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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
序章 始まりの日々1 呪われた少女
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011 話し合い

 金も力も何も無い俺は、それでも無い知恵を絞ってなんとか奴隷商人ゴールの協力を得ることが出来た。

 まったく、我ながら綱渡りもいいところだよ。



「ダン様にはもう信じてもらえないかもしれませんが、私も出来れば彼女の事は死なせたくはありません」



 こちらを見ずに俯いたまま、搾り出すように語るゴールさん。



「ですが、もしも彼女の呪いを受けてしまったら……。そう思うと、どうしても彼女との契約を受け入れることは、出来なかったんです……」



 この世界で呪いがどのような扱いをされているのかは正直まだ理解出来ていない。


 けど俺としてはむしろアンタにニーナさんを受け入れても困るから。どうかそのまま拒否しててくださいねー?



 さて、ニーナさんを受け入れる気がないゴールさんの懺悔なんか聞いてても仕方ない。建設的な話、ニーナさんを迎える為の具体的な話をしようじゃないか。


 ゴールさんに協力してくれることへのお礼を告げて、話を進める。



「それじゃあ具体的な話を進めていきたい所ですけど……、ゴールさんのお時間は大丈夫なんですか?」


「お気になさらず! こんな面白い話を放って仕事など出来ませんよ!」



 たった今懺悔したばかりの人物とは思えないほど、ワクワクした表情を見せるゴールさん。

 いやいや仕事してください。ノリノリすぎでしょこの爺さん。



 記憶喪失であることを改めて伝えて、当日までの動きや移住先のピックアップ、当日に役人に気付かれないようにニーナさんの譲渡を済ませる方法などを相談していく。


 現地の常識を知らない俺よりも、現地人であるゴールさんの意見を尊重すべきだと思うのだ。



「それにしても、ダン様が人間族なのも都合がよろしゅうございました。彼女の呪いは遺伝いたしますので、ダン様が獣人族でしたら話は変わってくるところでしたよ」



 俺が人間族だったのが都合いい? 獣人族のニーナさんの呪いは遺伝するから、獣人族に譲渡するのは難しいって話か? つまりは……。



「えっと、異種族間では子供は出来ないんです?」


「ああ、記憶喪失なのでしたね。はい。同種族同士でなければ子は生せません」



 きっぱりと断定するゴールさん。異種族間では子供を作れないのは常識らしい。


 俺とニーナさんの間に子供は出来ないのか。ちょっとだけ残念だ。別にまだニーナさんとは恋人でもなんでもないのになっ。

 まぁいいさ。居もしない子供よりも本人の方がずっと大切だ。



「逆に言えば、種族が同じでしたら子供が出来ます。なので、獣人族は子供を作りやすいと言われていますね。何の獣人同士でも子供を生せますので」



 へぇ? 簡単に言えば、猫の獣人と犬の獣人でも子供が作れるってことか。子供はどんな感じで生まれるんだろ?



「あ、呪いと言えば、ゴールさんは呪いを解く方法とかご存じないです? ニーナさんは知らないみたいで」


「そう、ですねぇ……」



 せっかく協力を得られたのだからとダメモトで聞いてみたけど、やっぱりゴールさんの反応は芳しくない。世の中そんなに甘くないかぁ。



「呪いは魔法的な状態異常なので、通常の回復魔法やアイテムでは解呪できないと言われています。解呪するには専用のスキルか、最高級の魔法薬を用意するしかないのではないでしょうか」



 通常の方法では治せなくて、専用のスキルか最高級の魔法薬が必要ねぇ。


 解呪の方法はニーナさんの父親が生涯探し回っても見つけられなかった難易度だからなぁ。情報がふわっとしてるわ。



「では、それらの入手方法に心当たりは?」


「くくく……。解呪する気満々ですな、素晴らしい」



 面白がってるゴールさんには悪いけど、こっちにとっては生涯を左右する大問題なんだよっ。少しでも手掛かりを得たいと思うのが普通でしょっ。


 俺の問いかけに1度はニヤリと笑みを浮かべたゴールさんだったけど、続きを口にする前に小さく首を横に振った。



「ですが申し訳ありません。私には見当がつきませんな。最高級の魔法薬など、貴族でもなければ縁がありません」



 手に入れられないじゃなくて、手に入れる方法すら見当がつかないレベルなのか。こりゃ大変そうだ。


 しっかし貴族かぁ。やっぱいるよね。そもそも王国なんだから王族だっているのか。

 貴族にも権力にも興味はないし、出来るだけ関わりたくないところだけど。



 第三者から呪いの情報を聞いて、改めてニーナさんの置かれた状況の深刻さを痛感する。呪われた彼女の手を取り共に歩むのは、きっと俺が想像しているよりも遥かに困難なことなのかもしれない。


 さて……。俺はニーナさんの為に、いったいどこまでできるのかな?



「本当に金銭的な支援は必要ないので? 彼女と生きるのは、恐らくダン様の想像しているよりも、遥かに過酷な道となりましょうぞ?」


「魅力的な提案なんですけどね。そこはまぁ男の甲斐性って奴です」



 ゴールさんは金銭面での援助も申し出てくれたけど、それは謹んで辞退する事にする。



「それに自分の力で養う事も出来ない奴が奴隷を貰うわけにはいかないでしょ。ずっとゴールさんに頼るわけにもいきませんし」



 俺の言葉を聞いて、ゴールさんは何か言いたそうにして、でも結局何も言わずに引き下がった。


 ごめんねゴールさん。なるべくステイルークの人に貸し借りを残していきたくないんだ。もう、帰って来れないのだから。





 奴隷商人ゴールとの話し合いは長引いた。


 役人に勘付かれないように当日まではもう会わないことにしたので、出発までのことを細かく打ち合わせなきゃいけなかったからだ。



 打ち合わせを終えて商館を出ると、もう外は薄暗くなっていた。


 マジかよぉ。最初に武器屋に寄ったとはいえ、奴隷商館でほぼ半日も話してたのかぁ。道理で疲れてると思ったよ……。



 宿に向かって歩きながら、ニーナさんに聞いた話、ゴールさんに聞いた話を思い返す。


 まぁなぁ。役人の気持ちも分からないでもないんだよね。1番繁殖しやすいっていう獣人族が遺伝性の呪いを宿してるって事態は、確かに放置できない案件かもしれない。


 この世界の避妊についてはなにも分からないけど、遺伝するって事は広まるかもしれないってことだ。


 仮にニーナさんが呪いを受け継いだ男子を出産してしまった場合、その子が大きくなったら一気に被害が拡大してしまうんだよねぇ。



 街の住人の安全と平和を優先する役人さんって立場なら仕方ない考え方だとは思うけど、それでも1度抱いた悪感情ってのは簡単には消えてくれない。


 俺もこの街で生きていくのは……、もう無理だなぁ。



 しかし……、ニーナさんとの会話を思い返すと、俺完全にプロポーズしてない? 今まで彼女が出来たことすらないっていうのにさぁ。



 まぁでもリアルではさっぱりだけど、ネトゲでは割とモテる方だった。少なくともモテる方だと自分では思っていた。

 ネット恋愛に興味の無かった俺は誰にでも一定の距離感で接していて、それが逆に受けたらしい。


 そのモテ要素がリアル生活で発揮されたことは1度もなかったけどなっ。



 ニーナさんにあんなことが言えたのは、逆に恋愛感情を抱いていなかったからだよなぁ。そりゃあ可愛いとは思いましたけどね?


 う~ん、朝の会話を思い出したらニーナさんの顔を見るのが今さら恥ずかしくなってきた。



 ……というか、断られたらどうしよう? 宿に戻るの、なんか怖くなってきたなぁ。




 怯えながらも宿に到着。ビビりながら中に入る。


 こっそりと忍び足で食堂に向かうと、ニーナさんが2人分の食事を用意してテーブルについていた。



 俺の姿を確認したニーナさんから、ジトーって効果音が聞こえそうな目つきを向けられてしまった。我々の業界ではご褒美です?



「ようやく帰ってきた。あんなこと言っておきながら放置して出かけるとか、どんな神経してるのよ」



 呆れた様に吐き捨てるニーナさん。


 全く同感でございます。あんなこと言うなんて、あの時の俺ってどんな神経してたんだろうね?



「ほら座って。まずは夕食を食べましょ。私達の食事が終わらないと、迷惑がかかるから」


「は、はい。いただきます……」



 ニーナさんに促されるまま、彼女と向かい合った席に腰を下ろす。


 ニーナさんは話の前に食事を済ませようとしているのか、無駄口を叩かずに無言で夕食を口に運んでいる。そんなニーナさんの正面に座っている俺は無言のまま夕食を取るのが気まずくて、思わず周囲に助けを求め……。



 ……って、あれ? 俺たち以外誰も居ない?



「気付いた? ダンと私以外の難民は、全員出ていったんだって。……多分お役人さんが、私のことをみんなに伝えたんだろうね」



 俺の様子に気付いたニーナさんが、俺にだけ聞こえるような声量で事情を教えてくれる。



 ていうか全員出ていっただってぇっ!?


 なんってことしてくれたんだよ役人連中はっ! それじゃあと3週間弱、俺とニーナさんの2人っきりでこの宿で過ごさなきゃならないじゃんよぉっ!


 ……あれ? 論点ずれてる?



 でも大事な事で重要な事で、あんなこと言ったあとにいきなり2人きりにされて、いったいどうしろと?


 ははは。なんだか今夜の夕食は味が分からないなー?





 味のしない夕食の片付けを済ませると、他の難民が出ていってしまったこの宿には、俺とニーナさんの2人きりしかいなくなった。


 真っ暗な大部屋に、灯りもつけずに向かい合って2人で座った。



「ねぇダン。貴方に言われたこと、今日1日中考えてたの」



 暗がりの中、ニーナさんからド直球のストレートボールが放たれた。


 ぐぁぁ……! いきなり本題っすかニーナさん……!

 こ、心の準備が間に合わないよぉ……!



「ダンとは昨日会ったばかりだけど、それでも貴方が優しい人なんだろうなって思う。だから私の話を聞いて、私の助けになろうとしてくれたんだよね」



 ニーナさんの言葉が途切れるまで、黙って聞いておく。

 朝は言うだけ言って放置してしまったんだから、今度はニーナさんの言い分を黙って聞くべきだ。


 ヤ、ヤバい。胃のあたりがジリジリしてきた……!



「でも難民のみんなが出て行った方が当たり前。私と生きるっていうのはこういうことなの。私の味方をするって事は、この世界のみんなの敵になるってことなんだ。……だからね?」



 暗がりのせいで正面に居るはずのニーナさんの表情は分からない。けれどきっと彼女は、きっと俺に優しく笑顔を向けてくれているように思えた。


 ああでも嫌な流れだ。この先の言葉が容易に想像出来てしまう。



 ニーナさん待って。それを、その先を言われてしまったら。



「ダンには……、私のことを買わないで欲しいの」



 ごめんニーナさん。それを言われたらもうさぁ……。



「いや、もう奴隷商人には話つけてきたんで。安心してください」


「……………………は?」



 もう、手放したくなくなるじゃないか。



「奴隷商人には、俺がニーナさんの身受けすることを納得させました。ステイルークの外に行く準備も進めています」


「なん、で……?」



 固まるニーナさんに構わず捲し立てる。まるで彼女の意志を無視するかのように。


 ごめんねニーナさん。異世界に来た俺なんかよりずっと独りぼっちの君と、手を繋いで生きていきたいと思っちゃったんだ。



「手続き上奴隷契約は結びますけど、ニーナさんが望むなら、ステイルークの次の街で契約解除してもいいです。奴隷として扱う気も無いので安心してください」


「そうじゃなくて! なんでダンは私なんかに構ってくれるの!?」



 堪らずといった様子で叫ぶニーナさん。


 ごめんねニーナさん。俺にはその声が助けを求めているようにしか聞こえないんだ。



「なんで私なんかを助けようとしてくれるの! 私と一緒に居たら不幸になっちゃうの!」



 こんなに追い詰められているのに、それでも俺の為にと差し伸べられた手を振り払う優しい君を、絶対に死なせたくないんだ。



「父さんも母さんも死んじゃって、私だって生きていけなくて! 私は負担にしかなれないの! 不幸しか呼べないの! 私と一緒に居たら、ダンだって不幸になっちゃうのっ!」



 俺が不幸になっちゃうから自分は死んでもいいなんて、そんな悲しいことを言わないでくれよ。


 たとえ不幸になったとしたって、俺は君に生きていて欲しいんだから。



「……ニーナさんとお話する前なら、それも出来たかもしれないけど」



 この世界に電気が無くて、本当に良かった。

 ニーナさんの顔を見ながらだったら、こんなこと言える自信はない。



「俺にとっては……、ここでニーナさんを手放す方がよっぽど不幸になりそうなんです」



 まだ会ったばかりの君にこんなこと言うなんて、自分でもおかしいと思うけれど。


 そんなどこか冷静な思考を無視し、感情の赴くままに言葉を紡ぐ。



「ニーナさんが嫌じゃなければ、とりあえずお試しで良いんで俺の物になってみませんか? 不幸とか負担とか、余計なこと考える前に……、まずは一緒に生きてみましょうよ」



 俺が不幸になるのがダメなら、絶対に不幸になんてならないから。


 だから……、お願いだから死なないでニーナさん。

 頼むからどんな形であっても生きて、そして幸せになって欲しい。



「嫌じゃない、よ……。嫌なわけ……ないじゃない……!」



 真っ暗な部屋の中、ニーナさんの震える声だけが聞こえている。


 1度語り出したニーナさんは、堰を切ったかのように自分の想いを口にする。



「死にたくなんてない! 独りなんてやだよ! 父さんも帰ってこなくて、母さんも居なくなって……、独りぼっちになっちゃったけど、独りなんて嫌なのぉっ!」



 死にたくない。


 ようやく……、ようやくニーナさんの口から聞けた。



 死にたくないなら、死なないでくれよニーナさん……!



「だけどみんなの目が私に言ってくるの! なんでお前は生きてるんだって! 一緒に死ねば良かったのにって!」



 保護してくれた警備隊員。役人。そして同じ難民たちにすら拒絶され、世界中全てに否定されたニーナさん。


 そんな彼女を、俺は絶対に否定してやらないからなっ……!



「死にたくない! 死にたくなんてないよぉ! でもみんなが死ねって言うの! 私が生きてるのは間違いだって! 私は死ななきゃいけないんだって!」



 まるで血を吐くように苦しげに、ボロボロに傷ついた本心を見せてくれたニーナさん。


 そんな彼女に今すぐ近寄って、優しく抱きしめてあげたい。



 でも……、今の無力な俺にはまだその資格は無い。


 今はただ、彼女の激情と絶望を聞いてあげることしか、俺には出来ない……。



「人に気を遣う事や先のことを考えるって大事なことだけど、その為に自分を犠牲にしなくたっていいでしょ」



 他にできることがあるとすれば、俺の気持ちを正直に伝えることだけだ。



「ニーナさんは死にたくないんでしょ? だったら死んでやる必要なんかないって」



 ねぇニーナさん。俺ももう独りぼっちなんだよ。

 この世界で生きていけるかも、ぶっちゃけ分からない。


 でも後先考えて君を見捨てるくらいなら、後先考えず君の手を取りたいんだよ俺は。



「確かに俺はニーナさんと生きるってことを、軽々しく考えすぎてるかもしれないけど……」



 異世界から来たばかりだから世間知らずは許して欲しい。


 でも常識を知ってしまったらニーナさんを見捨てなきゃいけないなら、俺は馬鹿のままでいい。



「死んで楽になるより、生きて苦労してみません?」



 どんな苦労も、どんな苦しみも。

 独りじゃなくて2人なら、受け入れて生きていくことだってできるかもしれないじゃないか。


 だから――――。



「俺と、一緒にさ」



 ニーナさん。俺と一緒に、生きていこう?




 本心を吐露して疲れ切ったニーナさん。ニーナさんに伝えるべきことを全て伝え終えた俺。

 俺達は暫くこれ以上相手に伝える言葉を見つけられず、暗い室内には静寂だけがこだまする。


 そんな長い長い沈黙の後、ニーナさんが震える声で口を開く。



「……私、死ななくてもいいの? 生きていてもいいの? 1人じゃなくてもいいの?」



 戸惑うような躊躇うような、自信が無さそうなニーナさんのか細い声。


 死ななくていい。生きていてもいい。1人じゃなくてもいい。



 ……そう言ってあげようとして、でも思い留まった。



「ダンは、私と一緒に居たら不幸になって、嫌われて……。苦労ばっかりの毎日になっちゃうかもしれないんだよ? それなのに、私も一緒に生きてて、いいの……?」

 


 窺うような探るようなニーナさんの声。


 彼女が望むんでいるのは肯定の言葉だって分かってる。けど捻くれた俺はどうしても彼女の言葉を素直に肯定してあげることは出来なかった。



「……俺には、ニーナさんに許しを与える権利なんかないよ」



 俺の言葉に、ニーナさんが息を飲んだ気配がした。



 ごめん。君の望む言葉をかけてあげられなくて。だけどニーナさんを助けたいからなんて、同情で言ってるんじゃないんだ。


 ニーナさんと生きていきたいって、俺の我がままを伝えなきゃいけないんだよ。



「俺がニーナさんに死んで欲しくなくて、俺がニーナさんと生きていきたいと思って……、俺がニーナさんと一緒にいたいと思ったんだ」



 出会ったばかりで、会話したのだってまだ数回だけどさ。ニーナさんが可哀想だから助けたいんじゃないんだよ。


 俺、ニーナさんのことが好きだから……、君と一緒に生きたいと思ってるんだ。



「自分が生きていくのすら厳しそうな、頼りない男で申し訳ないけどね。まったく、我がままで嫌になるよ。ニーナさんが俺の為に言ってくれたことを、俺が嫌だから受け入れられないんだから」



 君の手を掴むのは、絶対に同情なんかじゃない。


 これは全部、俺の我がまま。俺自身の意志と選択だ。



「ねぇニーナさん。俺の我がままに付き合って、もうちょっとだけ生きてみない?」



 生きてていいんだよ、なんて絶対に言ってあげない。


 誰の許可も必要ないんだ。だから俺と一緒に生きようよニーナさん。


  

「苦労もさせるし、甲斐性も無いし、ハンサムでも無いし、いまだ村人だし、おまけに記憶だって無いけど」



 自分で言ってて嫌になるくらいの低スペックだよ。

 ニーナさんに申し訳なくなるレベルだ。


 ――――それでも。



「それでも……、ニーナさんと一緒に生きていきたいと、思ってるんだ」



 君のことを助けたい。


 でもそれ以上に、君のことを誰にも渡したくない。



「……ふふ」



 閉ざされた視界の中、ニーナさんの笑い声が聞こえる。


 ああ、ニーナさんってこんな笑い声なんだね。もっと笑わせてあげたいなぁ。



「私が生きていることが間違いでも、死ななきゃダメって言われても、1人で居なくちゃいけなくても……。ダンはそんなの全部お構いなしに、一緒にいてくれるんだ……?」



 ニーナさんから零れるからかうような明るい声。それを聞いて確信する。


 やっぱり俺、君の事が好きだ。



「私バカだから、死ねって言われたら死ななきゃダメなのかなって思っちゃう。だからお願いダン。私がなんて言っても、絶対に私の手を離さないでね?」



 ニーナさんが俺の手に、自分の手を重ねてくる。


 右手から伝わる体温に驚く。ニーナさんが近くに来ていたことにも気付かなかった。



 真っ暗闇の中、それでもなんだかニーナさんの顔をまともに見れない。


 灯りの無い部屋で、手から伝わる君の温もりだけがこの世界の全てみたいだ。



 ……抱きしめる資格はないとか言っちゃったけど、この手を握り返すことくらいはしてもいい、かな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンの熱さが、ニーナの背負ってきた辛さを覆うのが良かったです! ここからが大変なんでしょうが、乗り越えてほしいですね! [一言] 昨日から読み始めました!期待しています!
[気になる点] ここでもう読む気なくなったわ 強いかある程度稼げる 男は責任持てるようになったと思えるぐらいでそういう行動するんだよ [一言] びびりまくってた雑魚の貧乏人が都合よく奴隷女貰うのに感動…
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