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てくてく

作者: R

 金曜の昼に私は友人と焼き肉屋に行っていた。ランチタイムは安いので、こうしてよく食べに来るのだ。

友人はさっさと食べるとトイレに行ってしまった。私は一人で杏仁豆腐の上にパイナップルの乗ったデザートを食べていた。

 パイナップルは缶詰のシロップの味がして、杏仁豆腐はただ一方的に甘いという刺激だけを与えてくる。とてもチープな味なのだがどこか懐かしく憎めないのだ。

すると、てくてく歩く女の子が近くまで来てウロウロしていた。女の子の髪は長くて少し乱れている。子どもはてくてく歩く。弾みを付けて歩いているからか、歩幅が小さいからか原因は分からない。大人のそれとは明らかに異なっている。

 その女の子は壁から、半分顔を出して僕のことを見ていた。吸い込まれるような大きな黒い目だった。私は金縛りに合ったように身動きが取れず、彼女を見ないようにと目を別の方向にするように努めた。頭は真っ白になり、時間の感覚が狂ってきてとても長い間こうしているように感じた。

 しばらくして彼女の父親が来て、ドリンクバーでジュースをついでもらっていた。トイレに行った友人も戻って来て私は解放された。きっと私は彼女に捕らわれていた。虜にされていたのだ。虜?いや、そんな生易しいものではなかった。一種の魔術、催眠術、幻覚作用をもたらす何かに掛かっていたそんな感じだった。

 店を出て友人と別れた後も妙に小さい子の歩き方に目が行ってしまう。ようは、てくてく歩く様子にだ。横断歩道を母親と渡る小さな男の子。なんて、てくてくなんだろう。今日は午前中で終わりなのだろうか、小学生の行列が私に迫って歩いてくる。てくてくの大行列だ。私の息は浅く速くなっていた。ひどく興奮していることを自覚した。

通り過ぎたあと、私はどうしてしまったのだと自問した。すると、さっきの女の子が頭に浮かんだ。顔を半分隠し、大きな目でじっと僕のことを見ている。その下にある口がこんなに大きかったかと思えるほど、ニヤリと笑っていた。

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