110 アウターレア
遠征6日目を迎える。
魔物は強くなってきているけれど、未だフラッタとリーチェが無双しててやばい。
俺自身もまだ火力不足は感じない。2人の足手まといにはなってないと思いたいけど、どうかなぁ。
俺の好事家と武器職人は共にLV24に到達。1日に10レベル以上上がってるな。頭おかしい。
そしてそのタイミングでティムルの豪商がLV30を迎えたけど、どうやら新しい職業は出ていない。
試しにティムルに職業設定を使ってみるけど、職業の変更は出来なかった。
これってつまり豪商のインベントリがまだ浸透してないってことだね。豪商は商人の上位職業だし、恐らくはLV50まで上がるんじゃないかな。
ニーナの豪商のレベルが上がってきたことと、ティムルの武器を更新した事で、2人ともゴーゴーレムに攻撃が通るようになってきたらしい。
ゴーゴーレムに攻撃が通れば、この付近の敵全てに攻撃が通る。殲滅速度がまた上がるね。
遠征7日目。往路の行程としては半分を過ぎたことになる。
新しく出てきた二足歩行のアルマジロ、アーマーリザードがすっげぇ厄介だ。ゴーゴーレムより硬い。めちゃくちゃ硬い。
フラッタとリーチェはズバズバ切り裂いてるけど、俺を含めて他の3人だと殆どダメージが通ってない。くっそぉ。
そしてその日、魔玉3回目の発光。25万リーフゴチでーす。
加えて、俺の好事家と武器職人がLV30になる。
職業設定を試してみると、武器職人は動かせず、好事家は外す事が可能になっていた。
これは好事家の浸透が終わったので追加職業は定着したけど、追加職業の武器職人は浸透が終わっていないので、インベントリ的な理由で外せない状態だってことかな。
好事家は無事に浸透したみたいだけど、残念ながら上級職はないっぽい。
忘れずに好色家をLV8にしてから、好事家の次はメインの職業を兵士に変えた。
兵士LV1
補正 体力上昇- 敏捷性上昇- 装備品強度上昇-
スキル 全体補正上昇-
今やパーティメンバーは5人。全体補正上昇の恩恵は大きいでしょ。
それに加えて装備品強度上昇もあるので、俺自身には2重の火力上昇補正が乗るはずだ。
いつかアーマーリザードを切り裂ける日を夢見て、今日も元気に浸透作業だっ!
そして武器職人LV30で解放されたレシピは、ニーナのダガーの素材である、ブルーメタル系の武器だった。
えーと素材は鉄と……、発光した魔玉だぁっ!? 馬鹿じゃねぇのブルーメタル!
でも良く考えると、武器ってそもそも高いんだよね。最弱のナイフですら4万弱くらいした気がするし。
ブルーメタルダガーってティムルにまけてもらっても12万するくらい高額だったから、1個5万の発光魔玉が使われててもおかしくは……、いやおかしいよ絶対っ!
みんなにも言いつけてやるぅっ!
「えっ!? このダガーって発光魔玉が使われてるんですかっ!? そ、そんな高価なものだったのですね……」
「そうなんですよ。しかもダガーのサイズで1個ですからね。 確かご主人様のロングソードを作る場合は4個くらい必要ですよね?」
武器職人にはまだなれないはずのティムルだけど、ブルーメタル武器のレシピは知っているようだ。相変わらず有能だなぁ。
「そしてフラッタちゃんのバスタードソードだと10個でしたっけ? 仕入れの話で聞いただけなので、間違ってるかもですけれど」
「ふむぅ。発光魔玉10個と言われると多いはずなのじゃが、1週間と待たずに10個発光しておるからのぅ。大したことないように思えてしまって困るのじゃ」
「確かにこのパーティにいると色々感覚が狂いそうだよ。ぼくたちの王子様は色に狂ってるみたいだし」
絶対リーチェにだけは言われたくないんですけどぉ?
大体俺は色に狂ってるんじゃなくて、お前らに溺れてるんだよ。そこんとこよろしく?
遠征8日目を迎える。
8日目くらいなら以前はそこまで疲労を感じなかったけど、前回よりも戦う魔物が強くなっている為か結構疲労を感じるね。
だけど魔物が強いおかげで浸透がガンガン進んでいく。
兵士のLVも10を越えて、アーマーリザードにもダメージが入るようになってきた。
夢見た日は結構近かった。
エロ集中で自分の動きを意識しながら剣を振っているんだけど、武器職人のレベルが上がってきているためか、今までよりもずっと精密な動きが出来るようになってきている。
魔物の攻撃に動きを合わせる事も出来るようになってきたし、五感上昇のおかげか、フラッタの剣筋は結構見えるようになってきた。
残念ながらリーチェの剣は全く見切れないけどぉ。
だが、だがしかしっ! 五感上昇の効果は間違いなく出ているっ!
つまり俺の感覚は敏感になっているということだっ!
なにが言いたいかと言えば、帰還後にみんなに触れるのが最高に楽しみって奴だああああっ!
エロ集中で魔物を倒し、戦闘で発散したエロパワーを帰還後のことを妄想して補充する。
完璧だ。完璧な循環エネルギーだ。
これぞまさに永久機関。エロは永遠に不滅です。
そんなノリノリ状態になった俺を見かねたのか、フラッタとリーチェが苦言を呈する。
「このパーティは浸透速度が早すぎるのぅ。それ自体は良いことなのじゃが、他の部分の強化が追いつかぬまま死地に踏み込んでしまいそうな、そんな危うさがあるのじゃ」
「フラッタの実力は疑ってないけど、防具が揃ってなかったりするもんね。ティムルも数日前まで、ただのダガーを装備してたし」
くぅ。耳が痛い話だよ。
耳だけお経書き忘れたってくらいに耳が痛い。
フラッタとリーチェの実力に甘えて進軍しているけれど、そもそも防具が揃わないうちに来るような領域じゃないんだ。
「ダンの戦闘技術と成長速度は大したものだと思うけど、この辺に来るには少し装備が足りてないよね。でも浸透した職業が多いから、装備の分を補えてしまう。うん、確かに危うい気がするよ」
俺とニーナの装備も、ここに来るには低水準らしい。
ずっと真面目に魔物狩りは続けてきたけど、なんだかんだとお金に余裕がなかったもんなぁ。
武器職人の浸透が終わったら必ず防具職人を上げて、少なくともフラッタの体防具は用意してあげないとな。
っとそうだ、防具と言えば。
「ねぇねぇ。防具って、というか装備品って最高で幾つ着けられるのかな? 俺が今まで見た感じだと、右手と左手に1つずつ、頭防具、体防具、靴、アクセサリーの6ヶ所、で合ってるのかな?」
「いえ、それに加えてもう1つ、腕防具というのがありますよ」
ティムルがサクッと回答してくれる。
腕防具か。そう言えばフロイさんがガントレットを着けていたっけ?
「肘当てやグローブ、ガントレットなどがこれに含まれますね。腕防具は靴と同じで、1対で1つの防具扱いです。リーチェの世界樹の護りは片側しかない腕輪なので、アクセサリー扱いということですね」
丁寧に説明してくれるティムル。
思ったよりもちゃんとした定義があるみたいだ。
「同じ部位に複数の防具を装備する事は可能なの?」
「それは出来ません。装備品として適用されず、装備品の効果も発揮されません」
流石に無理か。
装備品って魔法でピッタリサイズになるからなぁ。重ね着は出来ないかぁ。
「武器や盾は片手につき1つずつ。持てるのであれば、フラッタちゃんの持つバスタードソードを、2本振り回すことも可能です。ですが防具は1部位に1種類しか適用されません」
バ、バスタードソード二刀流……?
そこまでいったら無双将軍過ぎて、魔物が裸足で逃げ出しそうだ……。
「アクセサリーも同様で、例えばフラッタちゃんの髪飾りとリーチェの腕輪を一緒に着けても、始めに装備した方しか効果が発揮されないとされています」
なるほど。システム的なことはそれなりに検証もされてるわけね。
アクセサリーはアクセサリー枠がちゃんとあって、腕輪だろうが髪飾りだろうが同時に装備することは出来ないのかぁ。
俺の場合鑑定があるから、装備品が適用されているかどうかは、文字通り一目瞭然だ。
みんなにプレゼントとしてアクセサリーを贈ったけど効果がありませんでした、みたいなアホな事はしないようにしないとね。
「それと武器の種類の補足なんですけど、ダガーやナイフのように両手で持つ事が出来ない物を総称して小型武器と呼ぶそうです。小型武器の使い手はあまり居ないみたいですけど、小型武器じゃないと乗らない職業補正があるという話も聞きました」
小型武器って、どっかで見たな? どこだっけ。
職業設定で各職業の補正とスキルを確認していると、あった。盗賊のスキルが小型武器使用時敏捷性上昇だ。
「小型武器として投擲武器なども含まれるそうですけど、武器自体がかなり高額なので、それを投げつけるような使い手はあまりいないようですね。過去の話ですけど、インベントリを浸透させた賊が、大量のナイフを投げて猛威を振るった、とかなんとか」
なるほど、スローイングナイフってやつね。
それでも敏捷性が上がるなら一考の余地はあるかも。なんたって今の俺なら武器を自作できるわけだからな。
でも今のところ小型武器限定補正は、盗賊だけしか出てないからね。あえてこんなもん上げる必要はないか。
しかし、インベントリから無限ナイフはちょっとかっこいいな。
盗賊になると職業の変更がかなり難しくなるけど、旅人の浸透が終わったあとに盗賊になった場合は、問題なくインベントリが使用できるわけだ。
色々なパターンがあるもんだ。
「あっと、武器に関連してもう1つ。俺の剣士や短剣使い、ニーナの射手みたいに、使用武器によって現れる職業って他になにかあるかな? 知ってたら教えて欲しい」
「ふむ。ヴァルハールでは打撃武器を操る『僧兵』という職業の者に会った事があるのじゃ。あとは長柄を得意とする『槍手』という職業もあったと思うのぅ」
「基本的に武器は、斬撃、打撃、刺突、そして弓のような遠距離武器の4つに大別されると思っていいかな。以前鞭を扱う戦士にも会った事があるけど、鞭も打撃武器扱いだったし」
戦闘職に関してはフラッタとリーチェが答えてくれた。
斬撃と刺突が別扱いだと、今までロングソードで突きを放っていた時は、斬撃補正は乗ってなかったのかもしれないな。
「打撃系の補正を上げると、素手の威力も上がったり?」
「せぬ。攻撃補正はあくまで装備品に乗るものじゃ。ただし腕防具の手甲や篭手、足防具の足甲やグリーヴといった防具には、打撃補正を乗せることが出来ると聞いた事があるのじゃ」
ふぅむ。武器を手放してまで格闘を伸ばすメリットはなさそうか。
対人戦のために、技術を磨いておいて損はないだろうけども。
戦士LV30で武道家が勝手に表れた事を考えても、対魔物戦において格闘はあまり効果が期待できそうにないかぁ。
遠征9日目。
今回の遠征4度目の魔玉発光タイム。1回目は4個だったので、これで95万リーフ。マジで?
大丈夫? まだ往路だよ?
なんかブルーメタル武器、作ってもいい気がしてきてしまうなこれは。
なんて思っていたら、武器職人LV40で解放されたレシピはミスリルシリーズだった。
プロデューサーさん! ミスリルですよ! ミスリルっ!
材料は銅と鉄、それに発光魔玉と……、銀?
「ミスリルは別名聖銀とも言いまして、主に銀で構成された装備品なんです。ミスリルは不死系の魔物に強力な特効効果を持ち、剣でも槍でもミスリル製の武器は、装備者の攻撃魔法の威力を高めてくれる効果もあるんです」
本当にティムルは何でも知っているなぁ。
生産関係の話になるとリーチェよりも知識が豊富に感じるよ。
「竜王のカタコンベの魔物はアンデッドばかりじゃからのぅ。妾が以前持ち出していたバスタードソードもミスリル製なのじゃ。恐らく2、300万リーフはする品のはずじゃな」
「うおおマジで!? フラッタが以前使ってた武器を作れるようになっちゃったのっ!?」
今まで金欠で装備の更新を疎かにしてきたけど、そのおかげで一気にジャンプアップできそうな予感!
「でも他の材料は手に入ってるけど、銀は1度もドロップしてないね。街で買ったりできるかな?」
「無理ですね。素材は職人系ギルドに全て卸されていますので、ギルド未加入の者が購入することは出来ないんです。ギルドに加入するとご主人様の職業設定的に面倒が起こりそうですし、なんとか自力で集めるしかないでしょうねぇ」
うーん……。ただでさえ武器の流通量が少ないのに、さらにギルドで独占するなよなぁ……。
いやでも武器が高額だからこそ、完全自由取引にすると値段の高騰に歯止めがかからなかったりするのかな? だから職人ギルドで全体を管理し、物価の変動を最小限に、とか?
なんでもかんでも悪し様に捉えるのは良くないな。悪い癖だ。
「ちなみにミスリルの上にはダマスカス、ダマスカスの上にはオリハルコンという素材があるよ」
1
嫌な想像をして落ち込みかけた俺のテンションは、リーチェから齎された情報で一気に跳ね上がった。
ミスリルの次はダマスカスやオリハルコンとか! テンション上がるに決まってんでしょ!
「ミスリルは対不死者や魔法攻撃の威力を高め、ダマスカスは特別な効果はないが強度に優れておる。そしてオリハルコンは、ダマスカスの強度にミスリルの特性が加わった、完全素材と言われておるのじゃ」
リーチェの説明をフラッタが引き継いだ。
素材によって色々な効果があるみたいだな。今の俺には手が届かないだろうけど。
「竜爵家でもオリハルコンの武器などは父上がひと振り持っているくらいで、今後も殆ど目にすることはなかろうなぁ」
おおすげぇ。フラッタの家ってオリハルコン製の武器があるのかよっ。竜爵家やばいなっ。
「そしてオリハルコンの上には、現在人の手で作り出す事は不可能と言われている、アウターから出土する装備品に用いられる未知の金属、アウターレア製の装備品というものがあるんだ」
そして再度リーチェの口から、オリハルコンを超える金属の存在を知らされる。
アウターからのみ出土する金属、アウターレアねぇ……。
アウターから得られる強力な装備品として真っ先に思い浮かぶのが、転移ボーナスAの異界の剣だよね。アレって間違いなくアウターレア製の武器でしょ。
まさか、オリハルコンより上の存在だったとは……。
今になって転移ボーナスそれぞれの強力さが身に沁みる。
ボーナスA。オリハルコンの上位、この世界での最高級品質であるアウターレア製の武器とアクセサリー。しかもスキルは+補正が5つずつ付与されていた。
ボーナスB。職業を浸透させるための絶対的なアドバンテージである、鑑定と職業設定。
ボーナスC。戦闘補正もありインベントリ持ち、更には魔玉発光促進でガンガンお金を稼げる豪商でのスタート。そして所持品に金貨1万枚、1億リーフ所持してのスーパースタートダッシュだ。
今にして思えば金貨1万枚なんて持ち運びも出来ないし、もしかしたら豪商のLVは1からじゃなかったのかもしれないなぁ。
ボーナスBを選んだことに全く後悔はないけれど、どのボーナスが1番だとは一概には言い切れない、どれも非常に強力なボーナスだった。
だけど……うん。改めて思い返して、やっぱりBを選んだのは正解だったと思う。
分析官と法王って、3つの中では1番手に入れにくい能力だと思うから。
マグエルに到着するまでは苦労の連続だったけれど、鑑定と職業設定が紡いでくれた4人との縁こそが最高の転移ボーナス。
AとCのボーナスは、頑張って強くなって、いつか自力で手に入れてみせるからなぁっ。




