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34.打ち上げ

「うーん。仕事と使い分けるの苦手だからなぁ」

 本当は、名前を呼ぶような特別親しい間柄だと、誤解してしまいそうで怖い。それに呼び方を使い分けるのが、不器用な私には難しいなと感じた。

 青木くんの仕事上、そういったゴシップネタをメディアへ提供する側に回りたくない気持ちもある。


「そういえば、ここの窓ガラスすごいね。夜景がまるで、大きな絵画みたい。カメラ持ってくれば良かったなぁ」

 綺麗だ。結構な夜なのに、こんなにも明かりがあふれているなんて。


「紗枝は根っからのカメラマンだね。一緒に仕事してさ、すごいなぁって思った。俺の中で、紗枝はのほほんとした雰囲気だったからさ。きりっとしててカッコよかった。――お互い変わったね」


「スタジオにはいって、のほほんとできるほど私、心臓強くないです。カメラマンの仕事はやりたい人が沢山いるからね。結構な競争社会なんだよ」


「そっかぁ。色々あったんだね。紗枝も。俺の知らない時期に」

 そりゃあ8年もあれば、色々ある。それに青木くんと仲良かった時期は2年くらいである。それはそれで充実2年間だったとは思うけれど。


「それにしても青木くんの写真集すっごい売れ行きだね。発売日本屋でファンの人が長蛇の列で並んでいたのをみて、びっくりしちゃった」


「俺もびっくりした。日本での活動再開したばかりだから、そんなに売れるとは思ってなかったんだけど。マネージャーも驚いてたよ。今日の急用もそれについてらしい」


「そっかぁ。眩しいなぁ。でも、こうして、一緒にお仕事できるんだから、カメラマンという仕事選んで良かったよ。―――青木くんと出会ってなかったら、この道、選んでいなかっただろうし、本当に感謝している」


「はは。そうなの?それは、嬉しいかも。――じゃあ、写真集の第2弾出すときに、またお仕事依頼していいかな?」


「もちろん」そういって、目の前のカクテルを一緒に飲み干す。


 アメリカンチェリーとジンをつかった、さくらんぼのマティーニ。すっきりとした甘さが美味しい。


「あのさ、紗枝が撮った写真だから、こんなに売れたんだと思うよ。――はい。ご褒美」といって、アーモンドが詰まったスタッフドオリーブを青木くんが私に食べさせようとする。


 昔を思い出して、目を閉じて、口を開くと、青木くんがぽんっとそれを口にいれてくれた。私も酔っぱらっているな。


「懐かしいな」

「そういえば、青木くんご褒美で飴やチョコを口の中にいれてくれたよね。だからか、反射的に目を閉じちゃった」


「もっと欲しいくらいの量で止めてくれるのが、またご褒美っぽくて良かったよね」


「あー、俺は、また紗枝の作ってくれたお弁当食べたいなぁ」なんて、青木くんは笑っている。


「お弁当かぁ、そういえば作ったなぁ。あの時は一生懸命だったなぁ。早起きして、青木くん喜んでくれるからなって、毎日そればっかりだった」


「そうだよね。紗枝はあの頃、俺のことばっかり見ていたよな」


「ね。一歩間違えれば、ストーカーみたいだったよね」

 っていうか、アルバイト先まで張り付いてストーカーじゃないかと、今更ながら思う。


「俺は、嬉しかったけど」

 青木くんがいってくれて心底安心する。


「そっか。ふふ。若かったなぁ。ああいう風に誰かを想えることって貴重だって今は思う」


「今は好きな人……いないの?」


「うん。いないかなぁ。仕事も詰まっているから、そういう相手も欲しいとも思わないし」


「そっか。俺もだよ。仕事が充実していて、8年間突っ走るように過ごしてきた」

 青木くんに特定の相手がいないことに安堵する自分。8年前の恋は、どうやら私にかなりの影響を及ぼしたのだろう。なかなか、気持ちが消えない。


「そっかぁ。お互い夢を叶えたもんね」


「俺さ、紗枝は美容師を目指す俺が好きなんだと思ってた」


「あの時は、あんなに美容師になるために猪突猛進していたのに、どうしたんだろうと思ってたよ」

 大学まで、青木くんと一緒にしようとしていたのもあるし、本当にわがままな思考だと思ったんだ。


「そうだよな。俺自身も、美容師をあんなに目指して頑張っていたのに、ヨウの仕事ぶりを見てたら鳥肌が立って、ああ、俺は人を変身させるほうじゃなくて、こっちがしっくりくるって思った。それに、ヨウに話しかけられるまで、芸能界をかなり無理やり引退したことを思い出して、芸能界は俺には無縁のものにしていたんだけど、戻ってみたら、ここが俺の居場所だって思ったんだ」


「無理もないよ。カメラマンの私からしても、青木くんは最高の被写体だもの。それに、舞台も見たけど、かっこよくて鳥肌たった。青木くんは求められているものに気付き期待以上に叶えるがすごいよ。それに演技力も凄かったよね」

 

 私もだいぶ大人になった。

 この世の中は、沢山のコマで回っているが、本当にぴったり嵌るコマというものがある。好きは才能と昔唐妻先生に言われたけど、天性の勘というものは絶対にあるとカメラマンとしても感じる。


「ヨウには感謝しているよ」青木くんが呟く。

 あの時、彼が転校してこなかったら。

 でも、唐妻さんは私がいるからあの高校に編入させたと言っていた。

 じゃあ、私がカメラに魅せられなかったら、人生は変わっていたのだろうか。

 あの時、ヨウの仕事場に連れられて行く青木くんを止めたらまた違った?


 どうだったんだろう。

 青木くんは、あのまま美容師を目指して、自分の店を持って、私はそんな青木くんの傍にいたのだろうかと思う。彼に合わせて進路を選び、時には彼に集う彼に魅せられた人達に嫉妬をしたのだろうか。

 自嘲する。もしもを考えてしまうことに意味はない。


 彼と私の分岐点だったんだ。あそこは。




「――そろそろ、帰ろうかな」

 青木くんは、「もう帰るの?」と引き留めてくれたのだけど、もう昔話は十分話尽くしたと思った。


「うん。明日も仕事だから」

 嘘だった。仕事はなく、久々のオフの日である。


 明日は久々に、実家に帰ろうかなぁ。

 そして、結婚した弟夫婦でも撮影しにいこうか。それとも、楓ちゃんと高木でも撮りにいこうか。

 どちらも忙しそうだったら、実家の両親と、タロウの子どもたちのフレンチブルドッグを撮影しようか。


「そっか」

「うん、何だか撮りたい欲が青木くんのおかげで湧いてきたよ。改めて重版おめでとう!」


 そう言い残してジャケットを羽織り、私はバーを後にした。


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