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2.スパルタの王、レオニダス


「もう一度言ってくれ。」








「スパルタ王国周辺、すべてが見知らぬ土地となっております。半径1000kmしか確認できておりませんが、テルモ大陸に存在するはずの国を、一つも見つけることができなかったそうです。総合的に判断し、見知らぬ土地の可能性が高いと判断いたしました。 このラルフの独断で調査範囲を半径1000kmとさせて頂いておりましたが、調査範囲を拡大致しますか?」








「そうか...。少し一人にさせてくれないか。あとで指示を出すから少し待機していてくれ。 それと...調査範囲に関しては問題ない。よくやったラルフ。ただ、調査については一時停止と伝えてくれ。」








「畏まりました。 それでは失礼致します。」






 レオニダスへ一礼し去っていく、執事長のラルフ。


 その表情に焦った様子は一切みられず、優雅な所作で華麗に、そして上品に去っていった。






「はぁ。 なんかつかれた。 自分で緊急事態とか言っちゃってんのに、なんであんな余裕そうなんだ。」








 とりあえず状況を整理しなければ。


 豪華なベッドから降りて、部屋の中をくるくると回り始めるレオニダス。


 そして鏡の前で止まる。




 高身長の美男子、黒髪の短髪で、筋肉が隆起した体躯、巨大なゾウ...




 「なんで、裸なんだ....服を着なければ 」






 そういえば、ラルフってあんなセリフないよな。


 大体、NPCとはまともな会話なんてできないはずで、決まった状況、決まったタイミング、決められたセリフでのみ聞くことのできる声。


 ゲ―ムでは一度もなかったシチュエ―ション、成立する会話、聞いたことのないセリフ、リアルな感触、夢....夢?




 困惑が重なり、いつの間にか忘れていた困惑を、落ち着くことによって思い出し、服を着るという目的を忘れるレオニダス。






 そうだ。俺はレポ―トの休憩でシックスイレブンに向かったんだ。


 確かに向かった、はっきり覚えている。


 そこで黒ずく目に....


 忘れもしない、膝の痛み。 


 そして向けられた銃口。






 あれは銃だよな。フィリピンに行った際に何度も撃った経験がある。


 じゃあ、俺は死んだってことになるのか。




 でもなんで、ロンなんかプレイしているのだろうか。


 そもそもこれはプレイ中といえるのか...?




 今までにないシチュエ―ション、成立する会話、まるで現実世界にいるような感覚。


 いや、本物そのものだ。




 五感が訴えている。 これは現実。






 ()()()()()()()()()()()()()であたりを見渡す。


 ここはスパルタ城の王室、見慣れたレオニダスの私室。




 暗くなった窓  






 窓まで移動し開け放つ   同時に吹き込んでくる夜風。






 「さむっ!.....まあ、気持ちいかも」






 夜の風にびくりとしたレオニダスは次第に心地良く感じ、よく見える視界で外を探るように眺める。






 ほんの少しだけ欠けた白銀に輝く月が目の前に浮かんでいた。暗くなった夜の城下町で一際存在感を放っている一郭、宿と酒場が立ち並ぶエリアには、100を超える露店から漏れ出す光が鮮やかな川の流れとなって輝いていた。様々な音がまじりあったやわらかなうなりが、まるで雲みたいぼおっと街の上に浮かんでいるようだった。




 


 ゲ―ムの世界では決して感じ得ることのできない鋭い五感のみが感じ取ることのできる複雑で、心地のいい感情が、今まで心の奥底で薄々と感じながらも否定を続けていた可能性を紡ぎだす。








 「異世界転移....ありえないか。」








 認めかけていた()()を、常識が否定する。


 今までの人生で何回かは妄想したことはあるが、異世界転移という話は聞いたこともない。実際に聞いたとしても1mmも信じることはないだろうし、そんなアニメみたいなことが現実に起きるわけがない。実際に起きてほしいともおもわない。


 俺にも夢はあるし、親が金持ちで容姿も高身長イケメンだから現実世界には大満足している。


 ゲ―ムだって十分に楽しければ、大学生活も友人関係にも満足している。






 「寒くなってきたな、そういえば服もメニュ―からしか取り出せないじゃん....」






 信じたくない感情が、真実から逃げるかのように意識を目の前の状況解決へと向けさせる。






 「アイテムッ...って出るわけないか。」






ピコンッ ―― 目の前に浮かび上がる見慣れたアイテム欄






 「え?」






 慣れた手つきで浮かび上がった画面をなでるようにスライドし、アイテム欄を掻き消す。






 「アイテム」






 ピコンッ ―― 再び目の前に浮かび上がる見慣れた光景を再び掻き消す。






 希望 ―― 目の前の見慣れた光景がダレイオスに安易で大きな希望を与える。帰れる。






 希望に満ちながらも震えた声で、口にする。






 「ログアウト」






 静寂 ―― 怒り、恐怖、焦りが入り乱れた感情がダレイオスの胸あたりを苦しめる。






 「ログアウトッ...ログアウトッ!! なぜっ.... 出ろよっ!出ろっっ! なぜでないんだ!! 返せよ...返せよ!俺を....元の世界にっ!!!」






怖い ―― 友達に会いたい、ママに会いたい、パパに会いたい、ポチ(愛犬)に会いたいッ!






「会わせろッ。会わせろッ!!!」






()()世界においてきた大切な人たちにもう会えないという恐怖、悲しみがレオニダスを狂わせ、涙で崩れた顔で叫ばせる。






 ドアの向こうから、聞いたことのある声がする。






 「レオニダス様、どうかされましたか。 レオニダス様はお疲れの御様子、少し横になられてはいかがでしょうか。」






怒り ー 疲れただと?....おれがおかしいとでも言いたいのかコイツは。ふざけるなよ...






―― 轟






「黙れッ!!!!! お前こそふざけるなっ! 俺を馬鹿にしやかってッ!!」






 大地を恐れ戦かせ、空を震わす英雄の子供のような怒号が、レオニダス王から放たれる。


 完全な八つ当たり。


 ジンの心は既に崩壊寸前だった。


 自立していないボンボンに突如降りかかった認めがたい現実、異世界転移。






―― 数秒が経ち、数分が経ったようにも感じた後








重厚な扉が開く ―― 






扉が開いた先には、涙をぽたぽたと落とすラルフが跪いていた。






「王よ、気をお収めください。 王の苦しみを理解できずにいる愚かなこの私をお許しください。 そして、哀れな私の願いをどうか聞き入れてはもらえないでしょうか。 少し、お休みくださいませ。」






困惑 ―― こいつはなにをしている?




       なぜ泣いている? 




       俺のためか? 




       俺のために泣いているのか。  




       懇願しているのか。








 目の前の理解できない状況が、困惑が、次第に、レオニダスに冷静さを取り戻させる。












 カチ、カチ、カチ ―― ラルフにとって、一秒が永遠とも思える時間が、鉛のように重苦しい集計時間が過ぎていく。














「ふぅ...  ラルフ、いきなり怒鳴ってすまなかった。 お前の言う通り私は少し疲れているみたいだ。 少し休む。 しばしまて」






「ありがたき幸せ。 いつでもお呼びください。」






 ラウルは、絶世の美男が頬を紅潮させながらも涙を流すという神秘的ともいえる顔を覗かせながら、一礼し、扉を閉めた。








 冷静さを取り戻したレオニダスは重要なことを思い出す。






































 俺、裸じゃん。





























 豪華な王様専用ベッドで仮眠をとったレオニダスは、仮眠中になにを考えたのか、すっかり本来の調子を取り戻していた。
















「アイテム... っと、これと、これと、これこれ。」








 アイテム一覧を再び開いたレオニダスがいつも装備している物を選択すると、アイテム一覧の右側にブラックホールが出現する。慣れた手つきで腕の半ばまで差し込み、取り出した手には真紅のマントが握られていた。数回繰り返して、ダレイオスの身長をも超える長さの杖槍と戦闘服兼王の正装、装飾品、そして王冠を取り出した。










 ものの数分ですべて装備したそこには、先ほどまでの間抜けな姿からは想像もできないレオニダス王の姿があった。








英姿颯爽 ―― 遠くから目にしただけでも跪いてしまう程に神々しい存在感を放つ英雄。




 スパルタ王国、国王の象徴、レオニダスのみが着用を許される浮かぶ王冠と神話級の装備と装飾品の数々。




    絶対的な王




       真の王、レオニダス王が居た。 




















 レオニダスは、王室の重厚な扉の向こう側にいる存在に声をかける。








「ラルフッ」










「はッ」








 忠実さが滲みでる返事と同時に部屋の扉が開く。












「1時間後、全軍団長を玉座の間に集めろ。」








 強大な力を宿した9の軍団長への強制招集。


 無類の強さを誇る軍団長の一切の都合をも考えずに下されるその命令は、レオニダス王のみが許される、神をも恐れぬ所業そのものであった。












「スパルタ王陛下の御心のままに。」


 

読んでいただいてありがとうございます!




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