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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家
177/637

177 覚悟

※R18シーンに該当する表現を若干カットしております。

 竜化したフラッタのあまりの美しさに、目と意識を奪われそうになるのを必死に堪える。



 外見的な変化は全体的に青が混じることと、瞳の色が紫に変化することか。


 いやそれだけじゃないな。よく見るとフラッタの額、髪の生え際の辺りから、2本の青い角が生えているのが分かった。



 ……って、こんなにじっくり観察しているのにフラッタがかかってこない? 竜化したら半暴走状態になるんだと思ってたから、かかってこなくて逆にびっくりするんだけど。



「ううう……! ううううううっ……!」



 美しい外見とは対照的に、俺をその美しい紫の瞳で睨みつけながら、ヨダレを垂らして歯を食いしばって低く唸っているフラッタ。


 バスタードソードを持つ手は硬く握られ、その右腕は細かく震えている。その様子は、まるで必死に何かに堪えているかのよう……。



 ……ってそうか。そういうことかよフラッタぁ。


 お前、竜化してまで可愛すぎるだろ。これだからフラッタは。



「フラッタ。遠慮せずに全力でおいで。俺はお前になんて絶対に殺されてやらないから」



 本気で俺を殺そうとして竜化したくせに、竜化したせいで俺を殺すのが怖くて動けなくなるとか、可愛すぎるだろこの無双将軍は。


 俺の言葉を聞いたフラッタは唸るのをやめ、俺の顔をじーっと見詰めてくる。その瞳が俺の覚悟を問いかけてくるかのようだ。



「心配要らないよ。フラッタが大好きな俺が、お前の想いを全部受け止めてあげるからね」



 俺の様子を窺うフラッタに、力強く笑顔で頷いてやる。


 するとフラッタは本当に心の底からの喜びを表すような満面の笑みで、俺にバスタードソードを振り下ろしてきた。



 突然の斬撃だけど、意表を突かれるような間抜けは晒さない。俺の神経の全てがフラッタに注がれているのに、この程度で驚いてはやれないね。



 竜化フラッタの袈裟切りを少し横にずれて躱す。


 返す刀ですぐに横薙ぎを放ってくるのを、しゃがみこんで躱してあげる。



 フラッタの洗練された技術に竜化で強化された身体能力が乗り、強化された闘争本能と俺への想いがないまぜになって、必殺の剣閃が惜しみなく繰り出される。



 だけど躱す。


 フラッタに殺されてやるわけにはいかないので、1つだって当たってやれない。暴風のようなフラッタの剛剣を、最小限の動きで避け続ける。



 大丈夫。しっかり見えるし、ちゃんと反応できる。


 あの無双将軍フラッタの、本気の更に1段上の殺す気全開の動きだって、今の俺は対応できる。



 戦闘補正が適用されない対人戦での打ち合いで、バスタードソードをロングソードで受け止めるような無謀なことをするわけにはいかない。盾で受けるなんて以ての外だ。


 だから防御することすら出来ないフラッタの想いを、飄々と躱し続けながら考える。


 竜化は魔力消費の激しい能力だ。このまま躱し続けていれば、ものの数分でフラッタは魔力枯渇を引き起こし、俺は勝利を収めることが出来るだろう。



 ……でも、そんな勝ち方をするわけにはいかないよな。大好きな俺を殺そうとまでするフラッタの覚悟に、そんなくだらない勝利で報いてやるわけにはいかない。


 万全の状態の竜化フラッタを正面から打ち負かしてこそ、大好きなフラッタの想いに報いれるってもんだよなぁ!


 全力全開、竜化した無双将軍フラッタを、真正面から正々堂々超えてみせるっ!



 意識を更にフラッタに集め、フラッタの事だけに集中する。


 竜化したフラッタの動きすら、今の俺には遅く感じられる。美しく磨き上げられたフラッタの剣術にさえ、粗を見つけることが出来てしまう。


 俺の五感補正がフラッタの動きを見切り、身体操作性補正がフラッタの剣を躱し、敏捷性補正がフラッタの動きについていく。


 まったく、我ながら呆れてしまうな。前回のスポット遠征で、俺ってどれだけ強くなってんだよ?


 自身の実力に不足は感じられない。さぁここから反撃だ!



 振り下ろされるバスタードソードを、それに合わせて切り落とし、フラッタの首筋に剣を当てる。


 ……が、勿論竜化したフラッタに降参なんて概念は無いらしく、地面にぶつかったバスタードソードをすぐに持ち上げ切り上げの1撃を放ってくる。


 その1撃を掻い潜って、フラッタのプレートメイルを剣の腹で叩いてやる。



 フラッタの振るう剣全てに対応し、俺の剣を返していく。


 するとフラッタはどんどん笑顔になっていき、最早遠慮は要らないとばかりに攻撃の激しさを増していく。



 フラッタが何の遠慮もなく剣を振るってくれることが、俺への信頼の大きさだ。この殺意100%の剣こそが、フラッタが俺に甘えている証拠なんだ。


 フラッタが俺にぶつけてくる猛り狂った想い全てに1つ1つ丁寧に剣を返して、大丈夫だよフラッタって想いを伝えてやる。


 お前が好きになった男は、お前の殺意すら篭った想いも、全部受け止めて制して超えてやるからなぁ!




 だけど、フラッタの想いを受け止めていると、直ぐにフラッタの額に汗が滲み始める。


 今の俺達が数分でスタミナ切れなんて起こすはずはない。これは間違いなく魔力枯渇の兆候だろう。



 こんなに俺に甘えてくれるフラッタとの決着が、魔力枯渇で良い訳がない。


 ……だけどこんなに可愛いフラッタの意識を奪うほどの攻撃なんて、俺には出来そうもないね。


 甘い考えは捨てろって言われたけど、ごめんねフラッタ。大好きなフラッタを斬るなんて、やっぱり俺には無理だよ。



 上段からの振り下ろしを躱しながらも動きを合わせて、フラッタの左腕を目掛けてロングソードの柄尻をぶつけてカウンターの打撃を浴びせる。



「ぐっ、あぁっ……!?」



 防御補正のかからない対人戦で、プレートメイルを着込んでいるフラッタには、斬撃よりも打撃が有効だろう。



 俺の1撃を受けた左腕は無事に武器を握れなくなったようだけど、竜化フラッタはその程度じゃ止まってくれない。


 右手1本でも疾風迅雷の如き横薙ぎを繰り出してくる。



 そしてその右腕にも思い切り柄尻を叩きつけ、バスタードソードから両手を離させる事に成功する。



「生命の黒。再生の銀。活力の赤。刻みし針を戻して治せ。流れし時を早めて癒せ。我願うは命の灯火。神意を纏いて轟く福音。キュアライト」



 最高速度で治療魔法を詠唱し、フラッタの両手の傷を癒す。


 そしてまたフラッタが動き出す前に、フラッタを抱きしめて拘束し、その唇にキスをする。



 俺とフラッタの……、我が家の決着はやっぱりこれでなくっちゃね。



 俺にキスされたフラッタは、すぐに抱きついてきて嬉しそうに俺に動きを合わせてくる。


 優しいフラッタは大好きな俺と殺し合いなんてしたくなかったんだよな。辛い想いをさせてごめんね。頑張ったねフラッタ。



 しかしフラッタをよしよしなでなでしながらも、竜化した身体能力で抱きついてくるフラッタを身体操作を駆使して引き剥がす。


 俺を恋しそうに見詰める紫の視線を真っ向から浴びながら、でもこのままキスを許すわけにはいかないから、優しく穏やかな口調でフラッタに宣言しなきゃいけない。



「……フラッタ。今すぐ竜化を解かないと、もうキスしてあげないよ?」



 魔力枯渇を起こしても俺を求めてくれるフラッタの気持ちは嬉しいけどさ。俺だって同じなんだよ。大好きなフラッタとのキスを諦めてでも、フラッタに魔力枯渇を起こしてなんて欲しくないんだ。



 フラッタの顔は絶望に染まり、美しい紫の瞳に大粒の涙を溜めながら、俺に必死にすがり付こうとしてくるけれど、お前が竜化を解かない限り絶対にキスをしてやらない。


 竜化したフラッタに抱きしめられて全身の骨が砕ける音を聞きながらも笑顔を絶やさず、でも絶対に唇を合わせてやらない。



「フラッタ。今すぐ竜化を解かないと、もう2度とお前とはキスしてあげないからね?」



 まぁそれ以前に俺が死んじゃいそうですけどね? 今すぐ竜化を解いてくれないと、俺の死を持って俺の言葉が実現してしまいそうですけどね?


 だけど脂汗を滲ませて苦しむフラッタをそのままになんて、しておけないんだよねぇ。



 再度俺から拒絶の言葉を聞いたフラッタは、魔力枯渇を起こすよりも真っ青な表情になった。俺も多分死ぬ直前みたいな真っ青な顔してると思う。


 死の恐怖と痛みに抗いながら見詰める俺の視線の先で、フラッタは大粒の涙を流しながら少しずつ瞳の色を赤く戻してくれた。



 さっきフラッタに唱えたよりも更に高速でキュアライトを連続詠唱してから、竜化を解いたフラッタにキスをする。



 酷いこと言ってごめんね。だけど竜化するたびに魔力枯渇を起こさせるなんて、絶対に許すわけにはいかないんだよ。


 俺も酷いこと言ったけど、今ガチで殺されかけたんだからチャラにしてもいいよね?



 強く抱きついてくるフラッタの抱擁と、キュアライトで再生を始めた俺の骨が対抗しあって体中に激痛が走る。


 魔力枯渇も起こしてないのに、脂汗が滲んで顔面蒼白になる俺っていったい。



 全身の激痛に耐えながら、フラッタが満足するまであやすように優しくキスを続ける。


 よしよしなでなで。大丈夫だよフラッタ。大好きだからね。


 お前になら殺されたって構わないくらいに、可愛いフラッタの事が大好きなんだよ。



 フラッタの力が抜けて、ようやく口を離してくれた隙に、更にキュアライトを連射して俺の全身を全力で労ってやる。


 くっそ、キュアライトの詠唱長くてめんどくさいなぁっ!



 でも今はそんなことはどうでもいい。今は可愛いフラッタの大粒の涙を止めてあげないと……!



「もう泣かないでフラッタ。竜化を解いたご褒美はちゃんとあげたでしょ? それに今回はずっと、フラッタの好きな優しい俺だったつもりなんだけどな」



 優しく語り掛けても、フラッタの赤い両目から涙は止まってくれないみたいだ。


 フラッタも俺に何か言おうとしてるけど、しゃくりあげが止まらなくて言葉にならないみたいだな。



 全身の痛みが引いて落ち着いてきたら、ここが自宅の庭先だっていう現実を思い出してきた。


 水汲みの子供は来ないとはいえ、戦闘訓練を受ける子供達がいつ現れるか分かったものじゃないな。戦闘指導をつけてくれるフラッタ師匠の泣き顔は、子供達に見せるべきじゃない。


 なにより俺以外の男に、フラッタの涙を見せてやるつもりはないね。



「フラッタ。お家に入ろう? 手合わせは終わりでいいよね?」



 俺の問いかけにこくんと頷くフラッタをお姫様抱っこして、その額に何度もキスを落としながら家に戻る。



 食事の準備が整っている食堂の椅子に座って、食事よりもフラッタとのキスを再開する。


 酷いこと言ってごめんよ。謝るから泣き止んでよぅ……。



「竜化したフラッタにも驚いたけど、それをあっさりいなしちゃうダンにもびっくりしたよぅ。フラッタもちゃんと竜化を解けて偉かったねー」



 大好きなニーナお姉ちゃんからのよしよしなでなでで、フラッタのしゃくりあげが少し治まる。



「フラッタちゃんもダンもおつかれさま。朝ごはんはフラッタちゃんが落ち着いてから、みんなで一緒に食べましょうねー」



 大好きなティムルお姉さんのよしよしなでなでで、フラッタの涙がようやく止まる。



「まったく、竜化してバスタードソードを振るうフラッタもフラッタだけど、それを全部躱してみせたのにキスで死に掛けてどうするのさ。介入するか本気で迷ったんだからね?」



 それ、俺のせいじゃないっすよねぇ? 俺を責められても困るんですけどー?


 大好きなリーチェによしよしなでなでされて、フラッタの体の緊張が解れていく。



「私にはなにがなにやら分かりませんでしたけど、ダンさんとフラッタさんが心から想い合ってるのだけは分かりましたよ。ふふ、羨ましいくらいに好き合ってましたねぇ」



 大好きなムーリによしよしなでなでされて、ようやくフラッタの顔に笑顔が戻ってきた。



 まったく、こんなに辛い想いをしてまで俺を殺そうとしなくても良いだろうに。地味にフラッタの抱擁がトラウマになりそうで困っちゃうよ。


 笑顔が戻ってきたフラッタの口を解放して、柔らかいほっぺたに何度もチークキスを繰り返す。



「やっと笑ってくれたね。やっぱり笑ってるフラッタが1番可愛いよ。俺の可愛いフラッタはもう大丈夫かな?」


「うう、ごめんなのじゃ。もう平気なのじゃ……」


「謝らなくていいよ。頑張ったねフラッタ。お疲れ様」



 しょんぼりと謝罪の言葉を口にするフラッタを励ますように、何度もほっぺにキスをする。



「ダンが妾の竜化を止める為にああ言ってくれたのは分かっておったのじゃがのぅ……。竜化状態ではダンに2度とキスしてもらえないって、それしか考えられなくて……」



 俯くフラッタの顔中にチークキスとバードキスの雨を降らせて甘やかす。


 くすぐったそうに安堵の表情を浮かべるフラッタに、周りのみんなこそが安堵の表情を浮かべてるよ、まったくもう。



「大好きなフラッタにキスできないなんて、俺のほうこそ堪えられないよ。竜化を解いて偉かったよフラッタ。あと竜化したフラッタ、凄く綺麗だった」


「えへへ……。優しいダンに褒められるの、好きぃ……」



 にへら~っと緩く笑ったフラッタだったけど、突然思い直した様にもう1度しょんぼりしてしまう。どうしたのかな?



「でも……やっぱりごめんなさいなのじゃ……。えっちなダンに、妾とキスしないなんて言わせてしまったのじゃぁ……」



 ……しょんぼりするフラッタには悪いんだけど、流石にその謝罪は素直に受け取れないんだが?



 まったく、そんなことでしょげなくていいんだよフラッタ。


 俺はムーリに散々嘘つき呼ばわりされてるからね。口ではなんと言ったとしても、大好きなフラッタとキスをしないなんてありえないんだから。

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