265 奈落探索 1階層~3階層
※R18シーンに該当する表現をカットしております。
「おはようみんな。今日も1日宜しくね」
朝目覚めたら、夜とは打って変わって優しくみんなを愛していく。
乱暴に愛するのも好きだけど、ゆっくり優しく笑顔のみんなと愛し合うのも好きだよ。
撫でるようにキスをしながら、みんなをゆっくり愛していった。
宿で朝食を取った後、ラトリアとエマをヴァルハールに送り届け、続いてムーリをマグエルのトライラム教会まで送り届ける。
すると、ちょうど遠征に出発する幸福の先端に鉢合わせた。
「へぇ。お前らってもうポイントフラッタを超えてるのかぁ」
「はぁ? ポイントフラッタってなんだよ?」
ポイントフラッタと聞いて、ワンダが不思議そうに首を傾げている。
そう言えば俺の脳内だけで使用されている名称だったな。
既に魔物の平均LVが20を超える場所で活動しているらしいので、もしかしてと思って鑑定すると、村人を除いて4つ目の職業も浸透が終わっていた。
「みんな。今の職業の浸透も終わってるみたいだから、遠征に出発する前に転職していくといいよ」
「ほ、ほんとか!? やった……! これでとうとう冒険者になれるんだっ!」
「魔法使いには職業ギルドあるんだよねっ!? 私もこれで魔法使いになれるっ!?」
コイツらって11月くらいからリーパーとして活動し始めたんじゃなかったっけ?
そう考えると、俺達よりもよっぽど成長が早くて優秀なんだよなぁ。
ワンダは冒険者、コテンは短剣使いに、ドレッドは僧兵、サウザーは職人、リオンは魔法使い、ビリーは行商人を選択した。
短剣使いや僧兵にも職業ギルドがあるらしくて安心したよ。
ワンダの冒険者だけ最大レベル50か。ひと言忠告しておこう。
「今回転職した中では、ワンダの冒険者が1番浸透が遅いんだ。今後はみんなの職業浸透速度がバラバラになっていくと思うから気をつけてな」
「へぇ。職業によって浸透の速度に違いがあるんだ?」
俺の言葉に、頭脳担当のサウザーとビリーが感心したような声をあげている。
そんな2人を尻目に、コテンが首を傾げながら尋ねてきた。
「ねぇダン。ダンは何で職業が浸透したかどうか分かるの?」
「ん? それは、えーっと……」
「ステータスプレートは見せてないし、そもそもステータスプレートにも浸透の情報なんて書いてないよね? でもダンの言った通りのタイミングで転職すると、ちゃんと浸透が終わってるし……」
「んー、そうだなぁ……」
コテンの問いにちょっと考える。
……けど、まぁ話しちゃってもいいか。
鑑定スキルの存在を知る事で、そこを目指す子が出てくるかもしれないし。
「分析官っていう職業があって、分析官の職業スキルに人物鑑定っていうスキルがあるんだ。そのスキルを使うと職業の浸透状況が確認できるんだよ」
「分析官? そんな職業もあるんだね……」
「他人の職業浸透情報が見れちゃうスキルなんてあるんだ?」
「そうなんだ。だから職業が浸透したかどうか自信が無い時は、俺に聞いてくれれば確認できるからね」
「……ねぇダン。僕もその分析官って職業になることって、できるのかなぁ?」
おお、サポート志望のビリーに分析官の能力は魅力的に聞こえたのかな?
トライラムフォロワーに専属の分析官が1人居たらと考えると、物凄くワクワクするね。決して楽な道のりではないんだけどさ。
「ビリーでもなれるけど、分析官は強力な職業だから転職条件がかなり厳しいんだ。それでも目指したいって言うなら、行商人の後には農家と職人を浸透させておくといいよ」
流石にビリーは料理人には転職できないようだ。
この世界の野生動物を狩るのって、魔物を狩るよりよほど危険だからなぁ……。
「農家と職人だね。分かった。行商人が浸透したら考えてみるよ」
大人しい性格のビリーの瞳がやる気に満ちている。
ビリーの中でみんなをサポートしたいっていう漠然としたイメージが、分析官を目指したいっていう明確な目標に変わったのかもしれない。
そんな子供達を見てニコニコしているムーリにチュッとキスをして、奈落の入り口に転移した。
「さぁみんな。幸福の先端に負けていられないよっ」
仕合わせの暴君のみんなと一緒に、奈落の入り口を見据える。
ワンダ達の成長を知ったみんなは、それぞれ違った感想を抱いているようだ。
「私たちも頑張らないとっ。すぐにワンダ達に抜かれちゃいそうなのっ」
ニーナ。張り切るのはいいけど今回は調査がメインだからね?
魔物の殲滅よりも、階層全体を歩き回って確認しなきゃいけないよ。職業浸透は進めにくいんじゃないかなぁ。
「私ってダンに会った時、32歳で村人と商人の2つしか浸透してなかったのよねぇ……。正しい知識と鑑定スキルの大切さが良く分かるわぁ……」
ティムルは商売人として生きてきたんだから、浸透が遅れていても仕方ない部分があったってば。
旅人の浸透もかなり進んでいたし、落ち込むことなんて何もないよー。
「正しい知識を持ったら、幸福の先端くらいの早さで強くなるのが普通なのじゃなぁ。でもそう考えると、ダンの強くなる速度が異常すぎるのじゃ。職業浸透とは別に、技術が磨き抜かれるのが早すぎるのぅ」
技術に関しては運も良かったんだよ。
フロイさんに簡単な手解きを受けて、ある程度戦い慣れた頃にフラッタに剣を教えてもらって、そしてリーチェに指導を受けて、ラトリアとヴァルゴという達人と出会うことが出来たんだもん。
「トライラムフォロワーのみんなには察知スキルのことは教えないの? あれがあると無いとでは、狩りの効率が全然変わってくると思うけど」
「いやさぁリーチェ。察知スキルは少し危険でもあるでしょ?」
魔物察知が使用できると、アウターエフェクトとの遭遇率が跳ね上がってしまうじゃん?
だけど察知スキルさえ無かったら、ティムルとフラッタとリーチェの3人ですらアウターエフェクトは出現させられなかった。
下手に察知スキルを教えてしまうと、幸福の先端に危険が及ぶ可能性がさぁ……。
「ふふ。ダン様ったら、瞬く間にあの子達が最深部に到達してしまうと思っていらっしゃるのですね」
俺の懸念を微笑ましそうに笑うヴァルゴ。
ま、まぁ確かに、ポイントフラッタを過ぎたばかりの幸福の先端に、心配性が過ぎるかもしれないけどぉ……。
「ティムルとフラッタ、リーチェの3人でも、アウターエフェクトは発生しないと聞きました。察知スキルを得ないことが逆に安全の確保に繋がるというのは、なんとも皮肉な話ですねぇ」
「……なんでも使いようなんだよヴァルゴ。道具やスキルに善悪なんて無いんだ」
呼び水の鏡だって聖域の樹海とセットで用いれば、無限に材木を調達できる夢のマジックアイテムになるはずなんだ。
悪いのはいつだって、道具じゃなくて使い手の方なんだよなぁ。
「それじゃ探索魔法を使用して、各階層を虱潰しに探索していくからね」
「「「了解」」」
幸福の先端の成長に思いを馳せるのはここまでだ。
俺達だってまだまだ成長しなきゃいけないんだ。ここで足踏みなんてしてるわけにはいかないね。
「ヴァルゴは俺から離れないようにね。俺達の後から来ればトラップの心配も無いから」
「了解致しました。護衛の私が守られるというのも歯痒いものですが、適材適所と割り切りますね」
探索魔法が使えないヴァルゴに、前に出ないようにと指示を出す。
屋内型アウターにはトラップがあるということを知ったヴァルゴは、少し悔しそうな素振りを見せながらも素直に後ろに下がってくれた。
飛脚まで浸透を終えたヴァルゴなら、魔迅を使えば移動が遅れることもないだろう。トラップにさえ気をつければ何の問題も無いはずだ。
全員ともう1度頷きあって、奈落への挑戦を開始した。
「闇に浸りて魔を滲み、昏きを照らして霞を晴らせ。トーチ」
「異界の領域。歪みの隧道。怪奇の楼閣。透き見て手繰りて知悉せよ。サーチ」
「不意の凶刃。不覚の死槍。弑逆阻みし神来の警鐘。冷厳なる終焉の刃を逸らして逃せ。スキャン」
トーチで視界を確保し、サーチでMAPを把握し、スキャンでトラップを無力化したら足を踏み出す。
奈落もアウターである以上、入り口側の魔物よりも奥の魔物の方が強いはずだから、あんまり入り口付近で時間をかけたくないんだよな。
ただ、奈落に大量の物資を持ち込んでいたらしいマルドック商会は、物資の運搬に馬車を使用していたと聞いている。
馬車は移動魔法で運搬することが出来ないので、入り口付近に目的地があった可能性も否定しきれない。
入り口付近で時間はかけたくない、けどMAPを虱潰しにしなければいけない。
ということで、今回はパーティを2つに分けて半分ずつ探索していくことにする。
「それじゃそっちのチームはニーナに任せるよ。入り口付近に危険も無いとは思うけど、充分気をつけて」
「了解なのーっ! 負けないんだからねーっ!?」
「競争じゃないってのー! ちゃんと調査してよっ!?」
「分かってるのーっ! ちゃーんと調査もした上で負けないのーっ!」
「……フラッタ、リーチェも気をつけてね。中継地点で会おう」
張り切り気味のニーナに若干不安を覚えつつ、ニーナチームの3人をキスで送り出す。
俺、ティムル、ヴァルゴのチームと、ニーナ、フラッタ、リーチェのチームの二手に分かれて、中継地点を目指して探索を開始した。
奈落の入り口付近に出てくる魔物は、スライムみたいな流動系の魔物だったり、虫や蛇みたいな外見の魔物が多いようだ。
探索をしていると、駆け出しっぽい魔物狩りの姿もよく見かける。
やはりスポットと比べると、探索している魔物狩りの人数は奈落の方が多いみたいだね。
MAP情報に照らし合わせながら小1時間ほど探索をして、無事に1つ目の中継地点に到着した。
「ふっふっふーっ! 私たちの勝ちなのーっ」
「特に気になる点は無かったのじゃ。活動中の魔物狩りの様子にもおかしな様子は見られなかったのじゃー」
ドヤ顔で平らな胸を張るニーナ。可愛い。
そんなニーナと報告してくれたフラッタによしよしなでなで。
ニーナたちの方も気になる点は無かったそうなので、とっとと先に進んでしまうことにしよう。
「た、探索魔法が便利すぎるわぁ……」
脳内に浮かび上がったMAP情報の詳細さに、改めて舌を巻いてしまう。
訪れた2階層も外見的な変化は特に無い。
ただMAPが一気に倍以上広くなり、出てくる魔物のLVも10~20くらいになって、かなり難易度が跳ね上がってくるようだ。
そんな2階層を探索している魔物狩りは、大きく分けて2種類いる。
少人数でブルーメタル品質以上の装備に身を包んだ少数精鋭パーティと、皮防具や鉄製武器を着用した、20~30人規模で探索を行うアライアンスパーティだ。
1階層の魔物では物足りないけれど、2階層の魔物と戦うのは不安だ、というくらいの実力の魔物狩りが手を組んで、2階層での戦闘に慣れる為にアライアンスを組んで探索を行なってるみたいだな。
3時間弱探索して、2つ目の中継地点に到着する。
「またまた私たちの勝ちーっ」
「調査はちゃんとしてるから心配しないでね? 特に異常は無かったよー」
態々俺の目の前に来て胸を張るニーナとリーチェ。
期待に応えてよしよしなでなでしながら情報を共有するけど、やっぱり成果は無し。
他の3人ともちゅっちゅとキスをして準備万端。
ささ、とっとと次に参りましょうぞ。
「おっ。ちょっと雰囲気変わったかな?」
3階層はMAPも更に拡張されているけれど、道幅自体も広くなっていた。大型の魔物でも出るんだろうか?
3階層ではちょいちょいトラップが見つかることがあって、この階層からはスキャン無しで探索するのは難しそうだ。
探索魔法士自体が少ないせいか3階層を探索している魔物狩りは多くなくて、魔物のレベルは20~35くらいになっている。
1つ1つの魔物の群れの規模も大きくなっていて、探索魔法無しだったらスポットの最深部よりも難易度が高い場所かもしれない。
MAPも広大になり、中継地点で合流した時にはすっかり日が落ちた時間になってしまった。
「今日はここまでだね。分かってたつもりだけど、調査にかなり時間がかかっちゃうなぁ」
俺と同じチームだったのになぜか胸を張っているティムルとヴァルゴを撫でながら、ニーナチームの3人とキスを交して本日の探索は終了だ。
急いで奈落を脱出し、ムーリ達を迎えに行って、宿で夕食を取りながら本日の反省会を行なった。
「馬車で物資を運びこんでるって話だったから、入り口に近い階層なのかと思ったけど……。何も無かったね?」
慎重すぎる敵に初日から迫れるとは思ってなかったけど、手応えが無くてちょっとだけがっかりだ。
「探索魔法が使えるうちのパーティメンバーに見落としがあったとは考え難いし、今日までの探索範囲にはやっぱり何も無かったんだろうなぁ」
「うん。サーチが無ければ話は変わってくるけど、みんなでサーチを使いながら探索してるんだから見落としがあったとは思えないね。もしかしたら、もう奈落からは手を引いちゃってるのかもしれないの」
ニーナの言うように、既に奈落を引き払われてしまっていたら次の手がかりが無い状態だ。
「お金を払って見張らせ続けていたんだから、見つかりたくない何かはあると思うのよねぇ……。現在は次の中継地点までしか探索をされていないらしいし、この先に何かがある可能性は充分にあると思うわ」
ティムルの言う通り、結構な大金を払ってグレイグたちに監視をさせていたようだから、現時点でも何か残っていると思うんだよなぁ。
「敵はアウターエフェクトを使役できる存在なのじゃから、4つ目の中継地点の先に単独で潜ることも可能じゃろうな。その者がアナザーポータルを使用可能であるならば、他の者たちに戦闘力が無くても問題ないじゃろうし」
「つまり、この先に何が待ち受けていても不思議は無いってわけかぁ」
「そう言えば父上たちを案内した仮面の人間族は、ポータルもアナザーポータルも使用可能であったなぁ……!」
グレイグの話とラトリアの話に共通点を見出したフラッタは、赤い瞳に燃えるような怒りを宿す。
グレイグの取引相手がフラッタの仇かどうは不明だけれど、無関係ではないだろな。
「……仮面とローブに身を隠した人間族、なんて相手がそう何人もいるとは思えない。同一人物じゃなかったとしても、同じ勢力に属する人間であろうことはまず間違いないよね」
慎重に呟くリーチェに頷きを返して、彼女の言葉に同意を示す。
仮面とローブの人物なのか、仮面とローブの集団なのかはかなり大きな差になってくるけれど、今はそれを考えても仕方ない。
話を聞いていると、昔から王国の内部で暗躍してた組織のようなイメージがあるんだけれど、そうなると組織規模の集団ってことになるから、出来れば単独犯であって欲しいなぁ。
「屋内型アウターという物を初めて体験させていただいたのですが、屋内のはずなのに奥に行くほど広くなっていくなんて不思議な場所です」
警戒していると言うよりも、感心したような口振りのヴァルゴ。
竜王のカタコンベに入ったことがないヴァルゴにとって、奈落が初の屋内型アウターなんだな。
「探索魔法が無かったら視界は確保出来ず、トラップも回避できず、地形も分からず彷徨うことになるので、全く話にならない場所だということが理解できました」
「俺に言わせれば、聖域の樹海も大概だと思うけどねぇ」
「ふふ。聖域の樹海は生まれ故郷ですから。私にとってはあそこが普通で常識なんですよ」
俺が漏らした感想に、くすくすと肩を揺らすヴァルゴ。
アウターの外の暮らしに触れた今のヴァルゴには、ツボに入った発言だったようだ。
「……ダンさんが子供達に、パーティに1人は魔法使いを入れろ、って何度も言う意味が分かりますよ」
ヴァルゴに続いて、慎重な口振りでポツリと呟くムーリ。
「探索魔法なしで屋内型アウターに挑むということは、両目を閉じたまま探索するのと変わらないんですね」
今のところ探索魔法が使えないヴァルゴとムーリも、探索魔法の重要性が伝わったようだ。
ムーリもまだまだ若いんだから、色んな職業を浸透させていけばいいと思うよ。
出来ればムーリも獣化までして欲しいんだよなー。ムーリは何の獣人なんだろっ。たっのしみーっ。
「竜王のカタコンベの最深部まで毎日徒歩で往復していた皆さんが、1日かけても探索しきれないアウターですか。奈落の名に相応しい、底知れない場所のようですね」
「いやラトリア。多分スポットや竜王のカタコンベが、アウターとしては小規模な部類に入るんだと思うよ」
多分この世界って、人類の生存圏よりも魔物の生存圏の方が遥かに広いんでしょ。
未開の地域もまだまだ沢山あるそうだし、人口がまだまだ全然足りてないんじゃないかなぁ。
「皆さんが後れを取るような心配はしておりませんけど、相手もまた正体不明の存在です。どうかお気をつけて、毎日無事に戻ってきてくださいね」
「そこは安心してよ。せっかく婚姻を結んだエマを残して死んでやる気なんて、欠片も無いからさ」
エマの顎を引き寄せ唇を重ねる。
エマとのキスで夕食の終了を宣言し、大好きなみんなを1人1人ベッドに運んであげた。
さ、明日からが調査の本番っぽいし、今日もたっぷりと英気を養わせてねっ!
まずはシルヴァの行方を追って、そしたらリーチェの問題を解決して、孤独な450年間分を取り戻すくらいにリーチェを俺の愛でいっぱいにしてあげないといけない。
この世界で暗躍してる奴なんて、はっきり言ってお呼びじゃないんだよ。