3.メイド長しか勝たんっ!
「1時間後に全軍団長を玉座の間に集めろ。」
強大な力を宿した9の軍団長への強制招集。
無類の強さを誇る軍団長の一切の都合をも考えずに放たれるその命令は、レオニダス王のみが許される、神をも恐れぬ所業そのものであった。
「スパルタ王陛下の御心のままに。」
■
「はぁ....」
執事長ラウルに命令を下したレオニダスは、声に出して肺の中身をすべてだしきるような大きなため息をつきながらも、今の状況に対し熟思していた。
「ゲームの世界に入ってしまったってことでいいのかなぁ。」
そういえば、ハクア達からの報告からはスパルタ英雄王国の半径1000km周辺はすべて知らない土地でRONに存在した国の一つも見つけられなかったって言ってたな。
そうすると、RONの世界ではない....?
この部屋は間違いなくスパルタ城の自室、身体もRONで俺がキャラメイクしたレオニダスのもので、ラルフだっておれがRONでキャラメイクした幹部の一人だ。
そうすると、現実化したRONのデータのまま異世界に転移したってことでいいのだろうか。
いずれにしても情報が足りなさすぎるから情報をあつめなくては。
「そういえば、なぜかアイテムコール成功したよな.....。」
ロード・オブ・ネイションでは、ログアウト、アイテム閲覧、キャラクター情報、メール管理、テリトリー閲覧、フレンドリストなど、いずれのオプションを利用する際には一度メニューを経由する必要があり、メニューコールすることで現れる数多くのオプションを手動でタップして開くか、メニュー画面を開いた状態で目的のオプションをコールする必要があった。
恐慌状態だったためにメニューを経由せず、八つ当たり感覚でアイテムをコールしたレオニダスは、なぜか成功してしまったことを今更ながらに不思議に思い始める。
そしてそれは、アイテム以外にもコールできるかもしれないという僅かな希望を抱かせる。
「テリトリー」
――ピコンッ
「あっできた。」
ログアウトでの落胆から学習したのか、ほんのわずかしか期待をしていなかったレオニダスは予想外の成功に少し間抜けな声を発してしまう。
「.....っ」
成功したもの浮かびあがったテリトリー情報を不服そうに睨んだのは、マップ情報が非常に乏しいからに他ならないだろう。
そこには、スパルタ王国以外のマップ情報がすべて灰色で塗りつぶされていたた。
レオニダスは、落胆からぶつぶつと不平を言いたくなる気持ちをなんとか制御し、スパルタ王国のマップを慣れた手つきタップする。
うっすらと、しかしレオニダスにはよく見える画面が新たな画面に切り替わったそこには、以前とかわらない国の情報がぎっしりと羅列されていた。
「うんうん、とくに変化はないね。 おっ」
レオニダスが、思わず声に出してしまうように反応した先に見つけたのは....
――――幹部情報
国王直属護衛軍
団長:ラルフ・クルス――――――種族:ヒューマン
第一軍
団長:アルトリウス―――――――種族:ヒューマン
第二軍
団長:ララノア・ソレイユ――――種族:ハイエルフ
第三軍
団長:マーリン―――――――――種族:ヒューマン
第四軍
団長:レギン――――――――――種族:ドワーフ
第五軍
団長:リリス・グレモリー――――種族:悪魔
第六軍
団長:ヘラクレス――――――――種族:タイタン
第七軍
団長:シュテンドウジ――――――種族:鬼
第八軍
団長:ハクア――――――――――種族:ドラゴン
―――レオニダスは、9体の幹部、国民たちを愛している。
中学3年生夏の終わり、所属していたハンドボール部を引退し、進学先も決まったジンは暇を持て余していた。
そんな時、発売を間近にした話題のVRMMORPGゲーム、「ロード・オブ・ネイション」の予約注文を受け付けていた本屋さんの前を通りがかり、気分で注文した。
気分屋なジンにとっては偶々だった。金も容姿も成績も女もすべて手に入ったジンは、本気で挑もうと次々に強敵が現れる部活動に熱中した。
唯一本気で熱中できたそんな部活動の最後の大会もおわり、行き場のないやる気を少しでも紛らわそうと、少しでも暇つぶしになればと購入したゲームだった。
―――楽しすぎる。
ジンはRONを大いに楽しんだ。ゲームでは、どれだけやりこもうと、それ以上にやり込んでくる猛者たちが大勢いたからだ。そんなジンがゲームを始めて日本ランキング1位の座をとれたのは半年後だった。その頃には圧倒的な強さを確立させていたジンたちは敵なしで、プレイヤーたちからいつか国民になりたいと目標にさえなっていた。ジンの仲間たちは、すごく誇らしそうで楽しそうだった。
確かに誇らしい、楽しい...けど、
―――なんか違う。
他のプレイヤーたちは眼中になく論外だと言われていたNPCプレイ。
ジンは、加入していた日本ランキング1位の国を脱退し、自らの国を作った。
――スパルタ王国
建国メンバーも、国民も、すべてNPCで構成し、傭兵も、商人も、幹部までもすべてにおいて他プレイヤーの手を借りずに構成する縛りプレイの中で建国した国。
自国を建国してからは今までとは打って変わり、戦争ではまったく勝てなかった。
軍団長もNPC、副団長もNPC、軍団正規兵もNPC、志願兵もNPC、徴兵で集まる兵もNPC。
NPCとプレイヤーでは、操作技術、判断力、成長スピード、すべての領域においてプレイヤーが格上となる。
ゲーム内Gゴールドが足りない。
商人がNPCなので、入ってくるお金もプレイヤーとは比べ物にならない。そればかりか、やり手商人プレイヤーと無駄ともいえる取引をして足を引っ張ることさえある。
それでも、その中で他国を打ち倒し日本ランキング1位となることを目標に熱中した。
縛りプレイを初めてから約2年半が経過し、幹部のNPCの何体かが限界値である100レベルに達しはじめた頃、はじめて戦争で勝つことが出来た。
――ぁあ...楽しすぎる。
狂気ともいえる嬉しさががジンの心を満たしていた。
しかし、すぐに勝てなくなった。幹部がすべて100レベルに達しようとも、中堅レベルの国にさえ勝てない。
プレイヤーの限界値は150レベルなのだから。
幹部がすべて100レベルに達した頃、ジンは多額の課金を決意する。ある条件を達成することで解放されるサービスを利用するためだった。
「NPC建国特権」 ――
①NPCの上限レベルを最大50まで開放することのできる消費アイテムが購入可能になる。
②学園が建設可能になる。
③国家に正式に所属するNPCのレベル限界値が建国メンバーの平均レベルと同じになる。
このサービスの開放には、9体のNPC幹部がすべて100レベルに到達し、且つそのすべてが建国の初期メンバーであり、一度たりとも幹部をやめていないことが条件となる。
つまり、1から縛りプレイをしている人だけが利用できる可能性があるサービスなのだ。
可能性と表現したのは、縛りプレイをはじめたほとんどの人が途中で限界を感じ、幹部にプレイヤーを取り入れてしまうケースが多いためだ。
そして、①~③のすべてが課金する必要がある。特に①と②は莫大な課金額が必要となる。
①は幹部1体のレベルを1開放する消費アイテム50個を9体分購入する必要がある。
そして学園自体は無料で建設できるが、それではほとんど効果を発揮せず、学園レベルが上がるたびに追加される機能を課金して開放する必要があるためだ。
学園には初等部、中等部、高等部が存在しており、主に国民(NPC)の基礎戦闘力をあげる役割を担っているのでとても重要となる。
学園レベルをカンストし、すべての機能を開放した暁には、戦闘力の面で絶大な効果を発揮する。
高等部を卒業した国民はランダムでレベル60~100となるためだ
ロード・オブ・ネイションにおいて、幹部以外のNPCは2度戦死すると蘇生ができなくなるため、NPC兵士の平均レベルはとても低い。
戦争を繰り返すことで高レベルに達するNPCも続出するが、高レベルNPCは数が増えるとプレイヤーにとっても脅威となるため、プレイヤーたちから集中的に殺されてしまうためだ。
そのためNPC戦力の増強には、いかに軍全体のNPC平均レベルが高い状態で戦争にさせるかであり、高レベルのNPCの数を増やさなくてはならない。
数体だけレベルの高いNPCが居ても良い的となるだけなのだ。
「NPC建国特権」の開放から2年、建国メンバーの平均レベルが130に達し、20万人いる国民の半分以上が100レベルを超えた頃、戦争でもほとんど負けなくなり日本ランキング3位になっていた。
そんなときに大型アップデートが行われた。――――世界中のサーバーを統合するためのアップデート。
約2週間にも及ぶアップデートの後、日本ランキングのほかに世界ランキングが追加されていた。
スパルタ王国―――世界ランキング42位
世界は広かった。日本がゲームの最先端だと思っていたおれは、たいしてラインキングの変化はないと思っていた。日本ランキング1位、ジンの元々所属していた国の世界ランキングで18位
それでも、その事実はジンの心を揺ることはなかった。100レベルを超える国民が増えたことで、そのことがさらに国民のレベルアップを加速させていたからだ。
そこからさらに1年が経過し、NPC幹部全員が150レベルに達した。40万人をこえる国民の6割ほどが100レベルに達しており、レベル150が近い者も数体存在した。
一般NPCの群れの平均レベルが上がれば上がるほど、プレイヤーは無双できなくなり、さらに高レベルの者が生まれる。
素地の能力がプレイヤーとほとんど同じであるNPC幹部が150レベルまで達すると、一騎打ちでプレイヤーを倒してしまうことがあるくらい強い。それが高レベルNPCの群れを率いているのだからさらにたちが悪い。
その頃には気づけば日本ランキング1位をとうに超え、世界ランキング4位になっていた。もう少しで1位。
これからというときに異世界へ転移し、夢が絶たれてしまった。
1位の座を手に入れることができなかったのは悔やまれるが、この際かまわない。
そのうち1位の座を獲得できる確信はあったのだから。
そして、1位との戦争でも負ける気はしなかった。
実際、スパルタ王国は戦勝ポイントで負けていたために4位だったにすぎず、戦力自体はジンでも十分に対抗できた。
今のレオニダスの頭のなかを埋め尽くすのは今だ会ったことのない幹部、NPCたち。
レオニダスは本物の人間のようになったラルフの忠誠心を見て、抑えようのない愛がレオニダスを支配した。
レオニダスに跪き、涙を流したラルフを見て理解できなかった感情 ―― 恐慌状態のレオニダスに冷静さを取り戻させた感情、それは愛。
わが子に向けるような感情。
家族に向ける感情。
かけがえのない友に向ける感情
きっと、ラウル以外の幹部に対して同じ感情を抱くだろう。
国民にも似たような感情を抱くだろう。
逆もまたしかり、9の軍団長と40万を超える国民もラウルとおなじに違いない。
約6年間、レオニダスジンが一方的に愛を込め続けた者たちなのだから、おれはそうだと信じて疑わない。
この世界が本当に現実の世界ならば、ゲームのようにはいかないのだろう。
ゲームのように生き返ることはないだろう。
感情が備わったのならば、人相応の喜怒哀楽があるに違いない。
―――ならば、幸せにしてあげたいと思う。
彼らは俺一人のために6年間付き合ってくれたのだから。
彼らは俺に幸せを与えてくれたから。
この世界ではそれしか願わない。
彼らの願いが、俺の願い。
レオニダスは自室の出入り口の向こうに存在を感じ、意識を向ける。
女性の気配。 何回かのノック音のあと、レオニダスは入室の許可を出す。
姿を見せたのは、国王直属護衛軍副団長――メイド長シズ・サイオンジ。
メイド服がこれ以上ないと思えるほどよく似合う、お尻の手前まで流れる黒絹のような髪を持つ美しい女性見てレオニダスは場違いなことに思いふける。
きっとメイド服よりも和服が良く似合う女性だと。
「レオニダス様、すべての団長様方が城に到着致しました。 レオニダス様が命令した時刻より少し早い時刻となりますが、5分後には玉座の間に集結が完了いたします。」
か、かわいすぎるだろう.....
「...では、10分後に向かう。」
「お供致します。」
「ふむ。」...あと10分あるのか...(';')
部屋に美女と2人きり.....っ。
俺って王だから、なんでも許されちゃうよね? シズちゃん
◆キャラクター紹介
▪シズ・サイオンジ
71人いるメイドのうちの1人、メイド長のシズさんは国王直属護衛隊副団長。
メイド服が良く似合うがきっと和服が似合いすぎる高嶺の花子さん。(名前的にお高そうな感じが伝わりますよね...
腰まである黒髪の超美人さんで、身長160cmのバストはDカップ、スレンダー系。
戦闘スタイルは...トンファーと近接魔法を織り交ぜた護衛軍らしい近接系。
さすがに執事長よりいくらか格はおちますが、対となるメイド長なだけあってめちゃつよです...。
レオニダス王とあんこ大好き。つぶあんよりぐちょぐちょのこしあん派。
国民と幹部はみんなレオニダスにこれ以上ないほどの忠誠心をもっていますが、特に直属護衛軍は狂気がにじみ出る系の危ない人率たかめ!
読んでいただいてありがとうございます!
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