117 発光祭り
周囲に広がるドロップアイテムをぼーっと眺めていると、背後から静かに大切な存在が近づいてくる。
「ご主人様。落ち着きましたか?」
ニーナの静かな確認の声。その声に応じて、自分の状態を確認する。
……うん。感情は凪いでいる。落ち着いた。吐き出しきった。
「うん。大丈夫みたい。みんなは? 特にティムルは大丈夫だった?」
「ええ、みんな無事です。安心してくださいね」
注意深く見ていないと気付けないほど小さく息を吐くニーナ。
心配させちゃったかな? でもいつも心配してくれてありがとう。
「さぁご主人様、まずは次の敵が来る前にドロップアイテムを回収してしまいますよ」
ぱんぱんっ、と手を叩いて俺を急かすニーナ。
既に他のみんなは回収作業をしてくれているみたいだ。俺もやらないとね。
ささっとドロップアイテムを回収しきると、俺の防具職人がLV50になっている事に気付く。
忘れずに好色家をセットしてから、みんなと合流する。
「みんなも無事だね? ティムルのこと、ありがと」
「え、と……、ご主人様こそ大丈夫なのですか……?」
ん? なんでそんな心配そうな顔してるのティムル?
「さっきのダン、決闘した時のダンみたいだったのじゃ……。物凄く怖かったのじゃ……。もう怒ってないぃ……?」
「ああそういうことか。ごめんごめん、イライラしちゃって。怒ってないから大丈夫だよ。そもそもフラッタに怒ってるわけでもないんだから、そんなに怖がらないでってばぁ」
「ごめんダン、ぼくも、ちょっとだけ怖かったかな……。あんな怒り、見たことないよ。魔物が恐怖で逃げ出すほどの……、まるで世界を滅ぼすみたいなあんな怒りを、1人の人間が放ってるなんて……」
あらら。リーチェまでびっくりさせちゃったかぁ。
でもむしゃくしゃした時に世界ごと滅ぼしてやろうなんて、割と誰でも考えたことあると思うけどなぁ。
「3人とも気にしなくていいですよ。ご主人様は私達のことが大好きなだけですからね」
ははっ。相変わらずニーナは俺の気持ちをまとめるのが上手いなぁ。
そうだよ。ニーナの言う通り、みんなの事が大好きなだけなんだよ俺は。
「でもご主人様。貴方がいくら凄くても、貴方に出会う前の私達のことまで救おうとしなくていいんですよ?」
「……ニーナ?」
呆れたような、嬉しいような、なんだか複雑な顔をしているニーナ。
「ほらみんな。魔物がいない間に、ご主人様にぎゅーっとしてもらいましょう。えいっ」
「おわっ?」
ニーナが飛び込んできたので、慌てて抱きとめる。
「ティムルに対するドワーフの扱いにまで、ご主人様が怒らなくたっていいんですよ。私たちはご主人様に出会ってから、ずっと幸せなんです。でもそれは、過去があったからなんですよ」
過去があったから俺に出会えた、かぁ。
「えーいっ」
「おっとぉ」
飛び込んできたティムルを受け止める。
「私の為に怒ってくれてありがとうございます。でももうどうでもいいんですよ、あの里の連中なんて。こうしてご主人様に抱きしめてもらえれば、他のことなんてどーでもいいんですっ」
俺も、ティムルがこうして腕の中にいてくれれば。他のことはどうでもいいね。
「……でも、ありがとう。本当に、ありがとうございます……」
俺の胸に顔を埋めて、消え入りそうな声で感謝の言葉を口にするティムル。
そんな彼女が愛おしくて、彼女を抱きしめる腕に力がこもる。
「えいっ」
ティムルをぎゅーっと抱きしめていると、フラッタが可愛く飛びついてくる。
「怖いなんて言ってごめんなのじゃ。誰かの為にあんなに怒れるダンは凄いのじゃ。……でもやっぱり、怒ってない優しいダンのほうが、好きなのじゃ……」
ごめんごめん。
よしよしなでなでするから機嫌直してね。
「……えいっ!」
フラッタをよしよしなでなでしていると、最後にエロス大魔神が大質量で飛び込んでくる。
「ダン。君は本当に何者なんだい……? 君は本当に、神でも滅ぼしてしまいそうだよ……。世界を滅ぼしそうなダンと、ぼくのおっぱいを好き勝手にするえっちなダンと、どっちが本当の君なの?」
そんなのリーチェのおっぱいを好き勝手にするほうに決まってるだろ、常識的に考えて。
「むしゃくしゃしてごめんね。けどみんなに怒ってるわけじゃないから許して欲しいな」
誰に対しても怒るなってのは無理だよ。
だからせめて、お前達の敵くらいには怒らせてくれよぉ。
「そうそう。さっき防具職人が浸透しちゃってたんだけど、俺ってどのくらい戦ってたの?」
「えーっと……。ドロップアイテムの数から算出すると、ご主人様1人で500以上の魔物を殺してました……。お、おつかれさまです……?」
ニーナの言葉を疑う気はないけど、500ぅ?
そんなにいたかぁ? なんかそんなに倒した気がしないんだけど。
「ダンの笑い声でいっぱい魔物が集まったのじゃ。そやつらとの戦いの音で更に魔物が集まって、どんどん群れが大きくなっていったのじゃ。……でも、ダンが1人で皆殺しにしてしまったのじゃ」
「そんなにいたんだねぇ。物足りないくらいだったんだけどなぁ」
「……ニーナを疑うなら、ダンの持ってる魔玉を見てみると良いよ」
へ? と思いながらもリーチェの言葉に従って魔玉を見てみると、光ってら。
9回目、これで発光魔玉は40個かぁ。
全員分のミスリル武器、マジで射程内になってきたんじゃない?
「順調だね。こりゃ下手すると帰るまでに100個発光、あるかもしれないね?」
「ご主人様? たとえ魔玉のためでも、さっきみたいなご主人様は見たくないですからね?」
大丈夫だよティムル。
お前がどうも思わないなら、俺も気にしないことにするから。
次の魔物の群れが接近するまで、そのまま5人で抱きついたまま過ごした。
次々に襲いかかる魔物。
けれどもう恐れるほどのものでもない。襲ってくる端から斬り殺す。
防具職人が浸透していたので好色家を育成していたんだけど、最深部はLV1だけ上げるのが難しくて、勢い余って好色家がLV14になってしまった。
け、決してわざとじゃないんだよっ?
好色家のレベルを上げたらすぐに宝飾職人をセット。浸透を開始する。
12日目の昼頃、俺の豪商がLV50になる。
なんと先に育成を開始していたフラッタを抜き去ってしまった。早すぎる。
またまた勢い余って好色家をLV16にして、豪商の次は槍手をセットする。
槍手LV1
補正 武器強度上昇-
スキル 刺突時攻撃力上昇-
そしてその次は順当にフラッタが豪商を浸透させたので、フラッタを紳商に転職させる。
紳商LV1
補正 体力上昇 魔力上昇 持久力上昇 敏捷性上昇
全体幸運上昇+ 五感上昇 装備品強度上昇
スキル 稀少品出現率上昇
これで4人とも、8㎥のインベントリが使用できることになる。
いやリーチェも使えるっぽいので、5人ともだね。
「出ましたーっ! 10個目です! 10個目ですよっ、ご主人様ーっ!」
嬉しそうなティムルの声が、殺伐としたスポット最深部に谺する。
12日目の夕方頃、とうとう銀が10個溜まったらしい。順調すぎてついついにやけてしまうぜぇ。
材料が揃ったので、早速フラッタ用のミスリル武器を製作する事にする。
「抗い、戦い、祓い、貫け。力の片鱗。想いの結晶。顕現。聖銀のバスタードソード」
スキルを発動すると、確かに以前フラッタが持っていたのと同じ武器が完成していた。
聖銀のバスタードソード
無し 無し 無し
うん。悪くない出来だ。スキル枠も3つある。
というか紳商も2人になって銀は10個も出てるのに、スキルジュエルは全然出ないなぁ。
出来上がったばかりの聖銀のバスタードソードを、フラッタに献上する。
「はいフラッタ。スキルは付いてないけど大事にして欲しい。鋼鉄のバスタードソードはインベントリに仕舞っておいて、予備にしてくれたら良いよ」
「あ、ありがとうっ! ありがとうなのじゃあああっ! これで、これでもっともっとみんなの役に立つのじゃあっ!」
おお、無双将軍フラッタが燃えているっ!
てかフラッタは凄く役立ってるんだから、余計なこと考えなくて良いんだよ。よしよしなでなで。
そして宝飾職人のレベルが上がってきて初めて知ったんだけど、靴ってアクセサリー製作で作るのね。
そういや防具作成で出てなかったかもしれない。気にしてなかったわぁ。
アクセサリーの製作には魔玉を使うものも多いみたいなので、これは帰還してからみんなと相談して作っていこうかな。今のところ、戦力的にも不安がないからね。
帰還までに宝飾職人の浸透も終わってるだろうし。
そして次は槍手がLV30に。
念のためもう1戦したけどレベルが上がってないので、LV30で浸透しただろ。
上級職が出ない職業は浸透が分かりにくいなぁ。
好色家をLV17にしてから僧兵をセット。
僧兵LV1
補正 魔力上昇-
スキル 打撃時攻撃力上昇
うん。魔力上昇が地味に嬉しいな。装備製作は結構魔力喰うし。
それにしても、俺の浸透速度は笑えるくらいに早い。
ニーナとフラッタの紳商とか全然上がらない。
槍手が10レベル上がるうちに、ようやく1つ上がるくらいだった。
魔玉もパカパカ光って全然有難みがない。
ここに来るまでは1回ごとに一喜一憂してたのに、今ではハイハイ次々って感じだ。
間もなく13日目の朝を迎えそうなタイミングで、俺の僧兵がLV30に到達する。
我ながらどん引きする速度で上がるな。今回も上級職は現れず。
転職の合間にいつも通り好色家をLV18に。
次の職業は少し迷ったけど、そう言えば上げてなかった射手に設定。
射手LV1
補正 身体操作性上昇- 持久力上昇-
スキル 射撃時攻撃力上昇-
もうLV30で浸透できる職業が殆ど残ってない気がする。
そろそろ冒険者か? いや探索魔法士に手を出すべきかなぁ。射手を上げてから考えよう。
そして13日目の朝を迎えたので、当初の予定通り最深部を抜け出した。
緩衝地帯(仮)でひと息つく。
「えっと、発光魔玉が110個かな。笑っちゃうね。聖銀のバスタードソードに10個使ったってのにさぁ」
「フラッタの武器を更新したことと、ご主人様の動きが変わった事が大きいですねぇ。ご主人様、11日目に暴れてから、明らかに動きが変わりましたから」
みんなに飲み物を用意しながらニーナが褒めてくれる。
まぁね。なんとなく集中の仕方が変わった気はするよ。
「なんだか今回の遠征では、ご主人様にいっぱい愛してもらった気がしますよぅ。まさか32にもなってから、こんなに愛されるなんて思ってなかったですっ」
32なんて女盛りの真っ只中だね。
ティムルを見てるとホントそう思うよ。
「武器も防具もダンに用意してもらったのじゃ。全身がダンの愛で包まれているようで力が漲るのじゃっ」
そんなこと言われると、俺も色々漲っちゃうってばぁもう。よしよしなでなで。
マグエルに帰ったら、フラッタの内側も俺の愛で満たしてあげるからねっ。
「正直な話、ダンを見縊ってたよ。ダンなら本当にぼくをお嫁さんに貰ってくれるんじゃないかって、少し本気で期待してきちゃったなぁ」
まだまだ力不足だけどね。
それでもリーチェに期待感くらいは与えることが出来たようだ。
現在俺は射手LV12と宝飾職人LV46。これは出口までにはどっちも浸透するね。
ニーナは紳商LV11。ティムルは武器職人LV28。フラッタは紳商LV7だ。
並べてみると、俺の浸透速度が如何に狂ってるのかが良く分かる。
というか、好事家の職業追加で経験値が分散されてる実感がない。
職業追加って、もしかしてデメリット無しだったりするの? 特殊な職業っぽいしなぁ。
そして銀はなー、4つしか落ちなかったんだよなー。
ミスリルダガーを作る案も考えたんだけど、ニーナはミスリルの1つ下のブルーメタルダガーを使ってるし、ティムルには1回の遠征で2回も武器を更新しなくて大丈夫ですよー、と断られてしまったので、次回までキープしておくしかない。
俺用のロングソードまであと1つだったんだけど、予定を延ばして無理をして事故を起こしたくもないので、今回は大人しく帰ることにする。
緩衝地帯で長めの休憩を取った後、帰還を始める。
今回はエロい事はお預けだ。
ここでするより、さっさと帰ってイチャつきましょうということだ。
来た時よりも大分浸透が進んでいるので、帰りのペースはかなり早くなるんじゃないかと思うんだよね。
帰りはずっとニーナを先行させつつ、全員で護衛&デストロイだ。
そんな中、宝飾職人が無事LV50になり、インベントリを動かせるようになった。
8㎥のインベントリ2つって、結構圧巻だなぁ。下手な馬車より俺1人の運搬量のほうが絶対多いぞ?
そして、宝飾職人がLV50になったタイミングで現れた職業が問題だ。
付与術士LV1
補正 魔力上昇+ 身体操作性上昇+ 全体幸運上昇+
スキル スキル鑑定 スキル付与 技能宝珠出現率上昇
来やがった。とうとう来やがりましたよ付与術士。
つうかスキルぅっ! 技能宝珠出現率上昇って! 道理で紳商2人いてもスキルジュエルが出ないわけだよっ! レアドロと別枠なのかよぉっ!
好色家をLV19にしてから、迷わず付与術士をセットする。
最深部を出てから設定しても仕方ないけど、少しでも浸透を進めておくべきだ。次回も最深部に来れるんだしね。
往路と違って、復路はめちゃくちゃ早いペースで進めている。
というか魔物が弱すぎるんだよね。最深部で戦ってきた俺たちにとっては、もう質も量もヌルすぎる。
18日目。
なんか凄い早いペースで帰還が進んでいる。このペースだと20日目の夜には帰れるんじゃないかな?
早く帰れればそれだけ休暇が長くなる。
射手も間もなく30を迎えそうだし、LV20になった好色家には期待が止まらないぜっ。
そして19日目。
予想通り射手がLV30に上がって浸透が終わる。
好色家先生をLV20にして、次はアイテム職人をセットする。
生産職を2つセットする事になるけど、戦闘力に現在不満はないからね。生産ツリーはなるべく進めておきたい。
そして20日目の夜。
予定より大幅に早いスポット脱出。
今回の遠征で、俺は魔法使い、好事家、武器職人、兵士、防具職人、豪商、槍手、僧兵、宝飾職人、射手の10個を浸透させ、現在付与術士LV18、アイテム職人LV6だ。
ニーナは豪商を浸透させ、現在紳商LV18。
ティムルは豪商、職人を浸透させて、現在武器職人LV32。
フラッタは豪商を浸透させて、現在紳商LV14だ。
並べてみると、俺だけ5倍以上のペースで浸透が進んでるなぁ。
帰りの道中も魔玉は3度ほど光り、現在発光魔玉が125個ある状態。625万リーフっすよ。魔玉だけで。
もう税金とかで悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなるレベルだよ。次回なんかもっと稼げるだろうしさぁ。
そして20日振りに家に帰ってきた俺たちは、それを目の当たりにしてしまったのだ。
2部屋ぶち抜いて新設された、巨大な浴室の存在を……!




