239 スパルタ
※R18シーンに該当する表現をカットしております。
朝目が覚めると、俺の上にはムーリが乗っている。
婚姻を結んでから全員徹夜だったので、昨日は思い切り全力でみんなを愛して、気絶という名の睡眠時間をプレゼントしてあげたんだった。
スタミナ勝負になると敏感なフラッタとリーチェは結構不利で、物理耐性でも持ってるんじゃないかというマシュマロボディのムーリが最後まで残ることが多い。
最後まで残ったムーリを抱き締めたまま眠ったんだったなぁ。
「おはようみんな。大好きだよ」
夜激しかった分、朝は甘々モードで、優しくキスをしてから寝室を出る。
1階に降りたけど、ニーナとターニアさんはまだ起きてきてないね。
ちょっと不安になって生体察知を発動するも、2人とも当たり前のように無事だ。
ターニアさんは消耗してたし、ニーナはお寝坊さんだから仕方ない。
もしかしたら昨日は夜更かしして、母娘2人で色んな話をしたのかもしれないなぁ。
朝食を準備しながら、離れの構造を考える。
基本的に寝室さえ別なら、お風呂や炊事場は共同でいいと思うんだよねぇ。
……あ~、でもそれは収容人数次第かぁ。ターニアさんにプラスアルファで、5人くらいまでなら問題ないと思うけど……。
そんなに住人が増えるとは思えないけど、みんなの意見も聞いておかなきゃなぁ。
広い共有スペース、炊事場とトイレを設置して、後は個人部屋を多めにって感じかねぇ?
我が家との連結もさせたいところだけど、そうすると戸締りが心配かぁ。
起きてきたみんなと朝食を取りながら、離れ建設案を話し合う。
「この家は土地も余ってるし、私たちは資金にも余裕があるんだから、まずは適当に建てちゃってもいいと思うわ」
YOUまず建てチャイナYO! というくらい軽いノリで、離れの建設を勧めてくるティムル。
家を建てるのに、適当とかまず建ててみようって言葉が出るのが恐ろしい。我が家の稼ぎを考えたら当然なんだけどさぁ。
「最初は5~10人程度暮らせる規模の建て物を1つ、かしらねぇ」
「そうじゃのう。先のことはわからぬし、ターニア1人の間にあまり大きい建物を建てても管理が大変なだけなのじゃ。構造もシンプルなのじゃから、まずは建ててみるのが良かろうよ」
相変わらず現実的に話をまとめるフラッタ。
家の建設が適当でいいくらいに金を稼げちゃってるからなぁ。
今回ヴァルハールで荒稼ぎしちゃったし、また思い切り放出したいところだ。何かいいお金の使い方ないかなぁ。
「多分半年もしないうちに住人が増えると思うから、建設は早いほうがいいよ。出来れば今日中に発注してきた方がいいとぼくは思うね」
「ん~。確かに1年弱でお嫁さんが5人と、その母親2人ですからねぇ。1年で5人ペースは見た方がいいんじゃないでしょうか?」
我が家のおっぱいコンビのリーチェとムーリが、自分たちのことは棚に上げて家族が増えるだろうと予測を立てている。
つうかどこのグラフィム家だよ。そんなに増える訳ないでしょまったく。
でも朝食が終わったらすぐに、10人が住める規模の建物を発注しに行くことになった。解せぬ。
「母さんには今後トライラムフォロワーの面倒を見てもらいながら、商人、旅人の浸透を進めてもらって、出来れば冒険者まで浸透してもらおうと思ってるんだ」
「17年間もずっと家族だけで暮らしてきたから、子供達に囲まれた生活とはとても楽しみなのっ。ニーナも無事でいてくれたし、これからの生活にワクワクが止まらないのーっ!」
「母さんは獣化も出来るからムーリに対応出来ない荒事にも強いし、若い頃に旅をしていたから、ポータルが使えると便利だと思うんだっ」
ニーナとターニアさんが、ニコニコとターニアさんの今後の予定を教えてくれる。
思ったよりも具体的な内容だ。やっぱり昨晩、2人で色んなことを話したんだろうなぁ。
朝食が終わったらニーナを仕合わせの暴君に戻して、ムーリとターニアさんで傾国の姫君を結成し、トライラムフォロワーに登録した。
ティムルには離れの建設依頼のために大工さんに出向いてもらって、その間は少しターニアさんに槍の指導をお願いする。
流石に素人とは違って、ターニアさんの槍の技術は基礎がしっかりしているね。学ぶべきものは凄く多い。
「ターニアさんってグラフィム家の出身だってステイルークで聞いたんだけどさ。グラフィム家の当主の職業って教えてもらえたりするかな?」
「んー。ごめんなさい。そう言われれば知らないの」
フラッタも竜騎士の存在を知らなかったし、15で家を飛び出たターニアさんが知らなくても無理はない、か。
「それじゃ、グラフィム家から浸透するように言われた職業とかってある?」
「家から浸透を勧められた職業かぁ。ステイルークは南の最前線だから、幼いうちから戦闘職は浸透させておけって言われたかな。あ、あとグラフィム家は全員弓の鍛錬をさせられてたよ」
弓。射手か。
射手のルートは狩人に斥候、か。
でも、既に斥候まで浸透しているニーナに変わった職業は無いんだよなぁ。
「浸透じゃないけどよく言われたのは、グラフィム家は魔物からも悪人からもスペルド王国を護らなければいけないんだーって話かなぁ? お父様とかお兄様とかはよく野盗狩りに出ていた覚えがあるね」
「野盗狩り……?」
野盗狩りで獲得できる職業と言えば、賞金稼ぎ?
……いやまさか、盗賊と殺人者だったり!?
賞金稼ぎも盗賊も殺人者も、全て敏捷性補正に特化した職業だ。獣人族も敏捷に特化した種族だと考えると……、可能姓は低くなさそうだな。
やっぱりみんなにも1度は野盗狩りを経験してもらって、犯罪系職業にもつけるようになってもらわないとダメだな。
「へ? 野盗狩り? 今の私たちなら野盗なんて問題にならないとは思うけど……」
戻ってきたティムルにお願いして、野盗が出たらこっちに回してもらうようキャリアさんに伝えてもらう。
野盗狩りは金銭的に割に合わないとは思うけど、転職に必要なんだから敬遠もしてられない。
「……ねぇダンさん。1つお願いがあるんだけど……」
ティムルが戻ってきたあとターニアさんが、俺達が居る間に1度スポットを見てみたいと提案してきた。
長年のブランクのせいで、自分がちゃんと戦えるのか少し不安なのだそうだ。
ターニアさんの申し出を受け入れ、仕合わせの暴君にターニアさんをプラスして、スポットの奥に転移した。
「ターニアさんは防具も無いし、今日は見学しててね」
「参加しようにも、流石にアウターの最深部で戦いに参加する自信は無いの……」
そうだね。きっとターニアさんはスポットの入り口付近を見学する気だったんだろうね。
でも俺達にとっては最深部も入り口付近も殆ど変わりないからさ。なら職業浸透を進めたいなって?
「魔法はスウォームワームが出た場合に、ティムルのフレイムフィールドのみ使用可能。後は全員魔法禁止ね。ターニアさんのところに1匹も通さないこと」
「「「りょーかーい!」」」
普段よりも大分緩いみんなの返事。気分はピクニックだな。
それにしても、本人の希望とは言えさぁ……。
衰弱で死にかけてたのに、次の日にはアウターに入れるって、我ながらスパルタ過ぎるよなぁ?
ポーションの効果と充分な睡眠、食事で、今までより調子がいいくらいって笑われても、こっちは笑えませんってば。
バイタルポーションの効果が大きかったのもあるけど、生活がギリギリだったニーナたち家族は、体の不調に慣れているのかもしれないね。
魔物察知を使いながらのサーチアンドデストロイ。
ニーナにはターニアさんの護衛をしてもらって、俺はせっかくなのでデーモンスピアで戦ってみる。
聖銀のロングソードよりも圧倒的に品質が上なのに、扱い慣れないせいで全然上手く敵を倒せない。
簡単にでも、ちゃんとした槍の使い手の動きを見た後だからこそ分かる、剣と槍の体の使い方の違い。
俺はロングソード使いだから、無理に槍を習得する必要はないけれど、学べる物はなんでも学んでおきたい。
剣と槍のどちらかを選ぶんじゃなくて、状況に応じてどちらも使えるようになるのが理想だ。
剣の時も体全部を連動していたつもりだけど、長柄の槍はより大きく体を動かし、全ての動作を連動させてやらなければ動きがすぐに止まってしまう。
なんだろう? 剣術と比べて槍術って、なんか物理じゃないかな?
慣性だったり遠心力だったりテコだったり、自分自身を中心として運動エネルギーを上手く誘導するような感じだ。
突きの連打にさえ反動を使って、体の動きが循環しているのが分かる。
うーん……。食わず嫌いは良くないね。
違う武器を使った事で、また剣術への理解が1段深まったような気がしてくるよ。槍は槍で楽しいかもしれないなっ。
段々手に馴染んできたデーモンスピアで、魔物を片っ端から殺していった。
「おっ。スキルジュエルみーっけ」
ドロップアイテムを回収していると、白い魔玉ことスキルジュエルがドロップしている。
……なんかスキルジュエルを見ても、もうなんとも思わなくなっちゃったなぁ。
まぁいいや。それじゃ鑑定っと。
強振打
「……はぁっ!?」
は、初めて見たけど……。これってもしかして、ウェポンスキルって奴っ!?
めっちゃ試したいけど、ターニアさんの前で鑑定とかスキル付与とか危ないか!? いや、もうターニアさんも身内だから気にしない!
「ねぇねぇ。強振打っていうスキルジュエルがドロップしたんだけど、知ってる人いるかな?」
「強振打はウェポンスキルじゃな。斧やメイス、両手剣などにつけている者が多いのじゃ」
知っているのか雷で……フラッタ!
流石脳筋ルーナ竜爵家のご令嬢。戦闘方面に明るすぎるわ。
「ん? それって打撃なの? 斬撃なの?」
「そのどちらにも適用されるスキルなのじゃ。ダメージを増幅するという単純なスキルじゃが、シンプルだからこそ弱点が無く使いやすいスキルと言えるのじゃ」
「へぇ~。打撃、斬撃の両方で発動するスキルなんてあるんだ」
じゃあドラゴンイーターに付与するのが1番かな?
他のみんなも異論無しという事で、恐縮するフラッタをよしよしなでなでしながら、ドラゴンイーターに強振打を付与した。
ドラゴンイーター
対竜族攻撃力上昇+ 物理攻撃力上昇+ 貫通+ 体力吸収+ 強振打
「ス、スキルが5つのアウターレア武器なのじゃーっ!」
もうスキル枠は空いていないので、ドラゴンイーターはこれで完成したと言える。
脳筋武器に脳筋スキルを付与して、脳筋武器を極めてしまった感じだなぁ。
「みんな、ありがとうなのじゃーっ! 妾もこの剣の使い手として恥じぬよう、精一杯力を尽くすのじゃーっ!」
無双将軍フラッタが、パーフェクト無双将軍になってしまった!
強振打でドッカンドッカン魔物を粉砕していく姿が恐ろしすぎるんだけど!?
……そんな姿すら可愛いんだから、フラッタってズルいよなぁ。
そんな調子で魔物狩りを続けていると、さっそくティムルの魔法使いが浸透を終えた。
「攻撃魔法士をお願い。竜王戦で私だけアイスコフィンが使えなかったの、悔しかったから……!」
「ティムルは気にしすぎだよー。でもこれでみんなと一緒にアイスコフィンが使えるからね」
ティムルの職業を攻撃魔法士に設定する。
攻撃魔法士LV1
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 中級攻撃魔法
出来れば全員魔導師まで浸透して欲しい気持ちもあるしね。頑張れお姉さん。
ってそう言えばティムルは、修道士や司祭も浸透してないんだよなぁ。
名匠になればめっちゃ強化されるんだから、他の職業をどこまで浸透させるかは悩みどころだなぁ。
ティムルの浸透が終わった後も戦い続けて、ターニアさんの騎士が浸透したところで、俺とニーナとターニアさんは先に上がる事にする。
ティムルたちはギリギリまで浸透を続けるみたいだ。
「ニーナって本当にアウターの最深部で戦えるようになったのねぇ……。しかもみんな息1つ乱してないし、ダンさんに至っては、私が槍を教える意味があったのかどうか……」
「ターニアさんの教え方が上手かったんだよ。槍が使える人がいなかったからほんと助かったからね」
ターニアさんが俺達の実力にしきりに感心してくれているけど、俺達の実力は職業補正込みだからね。
補正では補えない技術面の指導は本当にありがたいんだよ。
「それじゃ早速で悪いけどターニアさん。旅人に転職してもらっていいかな? インベントリが使えないと、リーパーとして活動するの大変でしょ?」
我ながら、スパルタってレベルじゃないなっ!
でもターニアさんって戦闘職の浸透具合は充分だから、インベントリさえ使えればスポットで稼ぐにはまったく困らなくなるはず。
ニーナにギルドまで引率してもらって、サクッと旅人に転職してもらった。
「ふふ。転職なんて何年ぶりだったかなぁ……」
感慨深そうに呟くターニアさん。
ターニアさんの職業浸透ってフラッタと似てて、持久補正が殆どかかってないんだよね。
唯一グラフィム家のおかげで上げられていたと思われる射手に、小補正が1個あったのみだった。なので旅人の持久力補正はターニアさんの欠点を補ってもくれると期待してる。
「えええ? インベントリって始め、こんなに小さいんだぁ……。他の人が使ってるのは便利そうに見えたけど、鍛えなきゃ使えないね……」
「母さん。旅人はインベントリのおかげで浸透が分かりやすいの。同じ大きさのインベントリが3つ出来たら、旅人は浸透が終わってるんだよっ」
ゲンナリしたターニアさんと、一生懸命励ますニーナ
。
ニーナはずっと村人だったから、インベントリにがっかりしたりしなかったもんなぁ。逆にターニアさんは仲間のインベントリを見てるから、期待も大きかったんだろう。
俺もインベントリには何度もがっかりさせられたよね……。
ターニアさんがトライラムフォロワー専属の教官になってくれれば、孤児の負担も減るし槍の使い手も増えるし、いいことだらけだ。
あとはターニアさんが子供達と仲良くできるかどうかだけど……。
ニーナと楽しそうに話しているターニアさんを見れば、何の心配も要らないか。
それにしても、俺にとっても怒涛の1日だったけど、ターニアさんにとっては人生が激変した2日間だったよなぁ。
スパルタとかって言葉で済ませていいものかすら怪しいくらい、ターニアさんには無理させちゃった気がするよ……。
その分騎士の浸透も終わって、ターニアさんが得たものも大きかったとは思うけどね。