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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
序章 始まりの日々1 呪われた少女
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001 異世界転移は突然に

『通信が切断されました。ボタンクリックでタイトルに戻ります』


「はぁ~……。本当に終わっちゃったよ~……」



 パソコンのモニターに映し出された文字を見て、思わずため息が零れる。


 ここ2年ほどプレイしたオンラインゲームが、たった今サービスを終了してしまったのだ。



「明日からなにしようかなぁ……」



 子供の頃からゲームが好きで、それは社会人になっても変わらなかった。


 課金にはあまり興味が無く、お金をかけずにダラダラとプレイするのが俺のプレイスタイルだ。



 たった今サービスが終了したゲームも、熱中するほどやりこんだわけでもない。


 好きなキャラクターデザイン、心地良いBGM、マイペースでゆっくりプレイできる点が気に入ってたんだ。



 ただ、ゆっくりプレイできるせいであまり重課金者が居着かなかったらしく、なんとか2周年を超えたばかりのタイミングでサービス終了の運びとなった。



「終了するくらいならもっと課金周りを強化してくれても良かったのにな……。良心的な運営だったけど、そのせいでサービス終了は勘弁して欲しかったよぉ」



 ま、殆ど課金していなかった俺が言っていいことでもないんだけどさ。



 今時はゲームがサービス終了してしまう事なんて珍しくもない。


 俺自身、サービス終了に立ち会うのは今回が初めてじゃないしな。



 それでも、気に入っていたゲームがもう2度とプレイできないとなると思うところはある。


 毎日プレイするゲームは日常生活の一部とも言えるのだから。


 

 終了したことが悲しい?


 いや、今はただただ寂しいと感じるだけだった。



「…………」



 モニターの中では終了を惜しむユーザーたちが街に集まって楽しげに騒いでいて、けれど停止したままもう2度と動く事はない。


 なんとなくタイトルに戻る気にもならず、そのままの画面をぼうっと眺めていた。



「ふわぁ~……」



 しかしサービス終了を迎えて気が緩んだのか、なんだか一気に眠くなってきた。


 最終日ってことで、昨日は徹夜しちゃったからなぁ。



 止まってしまった世界をぼんやりと見ながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていった――――。

 





「――――う、ん……? やべ、椅子で寝落ちしてたのか……」



 気付くと、どうやら俺はパソコンの前で座ったまま寝落ちしてしまったみたいだ。



 ゲームで寝落ちって、俺は殆どしたことないんだけどなぁ。


 自分で思っている以上に脱力してしまったのかもしれない。



 寝惚けた頭でパソコンの時計を確認すると、サービス終了時刻から3時間以上経過していた。



 誰に知られる心配もないんだけど、物凄くゲームにすがり付いてるみたいで少し恥ずかしい。


 いい加減ゲームを終了しないと。

 


「……あれ? なんだこれ?」



 キーボードに手を伸ばしたところで、画面に表示されたメッセージが変化していることに気付く。



『ゲームの終了に対して、大きな喪失感を抱いてしまった貴方へ』



 確か寝落ちする前は、ボタンクリックでタイトルに戻るってメッセージだったはずだけど……。


 寝惚けた頭でメッセージの先を確認していく。



『終了したタイトルをプレイする事は2度と出来ませんが、新しい世界をご案内することは出来るかもしれません。当メッセージに興味を持たれた方は、ゲームクライアントを終了せずに当メッセージウインドウをクリックしてください』



「……なんだこれ? こんなの聞いたことないぞ?」



 同じメーカーが運営している他のゲームへの誘導とかかな?



 パソコンに触る前に、スマホで軽く、ゲーム名とサービス終了というワードで検索してみる。


 ……情報はなさそうだ。



「ウイルス……とかではないよな?」



 不安に駆られてセキュリティチェックしても、特に問題は無いようだ。


 そもそもゲーム内のプログラムの1つだとしても、ゲームサーバから回線が切断されてるのにこんなこと出来るんだろうか?



「一定時間放置したことによる開発からの隠しメッセージ……とか?」



 昔のゲームではエンディング後にユーザーに向けたメッセージが仕込まれてる作品とかもあったらしいけど、このメッセージもその類いだったり?



 昨今のネット社会においては、不審なモノには触れるべからずってのは常識だと思う。


 だけど正直な話、少しワクワクしている自分がいる。



 好きなゲームの開発者がユーザーに向けた隠しメッセージ。


 それがたとえ別のゲームへの誘導だったとしても、1ユーザーとして興味がそそられないわけがない。


 課金が足らずにサービスを支えられなかった罪悪感もあるし、多少のリスクは飲み込んでメッセージを確認してみよう!



 ワクワクした気持ちを抑えながら、画面に表示されたメッセージウィンドウをクリックする。



『これより幾つか質問いたします。ご案内の参考にさせていただきますので、なるべく本心をお聞かせください』



「ふーん? アンケートみたいなものかな?」



 回答によって紹介してくれるゲームが変わるっぽいね。


 出来ればネットに情報が出回るまで待つべきか……。



 って、まだゲームの紹介すらされてないのにネットに頼ろうとしてる俺って、馬鹿みたいじゃね?



 ここはなるべく直感で回答していこう。


 紹介されたゲームが自分に合ってなければ、その時はプレイしなきゃいいだけの話だ。



『ゲームをプレイする際にリセマラはしますか? YES NO』



 リセマラって、ゲーム開始時にランダムで貰えるキャラクターやアイテムが、自分の欲しいものになるまで何度もやり直しすることだっけ?


 やった方が有利なのは分かってるんだけど、早くプレイしたいって気持ちのほうが強いからやったことないな。



「NO、と」


『隔絶した能力で最初から特別な存在、平凡な存在からの地道な育成。どちらを好みますか?』


「これは後者だなー。育成要素の無いゲームなんてRPGとして楽しめないし?」



 キャラの育成好きなんだよね。レベリングも嫌いじゃないし。


 それに俺みたいなライトゲーマーは、特別な存在になろうとしたらオンラインゲームはプレイできないって。



『超科学によるSFと剣と魔法の世界、どちらを選びますか?』



 これはファンタジーかな。


 SF系の作品でロボットを操作するのも楽しそうだけど。



『1人、または少人数でいる事と大人数でいる事、どちらを好みますか?』



 これは少人数の方かな。


 視野が狭いのは自覚してるし、あまり大人数で戦争するようなゲームには興味無い。



『明確な目的のある世界とない世界では、どちらを好みますか?』



「なげ~……。まだあるのかよぉ……?」



 なかなか終わらない質問の量に少しうんざりしながらも、なるべく本心だと思える回答をしていく。


 なんか心理テストされてるみたいだ。



 治安とか世界の広さとか、ちょっと変わった質問も多くて新鮮ではあるけど、先の見えないアンケートにちょっと疲れてくる。



 先にコーヒーでも淹れてくれば良かったなぁ。


 回答を始めちゃったから、中途半端にして席を立つのもなんだか気持ち悪いし。



『新しい貴方の名前を決めてください』


「おっ」



 思わず声を出してしまった。


 質問は終わりで、ようやくキャラメイクに入るのかな?



 でも未だになんのゲームも紹介されてないのに、いきなりキャラメイクさせるの?


 これってやっぱり少し怪しいかなぁ。やるけどさ。



 先ほど終了したゲームで使用していたメインキャラの名前を入力する。


 『だ ん ご も ち』と。



『貴方の名前は だんごもち で宜しいですか? YES NO』



 YES……、と思ったけどちょっと思い直す。



 俺のだんごもちはたった今電子の海に還ったばかりだ。


 アイツと別れるのは寂しいけど、2年間も頑張ってくれたんだから休ませてやるべきかな?


 それに折角新しいゲームをプレイするんだし、キャラクターも新しくしよう。



 でもだんごもちの系譜って事で、加えてファンタジー世界でも違和感無いように……。


 うん、ダンでいいか。



『貴方の名前は ダン で宜しいですか? YES NO』


「宜しいですよー。決定っと」



 しかし名前って、普通キャラメイクしてから1番最後に命名するもんじゃね?



 それとも名前以外変更できないタイプのゲームだったり?


 NPCを操って戦う、みたいな。



『新たな世界に旅立つ貴方に、1つだけ贈り物を致します。貴方が欲しいものを1つだけ選択してください』


「あ、初回ボーナス的な奴か……って、なんだこれ?」

 


『A:戦闘が有利になる強力な装備品』

(内容:片手剣『異界の剣』、アクセサリー『魔神皇の腕輪』を最初から所持最初から所持)

 異界の剣

 性能 物理攻撃力上昇+ 魔法攻撃力上昇+ 体力吸収+ 魔力吸収+ 貫通+


 魔神皇の腕輪

 性能 物理耐性+ 魔法耐性+ 全状態異常耐性+ 詠唱短縮+ 装備品強度上昇+)



『B:育成が有利になる大器晩成型の能力』

(内容:職業『分析官』のスキルである鑑定、職業『法王』のスキルである職業設定が始めから使用可能)



『C:金策が有利になる社会的地位と潤沢な初期資金』

(初期職業が『豪商』。所持金が金貨1万枚)



「『※いずれも元々存在するものなので、後に自力で入手する事が可能です』……。いやいや、いくらなんでも強力すぎだろ?」



 提示されたボーナス内容に思わずツッコミを入れてしまった。


 どんなゲームを紹介されるのか未だに分かんないんだけど、それでもゲームバランスを破壊するんじゃないかって心配になるようなラインナップだ。



 Aの装備品は数値化されてないからイメージしにくいけど、攻撃面も防御面もぶっ壊れてるようにしか思えない。ひと言で表すなら廃課金装備に見える。


 3つの選択肢の中では1番インパクトがあるな。



 Bは『法王』なんて明らかに最上位職みたいな名前の職業が気になる。


 っていうかBを見ると、職業選択の制限が結構キツい世界観なのかな?



「鑑定はどんな扱いなんだろ?」



 ドロップ品や生産品は鑑定しないと使えなかったりするんだろうか。鑑定料でゲーム内通貨を調整するゲームは少なくないしな。


 でも、鑑定が育成に有利ってどういう意味だ?



「Cは……。これはちょっと俺にとっては微妙かなぁ」



 これは戦闘をせずに生産職、商人プレイしたい人向けなんだろう。


 初期資金が多いとスタートダッシュしやすいと思うけど、ゲーム内の物価も分からないのに金貨1万枚って言われても微妙でしかない。



 ということでCは除外するとして……。



 RPG好きとしては、正直なところ強力な装備品には凄く心惹かれる。


 けれど始めから楽をしすぎると、ゲームに飽きるのも早かったりするんだよなぁ。



 それに俺がやりたいのは無双プレイじゃなくて、まったりカジュアルプレイだ。


 そういう意味では、スキルは使えるのに職業は変わらないっぽいBの選択肢は魅力的だ。



 これでアクション性がめちゃくちゃ高くて、戦闘が難しいゲームだったら苦労するかも。


 反射神経にも自信ないしゲームもそこまで上手くないし……。



 まぁそうなったらそうなったで、時間をかけて慣れればいいでしょ。


 育成重視のBを選び、決定する。



『最終確認です。貴方は今いる世界を捨ててでも、新しい世界での生活を望みますか?』


「お、ようやく最後かぁ」


『新しい世界に赴くと、2度と元の世界には戻れません。それでも貴方は新天地へと向かいますか? YES NO』



 捨てるもなにもサービス終了しちゃったんだから、元々戻る場所なんてないっての。


 本音を言えば新しいゲームよりも今までプレイしていたゲームをやりたいけど、そうもいかないからね……。



 それにしても仰々しい確認だなぁ。


 リセマラも出来ないみたいなのに初期ボーナスが強力だから、後からクレームが来ないようにしっかり確認してるのかもしれない。



 最終決定する前に、スマホを使ってもう1度ネットで検索してみる。



「……う~ん、やっぱり情報は無いなぁ」



 というか未だにタイトルすら分からないから、ネット検索もしにくいんだよな。


 ネットの情報を遮断した状態でプレイを開始して欲しいっていう、運営側の意図があるのかもしれないけどさ。



「YES~、っと」


『最終確認が終了致しました』



 ま、課金関係でなければそこまでビビる必要も無い。


 質疑応答で結構時間食っちゃったし、ここまで来てやらないって選択肢もないでしょ。



『先ほどの質問を参考に、貴方が向かうべき世界が決定されました。貴方の新たなる人生が幸福に満ちたものであることを、心よりお祈り致します』



 ようやくゲームが始まるらしい。


 それにしてもサービス終了にこんなイベントを紛れさせるなんて、開発も面白いことをしてくれるね。



 新しい人生が幸福に満ちたものであることを祈る、か。


 そんなこと言われると多少の不具合とか許しちゃいそうだ。チョロすぎだろ俺。



 そんなのんきな事を考えていると、突如パソコンのモニターから強烈な光が放たれた。



「うあっ!?」



 びっくりして思わず声を上げてしまった。


 やっべ……。やっぱ悪意あるプログラムだったか? パソコン壊されちゃった……?



 何も見えないけど、とりあえずキーボードとマウスを手探りで探す。


 でも見つからない。というか、何にも触れない?



「わわっ!?」



 そう疑問に思った瞬間、体が浮遊感に襲われる。


 今まで座っていたゲーミングチェアが突然消失してしまったかのように、俺の体は落下した。



 突然の事態に対応できず、尻を床で強打してしまう。



「いって……、え?」



 モニターからの眩い光が止んで視界が開けると、燃え盛る炎と流れる人の血で、世界が赤く染まっていた。

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