6.謁見・下
「ハクアたち第八軍の活躍により、半径1000キロメートル圏内がすべて見知らぬ土地となっていることが判明した。 状況から見て、ロード・オブ・ネイション以外の世界に飛ばされた可能性が高いと俺は見ている。 意味はわかるな? 答えよ。」
さて、ロード・オブ・ネイションって言っちゃったけど、伝わるのか?...
ロード・オブ・ネイションの世界を指す言葉をレニオダスは知らないのでロード・オブ・ネイションで通じるのか試してみることにした。
「「「「「「「「「はい(ですわ)」」」」」」」」」
レオニダスは通じたことに安堵し、次の質問に入る。
「まずは...ハクア。」
第八軍団長、ハクアがレオニダスの呼びかけに対し反応を示す。
落ち着いた雰囲気で純白に紫の刺繍が入った袴を着こなす中性的な顔をした美男。その肌、髪にとどまらず、まつ毛、眉毛、袖から少し見える伸びだ爪に至るまですべてがアルビノのような雪色をしている。
そんな彼の美しいホワイトブルーの瞳の奥には、ドラゴン本来の凶暴さが秘められたようにどこか恐ろしさを感じる。
真の姿を見せた彼の前ではすべてが氷の世界と化す。その一息は雪を降らせ、踏み出した一歩で地面が凍る。
それも当然、彼は氷属性を得意とするドラゴンの王種、スパルタ王国で最もレア種族であるドラゴンの王種、氷竜王ハクアなのだから。
「RONの国を見つけられなかったこと以外に調査で分かったことを詳しく報告してほしい。 未曾有の事態なんだ、ほんの些細なことでも構わない。」
「ええ、では申しあげます。今回の調査から判明したことは2つあります。1つ目は、以前、峻嶮な土地に位置していた我らスパルタ王国ですが、現在は広大な平原に囲まれており西側は巨大な樹海と面しているようです。」
「なんだと?」
ハクアの報告に、レオニダスは過剰とも言える反応を示した。
その反応にはスパルタ王国が強大な国々を相手に戦勝しつづけてきた一つの理由が関係している。
スパルタ王国は、峻嶮な山々と海に囲まれた土地に国を置くことで、兵の質と圧倒的有利な土地を活かし、いかに相手が同盟を組み10倍以上の数で攻められようとも戦勝し続けることが出来た。つまり、レオニダスが自らに課した縛りにより孤立するスパルタ王国がここまで強大な国になることのできた理由の一つなのである。
現実となったこの世界で民たちに安寧の生活を与えたいレオニダスにとっては易々と許容することのできない事実だった。
「話を中断させてすまない。 続きを聞かせてくれ」
「いいえ、構いませんよ。2つ目は、大規模な城塞都市を発見したことです。」
「ほう。」
「ここから北北東に1000キロメートルの位置からさらに進んだ地点、南南西に1000キロメートルの位置からさらに進んだ地点に大規模な城塞都市を確認いたしました。こちらは1000キロ圏内ではないので肉眼で確認したにすぎませんが軍事拠点とみて間違いないでしょう。 そして南に300キロメートルの地点、東に50キロメートルの地点、西側の樹海を挟んだ向こう側にも城塞都市を確認いしました。 東側には軍事都市以外にも都市をいくつも発見しました。 東に行けば行くほど人が増えている傾向にあります。」
こいつやってくれたな.....
レオニダスは八軍の隠密のおの字もないような調査に頭を抱えて叫びたい気持ちでいっぱいだった。
ふつうバレないように調査するだろうに...
そもそも軍地拠点無視してそれ以上奥いくなっ!
と言ってやりたい衝動を抑え冷静にふるまう。
「わ、わりと多いんだな...、都市の規模どれくらいだ?」
「いずれの軍事城塞も吹けば飛ぶほどに脆弱です。群れの規模で言えばスパルタの10分の1もありません。ただ、西側の樹海は魔物の住処となっており強力な個体も存在しているようです。」
「ちなみに種はなんであった?」
「ベヒモス、アースドラゴンにございます。成竜が2匹と子竜が3匹が固まっていたことから、つがいとその子供たちでしょうか。 ベヒモスは成体が2体ほど。」
「ふむ。報告御苦、労下がっていいぞ。」
ハクアは無言で一歩下がり定位置にもどる。
城塞都市か....
城塞都市に囲まれているとなると....複数の国の境界線付近か?
国に囲まれているとなると相当に厄介な状況ではないか。
地の利を十分に活かすことができない今、同時に相手をするような事態だけは避けねばならないか....。
ともかく情報が必要だ...。
周辺諸国の情報を一刻も早く。
「他に報告が必要なものはいるか?」
「私からよろしいでしょうか 、レオニダス様」
そうレオニダスの問いに答えたのは騎士団ともいえる第一軍団の騎士団長アルトリウス。
金色を基調とした豪華な騎士鎧を着た金色短髪、偉丈夫の美青年。彼の腰には過剰に装飾が施された剣が掛けられている。
その名もエクスカリバー。
アルトリウスのみが使うことを許された神話の魔法剣。
アルトリウスが一振りすれば、海が割れ、山が切れる、神話級の名剣だ。
「申せ」
「転移直後、ラルフの指示に従い国を封鎖しましたので暫くは混乱を抑えることが出来ましたが、しびれを切らした悪魔族の住民が上空まで飛んだのが原因で民たちが少しずつ知り始めています。早急に対処しなければ混乱は避けられません。それと、農場は壁内にあるので問題ないですが、海が失われたために漁業を中心に水産業の混乱が予想されます。」
「最優先で対処しよう。報告をありがとう。」
「もったいなきお言葉。」
レオニダスに感謝の言葉をもらったアルトリウスは感激したような表情で頭を垂れた。
そんなアルトリウスの表情すら目にはいらず、レオニダスは黙考していた。
状況が悪すぎる。八軍からの情報は役にたったが今はこれが失敗だったことが分かる。
ドラゴンならば広大な範囲を短時間で調査することができるが、図体がでかすぎる。調査で発見した都市には確実に見つかっていると判断して間違いはないだろう。ドラゴンたちがもどる方向からいずれこの地に調査隊が来ると想定して準備をしておかねばならない。
こちらから接触すべきか? ―― いや、それは愚策だ。
いきなり攻めてくるわけではないのだ。この世界の実力が分からない以上、こちらか使者を送って使者たちを危険な目に合わせるわけにもいかない。
民は2回の死で永遠に蘇生できなくなる。そもそも現実と化した今、この世界では国民を含め俺、軍団長も1回死ねば終わりとみて行動したほうがいいだろう。
そして相手方からいつ使者が来るかもわからない現状、私がスパルタを離れるわけにもいかない。
やはりスパルタを安定させることが最優先か。
海洋国家でもあったスパルタから海は失われた。この損害は大きいだろう。
商人たちからの利益も当分は見込めないと見たほうが良い。
幸い農地は国内にいくつかあるので食料に困ることはないだろう。
「アルトリウス」
「はッ」
「二日後の正午、我が民に私から話があると布告をだせ。城前の大広場に誘導するように。 国民には俺から状況を説明するのが一番効果的だろう。当日の警備と誘導、第一軍に頼んだぞ。 ただしお前を含めた軍団長は俺と共に城のバルコニーいてもらう。」
「畏まりました。そのように致します。」
「マーリン。 軍の総力を持って城壁の強化魔法を最大限に引き上げろ。結界も常時維持しておくように。」
「このマーリンにお任せください。」
レオニダスが頷く。
「俺はお前たち軍団長をだれよりも頼りにしている。
スパルタがどのような状況にあろうとも、お前たちさえ居れば必ず乗り切れると信じている。
何か問題が発生した際には各自の判断で行動してくれて構わない。結果だけ報告するように。
では頼んだ。」
「「「「「「「「「はッ!」 」」」」」」」」」」
あまりの声にビクリとしたレオニダスだが、すぐに取り繕う。
レオニダスはそのまま立ち上がり、巨大な扉に向かって歩いていく。
読んでいただいてありがとうございます!
もしよければ下にスライドして、ブックマーク、評価お願いします。
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければできます(^^)/