002
002 レオンの過去
あの勇者のあまりにひどい一言で、レオンは完全にキレて、勇者に殴りかかった。その後のことは、よく覚えていない。周りで見ていた村人によると、あの後勇者に殴り飛ばされて気絶したらしい。幸いにも、優しい村人が彼を介抱してくれたらしい。頭の痛みは残ってはいたが、動ける程度には回復していた。
そして、彼はふらついた足取りで、自分の家に帰ってきた。ふと玄関を見ると、彼の母が玄関前に置かれた花束を目の前にして号泣していた。なぜ泣いているかを一瞬で理解したレオンは、すぐさま昨日あったことをすべて話した。
「でもどうして犯人の勇者は捕まらないの?」
一通り話し終えたところで、母からそんな質問が飛んできた。
言われてみれば、あの後犯人の勇者が捕まったなどという情報は流れてこない。レオンを介抱してくれた村人も、犯人の勇者が捕まったなどという事は聞かなかった。普通に考えれば、あの勇者は国にいる軍が逮捕するはずなのである。これはおかしい。その理由をレオンは考えた。しかし、考えど考えど答えは出てこない。そうして考える内、レオンの頭に最悪なある一つの可能性が浮かんだ。
(国が勇者の悪事をなかったことにしている?)
その最悪な可能性は十分にあり得るものだった。勇者は強い。歯向かわれたら敵わない事は誰でも分かる。もしかしたら、勇者が国を脅して自分たちが起こした事件をもみ消しているのではないか。考えれば考えるほど、それしかないように思える。
「レオン!貴様を、国家反逆罪で逮捕する!」
気が付くと、レオンは国の軍隊に周りを囲まれていた。
―――
「えー、今から、裁判を始める。起立!」
大きい裁判所の中で、裁判長らしき男が叫んだ。レオンの裁判が始まったのだ。彼の罪名は、国家反逆罪。心当たりはあるのだが、そんなことで逮捕されるのか、という絶望が早速彼を襲った。
「では、原告 山縣勇者様 恐れ入りますが被告にされたことを話してください」
そう言われると、レオンと正反対の方向に座っていた「あの」勇者が立ち上がり、法廷に立った。
「えーと、俺は、あのガキにイラつく誹謗中傷を大量に言われたんだ。で、なんかムカついたから死刑にしといてくれ。」
当然ながら勇者の言っていることはウソがほとんどだ。もともと「ガキ」発言はするわ、理由があまりにもショボすぎるわ、酷いところを上げればきりがない。それに大げさすぎる嘘ばっかりついている。誹謗中傷ではなくあんな惨状を見せられたのなら当然言ってしまうことだし、大量に言ったわけでもない。それで「死刑にしろ」?ふざけるのもいい加減にしてほしい。
しかし、ここは実質勇者が乗っ取った国だ。この国の法律は勇者だと言ってもいい。そんな国の裁判で、被害者(大嘘)が勇者で求刑が死刑。裁判の終わりに言われる言葉は、誰が考えても一つだった。
「判決を言い渡す。主文 被告人 レオン・ゼクスを・・・」
今更思い出したのだが、こんな変な文章の裁判になった理由は、勇者達のもと居た国の裁判がこんな感じだったからだそうだ。もちろん、裁判の仕方はかなり違うらしい。少なくとも、即日結審ではないらしい。
「・・・死刑にする。と言いたいとこだが・・。あの、山縣様、ちょっといいですか・・」
裁判長が山縣のところに行き、耳打ちをし始めた。何を話しているのかは分からないが、少なくともいい話ではないのは分かる。裁判長が耳打ちする度に、山縣の顔がにやけていくのだ。
「えー、判決を変える。主文 被告人の家族全員を死刑に処す。」
「ちょっと待った!何で俺じゃないんだよ。家族は関係ないだろ!」
「うるさい。座れ。判決理由は、勇者様の御意向だ。」
はらわたが煮えくり返るほど怒った。でも、それは何の力にもならなかった。悲しかった。つらかった。そして何より、非力な自分が許せなかった。俺は裁判所から出られたが、もうそんなことどうでもよかった。どう帰ったのかすらも覚えていない。そして、俺は・・・。家の目の前で失神した。
―――
「・・・おい、レオン!起きろってば!」
俺が目を覚ますと、隣にフジコが立っていた。
「うるさいなあ。もうちょっと優しく起こしてくれよ。」
「介抱したのはこっちの方なのに。それより、昨日なにがあったの?」
「・・・おぇ!」
昨日の事を思い出して、思わず吐いてしまった。
「大丈夫か!?」
「・・どこをどう見たら大丈夫だと思うんだよ。というかもう昨日のことは聞かないでくれ。」
「・・・」
フジコはもうそのことを聞いてこなくなった。そして俺は決意した。
(「この世界の勇者はどいつもこいつも腐ってるヤツばっかりだ。どこかの世界から来たのかは知らないが、とにかく復讐したい気持ちでいっぱいだ。だけど・・・」)
(「勇者の中にはいいやつもいると思う。いや、そうと信じたい。だから」)
(「この世界のほぼ全ての勇者に復讐する!」)
そのとき、俺の心から何か重要なものが欠けたような気がした。でもそのときは、それが何なのかは分からなかった。
前のあの惨劇、昨日の理不尽な裁判。どちらも、俺は忘れることはないだろう。そして、復讐をするという決意もした。だけど、このことは口にするだけでも国家反逆罪という理不尽な罪で逮捕されてしまう。だから、フジコだけは何としてでも巻き込みたくない。そう誓った・・・はずだった。
実はこの小説の題名、途中でストーリーに合っていないことに筆者が気付いてしまいました。なので、今現在フォルダには『題名未定』という題で保存されています。