237 救助
「こく……こく……」
目を覚ましたターニアさんに、更にバイタルポーションを飲んでもらう。
ゆっくりとしたペースではあるけど、2本目のバイタルポーションも無事に飲み干してくれた。
「すぅ……すぅ……」
「……母さん、また寝ちゃったの」
「出来ればここから移動して、ちゃんとした場所で休ませてあげたいけど……」
ポーションを飲み干した後、さっきより落ち着いた様子で寝息を立てているターニアさん。
そんなターニアさんを起こさないよう気をつけながら、これからどうすべきかをニーナと話し合う。
「起こすのも可哀想だし、1度このまま休んでもらった方がいいかな? どうする?」
「ん……、そうだね……。出来れば家に連れて帰りたいけど、今の母さんに解呪を知らせるのは負担かも……」
「了解。ターニアさんにはこのまま寝てもらって、ここで少し体力を回復してもらおう」
素人目にはだけど、ターニアさんの容態は安定しているように見える。このまま休ませても問題ないだろう。
「買ってきたバイタルポーションは全部置いていくね」
「え? ダンはどうするの?」
「俺は寝具とか食べ物とか準備して戻ってくるよ。ニーナはこのままターニアさんの傍にいてあげて」
「ん、了解なの。宜しくねダン」
任せて、とニーナに大きく頷いて見せる。直ぐに戻ってくるからね。
小屋を出て、ポータルでステイルークに転移する。
……ふぅ。まだ明るい時間で助かった。もうちょっと遅かったら店が閉まってたかもな。
まずは布団やタオル、清潔な衣服を何点か購入。
そしてマグエルの自宅の井戸で水を汲んで、ニーナのところに帰還した。
荷物が多いと、行商人と荷運び人の恩恵が身に染みるなぁ。
「戻ったよニーナ。服とタオル、それと多めの水と布団を持ってきたよー」
「あっ、お帰りダン。色々ありがとうなの」
小屋に戻ると、まだ眠ったままのターニアさんの頭をニーナがゆっくりと撫でていた。
さっきまでと比べて、ニーナも大分落ち着いてくれたみたいだ。
「ターニアさんの方はどう? 落ち着いてるかな?」
「うん。呼吸も深くなったし落ち着いてるの。ダンがいない間に一応ヒールライトとキュアライトも使ってみたけど……、これは効果なかったかも?」
「なるほど。ターニアさんの容態が落ち着いたなら何よりだよ。それじゃ今度は食べ物も用意してくるね」
「了解なの。何度も使っちゃってごめんね?」
「気にしないでニーナ。ニーナのお母さんは俺のお義母さんでもあるんだからさ」
申し訳なさそうにしているニーナを優しくよしよしなでなで。
せっかくお母さんと生きて再会できたんだから、つまんないこと気にしないで素直に喜んでいいんだよー。
「今晩は俺もここに泊まるつもりでいるから、みんなにも事情を説明してくるよ。もしターニアさんがポータルを使う場合、俺かニーナがパーティを抜けなきゃいけないしさ」
「うん。みんなにもよろしくね? 今はちょっと母さんから離れたくないから……」
大丈夫だよとニーナのほっぺにキスをしてから、買ってきた布団を敷いて、ターニアさんを起こさないように布団に移して寝かせてあげる。
ターニアさんが寝ていた場所に敷き詰められていた枯れ草は全て捨てて、狭い小屋の中を軽く掃除をする。
見たところ、かなりギリギリの生活を送っていたようだけど……。ターニアさんにいったい何が起こっていたんだろう?
そもそもの話、なんでターニアさんは死亡扱いされたんだ? ニーナが保護されてるんだから、この家は捜索されたってことだよな?
捜索隊に調査されたはずのこの家で、なんで人知れずたった独りで限界を迎えようとしていたのか……。
……っと、悩むのは後だ後。まずは色々回ってこないと。
まずはヴァルハールに行き、ラトリアに事情を説明する。
「いきなり居なくなったから、凄くびっくりしたじゃないですかーっ!」
「ごめんごめん。とても止まれる状況じゃなくってね」
んもーっ! と俺に抱き付きながら頬を膨らませるラトリア。
そう言えば夜にいきなり竜爵家邸を飛び出したまんま、2日間寝室に篭りっぱなしだったもんなぁ。
「今朝フラッタに聞きましたけど、正式に婚姻を結んだそうですね? 娘のこと、どうかよろしくお願いしますね」
「うん。フラッタのこともラトリアのことも、よろしくお願いされますよ」
微笑むラトリアに軽くキスしてから、みんなと合流するために竜王のカタコンベに転移した。
「えーっと、みんなはー……っと」
竜王のカタコンベに入って、パーティメンバーの位置を確認してみる。
あれ? パーティ反応的に、みんなこの中にいる感じじゃないな? ってことはスポットに行ってる?
竜王のカタコンベを出て、直ぐにマグエルの我が家に転移する。
「あれ? ダンさん?」
「おっ、ムーリ。ちょうどいいところに」
ちょうど我が家の掃除をしてくれていたムーリをぎゅっと捕まえて、簡単に事情を説明する。
ターニアさんのことを知ったムーリは、嬉しそうに力いっぱい俺を抱き締め返してくれた。
「はぁ……。助けられて本当に良かったです……! まさかこんな奇跡があるなんて……!」
「まさに奇跡だよね。7月からずっと教会のお手伝いをしていたご利益かな?」
「ふふ、そうかもしれませんねっ」
突然ガバッと俺を見上げて、満面の笑みでちゅっと口付けしてくるムーリ。
お前なぁ……。状況的に押し倒すわけにもいかないんだから、ちょっとは自重してくれよぉ……。
「事情は分かりました。けどダンさん、2月の登城命令は忘れないように気をつけてくださいね?」
「ぐっ……! まさかムーリにそれを指摘されるとは……!」
登城命令なんて意図的に忘れたいくらいだったけど、 ムーリに釘を刺されてしまったぜ。
無用のトラブルは避けたいし、この際仕方ないかぁ。
ステイルークの防具屋で購入した新しい革防具を倉庫にぶち込んで、スポットに飛んだ。
「おっ。やっぱこっちか」
スポットの内部でみんなの反応を確認すると、やっぱり反応がある。
1度大雑把に最深部に飛んで、そこから更にみんなの反応を目指して転移する。
「あら? ダンじゃない。ステイルークでの用事はもう……って、貴方1人? ニーナちゃんは?」
俺に気付いて駆け寄ってきて、けれどニーナの姿が見えないと首を傾げるティムル。
うん。無事に合流できたみたいだ。
フラッタとリーチェはまだ戦闘中だったので、クルセイドロアをぶっ放して強制終了。
ドロップアイテムの回収を手伝ってから、みんなに事情を説明する。
「そ、そんなことがあったの……? 手遅れにならずに済んで良かったわぁ……」
「ターニアさんの体力が動かせるくらいになるまでは、ニーナにはターニアさんに付きっ切りでいてもらおうと思ってるんだ。俺達の紹介は、ターニアさんが落ち着いてからのほうがいいかなって」
一般的に、女親の方が娘の結婚に対して寛容っていうイメージはある。
けど俺とニーナは種族も違うし、ターニアさんがどんな印象を抱くか読めないんだよなぁ。
「了解よ。どうして死亡扱いのターニアさんが無事だったのかは早く知りたいけど、まずは元気になってもらわないといけないものね」
「母上に続いてニーナの母君も助けてしまうとは、ダンは本当に凄いのじゃー!」
ぎゅーっと抱き付いてきてくれるフラッタには悪いけど、今回は本当に偶然だったからなぁ。そこまで手放しで褒められると、ちょっと恐縮しちゃうね。
「ニーナには、こっちは心配要らぬと伝えて欲しいのじゃっ」
「了解。必ずニーナに伝えるよ」
「衰弱は体に栄養が足りてなくて、生命力が衰えている状態異常だね。病気や怪我と違って、少し特殊な状態異常なんだ」
リーチェが衰弱について知っていてくれたのはありがたい。
現代風に言うと栄養失調に近いのかもしれない。病気だけど病気じゃないみたいな?
「バイタルポーションを飲ませて目を覚ましたなら恐らくは安心だと思うけど、戻ったらもう1度鑑定してあげてね」
「分かった。ありがとなリーチェ。お前がいてくれて心強いよ」
照れるリーチェの頬に感謝のキスをして、俺もニーナと共にターニアさんと一緒に居ようと思っている事を告げる。
もしかしたらニーナが何日か帰れないことも説明して……。
「ってそう言えば、みんなはなんでスポットにいるの? てっきり竜王のカタコンベにいると思ってたんだけど」
「あ、そうだった! 私たちもダンに聞いてもらおうって思ってたのよぉ!」
「……竜王のカタコンベになにか異変があった?」
「んー……。異変ってわけじゃないんだけどぉ……」
説明に迷う様子のティムル。
見かねたリーチェが、ぼくが説明するよと前に出る。
「気配察知スキルを持ってないぼく達じゃ確証が持てなかったんだけど……。竜王のカタコンベの最深部の魔物がぼく達を避けてるように感じられてね。魔物狩りの効率が悪かったんだ」
「魔物に、避けられる……?」
「魔物が私達を避けるなんて、そんな馬鹿な話って思うけどねぇ……。なんせ私達、竜王のカタコンベで竜王を倒しちゃってるから……。あるかもー、って?」
「……ん。確かにありえる、のか?」
ティムルの言う通り、俺達は竜王を倒しちゃってるからな。何が起こっても不思議じゃない。
イントルーダーを倒した事で、アウター内部になんらかの変化が起きたのか?
「母上に聞いた話だと、他の者たちから変わった報告はないようなのじゃがのぅ」
「他のリーパーたちからは報告がないんだ?」
「なのじゃ。じゃが妾たちは明確な変化を感じるのじゃ。こうして狩場を変えてみると、はっきり違いを感じてしまうほどにのぅ」
ということは、やはり俺達だけに対してアウターの対応が変わったって事になる。
……例えば、イントルーダーを倒した事で、そのアウターがクリア扱いになった、とか……?
まぁ今考えることじゃないか。
「じゃあ俺は先に戻るよ。みんなならなんの危険も無いと思うけど、気をつけてね」
みんなにちゅっちゅっとキスをして、食事の準備の為に自宅に戻った。
病人食なんて作ったことないけど、果物を摩り下ろしたり、穀物を煮てドロドロにしたものなんかを適当に用意する。
味見だけはしっかりしたので、不味くは無いはずっ。
俺とニーナの分は、ホットサンドを適当に用意した。
「はむ……ふぅぅ……ちゅる……ちゅうう……」
ムーリの口から甘い吐息が零れ出る。
芋を煮る間にずっとムーリとキスをして、出来上がった食事を持ってニーナの家に帰還した。
「お待たせニーナ。適当に食事を用意してきたよ」
小屋の中にひと声かけてから扉を開ける。
何気にもう暗い時間になっちゃったな。慣れない病人食作りに手間取りすぎてしまった。
「あ、ダン。お帰りなのっ」
「ターニアさんはどう? まだ寝たままかな?」
「うん。母さんはまだ寝てるの。容態に変化はないかな」
「そっか。ねぇニーナ。ターニアさんを鑑定してみてもいいかな?」
ニーナにひと言断ってから、リーチェのアドバイス通りにターニアさんを鑑定する。
ターニア
女 33歳 獣人族 獣化解放 騎士LV38
うん。衰弱の状態異常も解消されてるね。バイタルポーション凄いな。
ガリガリで土気色をしていた見た目も少し血色が良くなり、生命力を感じさせる赤みを帯びている。
……そして、ついでみたいに解呪してしまったなぁ。怒られることはないと思うけど。
「うん。衰弱の状態異常は解消されてる。今は正常な状態だよ」
「正常な状態……」
俺の報告に、平らな胸をほっと撫で下ろすニーナ。
ようやく肩の力が抜けて安心してくれたみたいだ。
「良かったぁ……。母さん、本当に良かった……」
「ほらニーナ。俺達も今のうちに食事しよ? 適当に用意してきたからさ」
ニーナに手作りホットサンドを渡す。
ターニアさんが正常な状態に戻ったと聞いて、ニーナも安心したんだろう。いつもより気持ち多めに食べてくれた気がする。
「ねぇニーナ。ターニアさんが無事で本当に良かったんだけど、逆になんでターニアさんはこうして生きてるのに、今まで死亡扱いになってたのかな?」
食事を終えてもターニアさんは目を覚まさなかったので、今のうちにニーナに少し確認を取る。
「……えっとね。母さんが死亡扱いになったのは、きっと私の証言が原因だと思うの」
「ニーナが原因? ごめん。捜索隊の話、もう少し詳しく教えて貰える?」
「私たちには家族しか知り合いがいなかったでしょ? それで食べ物を探しに森に入った母さんが、私とのパーティから脱退してしまっていたから……」
「……なるほど」
以前ニーナは、家族でパーティを組んでたとかって言ってたっけ。
ずっとパーティを組んでいた人がパーティを脱退したなら、死亡によるパーティ脱退だと考えても不思議ではないか……。
隠れ住んでいたニーナたち一家には、他に知り合いもいない。
パーティを組んでいたニーナの証言が優先されるわけか。
そもそもの話、俺が転移してきて数時間で、生存者の捜索は打ち切られていた気がする。
フレイムロード討伐隊と調査隊の捜索時間が短かった為に、幸か不幸かターニアさんは発見されなかったんだなぁ。
「しかしどうしてターニアさんはパーティを脱退してしまったんだろう? こうして無事でいるって事は、おそらくは自分の意思で脱退したんだよね?」
「それは私も分からないの……。母さんが目を覚ましてくれたら聞かなきゃね」
突発的にパーティを抜けなきゃいけない状況って、良く分からないなぁ。
ターニアさんの行動の意図が理解できずに首を捻っていると、ニーナが柔らかく微笑んでくれる。
「ダン。私の呪いを解いてくれて本当にありがとう。おかげで母さんも死なせずに済んじゃったのっ!」
「完全に偶然だから、感謝されるとちょっと気恥ずかしいんだけどね……」
「偶然でもなんでもいいのっ! こうして母さんが生きていてくれるだけで充分なのっ!」
「……だね。俺のおかげでもそうでなくても、ターニアさんが無事だったんだから、細かいことは気にしない事にするよ」
ターニアさんとの出会いが運命だろうが偶然だろうが、そこに作為があろうと無かろうと関係ない。
今大切なのは、死別したと思っていた母親と再会することが出来て、ニーナが喜んでくれているってことだけだ。
「ん……。ニー、ナ……。ニーナ……」
ニーナの名前を呼びながらゆっくり目を開けたターニアさん。
まだ定まらない視点で、それでもぼんやりとした様子でニーナを見詰めている。
「あ、れ……。ニー、ナ……?」
「うん。ニーナだよ母さん。体は大丈夫? 辛いならまだ寝ててもいいよ?」
「から、だ……? えっと、そう言えば私、体に力が入らなくって……」
ニーナと会話しながら、自分の記憶を辿っていくターニアさん。
衰弱状態がどの程度続いていたのか不明だけど、意識も記憶も混濁してたんだろうね。
「はっ……! そうよ。ニーナ……! ニーナよ……! ニーナ、貴女今までどこに行ってたの……!? 無事で、無事で良かった……!」
衰弱した体に鞭打って、ニーナに右手を伸ばすターニアさん。
その伸ばされた手を両手で握って、ニッコリ微笑むニーナ。
「母さん。母さんも無事で、本当に良かった……。私はステイルークで保護されたの。それから色々あってなかなか帰ってこれなかったけど……。間に合って良かったよぅ……!」
「ステイルークで、保護……? ニーナ、貴女人頭税はどうしたのっ……!? それにニーナ、なんだか随分肉付きが良くなった……?」
おっぱい以外すっかり健康体になったニーナの肉付きを見て、ターニアさんが目を丸くしている。
やっぱりターニアさんも満足に食えてなかったんだなぁ……。
今日までターニアさんの命が持ったのは、ニーナがいないことで逆に必要な食事量が減ったからだったのかもしれないね。
さて。話も聞きたいし、そろそろ俺も混ざろうかな。
「失礼。初めましてターニアさん。リーパーを生業としているダンと言います」
「は、はい。初めまして……? ターニアと申します……?」
「お体の方は大丈夫ですか? 起きれるなら、まずは食事でも如何でしょう?」
「えっと……? ニーナ、この人は誰なの……?」
「ふふ。この人はダンって言ってねっ。私と母さんを助けてくれた恩人だよっ!」
戸惑うターニアさんに笑顔で答えるニーナ。
しかし彼女の言葉はそこで止まることはなく、ノンブレーキで爆弾を投下する。
「ダンはねっ! すっごくすっごくかっこいい、私の大切な旦那様なのーーっ!」
「えっ、ええっ……? 恩人はいいとして、旦那様ぁ……? ニーナ、私と離れてから、貴女にいったい何があったのぉ……?」
混乱しきった様子で、俺とニーナの顔を交互に見るターニアさん。
ニーナ、いきなりぶっこんじゃダメだってばぁもう。ターニアさん体力落ちてるんだから、自重してあげてってばっ。
混乱するターニアさんを宥めて、まずは食事を取ってもらい、その間にニーナの方に起きたことを掻い摘んで説明していく。
4月。フレイムロードが開拓村を襲い、ニーナが捜索隊に発見、保護される。
しかしステイルークにはニーナの居場所が無かったので、偶然出会った俺と一緒にステイルークを旅立ち、マグエルを拠点に生活する。
年が明けたのでこの家に戻ってきてみたら、死んだと聞かされていたターニアさんを発見した。
ターニアさんは俺とニーナの話を、ゆっくり食事しながら黙って聞いて、食事が終わると静かに俺に向かって頭を下げた。
「ダンさん。娘を助けていただいて、本当にありがとうございました。そして娘だけでなく私のことも助けていただいたようで……。感謝の言葉もありません」
「いえ、ニーナにはいつも助けてもらってます。ターニアさんも無事で良かった」
そして何より、ニーナとの婚姻に反対される気配も無くて本当に良かった……!
今更婚姻に反対されてもどうしようもないけど、ニーナの母親であるターニアさんに祝福してもらえないのは辛いから。
「それで気になってるんですけど、どうしてターニアさんはニーナとのパーティを解消したんですか? それがあったからターニアさんは死んだと思われちゃったんですけど」
「あ、はい。ご説明させていただきますね。それは……」
ターニアさんから語られた、フレイムロード襲撃時の、ニーナの家族に起こった真実。
食べる物がなく起き上がれなくなったニーナの為に、ターニアさんは森に入って食べ物を探していた。
きっと村人のニーナと比べて、職業補正で持久力が上がっていた為、ターニアさんのほうが体力残ってたんだろうね。
ターニアさんが食べ物を探して森の中を彷徨っていると、武装した兵士達が森の中に入ってきているのが見えた。
彼らは恐らくはフレイムロード討伐隊なんだろうけれど、ターニアさんは自分達を探しに来たグラフィム家の者だと勘違いしてしまったのだそうだ。
移動阻害の呪いの為に追っ手から逃げ切る自信も無かったターニアさんは、パーティ登録情報からニーナにまで追っ手が差し向けられることを恐れ、森の中でパーティを脱退する。
幸か不幸か、ターニアさんは発見されることなくやり過ごすことが出来た。
しかしほとぼりが冷めた頃にここに戻ると、寝ていたはずのニーナがいなくなっていた。
探しに行こうにも呪いのせいで満足に移動できない。それに人頭税を滞納している為に、街に入ることも出来ないターニアさん。
ニーナが生きていればきっとここに帰ってくるはずだと、1人で必死にこの家で待っていたそうだ。
だけど冬になり、畑で取れる物も無くなり、食糧の備蓄なんてあるはずもなく、少しずつ身動きが取れなくなってしまったのだという。
「諦めなくて良かったっ……! 死体は無かったから、ニーナは死んでないって、必死に信じてっ……!」
「ごめん母さん……! 本当にごめんなさい……! 母さんは私を必死に信じてくれていたのに、私が母さんを信じてあげられなくて、私1人だけが幸せに過ごしていて、本当にごめんなさいっ……!」
泣きながら抱き合う母娘を見て、不幸を未然に防げたことに安堵する。
もう1歩遅かったら、ターニアさんの遺体と対面させる事になるところだったよ……。
色々擦れ違っちゃったけど、最終的に無事に助け出せたんだから問題ない。
思わぬサプライズだったけど、ニーナが失ったと思っていたモノを1つでも取り戻せて本当に良かったぁ……。