Step5. 初めての魔法
「猛烈にトイレに行きたい……しかも時間のかかる方……」
ここは異世界だ。どんなトイレが待ち受けているのか不安しかない。異世界系のWeb小説では、トイレを真っ先に開発することが多い。穴や壺にするものもある。とても耐えられない。
学校では、しないと決めていたのだが油断した。家まで我慢できそうにない……素敵なあだ名を授かりたくないので、行くしかない。
臨界点まであと僅かだ。はしれ、はしれ、はしれ、すすめ、すすめ、すすめ、いそげ~!
「ふーぅ。セーフ」
ギリギリ間に合った。結論から言えば、心配することはなかった。洋式トイレで水洗式だ。さすがにウォシュレットではないが、十分満足だ。
備え付けの紙はなかったので、ポケットティッシュで、その場を凌いだ。
「これで……何もかも終わりだ……任務……完了……」
あとは水を流すだけだ。馴染みのレバーに手をかけようとするが、レバーがないっ! タンクはあるのにおかしい。タンクの中を覗いてみると、水が入ってなかった。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、もちつけ、もちつけ……
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー
呼吸を整えて冷静になると、トイレのタンクに魔法陣が描かれているのを見つけた。何をするものか分からないが、この魔法に賭けてみよう。
しかし、魔法など使ったことはない。魔法陣を魔力で再現すればいいことは分かってる。頼れる人はいない。
――考えろ
――仮説を立てろ
――そして証明してみせろ
――行動しろ
魔法陣は絵だ。これを再現すればよい。脳内にペイントソフトを思い浮かべた。すると目の前の空間に半透明のペイントソフトが起動した。SFの世界で見るやつだ。かっこいい。
ポチポチと押すと、色がつく。これで魔法陣が描けそうだ。タンクの魔法陣を模写する。
――トレース、オン
幸い、複雑な図形ではなかったので、5分くらい集中すると出来上がった。いい仕上がりだ。
……でも何も起きない。中心をツンツンと触ってみると魔法陣が光りだした。
ゴボッ、ゴボッっと音がする。
タンクの中に水が生まれ、流れだした! 行け! 忌まわしき記憶と共に!
しばらくすると、何事もなかったかのように元の状態を取り戻した。本当に良かった……