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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
3章 回り始める物語1 スポットの奥で
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164 敵対者

 どうやら初のアウターエフェクト戦は無事に勝利を収めることが出来たようだ。


 テラーデーモンの消滅は間違いないらしいので、恐慌状態に陥り震えているニーナとティムルをぎゅっと抱きしめ続ける。



「ダン……! ダン……!」


「大丈夫だよニーナ。絶対に放さないからね」



 ニーナは喋れるようになってきたけど、ティムルがまだあまり回復してくれない。


 これはニーナの付けてる全状態異常耐性の差なんだろうね。全状態異常耐性の小効果が付与されているニーナと違って、ティムルは完全に無防備な状態でテラーデーモンの咆哮を浴びてしまったのだ。



「恐慌は耐性が無くても自然回復する精神異常なんだけど、戦闘中に喰らうと無防備になっちゃうんだ。毒や呪いみたいに継続するものじゃないんだけど、突発的な危険性はかなり高い状態異常なんだ」



 周囲の警戒をしながらも、恐慌というバッドステータスについて詳しく説明してくれるリーチェ。



 なるほどな。自然回復するからこそ、使いどころを間違えなければ起死回生の一手になるわけか。HPを削りきったタイミングで放ってきたあたり、アウターエフェクトには発狂モードみたいなのがあるのか……?



「あれだけ上級魔法を連射しても、ケロっとしたものじゃのう」


「ん? どうしたのフラッタ」


「……ダンが居なければ負けていた可能性はあるが、ダンは1人でも奴を殺しきっていたかもしれぬなぁ」


「流石にそれは買い被りすぎだよ。みんながいたからこそ勝利を収めることが出来たんだ」



 残念ながら両腕は塞がっているので、おいでおいでして近寄ってくれたフラッタのほっぺにキスをする。



「しっかしフラッタに貫通をつけておいて良かったよ。俺の剣は殆ど有効打になってなかったからさぁ」


「貫通の効果もあるじゃろうが、妾の得物がバスタードソードであったことも良かったのかもしれぬのじゃ。両手武器は同じ品質でも威力が高いからのう」



 なるほど。貫通-でもバスタードソードに付与したからこそ大きな効果を発揮してくれたのかもしれないのか。


 異界の剣についていた貫通+だったら、ロングソードでも障壁を全部無視してぶった斬れたのかもしれない。



「あ、あぁぁ……! ダ、ダン……!」


「ん、大丈夫だよティムル。何にも心配要らないからね」



 ティムルもようやくしゃべれるくらいには回復してきたらしい。回復してくれて本当に良かった。


 ……良かったけど、テラーデーモンをちょっと殺し足りない気分だなぁ。



「それじゃちょっと早いけど、今回の遠征はこれで終わりにしようか。ニーナが動ける様になったら、ティムルを抱っこしてここを出よう」


「そうだね。アウターエフェクト出現の影響か、周囲に魔物もいないようだし。これ以上ここに居ても仕方ないね」



 周囲を確認して俺の意見に同意してくれるリーチェ。


 かと思えばなんだかモジモジして、俺の顔色を窺うように可愛い事を言い出した。



「……ねぇダン。ぼくもくっついていい?」


「ダメなわけないだろ。おいで」



 リーチェと、そしてフラッタもくっついてきてくれたけど、リーチェはティムルに、フラッタはニーナにくっついてしまったのでちょっとだけ寂しい。


 寂しいんだけど、それ以上に嬉しいって思っちゃうな。恐慌に陥った2人を抱きしめてあげたかったなんて、我が家の嫁はみんな仲が良くて何よりだよ。



 

 そのあとも魔物が出現することは無く、ニーナが歩けるようになるまでは30分くらいの時間を要した。


 ……小耐性ありでこれかぁ。自然回復するとはいえ、恐慌も決して軽いバッドステータスではないようだ。この世界、状態異常が重過ぎないかなぁ……?



 ニーナが動けるようになったので、ティムルをお姫様抱っこして最深部から脱出した。


 最後にボス戦があったけれど、無事に遠征の全日程を終了することが出来た。帰るまでが遠征だけどね。



 ニーナとティムルが完全に回復するまで、緩衝地帯で休憩する。



「ぼくも料理できるようになってて良かったよ。ニーナとティムルにはいつも助けてもらってるし、ダンはそのままでいてあげてね」



 動けないニーナとティムルに食事のお世話が出来るのが嬉しいらしく、リーチェは率先して食事の用意を買って出てくれた。



 ニーナは大分落ち着いてきたみたいだけど、それでもまだ俺から離れるのが怖いようだ。ティムルも普通の会話が出来るくらいには回復したんだけど、まだ小さな震えが止まっていない。



 ……次にデーモン種が出たら、絶対に完封して瞬殺してやる。



「体の奥から怖い気持ちが溢れてきて、止められなくなっちゃったの……。だけど、それでも私はティムルよりマシだったんだよね……」


「ど、どうなのかしら、ね……。効果の強さ、は変わらな、くて、効果時、間が、変わ、てるのかも……」



 震えながら会話するティムルを抱きしめる。


 はぁ~……。始めからインパクトノヴァ連射すべきだったよ……。



「ティムル、そしてニーナも怖い想いさせてごめんね。2人が無事で良かったけど、怖い想いさせて本当にごめん……!」


「謝らないでダン。ダンには何の落ち度もないよ。最強の魔物と戦ってこの程度で済んだんだから、ダンは胸を張っていいんだよ?」



 ニーナ……。震える2人を抱きしめながら、胸なんか張れないってば……。


 あまり気にしすぎると2人が悲しんじゃうから、言わないけどさぁ。



 2人の背中を擦りながら、疑問に思ったことを聞いてみる。



「アウターエフェクトテラーデーモン。あまりにタイミングのいい登場だったけど、あれって偶然なのかな? あれじゃまるで遠征最後の試練みたいだったんだけど」


「偶然……、ではないと思うよ。思い当たる原因は、無くも無いんだ」


「思い当たる原因? どういうことなのリーチェ」


「アウターエフェクトって様々な種類はあるけど、共通してるのは人類の絶対的な敵対者ってことなんだ。でもアウターエフェクトほどじゃなくても、この世界には人類の敵対者が存在してるでしょ」



 アウターエフェクトほどじゃない、人類の敵対者。そう言われて思いつく存在は1つだけだ。



「……魔物、のこと?」


「そう。魔物だね。魔物の出現するメカニズムは正確には解明されていないけれど、魔物というのは魔力から生み出される擬似生命体で、人類の敵対者っていう説が一般的だ」



 擬似生命体……? だから生体察知には引っかからない?


 生体察知と魔物察知なんて明確に区別されているあたり、魔物はこの世界の生物として認識されていない気がする。



 そもそもここスポットだって、魔物が出やすい場所として知られている場所なんだ。()()()()()()()()()()()()()ではなくて、()()()()()()()()()っていう表現は、考えてみれば変な表現だ。




「魔力で作られた魔物達は、死ぬと体内の魔力を霧散させて、人々に様々な恩恵を齎してくれる。魔物の命の結晶であるドロップアイテム、僕達の職業の浸透、魔玉の発光とかね。敵対者ではあるけど、魔物は人類の生活になくてはならないものなんだ」



 リーチェの説明に、やはりどこかゲームめいたものを感じてしまうな。魔力という材料を用いて、バトルシステムと職業システム、魔物という存在を作り上げた、みたいな?



 ドロップアイテムが魔力の結晶であるなら、インベントリに入れられるアイテムは魔力の結晶だけってことになって、微妙に辻褄が合う。


 装備品もスキルを使って……、そう、魔力を用いて作られるからインベントリに収納できるんじゃないのか? 防具なんて勝手にサイズ変更されて体にフィットしてくるんだ。物理法則なんて完全無視の代物だよね。



 その考え方でいくと、この世界の硬貨ってスキルで作られているか、魔物からのドロップアイテムなのかもしれない。



「だけど魔物を倒した時の魔力の全てを、余すことなく僕達が享受出来るわけじゃないんだ」


「全てを受け取りきれない……。アイテムや経験値にならない魔力があるってこと?」


「えっとね。ドロップアイテムになった分、職業や魔玉に浸透する魔力っていうのは魔物を構成している魔力の一部に過ぎず、その大部分は世界に還っていき、また新たな魔物としてこの世に生まれてくるって言われてるんだ」


「魔力は世界に還り、そして循環している……?」


「明確な根拠みたいな物は多分無いと思うけど、エルフ族たちにはこの説が正しいと認識されてるよ」


 

 魔物を殺した後の魔力が大気に還るってのは、反対する部分もない。輪廻転生の概念を知っていればイメージしやすい。


 確かめる方法は無いにしても、そうなんだろうなぁくらいにしか思わないけど……。



「ふむ。リーチェよ。つまりはこういうことかのう? 妾たちが短時間で大量の魔物を狩った事で、スポット内に凄まじい量の魔力が還り、普段であれば出現しないほどの強力な魔物を呼び寄せてしまった、と?」



 フラッタのまとめに、リーチェは頷きで答える。



 最深部の魔物を短時間で大量に殺し続ける戦力がなければ、アウターエフェクトは出現しなかった? テラーデーモンの出現は、一気に魔物を狩りすぎたのが原因なのか?


 確かにラストスパートだと思って、張り切って狩った自覚はある。


 そして今までと違って、今日は魔物察知をフル活用しての大量虐殺だった。昨日までよりも、明らかに早いペースでの殲滅だったかもしれない。



 いや、そもそも遠征の間にずっと魔力が溜まり続けていた可能性もあるのか?



「……ダン。アウターエフェクトの出現がリーチェの言う通りなら、1つ気になる話があるわ……」


「ティムル? 良かった、回復したんだね」



 俺の腕の中からティムルの声がする。


 その声にも体にも、もう震えは感じられない。ほっと胸を撫で下ろす。



「それで、気になることってなにかな?」


「ええ。デーモン種がアウターエフェクトであるなら、同格のロード種もアウターエフェクトでもおかしくないわよね?」



 ロード種……、フレイムロード。


 確かにテラーデーモンから感じた気配は、フレイムロードから感じた死の気配と同質のものだった。デーモン種がアウターエフェクトなら、同格らしいロード種だってそうでもおかしくないな。



「そしてアウターエフェクトの出現は、魔物を大量に殺したことによって発生する、アウターからの人類へのカウンターであると」


「そこはまだ確定じゃないみたいだけどね。それで?」


「ダンが初めてこの世界に降り立った開拓村があるじゃない? あそこってさ、広がり続ける森型アウターである侵食の森の拡張を抑え込む目的で、森の伐採と魔物狩りが活発に行われている場所だったはずなのよ」


「……え?」



 ティムルの言っていることが理解できなくて、間抜けな反応を返してしまう。


 冒険者ギルドで、ステイルーク以南は侵食の森というアウターだと聞いた。そして俺たちが保護された開拓村は、ステイルークの更に南側にある場所だと……。



「もしもアウターエフェクトの出現条件がリーチェの言っていた通りだとしたら……。フレイムロードが出現した原因は、開拓村の活動にあったってことになるわ。つまりね。ダン……」



 開拓村の活動がフレイムロードの出現を招いてしまったのだと言うのであれば……。



「開拓村の悲劇とダンの来訪に因果関係は……、きっと無いわ」



 俺の目を見てきっぱりと言い切るティムル。



 あの全てが赤に染まった地獄絵図は、俺とはなんら関わりのない、ありふれた悲劇の1つでしか、なかった……?


 あの日失われた命は、俺の転移なんかあってもなくても、何の影響もなく同じ運命を辿って……、いた?



「……だから言ったでしょ? 開拓村の悲劇とダンは、何の関係もないんだって」



 胸に抱いたニーナの優しい声。



「胸を張りなさいっ。ダンは開拓村の悲劇を起こしたわけじゃないのっ。それどころかたった今、同じような悲劇が起こるのを食い止めた英雄なんだよ?」



 俺を叱り飛ばすようなニーナの声。



 あ、れ? おかしいな? ステイルークを飛び出した日、ニーナに受け入れてもらって、ちゃんと理解したはずじゃなかったのか……?


 なんで……、なんでこんなに安心してしまっているんだ、俺は……。



「ダンがこの世界に来た時の話じゃな。リーチェの説が正しいとするなら、開拓村が滅んだのは開拓村の住人の責任でしかないのじゃ。ダンがその責任を感じるのはお門違いというものじゃろう」



 フラッタが、俺の不安をお門違いと斬り捨ててくれる。そのあまりの明快さに、心が更に軽くなる。



「……無関係というよりも、もしかしたらダンのほうも巻き込まれたのかもしれないね」


「え……」


「異世界転移なんて、どれ程の魔力が必要か見当も付かないもの。フレイムロードが出現するほどの濃度の魔力地帯。そこに引っ張られてしまったと考えるのが妥当じゃないかな」



 感情を一切含まないリーチェの見解。


 俺が転移した事であの悲劇が起こったのではなく、悲劇が起こっている場所に俺の転移が引き寄せられた? つまり俺が思っていたのとは、因果関係が逆だったってこと……?



「ダンー? 貴方はとっても凄い人だけど、あんまりかっこつけすぎちゃダメなのっ」


「へ? え……と、そんなつもりは……」


「貴方がこの世界に来る前のことや、貴方と出会う前の私達のことまで、貴方が気に病む必要はないの。私もティムルもフラッタも、リーチェもムーリも教会の子供達も、貴方と出会ってからはみーんな幸せにしかされてないんだからねっ」



 穏やかなニーナの声。その声にステイルークを旅立った日、ニーナに言われたことを思い出す。


 ニーナの存在が俺の正しさの証拠だって言ってもらえた、あの時のことを。



「まったく、手のかかるご主人様だね……。ダンがこの世界に来てくれたから私は救われたんだって、ちゃんと言ったじゃないっ」



 だって、あれってニーナが俺を励ます為に言ってくれた言葉だったんじゃ、ないの……?


 俺がこの世界に降り立ったせいで喪われた命も、不幸に落ちてしまった人たちも、そんなものは始めから存在してなかったの……?



「ダンのおかげで私たちみんな幸せなんだって、ちゃんと言葉で伝えたのにさっ。ダンは私の言葉、信じてくれないのー?」



 悪戯っぽく微笑むニーナ。


 俺を責めるでもなく怒るでもなく、からかうようなニーナの言葉。



「……悪いねニーナ。逆なんだよ、それ」



 そんなニーナに、あの日は口に出来なかったこと、今なら伝えられるはず。



「ニーナのおかげで……、ティムルとフラッタとリーチェとムーリのおかげで、俺の方が救われたんだよ。みんなに会えたから俺が幸せになれたんだよ……! 逆なんだよニーナ。逆なんだ……!」



 俺がニーナを助けたんじゃない。ニーナが、みんなが俺を助けてくれたんだ。



「あはっ。どっちでもいいよそんなこと。みんな一緒にいる限り、そんなのどっちだっていいのっ」


「……はは。確かにニーナの言う通り、だね……」



 お互いがお互いと一緒にいて救われるなら、細かいことなんか全部無視して、ずーっとみんなと一緒に過ごせばいいだけだよね。



 俺が助けたのか俺が救われたのか、そんなのもうどっちでもいいや。


 みんなが一緒にいてくれるなら、一緒にいればお互い幸せに過ごせるなら、それだけで充分だよな。

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