207 竜王のカタコンベ
※R18シーンに該当する表現をカットしております。
目の前には石造りの暗い空間が広がっている。
照明も無く、対策無しじゃほとんど視界の利かない空間にはすえた臭いが漂っていて、否応なく不気味な気配を漂わせている。
「闇に浸りて魔を滲み、昏きを照らして霞を晴らせ。トーチ」
探索魔法のトーチを発動する。するとまるでTVの明度調整でもしたみたいに、視界がはっきりと確保できるようになった。
「異界の領域。歪みの隧道。怪奇の楼閣。透き見て手繰りて知悉せよ。サーチ」
続いて同じく探索魔法のサーチを発動。頭の中にアウター内のMAP情報が流入してくる。
なんだろうねこれ? 周囲の魔力を取り込んでアウターの構造情報を読み取ってるのかな?
なんにしても、これで迷わず先に進めそうだ。
「探索魔法というのは便利なのじゃー。今まではクリアリングという腕輪型のマジックアイテムで視界を確保しておったのじゃがのぅ」
「ほ、本当になんでもお出来になるんですね……? でもこれなら確かに、3人でのルイン探索も全く問題なさそうですっ」
フラッタとラトリアさんがやる気なのはいいんだけどさぁ。
デートコースに竜王のカタコンベを指定された俺の気持ちも、少しは考えてほしいなぁ?
今日はフラッタとのデートの予定なので、当然マグエルの宿は取ってある。
だけどラトリアさんとのデートの予定を入れていないと知ったフラッタは、ラトリアさんとも一緒に3人で出かけることを希望してきた。
その流れでラトリアさんの希望を聞いたら、生活費が心許無いという切実過ぎる悩みを打ち明けられて、それならばとフラッタが竜王のカタコンベで探索デートを提案してきたのである。
探索デートって、なんなのさぁぁぁぁぁぁっ!?
俺達とラトリアさんはパーティを組んでいないけれど、ラトリアさんとゴルディアさんが中心だったパーティ『双竜の顎』にトライラムフォロワーに一時加入してもらい、経験値と魔法効果を共有している。
なんだかんだでアライアンスが便利すぎて困るわぁ。
そんな感じで始まった、初のルイン探索。
フラッタに以前言われた通り、竜王のカタコンベに出現するのは不死系の魔物ばっかりで、零体やらスケルトンやらゾンビやらがわんさか出てくる。
オカルト系の魔物ばかりで視覚的な恐怖心を煽られるけど、対不死特効のある聖騎士の俺、聖騎士のフラッタ、聖騎士を浸透済みのラトリアさんという酷すぎるパーティ構成なので、アンデッド系の魔物なのに少し可哀想に思えてしまう。
「不意の凶刃。不覚の死槍。弑逆阻みし神来の警鐘。冷厳なる終焉の刃を逸らして逃せ。スキャン」
トラップの有無を確認できる探索魔法のスキャンも発動しておく。
どうやら一定範囲内にトラップが存在するとアラームを発して、更には任意でトラップの解除までしてくれるみたいだね。
これで探索にはなんの憂いも無いし、帰りはアナザーポータルで一瞬だから、ガンガン進みましょうかねぇ。
竜王のカタコンベでアンデッドばかり倒していると、ちょいちょい銅貨がドロップする。マジで貨幣ってか硬貨もドロップアイテムだったのかぁ。
「硬貨は不死系魔物固有のレアドロップになりますね。その代わり不死系の魔物は魔玉をドロップしないんですよ」
ラトリアさんが簡単に説明してくれた。
魔玉を持たなくていい分、職業浸透では不死系の方が有利かな? でもレアドロップで銅貨……、1リーフとか、魔玉の方がお金は稼げそうだ。
「ふははははーっ! ダンがいると探索が快適すぎて笑いが止まらぬのじゃーっ! ダン! 母上! どんどん先に進むのじゃーっ!」
……フラッタが楽しそうで何よりです。
フラッタに楽しんでもらうという意味では、ルインデートって成功なのかなぁ……?
竜王のカタコンベはロールプレイングゲームのダンジョンを彷彿とさせる作りをしていて、下り階段を見つける事で先に進むタイプのルインのようだ。
通路や小部屋など、人工物を思わせる場所だけれど、ここは間違いなくアウターなのだ。探索魔法が適用されてるから疑いようもない。
小部屋なんかはちょいちょいあるけれど、今のところ扉は1度も見かけていない。竜王のカタコンベには扉はなく、探索は楽だけど隠れたりするのは難しそうな場所だね。
さて、奥に行くほど職業浸透にも金策にも有利なのは間違いないだろうから、探索魔法と魔物察知を駆使してどんどん進んでいくよー?
「た、探索魔法があると、竜王のカタコンベってこんなにスムーズに進めるんですねぇ……」
「ふははははーっ! 既に妾も来たことのない場所なのじゃーっ!」
探索魔法はもっと広くに知らしめられるべきだと思うけどねぇ。
特権階級の皆さん。甘い汁ばかり吸ってると、かえって自分の首絞まっちゃうと思うよ?
スペルド王国には基本的に魔法使いギルドまでしかない。つまりそれだけ魔法使いの職業ツリーを進める人が少ないんだろう。
だけどトライラムフォロワーのみんなは全員が修道士になれるからなぁ? あまり無理はさせたくないけど、ヒールライトで全員が魔力枯渇を起こせる可能性があるんだ。
いつまでもふんぞり返ったまま甘い汁吸えると思うなよぉ?
俺がラトリアさんの母乳を啜ったりリーチェの蜜を吸うためにどれだけ苦労してるのか、絶対に思い知らせてやるからなぁ!
大体3時間ほど進軍すると、金貨がドロップするようになってきた。金貨が直接ドロップするなら、魔玉よりも金策が捗るようになるのかなぁ?
時間はアイテム職人で製作した懐中時計型マジックアイテム、タイムウォッチで確認できるようになった。
分針と秒針は無く、時針しかないシンプルな表示で、この世界はちゃんと24時間あるらしい。日付まで分かれば完璧なんだけどなぁ。
「えええ? なんでこんなに金貨が出るの……? 普通こんなに出ないはずなんですよ、金貨って……。ボ、ボロボロ出てくるぅ……」
俺とフラッタの幸運補正ヤバいからね。フラッタは紳商、俺は艶福家でレアドロップ上昇も浸透してるしさ。
ドロップした硬貨はフラッタのインベントリで管理してもらって、全部ラトリアさんに献上する。
それから更に2時間ほど進んだ場所に、真っ黒な渦のようなものが立ち塞がる場所に到達した。
「嘘、でしょう……? は、初めて入ってたった1日で、最深部に到達なんて、ありえるの……?」
なるほど。ここが最深部の入り口なのね。
探索魔法便利すぎでしょ。魔法使いの数を絞って探索魔法士の数を減らすなんて、ひと言で言ってアホ過ぎだわ。
しかしリーチェの話では、エルフの里には各種魔法士の転職魔法陣があるとのこと。魔法職に強いエルフ族らしいね。
流石に魔導師になるにはフォアーク神殿に行かなければならないらしいけど。
トーチ、サーチ、スキャンをかけ直して、いざ行かん、最深部へ。
特になんの感慨も無く、3人で渦の中に足を踏み入れた。
スポットと同じく、見た目は渦の中も外側もあまり変わらない。
さてここからは魔物察知さんの出番ですよぉ! いっぱい虐殺して差し上げますからねぇ?
俺って悪魔祓いと聖騎士の2重不死特効持ちなので、不死系しか出ない竜王のカタコンベはボーナスステージに近い。
装備も全身ミスリルなので、ちょっと魔物さんに申し訳なくなるくらいだよ。
1時間ほど虐殺を繰り返し、俺の職業は聖騎士LV41 悪魔祓いLV41 英雄LV96に。
フラッタの職業は聖騎士LV32。そしてラトリアさんも無事好色家がLV30に到達してくれた。
うん。実は今回のシークレットミッションはこれだったんだよ。
ゴルディアさんへの愛を失ったわけではないようだけれど、自分から俺に体を差し出す程度には俺に求愛しているラトリアさんは、初日にしっかり好色家を獲得していた。
竜人族は短命だというし、不浄の穴まで舐める、ある意味ティムルよりエロ経験豊富なラトリアさんは、少し病気が心配なんだよね。
勿論、精力増進を浸透させるのも重要ですし?
鑑定と職業設定は嫁にしか教えないので、生涯ゴルディアさんの奥さんであるラトリアさんには教える気は無い。少なくとも現時点では。
なので意識が朦朧とするほど愛してあげた隙に好色家に設定してあげて、後でまた意識を朦朧とさせて竜騎士に戻すことにした。
今のラトリアさんは竜騎士から好色家に変更された影響でかなり調子が悪いはずだけど、多分俺のせいだと思ってるだろうね。
職業設定的な意味でもエロ的な意味でも俺のせいで間違いないので、正解だと言っておこう。
キリよく最後に王金貨が1枚ドロップしてくれたので、ルインデートは終了にしよう。
アナザーポータルを使って竜王のカタコンベを脱出する。
ドロップアイテムを売却して得たお金もフラッタに献上し、これで当分の間の生活費なり領主としての政務活動費に余裕が出来たことだろう。
全部で300万リーフ近い金額になったわけだしね。
代わりに発光した魔玉は全て我が家の収入とさせていただいた。
換金が済んだら3人でマグエルに飛び、同じ宿での3日目の夜だ。毎回別の女性を連れ込む俺って、宿の人にどう思われてんだろうね?
急遽ラトリアさんが増えたので、夕食代に3000リーフほど追加料金がかかる。だけど手続き自体はスムーズで、宿の対応も慣れたものだった。
飛び入りで人数が変わるとか、この宿では頻繁にあるのかもしれないなぁ……。
2人を両隣に侍らせて悪戯しながら夕食を楽しみたかったけれど、フラッタがラトリアさんの隣に座りたがったので我慢する。
今日はフラッタとのデートなんだから、終始フラッタの好きにさせてやろう。
なんかもう、まったくデートした気がしないのは何故?
夕食を取りながらシルヴァの話をしたり、ティムルの動きなどを簡単に説明していく。
「つまりティムルの師匠がマルドック商会の方を調査してくれるんだよ。だから俺達自身はシルヴァの方を追うべきだと思うんだ」
リーチェの調査能力でも見つからなかったらしいから、こっちも一筋縄ではいかないだろうけどね。同じことを別々のルートで辿るよりはマジだろう。
「名前はシルヴァ。竜人族。年齢は……、21かな? そしてパーティは壊滅と。これ以上に何か俺に言える事があれば教えて欲しいんだよね」
「……職業は竜騎士のはずです。変更していなければ、ですが。見た目は私似なので見ればすぐに分かるかと。ギルドには所属しておらず、所属パーティ名は『紅竜の結束』ですね」
紅竜の結束ね。
シルヴァ本人も腕利きだったらしいし、フラッタレベルの美貌だ。ある程度探れるんじゃないかなぁ。
でも安易に探ると、虎の尾を踏みかねないか……。
「兄上は成人後、当主になる為に世界各地のアウターで腕を磨いていたのじゃ。アウターで活動していた以上、各地の冒険者ギルドに目撃されていると思うのじゃ」
……なんで当主教育の一環にアウターを巡らされるのかは今は置いておこう。
フラッタの言う通り、冒険者ギルドで聞き込みをすれば、竜人族だけで構成された超イケメンリーダーが率いるパーティの情報なんて、絶対に隠蔽しきれないはずだ。
うん。結局はアウターを巡る事になるんだよなぁ。
解呪の手がかりを探す為にも、見つかっていない職業を探す為にも、シルヴァの足取りを追うためにも、各地のアウターを回らないと話にならないんだよ。
今日のデートで探索魔法の運用を確かめられたことも大きい。
俺達が世界中を回る準備は、もう出来ていると思っていいはずだ。
夕食後はラトリアさんの好色家の浸透具合もしっかり確かめまくっておいた。
勿論娘のフラッタとも、デートに相応しいくらいに愛し合ってしまったけどね。