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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
3章 回り始める物語3 1年目の終わり
212/637

212 ※閑話 知識の共有

※孤児パーティ幸福の先端メンバー、人間族の女の子リオン視点。


 次系列は本編211の日々の中のとある1日です。

 誰も奴隷に落ちなくて済んで、誰も悲しむことのない初めての新年。


 私たちトライラムフォロワーのメンバーは、大事な話があるって事でダンに呼び出された。



 トライラムフォロワーに参加していない子達も、希望するなら来てもいいよって言われたから、孤児のみんなは殆ど参加してるみたい。



「大切な話って何かな? ダンたちがもうすぐマグエルを旅立つって話とか? お姉ちゃんは何の話だと思う?」



 ビリーに聞かれてちょっと考える。


 あのダンが、旅立つってだけでみんなを集めたりするのかなぁ? なんかもっと突拍子もなくて、そしてみんなのためになることをしてくるような予感がする。



 悩みながらも会場に指定された礼拝堂に入ると、何故か礼拝堂がすっごくあったかい。冬の礼拝堂って、お祈りするのも辛いくらいに寒いのに、なんで……?



「リオン! これねっ、ティムルが作ったマジックアイテムで、エアコントローラーっていう暖房用マジックアイテムなんだって!」



 サウザーが凄い勢いで教えてくれた。


 将来的に職人を目指しているサウザーにとって、ティムルはまさに理想とするドワーフ像そのものよね。



「教会と孤児院に1つずつだけど、ティムルが作って提供してくれたんだっ!」


「え、えぇ……? ってことはマジックアイテムをポンッと3つも……?」



 1人でも戦えるし商人としての知識と経験も凄いのに、マジックアイテムまで作れちゃうなんて。仕合わせの暴君のメンバーは1人1人が凄すぎるの。


 そのティムルの伝手で、シュパイン商会から毎回遠征に必要な物資が届けられるようになったから、私たちも他の子たちもわざわざ店に行かなくて済むようになって、前よりも魔物狩りの時間を増やすことが出来ちゃった。




「おーう揃ってんなー。つうか人数多くて礼拝堂でもギリギリだったかぁ」



 見慣れないマジックアイテムの話で盛り上がっていると、ようやくダンが礼拝堂に現れた。



「それじゃ食い物と飲み物を配るから、小さい子から順番に取りにきてくれー」



 予定より少し早く来たダンは、クッキーとかいう硬くて甘いお菓子と、ミルクと果実を混ぜた甘い飲み物を配ってくれる。


 静かに話を聞いてくれる限りおかわりは自由にしていいって言われたから、ちっちゃい子たちが必死に自分の口を押さえてるのが可愛いなぁ。



「みんなが魔物狩りをするかしないかは自由にして良いんだけど、職業に関しての正しい知識は持っておくべきだと思ってさ。少し長くなると思うし、難しい話もあるかもしれないけど、聞いて欲しいんだ」



 そう言ってダンが語りだしたのは、職業の浸透っていう現象について。


 魔物を倒すほどに職業の力が魂に浸透していき、完全に浸透しきった職業の力は、転職しても失われないという事実。



 ピンと来ていない子も多いけれど、私たちはすぐに分かった。だって私たち、1度目の職業の力、失ってないんだもん。


 これって、浸透って言うんだぁ。



 そして職業の浸透を進めるためには、魔物を倒さなくちゃダメなんだって。


 だから魔物狩りを将来的に目指さなくっても、スポットの入り口で活動できるくらいになっておけば、どんな職業になっても困らないみたい。



「トライラムフォロワーのみんなには、必ず戦士、商人、旅人、修道士の浸透を義務付けているよな?」



 口を押さえて、でもウンウンと必死に首を縦に振る子供達。



「この4つの浸透の目安は、自分の持ってる魔玉が2回発光することだ。魔玉が2回発光すれば、まず浸透が完了してると思っていい」



 幸福の先端くらいのペースで毎日活動していれば、ひと月かふた月で間違いなく浸透は終わるけどなっ! とダンが言ったせいで、私たちに注目が集まっちゃった。


 もうダンったら。変なこと言うのやめてよねっ!



 浸透の話が終わると、次に語られたのは上位職業とか派生職業の話だった。


 戦士が浸透することで兵士になれて、商人が浸透する事で豪商になり、旅人が浸透する事で冒険者になり、修道士が浸透する事で司祭になれる。



 旅人と商人の両方を浸透させる事で行商人という職業になれると聞いて、ビリーの目が輝いたのが分かった。ビリーは始めから行商人とかを目指したいって言ってたもんね。



「戦士から始まるのが戦闘職ルートだ。商人からはお金が稼ぎやすい職業や、職人になる事ができるんだ。旅人の先には移動魔法が使える職業が待っているし、修道士を浸透させると怪我の治療も出来る司祭になれるんだ」



 どのルートを選んでも、魔物狩りにも日常生活にも大いに役立ってくれるんだよ、とダンは言う。



 戦闘職がいなければ魔物を倒すことも身を守ることも出来ない。


 商人や職人がいなければ、お金を稼ぐことも装備を揃えることも出来ない。


 旅人がいなければせっかくのドロップアイテムを持ち帰れない。


 修道士がいれば万が一の事故の危険性を大幅に減らすことが出来る。



 パーティメンバーで役割を決めて、それそれ希望のルートを伸ばすといいんじゃないかな、そんなダンの言葉を聞いて魔物狩りを始めている子供達が少しざわつき始める。


 自分がどのルートを選べばいいのか、パーティでどんな役割をこなせばいいのか考え始めたんだね。



「そしてみんなに覚えて欲しいのはここからの話なんだよ。今後トライアムフォロワーに参加する子供達には、みんなから伝えて欲しいんだ」



 ダンの声に真剣みが増した気がした。


 今までだって凄く重要な話をしていると思うんだけど、まだこれ以上に何かあるの?



「これから話すのは魔法使いに転職する方法と、魔法使いルートの先にある、とっても重要な職業の話だ」



 魔法使い!? 貴族しかなれないんじゃないの!?


 そう思った瞬間、ダンの両手から火柱が上がった。



「これが初級攻撃魔法のフレイムランスだ。俺が魔法を使えるんだから、俺の話にも信憑性が出てくるよな?」



 火柱を消して見せて、ニヤッと笑うダン。


 信憑性も何も、ここにいる子たちでダンの言うことを信じない子なんていないのっ! だから早く! 早く教えてよダンー!



 ダンの口から魔力枯渇っていう状態について詳しく語られる。


 魔力が無くなると、死んだ方がマシっていうくらい辛い目に遭う。だけど魔力枯渇を経験すると、魔法使いになる資格を得ることが出来る……。


 ……え、たった1回死にそうな目に遭うだけで魔法使いになれるの?



 魔法使いになると魔物を一気に殲滅できる攻撃魔法を使えるようになるんだって。そして魔法使いが浸透したら、その先にある各種魔法士ルートもとても有用な職業が多い……。


 ……私、魔法使いになってみたいかも?



「魔力枯渇を起こす方法は簡単だけど、限界まで耐えるのはかなり厳しいんだ。方法は修道士のヒールライトをひたすら打ち続けるだけなんだけどね」



 えっ! ヒールライトを打ち続けるだけでいいのっ!?


 やった! 今度の転職、修道士のほうになってて良かったっ!



「魔力枯渇で死ぬことは無いけど、死ぬほど苦しい目に遭うから、魔法使いを希望しない奴は挑戦すべきじゃないと思う」



 ダンは何度経験しても慣れる事はないくらい辛い経験だって言ってるけど、魔力枯渇で死ぬことは無いみたい。


 でも、たった1回我慢するだけで魔法使いになれる……。


 やっぱり私、魔法使いになってみたいなぁ。運動は少し苦手だし……。



 スポットの最深部で戦うためには、最低でも1人は魔法使いが欲しいとダンは言う。



 魔法使いルートの先には、他のアウターで役に立つ探索魔法士。


 魔物を寄せ付けない魔法を覚えて探索が楽になる支援魔法士。


 修道士と一緒に浸透させるとパーティメンバー全員を回復させられる回復魔法士。


 沢山の魔物を一気に滅ぼせる攻撃魔法士になれる。



 探索に役立つと聞いて、ワンダも少し魔法使いルートに興味を持ったみたい。



「今のこの世界にはちょっと魔法使いが少なすぎるんだよね。だから少しでも数を増やしたいと思ってるんだ」



 ……確かに魔法使いは凄く珍しいけどさぁ。


 そんなため息混じりにあっさりと、数を増やしたいんだよねーなんて言われても、こっちだって困っちゃうよダン。



「修道士は沢山いるから回復魔法士はそんなに欲しくないけど、探索魔法士はこの世界に全然足りてなくて、嫌になっちゃうよ」



 ダンはいつの間にかスポットとは別のアウターに潜ってきて、そこで探索魔法の重要性を思い知ったんだって。


 探索魔法士がいるのといないのとでは、アウターの難易度が違いすぎるって。



「お前たちの中にはいつかはスポットを卒業して、世界中のアウターに挑戦してみたいって思ってる奴もいるかもしれない。そんな時に探索魔法士がいないってのは、ちょっとありえないくらいに大変なんだよ」



 ダンが実際に使ってみて、性能を確かめた探索魔法を説明してくれる。



 まっくらな屋内型アウターの中で視界を確保するトーチ。


 アウター内の地形を把握し、行きも帰りも迷わなくなるサーチ。


 アウター内に設置されたトラップを自動で認識し解除してくれるスキャン。



 え、どれも無いとダメな魔法じゃないの? それらが無い状態で、どうやって屋内型アウターって攻略されてるの?



「冒険者、探索者、探索魔法士。この3つが揃ってたら、世界中どこだって行けるんだぜ?」



 世界中のどこだって行ける。その言葉にゾクリとするようなドキドキとするような、なんだか不思議な気持ちが芽生える。



 孤児だった私たちには、15歳で閉じていた未来。お世話になっている教会がある街で、完結していた人生。


 でも今の私達の世界は、想像も出来ないほどに広がってしまったんだ。



「幸福の先端を見てれば分かると思うんだけどさ。こっちが指定した4つの職業の浸透って、真面目に活動してたら半年もかからずに浸透しちゃえるんだよ」



 ダンの指示に従って活動するだけで、ひと月で1つ職業が浸透した。


 だから4種類の職業の浸透なんて、確かに半年もあれば余裕で終わっちゃうね。



「その先もマグエルに残るか、お世話になった教会のお手伝いをするか、広い世界に踏み出してみるか、色々な将来を考えてみるといいと思う」



 うん。3パーティ合同で行動している子たちは、来月の礼拝日まで転職をお預けされてるけど、私たち幸福の先端は今度の礼拝日が終わったら3度目の転職なの。


 泊まり込みの遠征が出来るようになったから、強い魔物と戦えるようになって、浸透が早く進んだんだって。



「魔物を倒さないと職業浸透が進まないのはさっき説明した通りだ。だからトライラムフォロワーのみんなは、戦えない子を護衛しながら活動する日も設けて欲しいんだよね。職業の浸透が進めば進むほど、将来の選択肢は増えていくからさ」



 今ダンがした話は、新しい子が来る度に伝えて欲しいんだって。


 ダンたちは常にマグエルに居る訳じゃないから、マグエルで活動しているトライラムフォロワーのみんなが広めるのがいいんだって。


 そしてマグエルから離れてしまう子も、遠慮しないでどんどん広めて良いよって。



 ダンがしてくれた話って、すっごく大切な話だと思うのに……。なんであんまり広まってないのかなぁ?




 ダンの話が終わって、余ったお菓子と飲み物を配るダンに、思い切って私の希望を伝えてみる。



「ダン。私ね、魔法使いになってみたいの」



 そしたら私に続いてワンダも同じことを言い出した。


 ワンダは冒険者と探索者が終わったら、探索魔法を覚えてみたいんだって。



「いいねぇいいねぇ! お前ら積極的で楽しくなっちゃうよぉ」



 私とワンダの頭をわしゃわしゃと撫でてくるダン。



「実は前から、リオンは魔法使いになってくれないかなーって思ってたんだ。ワンダも冒険者、探索者、探索魔法士って、お前1人いたら、世界中どこでも魔物狩りするのに困らなくなるなぁっ!」


「前から私に魔法使いになって欲しかったのって、なんで?」


「リオンが魔法使いになると、幸福の先端は凄くバランスがいいからだよ」


「バランス?」


「ワンダが移動に特化して、コテンが戦闘に特化してるでしょ? サウザーが職人になれば装備品も作れるようになるし、ビリーは行商人としてのサポートを希望してる」



 確かにうちのパーティ、やりたいことがみんなバラバラだなぁ。


 それが逆にバランスが良くなってるの?



「そこでリオンが魔法使いになったら、一気に飛躍できると思うんだよね。ドレッドは俺が何か指示するよりも、みんなと一緒に過ごす事で幸福の先端に足りない物を自分で選ばせる方が合ってると思うしさ」



 ダンは私達の将来を凄く楽しそうに語ってる。


 まるで私たち自身よりも、私達の将来を楽しみにしてるように見えちゃうよ?



「魔法使いギルドはあるけど、それ以上先のギルドって今のところないんだよ。でもリーチェの話では、エルフの里でなら転職できるんだってさ」


「へー。エルフの里かぁ……」


「だからワンダとリオンが魔法使いの浸透を終わらせる前に、各種魔法士の転職も普通に出来るようにしてやるからなー?」



 ……え? 今サラッと、とんでもないこと言わなかったかなぁ?



「ワンダも今のうちに、思い切り剣の訓練しておけよぉ? 俺のスタイルって、剣で戦いながら攻撃魔法を放つ魔法剣士だからさ。これが出来るようになると、面白いように魔物が狩れるようになるんだぜ?」


「ああ、任せとけっ!」 


「ひゃっ!?」



 んもうっ! ワンダの大きな声で、何を考えてたか忘れちゃったじゃん!


 まったく、うちのリーダーはしょうがないんだからぁ。



「幸福の先端ってパーティ名、お前らにピッタリだと思うよ。お前らが活躍するほど、どんどん幸福が広がっていくんだ」



 ムーリよりも他の孤児よりも、俺がお前らの活躍を1番信じてるんだよって、ダンは笑って言ってくれた。



 ダンが言ったこと、今まで嘘だったことなんて1回もない。


 ダンの言う通りにしてたら、いつの間にか私たちは稼げる魔物狩りになっちゃった。



 ダンが飛躍できるって言うなら、私たちはきっと飛躍できるんだ。


 ダンが活躍できるって言うなら、私たちはもっと活躍できるんだ。



 ……でも、そうだなぁ。うん、私の目標はこうしよう。


 いつかダンが私達を見て、お前たちの活躍は俺の想像以上だった、って言ってもらうんだっ。



 ダンの想像なんか、いつか必ず超えてみせるんだからねっ。


 私たちの世界がどこまでも広がってるって言ったのは、ダンなんだからっ!

※どうでもいい設定


 孤児パーティの名前は私が覚えやすいように、数字をもじって名付けられています。


 ワン。テン。ハンドレッド。サウザンド。ミリオン。ビリオンが元ネタです。

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