111 激震の10日目
フラッタによると、武器種ごとの職業がもう少しあるらしい。
せっかく武器を自作できるようになったので、フラッタの話を参考にして打撃武器と槍を作ってみる。
メイス
鉄の槍
さくさくっと完成。残念ながらスキルは付けられない模様。
2つ作ったけど魔力枯渇の兆候が現れないのは、鋼鉄製じゃなくて鉄製で妥協したおかげなのか、兵士の全体補正上昇で魔力が上がったおかげなのか判断が付かない。
2つの武器でそれぞれ適当に魔物を倒す。
メイスも槍も使った事はないけど、職業補正のおかげで威力は充分だ。
2つの武器で魔物を倒したことで、無事に新しい職業を得ることが出来た。
僧兵LV1
補正 魔力上昇-
スキル 打撃時攻撃力上昇
槍手LV1
補正 武器強度上昇-
スキル 刺突時攻撃力上昇-
槍手は完全に剣士の槍バージョンだね。
そして僧兵の補正は少し変わっているなぁ。魔力の上昇に、打撃威力の中補正か。ゲーム的に考えると、モンクって感じのイメージだね。
この2つは恐らく最大LV30のはずだ。兵士が終わったらこの2つも浸透させてしまおう。
その次はどうしようかなぁ?
兵士の上位職だと思われる騎士の補正は超強力だ。その上の聖騎士なんて、ラスボスに挑めるレベルでしょこれは。
だから早めに上げておきたい一方で、フラッタとリーチェの苦言がチラついてしまう。このまま職業補正に頼り切るのは少し危ういかもしれない。
それに最低でもマグエルにいる間に、探索魔法士は上げておきたいところだ。
可能であれば冒険者の浸透も済ませて、いざという時の為にアナザーポータルも使えるようにしておきたいんだよなぁ。
次の職業浸透、マジで悩むなぁ……。
好事家のおかげで、戦闘職と生産職を同時に育成できるようになったのは非常にありがたいんだけど、人間って奴はどこまでも欲が出てきちゃうものだねぇ。
そうして迎えた遠征10日目。この日は色々なことが起こった。
強くなり続ける敵、それ以上の速度で浸透が進む俺たち。
おかげで俺の武器職人がLV50を迎えた瞬間、俺のインベントリが変貌を遂げた。
「ななななっ!? い、インベントリが、融合したぁっ……!?」
1㎥のインベントリが8つになった瞬間、全てのインベントリが融合して、8㎥のインベントリ1つになった。
「ああ、ダンは初めてのはずだよね。初めての時はぼくも驚いたなぁ」
突然の自体に戸惑う俺を、懐かしそうに笑うリーチェ。
どうやら彼女にはこの現象に心当たりがあるみたいだ。
「旅人や冒険者とか、インベントリ持ちの職業を複数浸透させると、インベントリが成長することがあるんだよ。ぼくも旅人と冒険者を浸透させているから、そのサイズのインベントリも利用できているんだ」
ス、スキルが成長……? そ、そういう仕様だったの……?
1㎥と8㎥は8倍の差がある。
つまり旅人のインベントリ3個と、武器商人LV50のインベントリが5個が合わさって、8㎥のインベントリに融合された……、ってわけかぁ。
8㎥のインベントリの獲得には、インベントリ持ちの職業のレベルを合計80上げる必要がある。
もしも2㎥のインベントリがある場合は合計LV270、64㎥の場合は640レベルも上げなきゃいけない。
64㎥は現実的じゃないけど、27㎥、合計270レベルは、ひょっとしたら……?
いやひょっとしたらも何も、各職人5種類とも上げたら、それだけで250レベルに相当する。27㎥は余裕でありそうだ。
1つになったインベントリに物が入ってるけど、武器職人が変更できるようになっている。間違いなく武器職人は浸透しているようだ、……って、あれ?
「ってことは武器職人の浸透が終わったって事なんだろうけれど、ミスリルより上の武器の作成が出来そうにないんだけど?」
「ごめん。それは流石に分からないかな。ダマスカス以上の品質の装備品は、殆どドワーフの職人たちで製法を独占してるんだ。ティムルはなにか知らないのかい?」
「んーごめんなさい。分からないです。私、鍛冶場に入るのを禁じられてましたし」
……種族的な制限でもあるのか? ドワーフじゃないと最終装備が作れない?
そう言えば6人の英雄の装備品も、仲間のドワーフが作り出したって話だったか。
「ねぇティムル。間もなく豪商の浸透も終わりそうだし、次に職人を上げてみる気はある?」
ティムルの豪商も、最大LVが50なら間もなく浸透が終わる。本人が望むなら生産職ルートの育成を目指してもらおうかな?
「俺も生産職は全部上げるつもりだから、別に断ってくれても問題はない。けどドワーフには装備作りの特殊な能力があるのかもしれないし、どうかな?」
「わ、私が職人っ……! 私が、ドワーフの面汚しと呼ばれた私が、職人に……!?」
ティムルが面汚しぃ? こんなに美人の何処が汚れてるってんだ。
ああ、いつも俺の顔を唾液でべとべとに汚してはくるかなっ。
「そんな綺麗な顔の何処が汚れてるって言うんだよ?」
結局我慢できずに言ってしまった。
美人のティムルに綺麗と言うことを我慢する必要なんてないもんねっ!
「職人になるのが辛かったりするなら、無理する必要は全然ないからね。俺もどうせ上げるんだし」
ティムルを正面から抱きしめてよしよしなでなで。
「ティムル。お前と初めて過ごした夜に言ったよな? 上書きとか取り立てとかの話」
「え? ええ、覚えてますよ? いつもやってますし……」
「俺にはティムルの過去は変えられないけど、今のティムルの中の自己評価を上書きしてやる事は出来ると思う。お前は最高の女だ。俺にとってのかけがえのない大切な女性だ、ってさ」
俺の言葉が嘘じゃないと証明するために、ティムルの体を強く強く抱きしめる。
「ドワーフ族が要らないと言っても、シュパイン商会が要らないと言っても、俺だけはお前を絶対に手放さない。大好きだよ。お前を迎えてからずっと、毎日惚れ直してるよ。俺はティムルが大切で、必要で、最高の女だとしか思ってないよ。うちに迎えてからずーっとね」
耳元で囁いた感謝の気持ちと大好きな気持ちをティムルの体に染み込ませようと、ひたすらティムルを抱きしめる。
するとティムルも俺に腕を回して抱きついてきてくれた。
……なんだか最近、フラッタとティムルに抱きつかれると、一瞬だけヒヤッとしてしまうぜぇ……。
「ズルいって、ズルいって言ってるでしょぉ……。私にはもうダンに渡せる物が無い。もうとっくに全部貴方に捧げてるっていうのに、何でダンはそんなに愛してくれるのよぉ……」
「そりゃティムルが美人でエロくて、最高の女だからに決まってるだろ」
俺のお嫁さんはみんな最高の女なんだ。
ティムルだって俺にとって最高の女性で最愛の女性の1人なんだよ。
「いつも言ってるでしょ。何も渡さなくていいんだよ。ただ俺の腕の中に居てくれればそれでいい。愛してる。いつもありがとうティムル」
何も差し出さなくっていいんだよ。俺もティムルも、お互い一緒にいてお互い勝手に幸せになろうって言っただろ?
魔物さんも空気を読んでくれているのか出てこないな。
ここで出てきたら全力で八つ裂きにしてやるけどね。ティムルを抱きしめたまま。
「職人、なってみたい……。今の私に渡せる物が無いなら、新しい物を手に入れて、そして貴方に捧げるわ……」
「……別に必要ないって言ってるでしょ。でもくれるなら全部、余すことなく受け取るけどね」
暫く抱きあってから、ティムルと離れる。
つ、辛いよぉ……! あと2週間、みんなとキスも出来ないとはっ……!
でもかなり奥地まで来てて、魔物だって普通に強い。危険な場所なのだ。エロいことは妄想までで我慢しなければ。
はぁぁぁぁぁ……。ほぼ1ヶ月間の遠征って、こんなに辛いものだったのかっ! 主にエロ方面でっ!
仕方ない。魔物さんに八つ当たりだぁっ! もうスポットの中の魔物、全部殺してやるぅっ!
「ねぇねぇニーナちゃん。1つ提案があるんですけど。ごにょごにょ」
「ほうほう? それはそれは……。フラッタ。リーチェ。ちょっとお話が……」
八つ当たりで好色家をLV9にして、追加職業に防具職人をセットする。
あーもう、好色家を上げても2週間は何も出来なくて辛すぎるぅっ!
防具職人を上げて、出来れば12日目に突入する前に、フラッタの体防具を作ってあげたい。
フラッタの体。その言葉だけでもうエロい妄想が止まらない。
魔物さん、全然足りないよっ! じゃんじゃん持ってきてっ!
「あ、ごごご主人様っ! 私のインベントリも1つになったのが分かりましたっ! 豪商の浸透が終わったんだと思いますっ!」
ひたすら魔物に八つ当たりしていると、どうやらティムルのインベントリが1つになったらしい。俺もティムルと1つになりたい。
じゃなくてティムルを鑑定すると、豪商LV50になっている。
どうやら豪商はLV50が最大レベルで間違いなさそうだ。
だってティムル、新しい職が出てるんだもん。
紳商LV1
補正 体力上昇 魔力上昇 持久力上昇 敏捷性上昇
全体幸運上昇+ 五感上昇 装備品強度上昇
スキル 稀少品出現率上昇
紳商? しんしょうって読むの? こんな言葉知らないなぁ。
言葉は知らないけど、補正もスキルも頭おかしいなぁ?
全体幸運上昇の大補正に、スキルでレアドロップ率アップ?
あ、頭おかしい……。これは絶対上げなきゃっ。
ま、今回ティムルには希望通り職人になってもらうけどね。職業設定っと。
「ティムル。職人に設定したから自分でも確認してみてくれる?」
「ほ、本当に、本当に職人になってる……! あ、ありがとうございますご主人様ぁっ!」
ティムルが飛び込んできたので、受け止めてよしよしなでなで。
なんだろう。年上の女性が甘えてくるのって、いいっすねぇ。
「それで、豪商の浸透が終わったら紳商って職業が出てきたんだけど、これについては知ってるかな?」
「紳商、か。ぼくも聞いたことないね。豪商の上位職業っ、てことだよね?」
「だと思うよ。豪商が浸透したタイミングで現れたからね。ティムルも知らない?」
リーチェは知らないようだったので、力いっぱい俺に抱きつきながら頬ずりしてくるティムルにも、改めて聞いてみる。
ティムルは商売人として過ごした時間が長かったのだから、商人系の職業には詳しいと思うし。
……しかし正面から抱きつかれると、俺のほうが身長低いのが結構目立つような気がするわぁ。数センチしか差はないはずなんだけどなぁ。
あ、脚の長さに、大きな差が……!?
「聞いたことないですねぇ。豪商は戦闘職じゃありませんし、あまり浸透が進まないのかもしれませんね。豪商になったような人は、もう人を使う立場になるでしょうし。ぎゅー。すりすり」
俺の頬に頬ずりしながら答えてくれるティムル。
なんかティムルがフラッタ化してるなぁ。
真っ白くてちっちゃなフラッタと、真っ黒で大きなティムルは正反対なのに、めちゃくちゃ可愛いなぁもう。よしよしなでなで。ぎゅー。
「人が使える立場なら、パーティを組んで他のメンバーに戦わせりゃいいんじゃないの?」
「ああ、明確に検証されたわけではないのじゃがの、あまり戦闘場所から距離を離れすぎると、浸透は進まないのでは? という説があるのじゃ」
なんかフラッタも抱きついてきたので、白黒の対照的な2人をぎゅー。よしよしなでなで。
可愛い。2人とも可愛すぎるぅ。2人とも大好きぃ。
「ただし、ダンのように浸透具合が眼で確認できるわけではないからの。なんとなく……、という印象は出ないのじゃ」
「なるほどなぁ。そもそもの1番始めに浸透させなきゃいけない商人が戦闘職じゃないもんね。商人を選ぶ人は、魔物狩りなんてやりたくない人が多いんだろうなぁ」
俺自身も転移ボーナスCを目にした時は、戦闘がしたくない人向けのボーナスだと思った記憶があるもんなぁ。
魔物が跋扈するこの世界。戦闘職を選ばない人は始めから魔物と戦う気は無いんだろうね。
「豪商はかなり戦闘向きだけど、数年間も商人としてやっていく商才があれば、その頃には商売一筋でやってけるってわけか。ぎゅー。すりすり。2人とも大好きぃ」
「ティムルは職人になるわけですから、もし紳商が必要でしたら、私の豪商を浸透させた後は紳商にしてもらって良いですよ」
ニーナの提案になるほどと思う。
ニーナの豪商も既にLV42に上がってる。この遠征中に浸透するのは間違いない。ティムルが生産職に進んでもニーナに紳商を上げてもらえばいいのか。
「それはいいかもね。ニーナと……、もし希望が無ければフラッタも紳商に進もうか? フラッタは今回で豪商の浸透が終わるか微妙だけど」
フラッタの豪商はLV28なので、今回上げきれるかはなんとも言えないところだなぁ。
いや、往路の間にLV25を越えている事を考えると、この遠征中に浸透が終わる可能性は少なくないはず。よしよしなでなで。
「それはいいのじゃっ。妾もニーナと一緒に紳商になるのじゃっ。ニーナとお揃いなのじゃーっ!」
「ふふ。一緒に紳商をあげましょうねーフラッタ。お揃いですっ」
俺に抱きついているフラッタに抱きつくニーナ。
スポットの中でなにやってんだろうね俺たちって。よしよしなでなで。みんな大好きぃ。
しかしニーナとフラッタが紳商を浸透させるのは素晴らしい。
全体幸運大補正が2人分、レアドロップ上昇が2人分乗っかってくるわけだ。敏捷性と装備品強度上昇もあるので、戦闘力の上昇効果も大いに期待できる。
そして何より五感上昇の中補正があるので、また帰還後の楽しみが1つ増えることになるっ!
俺が好色家上げるよりも、みんなの五感上昇を上げたほうが効果が大きい気がしてくる。
生産職ルートの育成を開始したティムルも、これからずっと五感上昇し続けるのかぁ。
……楽しみすぎてこのまま家に帰りたくなるなぁ。
そのあと直ぐにやってきた魔物の群れに邪魔されて、よしよしなでなでタイムは強制終了。
みんなとの逢瀬を邪魔された憤りを全て魔物にぶつけていると、なんと5回目の魔玉発光が起こった。
……は? 確か昨日も光らなかったっけ?
「ま、魔玉がこんなに光るなら、確かにブルーメタルやミスリルに手を出してもいいのかな、って思っちゃいますね……」
ニーナの呟きに完全に同意だ。
24個も発光魔玉があるんだから、多少武器の製作に回しても痛くなさそう。
更に俺の兵士LVが35になる頃、防具職人のLVも10に到達する。LV10では皮の防具が作れるようになったようだ。
インベントリの中身を確認し、材料が揃っている事を確認。
これでようやくフラッタに防具を用意してやれそうだよぉ。長かったなぁ……!
「拒み、防ぎ、遮り、護れ。力の片鱗。想いの結晶。顕現。皮の軽鎧」
フラッタに、皮の軽鎧と皮の帽子をプレゼント。
防具を2つ作ってもやっぱり魔力枯渇の兆候はないな。俺の魔力も上がってきてるんだろうなぁ。
「ありがとうなのじゃーっ! ダン、大好きなのじゃーっ!」
抱きついてくるフラッタをよしよしなでなでしながら、装備が適用されたか確認する為に鑑定っと。
フラッタ・ム・ソクトルーナ
女 13歳 竜人族 竜化解放 豪商LV29
装備 鋼鉄のバスタードソード 皮の帽子 皮の軽鎧 飛竜の靴 竜珠の護り
ちょっと心配したけど、皮の帽子と、髪飾りである竜珠の護りはちゃんと両立している模様。良かった。
ちなみに今回作成した2つの防具、どちらもスキルをつける余地はなかった。装備品の品質が上がるほどに、スキルを付けやすくなるのかなぁ?
往路のうちにフラッタの防具も用意することが出来て、まずはひと安心だ。
スポット内で集めたドロップ品でブルーメタル品質の装備品までは問題なく作れそうだし、全員の装備更新、マジで検討してみるか?
そんな大忙しの10日目の日没後。
俺達の目の前に、天まで届く巨大な漆黒の壁が姿を現したのだった。




