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時を越えて出逢う夏  作者: 藤
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猫の小太郎

「猫が喋った!!」


 けれど驚いているのは月子だけで忍も当の猫も当然の事として受け止めている節がある。

 どういう事だろう?何故?


「何だよ、猫だって喋るさ、言葉は人間だけの特権じゃ無いんだぜ?」


「……」


 突然の事で、月子はどう答えていいのか解らない。

 だって、猫は人間の言葉は喋らないもの。


「うちの野菜を勝手に食べておいて、偉そうに月子に説教するな」


 助け船を出してくれたのは、勿論忍だった。


「……忍さん……」


 忍は、半泣きで見詰めてくる月子の頭をポンポンと優しく撫でると未だに驚いている月子を宥めるように教えてくれた。


「ここでは動物も話せるし、対等に暮らしているんだ。……月子の住んでいた世界とは同じようで、どうやら違うようだな」


 その様子を黙ってみていた猫は感心したように呟いた。

 それは忍の珍しい一面を見たからに他ならなかった。


「何だよ……忍の嫁さんは異世界人か。……通りでおいらを見て驚くわけだ。……あっち側では、猫は喋んないもんな。……山ノ上のばーさんがそう言ってた」


 あれ?…今何て言ったの?

 聞き捨てならない事を言われた気がする。

 それに山ノ上のばーさんって?


「おい、小太郎。……月子は俺の嫁じゃない、未だ若くて可愛いお嬢さんがこんなおじさんの嫁だなんて勘違いしたら月子が可哀想だろう?」


 そうか……この猫は小太郎と言うのか。

 容姿だけでみればふさふさした毛長の可愛い雄猫だ。

 それはともかく、やんわりと自分を落として話を濁してくれる優しさは嬉しいが、聞き捨てならない。


「……忍さんはおじさんじゃ無いです………」


 突っ込んだのは月子。

 だって……忍は、月子の知るおじさんの定義に当てはまらない。

 この言い方では差別的だと言われてしまうかも知れないが、なんと言うか……格好いいのだ。

 動作一つ一つも綺麗。男の人に綺麗は誉め言葉では無いかも知れないが、でも綺麗な物は綺麗。


 それを聞いてはーっと溜め息をつきながら脱力する猫の小太郎。


「何だよ……両思いじゃねーか。……未だ嫁さんじゃないだけで、ああそうか……結婚は未だ……って事は恋人同士何だな?…女何ていないなんて言っておいて、忍も隅におけないな」


 ニヤニヤする小太郎は畑の胡瓜を噛っている。

 それを聞いた忍は後ろからスパコンと小太郎の頭を叩いた。


「何すんだよ!?忍、痛いじゃないか!!おいらがこれ以上頭が良くなったらどうするんだ!?」


 小太郎は自分の手でおでこを擦りながら忍を睨み付けるが、そもそもが猫なので、シャーっと威嚇しても可愛い。


「良いことだろうが?…どうせなら女性の扱いも学んだらどうだ?」


「忍……本気で怒ってる」


 一見そうは見えないが付き合いの長い小太郎には解る。

 忍は珍しく怒っている。

 こんな容姿の性で、常に機嫌が悪そうだがその実、忍は決して短気ではない。寧ろ辛抱強い性質だ。

 その忍が着火材宜しく点火するとは考えられない。


「お前がからかうことで、月子が居辛くなったらどうするんだ!?」


 尚も凄みを効かせる忍。


「………忍さん……」


 普段怒らない忍が怒ったのは他ならない月子の為だった。

 そんな事をしているうちにお日様が大分高く昇ってきた。

 どうらや結構な時間を費やしたらしい。


「朝ごはん作らなきゃ!!」


 月子が慌てて元着た道を踵を返そうとした。

 咄嗟に走り出そうとする月子の手を忍は掴んだ。


「月子、慌てなくていい」


 月子は捕まれた手の熱で、自分の顔が紅くなっていくのを自覚してしまったから余計に慌ててしまう。


「でも…私の仕事ですから!!」


「解った……この畑で朝食に使いたい野菜はあるか?」


 そんな月子の様子に気付いた忍は掴んでいた手をゆっくりと話すと宥めるように意識を反らしてくれた。


「じゃがいもと玉ねぎが欲しいです。お味噌汁の具にしたいので」


「じゃが芋と玉ねぎだな?…解った……他には?」


「じゃあ胡瓜を何本かお願いします」


「聞いていたか小太郎?……月子を辛かった罰だ。お前が野菜を持ってこいよ?」


「な!?…何でおいらが!!」


「お手伝いをしたら、月子が作るの朝飯をお前にもご相伴に預からせてやろう」


「だったら忍もだろ!?」


「俺は月子と家まで送る。……一人だと危ないだろ?」


「?え?……この距離で?…………過保護」


「何か言ったか?」


「いえ、何も言ってません…………」



 咄嗟に話を降られた小太郎は断固拒否しようとしたが、忍の言葉に頷くしかなかった。

 触らぬ神に祟りなしだ。……月子がよっぽどお気に召したらしい。

 それも本人は無自覚ときたものだ。

 何だかなあと小太郎は思ったが、母親が死んでからずっと独りだった忍が楽しそうなのは小太郎にとっても嬉しい事だから、黙って従う事にした。

 それに皆で食べるご飯はきっと美味しいだろうから。

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