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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家
172/637

172 ※閑話 シスターの幸福

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

 ムーリ視点。時系列は144~166の間の出来事となります。

「いってくるよ」



 そう言ってシスター室を出ていったダンさんの背中を見送ります。


 会いに来てくれたのは本当に嬉しいんですけどぉ……。手加減してくださいって言ってるじゃないですかぁっ!



 私の中にダンさんの愛が満ちているのを感じて、凄く嬉しくなってしまう。だけど同時に、1ヶ月間もダンさんに会えないことが、凄く辛い……。


 そんなことを思う自分に笑ってしまいます。


 

 ダンさんが来るまでは、俯いてしまいそうになる自分を必死に鼓舞して生きてきた。


 ダンさんが来てからは自然と前を向けるようになって、毎日を過ごすのが楽しくなった。



 ……だけどやっぱり将来は真っ暗なままで、みんな笑いながらも諦めていた。それなのに。


 これからはみんなと笑いながら未来を目指す、希望の日々が始まるんです。だからダンさんたちの留守中は私が頑張らないといけませんっ。



 それに、愛しい人に逢えないのは辛いけれど、愛しい人を想うのは本当に幸せです。私がこんな幸福な日々を送れることをダンさんたちと神に感謝して、今日も出来ることを頑張らないとっ……!



 でも、う~……。こんな状態で大工さんの応対をさせられる私の身にもなってくださいよぉ……!



 昨日孤児院の話をしたばかりなのに、大工さんたちはすぐに工事に取り掛かってくれました。


 まずはこの教会の入り口に、ダンさんたちのお屋敷にあるのと同じ井戸を2つほど掘ってもらいます。孤児院を建設する時にも、井戸が近いに越したことはありませんからね。



「すっげぇ! これで明日から水汲みがめちゃくちゃ楽になるなっ!」


「うん。その分空いた時間で少しでも魔物狩りをしようね。今の僕達に必要なのは戦闘経験だと思うから」



 子供達は新しく出来る井戸に興味深々ですね。


 そんな中ワンダとサウザーは、既に魔物狩り活動への影響を話し合っているみたい。



 大工さんたちは急な依頼だったにも拘らず、ニコニコと楽しそうに井戸を掘ってくれました。ダンさんが支払ったお金は、大工さんたちにも大きな臨時収入になったのでしょう。


 年末にお金が入用になるのは誰でも同じ。気前良く割り増しで支払ったダンさんに嫌われるわけにはいかないと、とても気合を入れています。

 

 あの時ダンさん、孤児院の建設は継続的に行なうことを匂わせていましたからねぇ。あれ、絶対これを見越して匂わせたんですよね?



 冒険者ギルドのポータルを利用し、スペルディアのトライラム教会本部に足を運びます。


 コットンの奴隷落ちも無くなり、ワンダ達も大金を稼いでくれる様になった私たちに、今までのような過剰なまでの節制はもう必要ありませんからね。1000リーフを惜しんだりはしません。



 礼拝堂で待っていた21人の新しい孤児たち。


 みんな可哀想なくらいに痩せ細っていて、その表情は不安でいっぱいのようです。14歳の孤児たちの顔には、諦めしか見受けられませんでした。


 これがダンさんが来る前の私たちで、ダンさんが来なかった場合のコットンの表情なんですね……。


 そしてこれからダンさんと一緒に笑顔にしていく、私の新しい子供達なんですねっ。



 お互いの紹介もそこそこに、みんなを連れてマグエルに戻ります。子供達21名分のポータルの代金4000リーフは、教会が負担してくれました。


 ふふ。私の分が自己負担だったのが、この教会らしいところですね。



 マグエルに到着しても子供達の表情は冴えません。当然ですね。突然見知らぬ地で生活しなければいけなくなったのですから。


 う~ん……。街の案内は後回しにして、まずは自分達が暮らす場所を見せて安心させてあげましょうか。



「えっ……!? きょ、教会に、井戸があるっ……!?」



 井戸の工事に戸惑う子供達。


 でもね。それ、昨日までは無かったんですよー?



 というか、やっぱりどこの教会にも井戸は無いんですねぇ。井戸掘りが建物より高いなんて、私も知りませんでしたよ。


 井戸2つの建設費用って、もしかしたら教会の建設よりも高額なのかもしれません……。



 教会に井戸がある。そんなことに戸惑う子供達を促して、教会の中に案内してあげました。



「いっぱいあるから、遠慮しないでいっぱい食べてねーっ!」



 教会に着いたらまずは食事です。


 元気なコテンが初対面のみんなにも物怖じせずに接してくれるおかげで、遠慮がちだった新しい子達もすぐに料理に手をつけ始めました。


 お腹を空かせていたみんなは夢中になって料理を食べて、料理を振舞ってくれたマグエルの子供達とすぐに仲良くなってくれたみたいです。



 食事が終わったら、まずは1番始めに伝えるべきこと……。14歳の子供達に奴隷落ちする必要は無いことを伝えます。


 始め子供達は私の言うことを全く信じてくれませんでしたが、それでも少し表情が明るくなったように思えました。


 ……うんっ。この子達のことも、絶対に笑顔にしてみせますからねっ!



 食事が終わると、ワンダ達は魔物狩りに向かいました。その様子を新しい子供達は、尊敬と憧れの目で見つめています。


 ふふ。ダンさんを見ていたワンダ達も、以前は同じような目をしていた気がしますね。



 さてと……。新しい子達を休ませてあげたい所ですが、ちょっと人手が足りませんね。マグエルを案内がてら、新しく来た子供達にお手伝いをしてもらうとしましょうっ。



 まずは服屋さんに行って、新しくきた子供達に1着ずつ服をプレゼントします。


 注文も代金もダンさんが既に済ませているので、私たちは受け取るだけ。安物の服ではありますが、それでも新しい服を用意された事に子供達は目をぱちくりさせていますね。


 でもねみんな。トライラム様って手加減が下手だから、これで驚いてたら身が持たないんですよー?



 次はシュパイン商会に足を運び、新しい毛布を受け取ります。


 毛布を受け取ったらみんなで市場に行って、購入した沢山の食べ物をみんなに持ってもらいます。



 少しずつ子供達の雰囲気が変わり始めます。なんだかマグエルの教会は今まで居たところとは違うようだぞ? って。


 たった1ヶ月くらい前までは、この教会も他の場所と何も変わらなかったんですけどねぇ……。




 1日が経ち2日が経ち、マグエルで過ごすほどにマグエルの教会が如何に恵まれているかを実感していく子供達。


 井戸も近く、お腹いっぱい食べられ、割の合わない仕事をする必要も無い。13歳以下の子供達はすぐに笑顔になっていき、14歳の子供達も少しずつ表情が明るくなっていきました。



 人手が増えた事でダンさんのお屋敷のお庭の管理も楽になり、コットンの負担も大きく減ったみたいですね。14歳の男の子にも怯える事がなくてホッとしました。


 新しくきた子の中には花壇の管理に興味を持つ子もいたようで、コットンも以前より楽しそうです。



「シスタームーリ! 俺も魔物狩りがしてみたいんだっ!」



 新しい子達の中には、やっぱり魔物狩りを志願する子が居ました。当たり前ですね。ワンダ達っていう成功例を毎日見ているんですから。



 さて、子供の情熱というのは大人の手に負えない事もありますからね。どう言って諭してあげるのが良いでしょうか?


 だけど、私の出番なんかありませんでした。



「俺たちに魔物狩りを教えてくれた人たちが12月に戻ってくるんだ。それまで待ってくれないかな?」



 迷っていた私を待たずに、ワンダが魔物狩りの志願者に話をしてくれます。



「その人たちは、魔物狩りにはやる気さえあればいいって言ってた。だからお前たちのことも絶対に面倒見てくれると思う」



 そうですね。絶対にお世話してくれるでしょうね。ダンさんって意外と子供が好きみたいですから。


 それにしても、まさかワンダがこんなことを言うなんて、本当にびっくりです。



「私たち、その人と約束してるの。戦闘訓練を受ける前の子供を絶対に魔物狩りに参加させない、って」



 ワンダに続いて、コテンまで……!


 お調子者だったワンダも、お転婆なだけだったコテンも、いつの間にか大人になっていたみたいです。



「みんなもただ闇雲に魔物を狩るよりも、ちゃんと稼げる魔物狩りになりたいでしょ? だったら僕たちみたいに、ちゃんと訓練を受けれるまで待った方がいいんだよ」


「そうそう! 僕たちだって面倒を見てもらい始めて、まだ1ヶ月も経ってないんだよっ。それでも毎日1500リーフは稼げちゃうんだ」



 続いてサウザーとビリーが、論理的な説得をしてくれます。感情論に続く2人からの冷静な意見に、新しく魔物狩りに志願した子供達の意識が変わり始めます。



「えっとね。私たちだって、大人になった後のことをちゃんと想像していいんだって、その人は言ってたの」


「大人になった、自分……?」


「だからね。なんとなく稼げそうだから魔物狩りになるんじゃなくて、しっかり考えてちゃんと準備して、間違いなく稼げる魔物狩りにならなきゃダメなんだよ? 大人になった自分には、ちゃんと稼げる魔物狩りでいて欲しいでしょ?」



 リオンの言葉に、子供達の表情に違う熱が灯っていくのを感じます。



 ちゃんと考えて正しい努力をして、稼げる魔物狩りになった大人の自分。


 それをはっきり想像できた子供達はもう魔物狩りをさせろなんて言わなくなって、今度はワンダ達に訓練の仕方をねだる様になりました。




 教会のすぐ隣りに孤児院が建設され始めると、始めは懐疑的だった14歳の子たちにも少しずつ希望が宿り始めたようでした。


 こんなことが出来るなんて、きっとお金持ちに違いない。だから将来的に返していく事になろうとも、年末の納税は乗り切れるのではないか。恐らくそんな風に考えているんでしょう。


 でもそんな考え方だときっと、手加減が下手なあの人にびっくりさせられちゃいますよー?



 そんな14歳の子供達の意識を完全に変えてくれたのは、ワンダ達に起こった出来事でした。



「シシシ、シスターッ! 光った! 魔玉が光ったんだ! お、俺たち全員分、6個の魔玉が光ったんだよっ!」



 間もなくダンさんたちが遠征から帰ってくるであろうタイミングで、とうとうワンダ達が魔玉の発光に成功しました。


 発光魔玉は1つ5万リーフで売却できますから、ワンダ達は魔物狩りを始めてたった1ヶ月で、30万リーフを稼げる魔物狩りになってしまったんです。


 しかも毎日2000リーフ近いお金を教会に入れながら、それとは別に30万リーフなのですから驚きです。



 まだ見ぬお金持ちの存在よりも、目の前に大金を稼いだ者がいることの方が大きな希望になったようです。元々真面目な子供達が、更に熱心にダンさんのお庭の管理をするようになりましたからね。



 暗かった子供達の表情が、毎日少しずつ明るくなっていきます。


 ダンさんたちの影響は計り知れませんが、それでもダンさんたちの留守中に、私たちだけでも子供達を救えたんです。そう思うと、シスターってなんてやりがいのあるお仕事なんだろうって思っちゃいますねっ。



 身寄りのない孤児にとって、トライラム教会は親代わりであり、各教会のシスターは孤児たちの母親代わりと言っても過言ではありません。


 ……ガリアの慰み者にされてしまった前のシスターを、私だって母のように慕っていたのですから。



『ムーリを貰った以上、教会の子供たちは俺にとっても子供みたいなものだからね。一緒に育てていこうね。俺とムーリの子供達を』



 ダンさんに抱かれた日、ダンさんに言われた言葉を思い出してしまいます。



 種族の違うダンさんの子を授かることは出来ません。ですがダンさんは教会の子供達を、自分の子供みたいなものだって言ってくれました。私と一緒に育てていこうって言ってくれましたっ……!



 ……って、あうう……。あの日の押し付けられるほどの幸福と、死を覚悟するほどの快楽まで思い出してしまいました……。 


 そしてもう間もなくダンさんが帰ってくることに思い当たって、遠征に出発した日のシスター室で行われたことを思い出してしまいます……。


 ああ、ダンさん……。まだ帰って来ないのかなぁ……。早く逢いたいですよぅ……。



 いけないことだと思いながら、ついつい1人でお屋敷に入って施錠します。


 これでダンさんたちがいない今、この家に入れるのは……、私しか、いません……。



 寝室のドアを開け、大きなベッドに吸い込まれるように倒れこみます……。


 ダンさんたちの残り香なんて残ってないのに、ベッドに倒れこんだ瞬間から、ダンさんに愛してもらった幸せすぎる時間が次々と思い起こされます……。


 ダンさん。また私達の子供、いっぱい増えちゃったんですよぉ……。だから増えた子供の分、私を愛して欲しいんです……。





 なのに、酷いですよぉっ……! 1ヶ月ぶりの再会が、こんな形だなんてぇ……!


 予定より早い再会に神に感謝すればいいのか、最低の再会劇を演出してくれた神を恨めばいいのか……!



 んもうっ! どうしたらいいか分からなくなっちゃったじゃないですかーーっ!

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