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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家
187/637

187 散漫

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

「みんなのおかげで気合は充分だよ。間違いなくベストコンディションだ」



 朝まで付き合ってくれたフラッタとムーリを労うつもりでよしよしなでなでして、気持ちを180度切り替える。今日はとうとう12月の礼拝日。ヴァルハールに赴く日なのだ。


 好色家の浸透だったりみんなとイチャイチャしていたら、あっという間に礼拝日になってしまった。


 やり残したことも思いつかないので、あとは全力でルーナ竜爵家の問題を解決してくるとしようじゃないか。



「ニーナ、ティムル、ムーリ。留守を頼むよ。フラッタ。リーチェ。朝食が終わったら出陣と行こうか」


「「「はいっ」」」



 朝食後に全員と軽くキスを交して、俺、フラッタ、リーチェの3人で年末のヴァルハールにポータルで移動した。




 以前嫌な想いをした冒険者ギルドには出たくなかったので、ヴァルハールの入り口に転移する。



 相変わらず無骨な街だねぇ。

 

 それにマグエルと比べると、どことなくどんよりとした空気に思えてしまう。偏見かなぁ?



「いや、年末はどこもこんなものだよ? 納税日が迫ってるわけだから。今のマグエルが年末にしては明るすぎるんだよ」



 リーチェが言うには、俺の偏見じゃなくて本当に雰囲気が違うらしい。


 今のマグエルって明るい雰囲気なのね。何かあったのかなぁ? ま、今はいいか。



「それでは2人とも。さっそく妾の屋敷に案内させてもらうのじゃ」



 リーチェと街の雰囲気について話していると、真剣な表情をしたフラッタが俺とフラッタに案内を申し出てくる。


 逸る気持ちが無いワケじゃないだろうに、思ったよりずっと落ち着いているね。



「……そうだな。ここで突っ立ってても仕方ない。行こうかフラッタ」

 

「ダン。リーチェ。2人ともよろしく頼むのじゃ」



 ぺこりと頭を下げるフラッタに頷きを返して、早速ルーナ竜爵家邸に向かった。



 フラッタの案内でヴァルハールの街中を歩いているけど、今回はフラッタが先頭を歩いているおかげか絡んでくるアホもいなくて助かる。


 だけど、街の中心にあるというルーナ竜爵邸まで微妙に遠いなぁ。


 うーん。前回ヴァルハールに来た時、俺も屋敷に同行してれば今回もポータルで直通だったのにね。前回のヴァルハール訪問は反省点が多すぎるよぉ。






 街中で襲われる事は警戒していなかったけど、それでも緊張感のせいか誰も口を開かず歩き続けると、やがて遠目にも大きな屋敷が見えてきた。


 距離的にも大きさ的にもあれがフラッタの家だろうね。



 流石は有力貴族の屋敷だけあって、この世界では比較的大きい建物である冒険者ギルドよりも更に大きい。我が家なんかの何倍も広そうなお屋敷だ。


 屋敷が見えてからも更に数分間歩き続け、ようやく屋敷の門の前まで辿り着いた。



「着いたのじゃ。ここが妾の実家、ルーナ竜爵家邸なのじゃ」



 振り替えらずに俺達に背を向けたままで到着を告げるフラッタ。


 しかし、実家ね。自宅はうちってことか。素晴らしい。素晴らしい考え方だぞフラッタ!



 それにしても……。異変のことなんか知らなくても、一見しただけで異常な光景だな。貴族屋敷だってのに、門番の1人も立ってないとか。


 遠目に見える屋敷からもなんというか……、人の気配が感じられないなぁ。



「ねぇフラッタ。お前の家って門番の1人も立ってないものなの? 一応お前んちって領主邸だった気がするんだけど」


「いや、常に門番は居たはずじゃ。じゃが……、妾とリーチェがダンにおっぱいを弄ばれた後には、もう誰も立っていなかった……?」



 いや、俺の自業自得なのかもしれないけどさぁ。陽炎の時と言い今と言い、真面目な話におっぱいを混ぜ込んでくるのやめようよ?


 でもおっぱいのおかげで時系列が分かりやすくて文句も言えないよぉ。



「ぼくたちのおっぱいが弄ばれたのって時って、9月の礼拝日頃だったっけ? その頃には既に何らかの攻撃が行われていた?」


「マルドック商会の壊滅が確か7月頃だったからな。それを考えれば不自然ではないか」


「……そう言えば9月のあの時って、フラッタの滞在が、予定より1日伸びたんだ、よね……?」



 リーチェの発言に、ゾクリとした感覚に襲われてしまう。

 

 忘れるはずもない。2人のおっぱいの感触も忘れていないけど、俺はあの時に2人にプロポーズしたんだから。


 そのせいで帰宅する予定のフラッタが大破してしまって、このままでは帰せないって……。

 

 そのおかげで、フラッタだけが無事だったとでも言うのか……!?



 ……またか。また俺達にとって都合良すぎる流れだ。


 流石にもう都合の良すぎる展開に落ち込んだり悩んだりするつもりは無いけど、フラッタの場合は特にこの流れが多くないかなぁ……?


 ご都合主義でもなんでもいいんだけど、神様は俺にいったい何をさせたいんだ?


 

 ……案外、人手の足りない礼拝日を手伝った俺とフラッタを、単純に結び付けてくれただけだったりしてな。



 こんなの結果論でしかないけれど、フラッタを我が家に迎えた事で年内のうちにスポットの最深部で荒稼ぎが可能になって、トライラム教会の孤児たちの奴隷落ちが今年から無くなるんだよなぁ。


 もしかしたら神様は俺とフラッタじゃなくて、教会の子供達やシスターを助けたかったもしれないね。



「もしあのタイミングで竜爵邸に何か起こっていたのだとしたら、難を逃れたフラッタのことは運が良かったと思っておこうか。礼拝日を手伝ってくれたフラッタのことを、神様が助けてくれたのかもしれないね」


「ふふんっ。案外ロマンチストじゃのう? じゃがそれなら教会の手伝いをした甲斐があったというものじゃなっ」



 人の事をロマンチストだなんて揶揄しながらも、俺の意見にまんざらでもなさそうな様子のフラッタ。


 俺に何をさせたいのかなんて分からないけど、少なくとも神様は敵じゃないはずだ。5人の最高の家族と出会わせてくれたんだから、きっと悲劇が嫌いな方なんだろうな。



「ふむ。とにかく門番が居ないのは好都合じゃ。2人のことを説明する手間が省けるからの」



 いや、そこは普通にお前が説明すれば入れてもらえるだろ。お前んちなんだからさ。



 俺がツッコミを我慢している間に、フラッタが目の前の大きな門にステータスプレートを差し込む。すると大きな門がゆっくりとだけど、自動で両開きに開いていく。


 解錠だけじゃなくて自動で開門までしてくれるとは、流石に貴族邸だけあって我が家のセキュリティよりも高品質なシステムっぽいな。



「では行くのじゃ。まずは母上と父上に会ってもらいたいのじゃ」



 俺の返事を待たずにズンズンと進んでいくフラッタ。


 フラッタのご両親かぁ。敵じゃないと良いんだけどなぁ。特に父親なんて、フラッタを貰っちゃった俺のことなんか平時でも敵対してきそうだよぉ。会いたくないわぁ……。

 


「――――っ!?」



 しかし、そんな暢気な事を考えながらフラッタに続いて屋敷の敷地に足を踏み入れた瞬間、一瞬意識が遠退いた気がした。


 この感覚、最近体験したばかりだ。あれは確か、テラーデーモンの咆哮を受けた時に……。



 思い至った瞬間、前を歩くフラッタの手を掴んで、強引に敷地の外まで引きずり出す。


 この感覚、精神異常耐性が発動した感覚に間違いない!



「ど、どうしたのじゃダン……!? 突然妾を引っ張ったりして?」



 しかし俺より先に屋敷の敷地内に足を踏み入れていたフラッタは、俺の行動の意味が全く理解出来ていない様子だ。



 ……これはどういうことだろう? フラッタもテラーデーモン戦で精神異常耐性が発動したはずだ。なのになぜフラッタは今の感覚に気付けていないんだ? 


 なんで大効果耐性持ちのフラッタでさえ、竜爵家邸の異変を、違和感があるという程度にしか認識できていないんだ……?



「ダン、何があったの? 説明して」


「あ、ああ……。悪いリーチェ」



 まだ屋敷の敷地内に足を踏み入れていなかったリーチェが、俺の様子に警戒心を顕わにする。



「屋敷の敷地に足を踏み入れた瞬間、精神異常耐性が発動した感覚があったんだ」


「耐性スキルが発動……。ということは」


「……ああ。竜爵家全体が精神異常攻撃に晒されているのは間違いなさそうだね」



 ニーナとティムルを恐慌状態にしやがったのは許せないが、テラーデーモン戦で耐性スキルの発動を経験しておいて良かった。



「んー? そんな感覚あったかのー? ダンの言ってること、よく分からないのじゃー」



 しかし俺の言葉を聞いて表情を険しくするリーチェとは裏腹に、フラッタはきょとんとした表情で首を傾げている。



 なん、だ? なんだかフラッタ、反応が緩くない? さっきまでの真剣さはいったい何処に……。



「ダンっ! すぐにフラッタを鑑定してっ!」



 リーチェの声で思い至る。


 そうかっ! 状態異常なら、俺の鑑定で判別できるのかっ!




 フラッタ・ム・ソクトルーナ

 女 13歳 竜人族 竜化解放 聖騎士LV27

 装備 聖銀のバスタードソード ミスリルサークレット 聖銀のプレートメイル

    ミスリルガントレット 飛竜の靴 竜珠の護り

 状態異常 散漫




 あった、4行目! 状態異常、散漫……?


 散漫の効果は分からないけど、鑑定によれば今のフラッタは間違いなく状態異常にかかっているようだ。



 でも、フラッタは精神異常耐性大効果持ちのはずだ。仮に大効果耐性でも防げない状態異常だったとするなら、逆に俺はなんで無事だったんだ……?


 自分を鑑定して散漫にかかっていない事を確認してから、リーチェに鑑定結果を共有する。



「リーチェ。フラッタは散漫っていう状態異常にかかってるみたいだ。知ってる?」


「散漫……? そんな状態異常、聞いたことがないな……。けどフラッタが言っていた竜爵家の違和感、なんとなく理解できたね……?」



 言葉通りの効果だとするなら、まさに認識阻害系の攻撃ってことかよっ!? 注意力や集中力、警戒心とかも抱けなくなるってことか……!?



 意識の焦点を合わせられなくなる状態異常……。調査にしろバトルにしろ、こんなの放置して中には入れないぞ。どうする……?



「安心して。恐らくこの状態異常も時間経過で回復するはずだから」



 リーチェの発言の根拠は、うちに避難してきたフラッタがこのバッドステータスにかかってなかったことか。


 それに前回ヴァルハールに来た時に冒険者ギルドで仕事を捌いていた様子から考えると、恐らくすぐに治ってくれる状態異常のはずだ。



「フラッタが回復するまで少し待とう。この状態で中には入れないよね」


「というか、なんでフラッタだけバッドステータスに陥ったんだ? 精神異常耐性も間違いなく大効果をつけてるんだぞ?」



 フラッタも俺も、どちらも同じ精神異常耐性大効果スキルを持っている。


 俺だけスキルを多重に付与してあるとかなら分かるけど、俺とフラッタの耐性スキルは完全に同じはずなのに。



「……ここがフラッタの自宅だから、とか?」


「自宅だから? どういう意味だリーチェ」


「僕やダンは竜爵邸に異変が起こっている前提で来てるから、普段よりも警戒して足を踏み入れたはずだよ。逆にフラッタは自宅に戻ってきたんだから、本人が自覚せずに警戒心が薄れていたのかも……」



 精神異常だから、本人の精神状態にも左右されるってことか?


 なんにしても大効果の耐性を貫通してくるなら、俺やリーチェだって散漫状態になる可能性がある。このまま中に入るのは危険すぎるよな……?



「リーチェ。散漫を放置して中には入れないぞ。何か手は無いかな?」


「ん……。サンクチュアリで弾けるなら入れそうだけど……」


「サンクチュアリ。支援魔法士で覚えた、一定時間魔物を寄せ付けない野営用の魔法だっけ」


「サンクチュアリは魔物が好む魔力を弾く効果があるから。あと防げそうなのは……ダンの魔法障壁かな?」



 魔物が好む魔力っていうのは、早い話がアウター内に漂っているような濃い目の魔力のことらしい。


 そして魔法障壁で防げるとする根拠は、散漫が魔力によって引き起こされている状態異常の可能性が高いからか。



「フラッタが元気だったせいもあるけどさ。ちょっと甘く見てたよ、この家の異変……」


「……同感だよ。まさか大効果耐性で防げないとは思わなかったな」



 フラッタの両親が敵対する可能性を考えていたから、厳しい戦いになる事は予想していた。けれどまさか、屋敷に入る前から足止めされるとは夢にも思ってなかったよ。



 さてと。それじゃフラッタの状態異常が回復する前に、まずはサンクチュアリを試してみるか。



「加護の天蓋。守護の灯火。神聖の領域。祝福の抱擁。破邪の恩寵、魔を討ち祓え。サンクチュアリ」



 詠唱を終えると、俺を中心とした円形範囲に薄く光る膜のようなものが出現する。イメージ的には結界って感じだ。


 効果範囲は半径10mくらいか。これなら戦闘もギリギリ可能かな?



 あ、でもこれ設置型っぽいな。俺に追従してくれないようだ。


 もう1度詠唱すると、始めに発動したサンクチュアリの効果はそのままで、また新たな結界を設置できた。



 ふむ。もし戦闘になったら、始めにサンクチュアリをばら撒く必要がありそうだな。……って、まだ散漫の防御に効果があると決まったわけでもないか。



「サンクチュアリって、1度発動するとどのくらいの時間維持してられるのかな?」


「サンクチュアリは野営の時に使うことが多い魔法だからね、少なくともひと晩は維持されるよ」


「ひと晩。それなら1度発動したら持続時間を心配する必要は無さそうだね」


「この魔法に魔法防御の効果は無いはずだけど、散漫って状態異常は効果が弱い分防ぎにくいって感じだからね。だからもしかしたら大気中の魔力を弾くこの魔法でも防げるんじゃないかなって思ったんだ」


「なるほどね……」



 流石エルフ。魔法に関しては造詣が深くて、発想が柔軟だ。



 2度目に発動したサンクチュアリは屋敷の敷地内まで効果が届いているので、リーチェに断ってから早速門を潜ってみる。


 ……うん。なんともない。少なくとも散漫状態には陥っていないし、精神異常耐性が発動した感覚も無い。



「リーチェ。精神異常耐性は発動しなかった。これって効果があったと思っていいかな?」


「うん、耐性が発動してないなら安全だと判断していいと思う。耐性スキルは適時自動で発動するスキルだから」



 耐性スキルはオート発動のパッシブスキルって奴だね。


 任意発動スキルじゃないから、耐性が発動しなかったら状態異常攻撃が効果を発揮していないと判断していいわけだ。



「良かった。サンクチュアリで対処できて。ダンの魔法障壁で常に3人を護り続けるのは、正直現実的じゃなかったから」


「だね。あれってインパクトノヴァすら受けられるほど強力な障壁だから、魔力消費もかなり大きそうだしさ」



 それに、リーチェやフラッタをあれで守れるかどうかは未知数なんだよな。範囲攻撃魔法って障壁で防げるもんなんだろうか?



 ともあれ、これで潜入の目処は立った。


 まさか入り口でこんなに足止めされるとは思わなかったけど、竜爵家に異常が起こっているのは確定だ。フラッタが回復次第突入だな。



「散漫なんて初めて聞いたけど、凄まじい状態異常だね」


「確かに面倒だけど……、凄まじいって言うほどか?」


「殺傷力は殆ど無いけど、その分防ぎにくいし発覚しにくい。それでいて調査や戦闘への妨害効果は非常に高い。悪意の塊のような状態異常に思えるよ」



 悪意。

 

 ルーナ竜爵家を襲った一連の流れの大元は人の悪意なんだよなぁ。フラッタのお兄さんの行方を追うにしろ、この国の闇を暴くにしろ、人の悪意から目を逸らしてはいられないらしい。



 屋敷の敷地にサンクチュアリを設置しながら、フラッタの回復を待つ。


 この屋敷の中にどれだけの悪意が潜んでいるのかは分からないけど、可愛いフラッタのことだけはこの世のあらゆる悪意から護り通してやらなきゃいけないな。

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