014 出発の準備
「ダン、嬢ちゃん。コイツはマッチっつって、着火用のマジックアイテムだ」
フロイさんが俺とニーナに着火用のマジックアイテムを見せてくれる。
うん。どこからどう見てもマッチ棒だね。だけどマジックアイテムだけあって、擦る必要もなく着火することが可能なんだそうだ。便利だけど魔法の無駄遣いでは? というかもうそれってライターじゃ?
「こいつはマジックアイテムっつっても量産品の使い捨てのアイテムだからよ、安く手に入るんだ。夜営する時だけじゃなく家での調理にも便利だから、切らさないように常に買っとけよ?」
フロイさんの忠告に素直に頷く俺とニーナ。
現在は既に日が落ちた時間帯。周囲は真っ暗の状態だ。
そんな中、俺とニーナは南西の森の入り口で、フロイさんに夜営の仕方を教わっている。
流石にひと晩街の外で過ごす事はフロイさんに却下されたけど、深夜になる前にステイルークへ帰還することを条件に、火の起こし方とか上手く焚き火を絶やさない方法など、基本的な夜営の仕方を教えてもらえる事になったのだ。
実はニーナの件とは関係なく、フロイさんに色々教えてもらう案は以前から考えてあった。だって俺はまだ何にも出来ないし、他に頼れる人だっていないんだもの。仕方ないよねー。
ニーナとパーティを組んだことでフロイさんにも避けられる可能性は考えたけど、ニーナを初めて見た時のフロイさんの反応を思い返しても、フロイさんがニーナに対してもあまり悪感情を持っているようには見えなかった。だから思い切ってお願いしたらオーケーをもらえたってわけだね。
フロイさんは割と面倒見が良いし、開拓村からステイルークまでの道中で実力も証明済みだし、その時に夜営が出来るのも確認済みだ。
そんな様々な要因が重なって、俺とニーナに最も必要なことを教えてくれる人材として、フロイさんはまさにうってつけの人物だったのだ。
ステイルークを発つまでに戻ってきてくれるかどうかだけが懸念材料だったけど、無事合流出来て教えを受けることが出来たのは本当に幸運だったよ。
……勿論、無料ってワケにはいかなかったけどさ。
「10日ほど休暇だから受けても良いけど、流石に無料じゃやらねぇぜ?」
俺のお願いを頭ごなしに突っぱねるわけではなく、依頼として正式に請け負うならと、フロイさんは条件を提示してきた。
「1日銀貨10枚、依頼中に狩ったドロップアイテムも換金して折半してもらう。この条件でどうだ?」
1日銀貨10枚。つまり1日1000リーフだ。日当が100リーフちょっとの俺達からすれば凄まじい大金なので少し考える。
ここで大金を失うのはかなり怖いけれど……。いくら小金を持っていても、夜営や旅が出来ないとそっちの方が死亡率が高いよなぁ。
それに、魔物を狩れば最低限のお金は確保できる。ドロップアイテムが折半なら、指導を受ける間も収入が得られる。むしろありがたい条件だろう。
そう判断した俺は有り金をほぼ全部放出して、4日間の指導をお願いすることにしたのだった。
本当なら出発までの5日間を全て指導に充てるべきなんだろうけど、出来れば出発前日は休んでおきたいし、そもそも5000リーフは捻出できなかったんだよねぇ。
焚き火を囲みながら俺とニーナに、魔物に襲われにくい場所の見つけ方、簡単な調理、夜襲を受けた場合の対処方法などを説明してくれるフロイさん。
実際に遭遇した時に冷静に対応できるかは自信ないけど、知らないよりはマシでしょ多分。
「嬢ちゃんと仲良くなってるのも驚いたがよぉ。ステイルークを出ていくってのも驚いたぜぇ?」
指導にもひと区切りついたタイミングで、フロイさんが雑談を振ってきた。
「村人のままじゃあ旅もキツいし、他の場所でも働けねぇだろ? なんでまたこんなに早く移動する気になったんだよ?」
フロイさんの言葉に詰問してくるようなニュアンスは感じられない。純粋に俺とニーナを心配してくれてるんだろう。
なんだかんだで俺を気にかけてくれるフロイさん。この人と知り合えたのは本当に幸運だったよなぁ。
ちなみに、現在の俺の職業は村人に戻してある。パーティを結成する際にステータスプレートを見られる可能性が高いと思ったからなんだけど、指導が始まってみるとフロイさんは俺達とパーティを組む気はないみたいだった。
これなら旅人のままでも良いかとも思ったけど、どうせなら村人を10まで上げてしまうことにしたのだ。
「いやいや、ここじゃ俺が村人って事はもうみんな知っちゃってるからね。記憶が戻る気配も無いし、仕事を探すためにも今が移動するタイミングかなって思ったんだよ」
フロイさんの質問に細心の注意を払いながら答えていく。ニーナと一緒にステイルークを発つ予定はなるべく秘密にしておくべきだ。
「移動しながら各街でギルドに寄って、転職できたらそこである程度稼ぐつもりなんだ。ここじゃ村人の俺には仕事が回ってこないわけでしょ?」
「なるほどねぇ。確かにステイルークにいたままじゃジリ貧、か」
村人のままで生きていくのが難しいと俺に教えたのはフロイさんだ。だからなのか、その言葉を理由にステイルークを発つ判断をしたことにすんなり納得してくれた。
俺の言葉に一応納得したらしいフロイさんは、次にニーナに声をかけた。
「嬢ちゃんはダンと一緒に行かなくて良いのか? 仲良くなったんだろ?」
フロイさんの問いに一瞬体が強張ったけど、こちらを探るような雰囲気は一切無い。これまたニーナのことを心配してくれているだけなんだろう。
うん。やっぱりフロイさんはニーナに悪感情を持っていないみたいだ。ニーナの死を望む人が、俺と一緒に旅しなくていいのかなんて聞くはずないよ。
「うん。ダンも誘ってくれたんだけど、私この後、借金奴隷になっちゃうから……。流石に奴隷購入資金を用意するのは無理だし、仕方ないよ」
フロイさんの問いに、俯きながら沈んだ声で答えるニーナ。
これって全部演技ってわけでもなくて、ステイルークを出るまではなにが起こるか分からないって不安交じりの発言なのかもしれないな。
「あー……。若い女の奴隷となると、20万を下回るこたぁねぇか。厳しいな……」
フロイさんが俺たちに同情したような視線を送ってくる。俺たちの将来に希望を感じないんだろうなぁ。
「だからねっ? 何とかフロイさんから技術を吸収して、少しでも扱いの良い奴隷を目指そうって思ってるんだっ」
ニーナの前向きな発言に、フロイさんは小さく「そうか……」とだけ答えて口を閉ざしてしまった。
しばらく無言のままで焚き火の火を眺めていると、突然フロイさんが立ち上がり両手で武器を構えた。
フロイさんに遅れて立ち上がり、急いで周囲を確認する。
……良く見えないけど、何かが動き回ってる? 鑑定できるかな?
ナイトシャドウLV1
まだ姿は良く見えないけど、鑑定結果だけが夜の森にはっきりと浮かび上がった。
「コイツはナイトシャドウってんだ。大して強くはねぇが数が多くてキリがない。攻撃力は高くねぇから、ダメージを受けても慌てずに反撃しな」
こちらを見ずに最低限の情報を素早く共有してくれるフロイさん。
目を凝らして闇を注視すると、人型の黒いシルエットが俺たちの周りを囲んでいる状況のようだね。
この黒いシルエットがナイトシャドウかな? まるで地面の影がそのまま起き上がっているみたいな外見だ。某探偵作品の犯人を連想してしまったぞ?
装備品や衣服のような凹凸はなく、男女の差も分からない。全身タイツマンな外見だ。
完全に包囲されていたので緊張したけれど、実際に戦って見たら拍子抜けした。コイツらは動きも遅く体力もない。俺のナイフでも5回ほど切りつければ倒せる魔物のようだ。
唯一の攻撃方法はドレインタッチ。手の平で触れた相手の体力を吸収してくるらしい。それはつまり、両手にさえ気をつければ問題ないってことだ。
ナイトシャドウの脅威は単体の能力ではなく、その圧倒的な数の方だ。今回はフロイさんがこいつらを1撃で切り捨て続けているから数は増えないけど、フロイさんが居なければ間違いなく圧殺されてるだろうな。
被弾を恐れず切りかかり、とにかく数を減らすことに専念した。
夢中でナイフを振り続けていたけど、ふと気付くとナイトシャドウが残っていない。
どれくらいの時間ナイフを振り続けたのかわからないが、今回の襲撃も何とか乗り切れたみたいだね。
「よし、すぐにアイテムを回収して帰るぞ」
しかし勝利の余韻を楽しむ間もなくフロイさんから指示が飛ぶ。そりゃ街の外で勝利の余韻に浸るのは危険極まる行為だろうけどさぁ。
「焚き火は1番最後に消すんだ。モタモタすんなよ」
不満気な俺を慮ることなく急かしてくるフロイさん。
夜の外が危険なことは分かっているので素直にフロイさんの言葉に従い、疲れた体に鞭打って散らばったドロップアイテムを回収する。
ナイトシャドウのドロップアイテムは影糸という黒い糸で、用途はそのまんま裁縫だ。単価は2リーフとかなり安いけど、ナイトシャドウを1撃で倒せる攻撃力があれば安全かつ大量に入手できるので、意外と人気の獲物とのこと。
ナイトシャドウを1撃で倒せるフロイさんがいないと不可能な、今だけのボーナスタイムだ。
散らばったドロップアイテムを回収して、この日の指導はお開きとなった。
フロイさんの指導は夜間だけではない。日中は日中で、フロイさんは俺では倒せない魔物を狩りに森の深くまで入っていく。俺とニーナは、それにポーター役として同行させてもらう。
ここでは俺は戦闘に参加できないので、別パーティ扱いの俺に経験値が入ってくることがない。だけどそれらの獲物の報酬も律儀に折半してくれるので、素寒貧状態からは既に脱出できている。
フロイさんいわく、ポーターに金を出さない冒険者はド三流だそうだ。肝に銘じておこう。
……もしかしたら、ポーターとして俺とニーナに報酬を折半してくれるのはフロイさんなりの餞別なのかもしれないね。
本当に面倒見の良い人だ。素直に感謝しよう。
そんなこんなで指導3日目。夜の森でナイトシャドウと戦闘している途中で、ようやく村人がLV10になってくれた。
経験値を無駄にしないために素早く職業選択をして旅人に……、と思ったけど、ここはあえて戦士にしてみる。
村人から戦士に転職すると、戦士LV1にも関わらずナイトシャドウを倒すのに必要な攻撃回数が5回から4回に減った。目に見えて攻撃力が増してくれた模様。
流石は戦闘職だけある。効果が大きくて頼りになるね。
更に、その戦闘中に討伐に必要な攻撃回数が更に減ったので確認すると、戦士がLV2になっていた。
戦士がレベルアップするとナイトシャドウへの攻撃回数が1回減らせるってことか!? これが本当ならマジでありがたいっ!
つまりあと2つ上げることができれば、俺にもナイトシャドウ狩りが可能になるってことじゃないかっ。
旅に便利そうなインベントリにばかり気を取られていたけど、攻撃力が上がる恩恵は計り知れないと思い知ったね。戦闘時間は短縮できるし、狩りの効率は上がるし、経験値稼ぎにも資金稼ぎにも有利になる。
総合的に見て、安全性が飛躍的に向上するわけだ。
痛し痒しなのが、インベントリと併用できないってことだ。インベントリに物が入っていると転職出来なかったんだよねぇ。
せっかくインベントリが使いやすくなってきた途端にこれだもん。上手くいかないなぁ。
「なんか、ダンの攻撃力上がってねぇか? お前、村人だったよな?」
「ええ、この通り村人ですよ」
怪訝な表情のフロイさんにステイタスプレートを見せながら、平然とシラを切る。
お世話になってるフロイさんに嘘を付くのは申し訳ないけど、別に迷惑をかけてるわけでもない、よね?
どうせステイルークには戻ってこれないのだから、明日の指導が終わればフロイさんとは会うこともない。ギリギリまで戦士を上げさせてもらおっと。
4度目のナイトシャドウ戦でとうとう戦士LV4になり、ナイトシャドウが1撃で倒せるようになった。ホワイトラビットやキューブスライムと違って大量に出現するのに耐久力が低いという、レベリングの為にいるような存在だな、ナイトシャドウって。
なにはともあれ、これでなんとか野宿する目処は立ったかなぁ? ひと晩中戦い続けるっていうのは現実的じゃないけどさ。
ナイトシャドウを1撃で葬っている俺の様子を見て、フロイさんがしきりに首を傾げている。
はっはっは。気のせいです、気のせい。細かいこと気にするとハゲますよ?
フロイさんの視線を受け流しながら影糸を回収していると、影糸に混ざって、見知らぬアイテムが落ちていた。フロイさんに聞く前にとりあえず鑑定してみる。
魔玉
まぎょく? なんじゃこれ? レアドロップかな? 透明だし、外見的には水晶玉にしか見えない。
なんにしても鑑定しても何も分からないな。素直にフロイさんに確認しよう。
「フロイさん。これってなに?」
「お、魔玉じゃねーか。欲しいならやるけどどうする?」
当然のようにフロイさんは魔玉のことを知っていて、そのうえであっさりと俺に譲ってくれた。この反応的に貴重な品ではなさそうか。
「えっと……。ごめん、魔玉ってなに?」
「は? って、そういや記憶ねぇんだったな。嬢ちゃんも知らなかったりすんのか?」
「え、うん。知らないよ。家で見た事もなかったと思う」
俺だけじゃなくニーナも魔玉を知らないらしい。
でもフロイさんの反応的に、魔玉は一般常識っぽいな?
「そっかぁ~失敗したぜぇ……。この4日間、勿体無いことしちまったな。悪い」
フロイさんは本当に申し訳なさそうな様子だ。
貴重なアイテムでもなさそうなのに、勿体無いっていったいどういうことなのさ?
「この魔玉ってのは、魔力を貯めることが出来るアイテムだ」
透明な水晶玉改め魔玉を俺達に見せながら、フロイさんが説明を始めてくれる。
「これを持ったまま魔物を倒す事で魔力が貯まって、段々真っ黒になっていくんだ。コイツはドロップしたてで魔力が空っぽだから無色透明ってわけだな」
ふぅん? 魔物を倒すと勝手に魔力が貯まっていくのか。視覚的に魔力の溜りが分かるのは助かるなぁ。
「なるほど。それで勿体無いってのは?」
「魔力ってのはマジックアイテムの作成に欠かせねぇからな。魔力の貯まった魔玉ってのは高値で売れるんだよ」
なるほど。魔物と命懸けで戦わなきゃいけないのにドロップアイテムが安いとは思ってたけど、金策はそっちがメインだったのかな?
「最高まで貯まると微かに光るようになるから、魔力がいっぱいになったらすぐに分かるぜ。光った状態の魔玉は1つ金貨5枚で売れるんだよ」
フロイさんが説明してくれた魔玉の価値に絶句する。
き、金貨5枚……! それだけあったらニーナの靴も、武器も買えるっ……!
「えっ、じゃあこの4日間で倒したナイトシャドウの分の魔力が貯まってたらどのくらいになってたの?」
「ん? こいつらは弱いから大した事はないだろうが……。いいとこ……、3000前後ってとこか?」
大したことあるわ! 銀貨30枚もあったら、今回の指導料が殆ど戻ってくるようなもんじゃねぇかよぉ!
謝罪と賠償を請求しない代わりに、フロイさんには更なる魔玉の説明を要求するっ!
悪い悪いと言いながら魔玉について詳しく説明してくれるフロイさん。
魔玉はナイトシャドウのドロップではなく全魔物共通のドロップ品らしく、インベントリに入れている魔玉には魔力は貯まらない。
複数個携帯すると魔力が均等に分配されるため、1つあたりの貯まりが遅くなるそうだ。
複数個持つと、均等に分配される。そう聞いて真っ先に連想したのが経験値だった。魔玉に貯まる魔力って、もしかして経験値と同質のものだったりするのかな?
魔玉を携帯すると金銭的に有利になる。けれど経験値が減って育成には不利になる……? こんな感じなのかな。
今はちょっと判断材料が少なくて分からないね。分からないけど今後は必ず魔玉は携行しよう。
最後にちょっとした衝撃はあったけれど、4日間のフロイさんの指導は滞りなく終了した。
「そんじゃ2人とも元気でな。この4日間は俺も結構稼がせてもらったぜ。ありがとよ」
深夜と言うにはまだ少し早い時間帯。宿まで送ってくれたフロイさんは気さくな感じで挨拶してくる。
この4日間で俺の所持金も5000リーフちょっとになっている。フロイさんのほうは、指導料込みで金貨1枚くらい稼いだんじゃないかな。
「奴隷になる嬢ちゃんは難しいかもしれないが、2人とも機会があったら寄ってくれ。1杯くらい奢ってやるからよ。じゃあなっ」
背中を向けてから軽く右手を上げただけで、フロイさんは実にあっさりした感じで去っていった。
……もしかしたらニーナの処遇を知ってるのかもしれないな。
だが安心して欲しいフロイさん。ニーナを死なせるつもりはないから。
その代わり、再会の約束は果たせそうにないけどね。
次の日、ステイルークを出発する前日は、ゆっくり疲れを癒すことにした。
お休みだけど、ステイルークから旅立つ前に戦士LV4の能力検証をしようと、1度だけキューブスライムと戦うことにした。
すると、3分前後でキューブスライムを倒せるようになっているじゃあないですかっ! お、俺ってめちゃくちゃ強くなってるぅっ!?
……と言いたいところだけど、ナイトシャドウの耐久力の低さを改めて実感しただけだったかも。
ナイフを研ぎに出したり、防具はまだ問題ないか見てもらったり、冒険者ギルドで空の魔玉を100リーフで1つ購入したり、雑貨屋で旅支度を整えたり。
残金は1000リーフも無くなってしまったけど、旅支度は万全だ、と思う。
旅立ちの準備を済ませた俺とニーナは、ステイルークで食べる最後の夕食を済ませ、2人寄り添って横になる。
「とうとう明日ですね。失敗する事はないと思いますが、やっぱり少し緊張しますよ」
「うん。明日とうとうダンの物になれるよっ」
ニ、ニーナが俺の物に……! な、なんて素敵な響きなんだ……!
「あ、でも奴隷になったら、私だって喋り方を変えなきゃダメかぁ」
弾んだ声から一転して、少し残念そうに呟くニーナ。
「やっぱり奴隷とあまり親しげに接するのって不味いですかね? 俺は別に気にしないんですけど」
「うん。控えたほうが良いと思う」
少し表情を引き締めたニーナが理由を説明してくれる。
「奴隷って立場は低いけど、個人の財産、所有物として守られる存在でもあるの。だからちゃんと奴隷に見られる接し方をしてもらった方が私も助かるかな」
なるほどねぇ。奴隷というとあまり良いイメージがないけれど、個人の財産と思えば分かりやすいな。
奴隷であることがニーナの身を守ることになるわけだ。
「了解です。でも人目のないところでなら今まで通りで構いませんよ」
「私よりダンのほうが心配だよぅ。奴隷に敬語で話しかけたりしないでね?」
ぐっ……。そう言われると、確かに俺の方が心配だ……。
ニーナは俺の所有物扱いになるんだから、俺も意識を変えないと。
俺の所有物、か。
ニーナをどう扱っても、それは全て俺の自由……。
「ねぇニーナ。明日からニーナは俺の奴隷になるけど、そんなことは関係なく、俺はニーナにこんなことをしたいと思う男なんだってこと、忘れないでね」
「え? それってどう……」
戸惑うニーナの言葉を、彼女の口に蓋をすることで中断させる。
奴隷だから好きに扱っていいなんて、そんなことは思いたくない。ニーナが何者であろうとも、ただ愛おしいだけだ。
だから君が奴隷になる前に、それを伝えたかったんだ。
……相変わらず、我が侭な男だよ俺は。