昇+ 五感上昇+ 装備品強度上昇+
全体幸運上昇+
スキル 全体補正上昇+ 対人攻撃力上昇+ 対人防御力上昇+
対不死攻撃力上昇+ 物理耐性+ 魔法耐性+
聖属性付与魔法 回復魔法
「それでは旦那様。私も弑逆者、悪魔祓いの順に浸透をお願いできますか? 大量の魔物を一気に相手取れる攻撃魔法とは、本当に素晴らしい力ですね」
俺以外のメンバーもどんどんクルセイドロアを習得してきて、自分も早く覚えたいとソワソワしているヴァルゴ。
元々対人戦最強のヴァルゴが、魔物戦でも最強の力を手に入れてしまいそうだなぁ。
弑逆者 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇+ 物理攻撃力上昇+ 敏捷性上昇+
五感上昇+ 身体操作性上昇+ 装備品強度上昇+
スキル 対不死防御力上昇+ 対悪魔防御力上昇+
全体物理耐性+ 聖属性魔法 対物理障壁
魔法使いすら少ないこの世界で、6人全員がクルセイドロアを使えるパーティって頭おかしいな。
そもそもクルセイドロアって、うちのメンバー以外に使い手がいるかどうかも怪しいのにね。
「それじゃ竜王を呼び出すよーっ」
差し入れのスイーツサンドを食べ終わったら、中継地点を使って戦闘訓練を行う。
造魔で竜王を呼び出し、俺と竜王のコンビvs他の全員で手合わせだ。
竜王を呼び出すと魔力枯渇寸前まで行くけど、その状態のまま回復を待たずに手合わせを開始。
常に万全の状態で敵と向き合えるとは限らないからな。
「ダンには悪いけど手加減しないのっ! みんな、勝ったらご褒美をもぎ取っちゃうのーっ!」
「ちょっ!? なにそれニーナ、聞いてな……」
「問答無用っ! 覚悟するのじゃーっ!」
「問答無用って、ツッコミを封殺するために使う言葉じゃないからなーーっ!?」
魔力枯渇寸前で滝のような汗を流す俺に向かって、笑顔で迫り武器を振り下ろす5人の美人妻。
なんか猟奇的な物を感じさせますね?
みんなは対イントルーダー戦で、その使役者が同時に襲ってくる場合のことを想定した訓練、俺は竜王を使役して竜王との連携を意識する訓練だ。
訓練では活かせないけれど、俺の神鉄のロングソードには魔力吸収+が付与されているから、実戦では魔力枯渇近くまで追い込まれてもすぐに復活できるはずだ。
「く、そ……! あ、当たらねぇぇぇぇっ……!」
しかし実際にみんなと対峙してみると、みんな動きが早すぎだろっ!
イントルーダーである竜王の動きが遅すぎて、みんなの動きに全くついていけないんだけどっ!?
竜王を活かそうと意識しすぎて俺の動きまでぎこちなくなり、みんなに全く歯が立たない。
これなら俺1人で戦った方が何倍もまともに戦えそうだけれど、上手くいかないからこそ訓練してるんだろ。腐るなっ。
「「「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ」」」
「「「古の神。大いなる白。聖き光。浄化の奔流。不浄を祓う神雷を成せ。ホーリースパーク」」」
思わず聞き入ってしまいそうになる、5人の美しい合唱が響き渡る。
5人によるインパクトノヴァとホーリースパークの一斉掃射と、アウターレア武器から繰り出されるウェポンスキルで竜王の体はボロボロだっ!
最後は無双将軍フラッタの剛震撃によって、粉々に吹き飛ばされてしまったぜ……!
「ふははははーっ! 少々物足りぬが、思い切り剛震撃を放てるのは気分が良いのじゃーっ!」
ドラゴンイーターを担いだフラッタが、戦国武将のような雰囲気を醸し出して豪快に笑っている。
竜王を呼び出すには大量の魔力が必要になるので、竜王が撃破された時点で訓練は終了だ。
オリジナル竜王が使っていた応用ブレスみたいな細かい芸当は造魔竜王では行えず、劣化竜王と俺のコンビはアッサリと敗北を喫してしまった。
ふぅむ、竜王に意識を向けすぎると良くないなぁ。
かと言って召喚コストが激重だから、なるべく活用したいんだけど……。
「ダンが不慣れな造魔の訓練中とは言え、久々にダンにまともに勝った気がするなーっ。それじゃ負けたダンは、明日もいっぱいお菓子を作ってねっ!」
「はーい。仰せのままにー」
負けた悔しさや反省よりも、喜ぶニーナが可愛いことしか頭に残らないなぁ。
あっさりと敗北を喫した俺は、勝者のお姫様たちに甘いお菓子という供物を捧げる事を約束させられてしまった。
スイーツサンドは今日作っちゃったし、明日は何を作ろうかな?
「流石に造魔スキルで呼び出されたイントルーダーは、オリジナルのイントルーダーと同じことが出来るわけじゃないのね。敵がイントルーダーを呼び出してくることを考えるなら朗報かしらぁ」
理論上は同じことが出来るんだろうけれどね。使役者である俺の意識が追いつかないかな。
俺が上手く扱えないことを嘆くより、ティムルが言うように敵の戦力が下がる事を喜ぶべきかぁ。
「ふむ。竜王とダンの連携が上手くいっておらぬのう。お互いの長所を打ち消しあってしまったように感じるのじゃ」
お互いの長所を打ち消しあってしまっている、か。
俺の長所と竜王の長所、もう1度良く考えてみないといけないな。
「じゃが妾たちにとってはなかなか有意義な訓練が出来たと思うのじゃ。イントルーダーと何度も手を合わせられるなど、これ以上無い研鑽方法であろうよ」
無双将軍フラッタのウェポンスキルに何度も耐えられる魔物は少ないもんねぇ。
剛震撃で粉々に吹っ飛ばされた竜王はちょっと憐れに思えたけど。
「ねぇダン。ドラゴンサーヴァントを呼び出さなかったのはどうしてなの? クルセイドロアで瞬殺されちゃうから? それとも造魔スキルで生み出した竜王ではサーヴァントは呼び出せない?」
「ああ、サーヴァントを呼び出さなかったのは幾つか理由があるんだよリーチェ」
首を傾げて質問してくるリーチェを捕獲し、生意気おっぱいをもみもみしながら回答する。
まずはリーチェの言う通り、サーヴァントなんていくら呼び出してもクルセイドロアで壊滅させられちゃうからね。
アニマライザーを使ってもサンダースパークを使われたら同じだし。
「でも1番の理由は、サーヴァントを生み出すための魔力は俺が負担しなきゃいけないせいなんだ」
造魔で直接ドラゴンサーヴァントを生み出す場合は1体しか生み出せないけど、竜王のスキルでなら無数にサーヴァントを呼び出すことが可能みたいなんだ。
だけど生み出すのに俺の魔力が必要なのは同じみたいでさぁ。
って、ドラゴンサーヴァント召喚も造魔スキルだったりするのか?
いや、それなら大量に呼び出せるのは辻褄が合わないか。
「職業の加護が得られたら技術が廃れてしまうかも、などと危惧した自分が恥ずかしいですね。加護を得られたからこそ更なる強敵と対峙できるようになるというのに……」
「うん。技術と職業浸透、どっちを疎かにしてもいけないってことだね」
「守人の職業浸透も急がせねばなりませんね。アウターエフェクトやイントルーダーという圧倒的な敵性存在は、技術の限界というものを否応なく思い知らせてくれますよ」
今の守人たちは技術だけに偏りすぎてバランスが悪くなっちゃってるだけだよ。
ヴァルゴくらい職業浸透が進めば、イントルーダー相手でも後れを取ることはなくなるさ。
「俺の完敗。みんな本当に凄く強くなったね。このままじゃみんなの訓練にならないから、俺ももう少し色々試してみるよ」
さて、感想戦もこれで終わり。
敗者は素直に敗北を受け入れるとしましょうかねぇ。
「勝負に勝ったみんなは、何でも言ってくれていいからねーっ」
パールソバータの宿に戻り、勝者のリクエストに応えながらいつも通り肌を重ねる。
上がりすぎた五感上昇にも少しずつ慣れ始めたみんなは、失神までの時間が長くなりつつあるね。
以前みたいにひと晩中愛し合えるようになる日も遠くはなさそうかな。
ちゅっちゅっとキスをしながら抱きしめあって、くすくすと笑いながらニーナと愛し合う。
その柔らかい笑顔を見ながらターニアさんとの話を思い出してしまうと、やはり敏感に察知されてしまった。
「んー? ダン、何か悩み事なの?」
「うん。ちょっと厄介事がね。俺の都合でまだみんなには話せないんだ。ごめんね」
ニーナに嘘をつくのは俺には不可能だから、正直に話せないと明かしてしまう方がいい。
「あは。ダンがそこまで悩むってことは、家族の誰かの問題なんだね。謝らなくていいから、ダン1人で無理だけはしないで欲しいの」
「勿論。俺には最高に可愛くて最高に頼りになる家族がついてるからね。決して無理はしないで、でもみんなが幸せになれる道を探してみるよ」
「うんっ。私達みんなで幸せになろうねっ」
ニコッと笑ったニーナがキスを再開してくれる。
ニーナを抱きしめて彼女の温もりを体全体で感じながら、明日の話が穏便に済む事を切に願った。