4.謁見・上
人々の寝静まった城下町に起きている光の姿はほとんどなく、夜空にに浮かぶ白銀に輝く月とそれを飾るように散りばめられている輝く星々は、あと3時間ほどでスパルタ王国が迎えるだろうこの世界に転移してから初の夜明けを祝福するように城下町を支配しながらも、廓寥とした深夜の気配が沁みていた。
最上ともいえる美しさを備える月と夜空に浮かぶ輝く星々も、城下町の中心に鎮座する白亜の巨大城の前では、それを引き立たせるための存在にしかなりえない。
これ以上ないほどの脇役を持つ白亜の城は、神話の世界をそのまま体現したような神々しさを醸し出していた。
そんなスパルタ城の中心部に居を構える玉座の間は、ヴィース巡礼教会の内装に暴力的な闇をわずかに加え、更に神秘的にしたような荘厳さあふれる空間だった。
玉座の間に足を踏み入れてすぐに踏んでしまうでろう中央に敷かれた巨大な真紅の絨毯が辿り着く階段を登ったその先には、壁に埋め込まれるようにしてあるはずのイエスキリスト像に代わってスパルタ国王のみが座することを許るす玉座があった。
中央に敷かれた絨毯の左側に4つ、右側には4つとそのまま少し進んだ階段手前に1つの影がある。
神話の空間ともいえる玉座の間に見事に馴染み存在しているいずれの人物も、その存在感とは不釣り合いと断言できるほどの緊張感を顔に張り付けてその時を待っていた。
小山でも運び込むのだろうか。
そう思わずにはいられないほどの巨大な扉。
2人以上の軍団長が力を合わせなければ動かすことすらできないその扉は、すでに少し開かれていた。
しかしその規模感から考えて十分なほどに開かれた扉の向こうからわずかに聞こえてきた足音に、9つの存在はさらに緊張感を高まらせ、まだ玉座の間に足を踏み入れていない足音の主に対し跪き、首を垂れる。
レオニダス王が真紅の絨毯に足を踏み入れた瞬間―――――――
玉座の間が歓喜に震える。まるで父の帰りを楽しみに待つ子供のように。
ほんの僅かの音しか出していないはずの王の足音は、神かなにかが大地を踏みしだいているかのような幻想を9人の軍団長に抱かせる。
―――あぁ....ずっと聞いていたい。
軍団長たちは一歩、また一歩と確実に玉座に近づいていく王の足音を、まるで就寝前に大好きな本を親に読み聞かせてもらっている子供のような気持ちで聴いていた。
もうすぐ終わってしまうという寂しさを感じながらも、それ以上に物語の結末を早く知りたい子供のように、玉座に座する王の英姿を目にしたいと思っていた。
カツ、カツ、カツ....
階段を登っているのだろうその御身を目にしたい欲望を必死で抑え、もうあとほんの片時で玉座に鎮座し発するであろう御言葉を待つ。
王が玉座に腰を掛けたその瞬間―――
玉座の間が完成する。 まさに芸術。 神秘。
王が座し、配下が頭を垂れているその玉座の間は、神話を想像して描かれた絵画のように美しい。
王が最後に座った様は、一番大事なパーツが欠けている巨大なジグゾーパズルに最後の一つをはめ込んだかのように、今まで何か物足りなかった玉座の間を完成させる。
王が玉座に座してからは、一刻も早くその御身を目にしたい配下たちにとってまさに拷問のように一瞬が永遠に感じる時間の始まりだった。
永遠とも感じる片時へんじの最中、配下たちは御身が声を発する瞬間を空気でとらえ、歓喜に震える。
「おまえたち、顔をあげてその顔を私に見せてはくれないか。」
思いもよらない優しい問いかけに嬉し泣きしそうな気持を必死で抑えながら、恐る恐る顔をあげる。
顔をあげた先には、王の姿がある。―――この国を統べる真の王の姿。
神とも思えるその姿を目にした瞬間、今まで我慢していた涙腺が限界を迎える。
失礼にならぬように声を押し殺し、表情を変えずに号泣する配下の姿は、はまさに異常の一言だった。
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