108 5人での初遠征
最早スポットに足を踏み入れるのに緊張も何もない。
さっそくスポットの中に踏み込み、5人での初遠征を開始する。
「それじゃ今回も速度重視ね。リーチェも俺たちに構わず戦って良いよ」
今回の遠征の方針をパーティメンバーで共有する。
スポットの奥に行けば行くほど魔物は強力になり、儲けも多くなるのだから、細かいことは無視してどんどん進もう作戦だ。
その為にフラッタにもリーチェにも、気兼ねなく暴れてもらおう。
「っとそうだ。12日間の行軍で到達できるとは思ってないけど、スポットの中央に行ったら分かるもんなのかな? 通り過ぎてネプトゥコに向かっても仕方ないんだけど」
「分かるはずですね。又聞きになりますけど」
知っているのかティムルっ!
流石マグエルに拠点を置いて、長年商売してきただけの事はあるね。
なんだかんだと、ティムルに教えてもらうことって多い気がする。
「どこのアウターも共通なのか、それともここのスポットだけに限った話なのか、そこまでは分かりません。それは念頭に置いておいてください」
なるほど。スポットと他の場所では勝手が違う可能性があるのか。
ティムルに頷きを返して先を促す。
「スポットの最も魔力の多い地帯、つまりスポットの中心であり最深部である場所には、スポットの外円部と同じように魔力による壁のような境界線が出来ているそうです。ただし、漆黒の」
漆黒の壁かぁ。まさにボスエリアって感じがするねぇ。
「中に入っても身体的な影響は特に無いそうです。ですがその壁の内側と外側では、出現する魔物の強さが大きく変わるそうですね」
漆黒の壁は境界線みたいだな。生半可な実力ならここで引き返せっていう警告みたいだ。
「魔物が強くなる代わりに得られる利益も跳ね上がるとは言いますけれど……。今回の遠征でもし到達したら侵入してみる気なんですね?」
「到達できるかどうかがまず問題だけどね。もし到達できたら入ってみようと思うよ」
ボスエリアがなんぼのもんだ。こっちにはスーパーロボットフラッタと、ラスボス級戦力のリーチェがいるんだいっ!
他力本願乙すぎるけど、俺自身もそこで戦えるようにならないと、アウターを巡る旅の話なんて出来ない。
おぼろげながらも見えてきた最終到達地点目指して、今はただ全力で突き進むのみだ。
遠征1日目。
ニーナには戦闘を一切無視してもらって、ずーっと進み続けてもらう。だって事故もありえないし。
戦闘もドロップ品の回収も俺、ティムル、フラッタの3人で行い、リーチェには一応護衛としてニーナに付いてもらっている。
戦闘が終わったら3人で全力でニーナを追いかけて、少しでも移動距離を稼ぐ。
3人とも持久力には自信のある職業浸透をしてるから……、いやフラッタは浸透関係なく凄いんだっけ。まぁ3人ともスタミナには問題無いはずだ。
移動するだけで1日目が終了すると思ったその時、ちょっとした出来事があった。
「赤き奔流。紅蓮の災禍。赫灼たる魔の炎。汝、焼き滅す者よ。フレイムサークル」
俺が詠唱すると、マーダーグリズリーの立っている場所を中心に、直系3mくらいの魔法陣が地面に出現する。
1秒程度経ったあとにその魔法陣から勢い良く炎が噴出し、マーダーグリズリーは跡形もなく燃え尽きていた。
……なぜかドロップアイテムは燃えてないなぁ。
「は、話には聞いてたけど、本当に凄まじい浸透速度だね……。もうフレイムサークルを使えるようになるなんて……」
リーチェが俺の魔法習得速度に慄いている。
魔法使いLV10になった時点で新しい魔法と、その詠唱呪文が頭に浮かんできたのだ。
どうやら10レベルごとに新しい魔法を覚える仕様なのかな?
新しく覚えた魔法のフレイムサークルはターゲット指定型の魔法で、指定された魔物の下から炎が噴出して攻撃するらしい。
パーティメンバーは指定対象に出来なかった。
フレイムランスが高速射出型の攻撃魔法だったことに比べて、こちらは発動に一瞬のラグがあるけれど、上手く使えば魔物を数体一気に倒すことが出来そうだ。
初級攻撃魔法って炎系しかないんだろうか? というか属性の概念はあるのかな?
「結構攻撃範囲の広い魔法みたいだけど、みんなを巻き込んじゃったりする可能性ってあるのかな?」
「それは無いので安心していいのじゃ。攻撃魔法はパーティメンバーを透過するからのぅ。原理や理屈は分かっておらぬがな。それと先ほども見た通りドロップアイテムにも影響は無いのじゃ。不思議じゃのう」
「不思議だけど、みんなを巻き込まずに済むなら積極的に使ってみるよ。理想を言えば剣で戦いながら発動できるようにしておきたからね」
フレイムランスは好きなところに発射できて、フレイムサークルは細かく狙いを付ける必要がない。
一長一短だ。どっちも使い分けていきたい。
遠征2日目。
4人が常に傍にいるためエロい思考には事欠かない。エロ集中を駆使して、近接戦闘をしながらの魔法詠唱を練習する。
今のところ魔力を使用するスキルは攻撃魔法だけなので、魔力を温存する意味はない。魔物戦で陽炎を使う必要性は感じないしね。
剣の届かない場所に攻撃できるのは、殲滅力を上げるという意味でも凄く重要なんだから、完璧にモノにしておきたい。
そしてその2日目の間に、フラッタの商人が浸透を終えた。
「フラッター。商人の浸透が終わったよ。次になりたい職業とかある?」
「勿論豪商になるのじゃっ! これでニーナとティムルとお揃いなのじゃっ」
嬉しくて仕方ないといった様子のフラッタをよしよしなでなでしながら、彼女の職業を豪商に設定する。
豪商LV1
補正 体力上昇- 持久力上昇- 幸運上昇 装備品強度上昇-
スキル 魔玉発光促進 インベントリ
嬉しそうなフラッタの様子にニーナがよしよしなでなでしたそうにしていたけど、先行しているのをやめてまでフラッタを撫でるのは流石に自重したようだ。
いや当たり前だからねニーナ? そんな悔しそうな顔されても……?
遠征3日目。
早い。明らかに早い。前回の遠征の移動速度もかなり早かったと思っていたのに、今回は更にそれを大きく上回る進行速度だ。
流石にこの辺りから、ニーナの傍にいるリーチェも魔物を倒す機会が増えてきた。それでもまだニーナには先行移動させている。
リーチェがいなくても戦える場所で、リーチェに守られてるニーナに危険なんてあるわけがない。
しかし遠征3日目は、色々なことが起きた日だった。
「おおっ……。フラッタも豪商になったし、順当と言えば順当、か?」
前回から育てていた魔玉4つが光ってくれた。
これで20万リーフゲットだぜ。ウマウマですなぁ。
「は、早い。魔玉の発光まで早いね……! 本当にこのパーティは規格外だよ……!」
1番の規格外、ラスボス級戦力のエロス大明神がなんか言ってる。
お前こそ戦力的にもエロ的にも規格外でしょ。
魔玉発光の興奮も冷めやらぬ中、次に起きたイベントは新しい魔法の習得だ。
「赤き妖炎。紅蓮の侵食。焦熱の火焔。滲み出たる煉獄の聖火。炎天より招きし猛火で、眼界総てに緋を灯せ。フレイムフィールド」
詠唱が終わると、俺を中心とした半径20メートルくらいの範囲に、地面から炎が噴出してくる。
魔法使いLV20で覚えたフレイムフィールドは、どうやら範囲攻撃魔法のようだ。
フレイムランス、フレイムサークルと比べると威力はかなり低そうだし、発動は俺を中心としてしか出来ない。
けどなぜか俺にもみんなにも魔法の影響は無く、ドロップアイテムも燃えてない。地面や草木も燃えてないし、本当に魔物だけが燃えている。
どうやら本当にフレンドリーファイアの心配は無さそうだね。
皆を巻き込む心配が無いなら範囲攻撃はかなりありがたいな。スポットの入り口付近の戦闘時間を大幅に短縮できそうだ。
混戦の時にはとりあえず撃つだけでも、魔物に対する有効な嫌がらせになるだろう。
「あ、呆れるよ……。フレイムサークルを覚えた2日後に、フレイムフィールドが使えるようになるなんて……。人によっては年単位かかる修行を、たった2日間で……」
驚いているリーチェには申し訳ないけれど、彼女の言い分には首を傾げてしまう。
レベルを10上げるのに年単位かかるの? 流石にちょっと信じられないよ。
魔法使いって特権階級に独占されてるイメージだし、甘やかされてるんじゃないのぉ?
ちなみに現状だとフレイムランスが7発、サークルが4発、フィールドが2発で魔力枯渇の症状が出始める。
限界まで絞ればもうちょっと撃てるだろうけど、魔力枯渇は辛すぎるから絶対やらねぇ。
「そう言えば、浸透した職業の数ではフラッタに負けてないのに、ティムルの熱視もニーナの獣化も発現しないね?」
「それはそうじゃろう。妾は浸透数ではダンには及ばぬが、斬り殺してきた魔物の数は比べ物にならぬと思うのじゃ。確実に職業を浸透させるために、毎日のようにルインに篭っていたわけじゃからのう」
そうやって殲滅天使フラッタちゃんは作られていったのか。
「フラッタが竜化できるようになったのはいつ頃だったの?」
「確か……、11の頃の年末じゃな。少なくとも3年近い歳月が必要だったということなのじゃ」
なるほどなぁ。仮に竜化と獣化の発現に必要な経験値が同じだとすると、まだまだ獣化は出来ないかな。
熱視のほうは、なーんか別の条件ありそうなんだけどねぇ。
そんな風に悩む俺に、ニーナが少しおずおずとしながら声をかけてくる。
「ご主人様。獣化の最大のメリットは身体能力の向上です。ですが私は高速移動が全く出来ません。なので獣化が発現しても、恐らくあまりお役に立てないかと」
「ああごめんごめん。単純にニーナの獣化が楽しみなだけだよ。獣化しないとニーナが何の獣人なのかも分からないしね」
ちなみにニーナのお父さんは狼、お母さんは鷹の獣人だったらしい。鳥人というカテゴリは無い模様。
お母さんは獣化すると数メートルの高さなら飛べたらしく、空中からの遊撃を担当していたみたいだ。
だけど呪いを受けた以降は飛ぶ為の助走すらできなくなってしまい、ニーナの前でさえも獣化をしてくれなくなったのだそうだ。
獣人は不思議なことに、親子で獣化が受け継がれる事はないらしい。なのでニーナが獣化したら、突然猫耳が生えてくる事も充分にありえる。
猫耳ニーナ。素晴らしい。早く獣化しないかなっ。
俺の魔法使いはLV20を迎えたわけだけど、流石に奥に入るほどにレベルアップ速度は早まっている。上手くいけば明日にも30に到達できると思う。
さて、魔法使いは30が最高なのか、50、または100まで上がるのか。明日は少し楽しみだ。
出来れば30で打ち止めであって欲しい。好色家先生が待ってるのでね?
遠征4日目に突入。
今回の遠征は24日予定なので、まだまだ序盤である。
「赤き奔流。紅蓮の災禍。赫灼たる魔の炎。汝、焼き滅す者よ。フレイムサークル」
今日も剣で戦いながらの魔法発動の練習だ。
練習にはフレイムサークルが最も相性が良かった。処理する情報量が少ないからね。
狙いをつける必要もないし、目視出来ればほぼ無限射程のフレイムサークルは、細かい事を考える余裕の無い近接戦闘中にも使いやすいんだよね。
魔法によるフレンドリーファイアの無い世界で、本当に良かった。
ちなみに新しく覚えたフレイムフィールドは、消費魔力が大きいのもあるけど威力が低いので、もう今の戦場だとあまり役に立たなかったりする。
「ご主人様は本当に強くなりましたねぇ。今でしたらあの時の野盗くらい、正面から制圧出来てしまいそうです」
「はは。ティムルもあの頃と比べると、かなり戦い慣れたと思うけどね。でも褒められて悪い気はしないね。ありがと」
懐かしいなぁ。アッチンでのティムルとの出会い。
確かにステイーダからアッチンまでの道中が、この世界で1番辛かった。死に掛けたのはフラッタとティムルにハグされた時だけだけど?
あの最も辛い時期にティムルと縁を結べたのは、俺にとっての最大の幸運だったのは間違いない。
「ティムルと出会う辺りが、この世界に来て1番辛い時期だったよ。あの時に助けてくれてありがとうティムル。おかげで俺もニーナも、こんなに強くなれたんだ」
「ふふ。あの時助けてもらったのはお互い様ですよ。ご主人様がもう少し遅かったら、私もニーナちゃんも野盗の慰み者にされるところでしたから」
あー、そんなこともあったなぁ。
あの野盗、今の俺だったらバラバラに引き裂いてやれるのにぃ。
なんてティムルと雑談していたら、魔法使いがLV30に到達した。
LV30で覚える魔法が無いことは感覚で分かる。って事は恐らく30で浸透したんじゃないかな。
さーってと、好色家先生を上げる前に、新しい職業をチェックしなきゃね。
攻撃魔法士LV1
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 中級攻撃魔法
支援魔法士LV1
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 支援魔法
回復魔法士LV1
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 回復魔法
探索魔法士LV1
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 探索魔法
好事家LV1
補正 全体幸運上昇
スキル 職業追加
…………は?
職業、追加ぁっ!?




