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時を越えて出逢う夏  作者: 藤
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新たな居場所と訪問者

 思いの外とても深く眠れたと思う。

 これを良く眠れた…と言う事が出来ないのは色々な事が、色々と解決していないからだろう。


 月子は純日本家屋の部屋の一室に敷かれた布団から起きると、畳んで押入に入れた。

 忍さんから借りた浴衣は寝ている間に着なれなくてはだけてしまったけれど、着心地は良かった。


 それを何とか見られる程度に気直して、日が明けたとはいえ、まだ夜の余韻が残る庭へと降りてみた。

 両腕を広げて大きく息を吸って上を向き目を閉じた。


「……気持ちいい……」


 都会とは違い、全ての命が生きていることを実感できる様なそんな庭は、月子の心を穏やかにする特効薬になってくれた。


『変なの……都会って言っても……私は私が解らないのに』


 でも不思議とそこに不安はなかった。


「何だ、早いな………まだ寝てて良かったんだぞ?」


 一見廊下から声をかけてきたのは、この家の家主で、月子を拾った忍である。

 忍は月子と同じように浴衣を着ている。

 胸元が大きく開いていて思いの外引き締まった胸板が妙に艶かしくて目のやり場に困った。

 引戸に身体を預けて、寝起きだからだろ気だるそうな雰囲気が強面な顔と相成って玄人の様な貫禄すらある。

 本来ならお側に依りたくないご職業の方に見える忍だが、月子は彼が優しい男だと知っているから、恐くなかった。


「忍さん、お早う御座います!!」


「ああ、おはよう」


 忍は目元のみ少し綻ばせた。

 見る人が見なければ解らない位の変化だが、月子には解る。

 月子は微笑みで返し、「朝食を作りますね」と言った。

 何にしようか迷っていると、忍さんは思い出した様に一つの提案をしてきた。


「ああ、畑に野菜が育っている筈だ。…食べ頃の物も有るが、見に行ってみるか?」


「はい!!」


 私達は着替えて畑に行ってみる事になったのだ。

 と言っても、家のすぐ近くなのだそうだが。


「ふっ!」


「笑いすぎですよ、忍さん…」


 月子は、じと目で睨んだ。

 それというのも、服のない月子に忍は汚れても良いように自分の服を貸してくれたのだが、それが大きすぎてズボンをサスペンダーで吊って、ワイシャツを腕捲りしている姿が、まるで子供見たいで、とても幼く見える。


「いや、可愛いですよ?」


 日頃使わないであろう言葉使いで笑いを堪える忍さん。


「それ、誉めてませんよね!?」


 月子が横目で睨んでも痛くも痒きもない忍はオーバーリアクション気味に傷付いたという表情を見せた。


「心外だ、ちゃんと誉めてるだろ?」


 いや、絶対にからかってるし、そりゃ可愛いって言葉事態は嬉しくないと言えば嘘になるけど、だけど、何か、ちょっと…年頃の乙女としては……複雑だ。

 畑に着くと朝露に濡れた野菜達が美味しそうに実っていた。


「うわあ!凄い!!」


「良いだろ?」


 どや顔………子供みたい。

 そんな事は口が避けても本人には言えないけれど、(←そのうちうっかり口が滑ってしまうのだが、それはまだ先の話だ)、この長身で強面の年上の男性には似合わない形容詞何だろうけど、私はそう思ってしまう。


「はい!!…美味しそうです、誰が畑を?」


 お手伝いさんか何かいるのかしら?

 それとも雇いの農家さんでも?


「俺意外誰がいるんだ?」


 ちょっと照れてる。

 こんなに強面で野菜を作るんだ……もう意外すぎて。


「忍さんは農家の方ですか?」


「俺か?俺は医者だ…」


「お医者さん何ですか?…何か意外すぎて……」


「意外………意外か?…俺としては天職だと思っているんだが……」


「それで農業までやっているですか?」


 忙しくは無いだろうか?

 お医者さんは多忙だと聞いた事が有るのだが……。

 ??………誰に聞いたの?…どこで聞いたの?自分の中に問いかけても答えはでない。

 そんな私に気付いたのであろう、忍さんは話題を変えてきた。


「通常、この辺の家の者は皆自分の家で食べる野菜は自分で作っているんだ。…俺が特別な訳じゃない」


「そうなんですね…………凄いなあ」


 そこで月子は思い付いた。

 ただでお世話になるのでは申し訳ない。

 なら、栽培方法を教えて貰って自分がやれば良いのではないか?と考えたのだ。


「野菜を作るのを私にやらせて頂きたいのですが、教えて貰えますか?」


「それは良いが…………無理する必要何て無いんだぞ?」


 やっぱりこの人は何処までも優しい。


「自分の口に入る物は私も作りたいです」


「解った……そこまで言うのなら、仕事の合間に教えてやるよ」


「有り難うございます!!」


 月子と忍がそんな事を話していると、畑の白菜ゾーンからガサガサと音がするではないか。


「何!?……もしかして、蛇!?」


 月子が驚いていると、忍には音の主が解っている様で音のする方向に向かって声をかけた。


「野菜を食べるのは良いが、月子を驚かすな!…ほら出て来て挨拶しろよ?」


 忍に呼ばれて出てきたのは茶色い毛をした猫で、その猫は何と二足歩行をして此方に向かって歩いてきた。


「悪かったよ、おいら、驚かせるつもりは無かったんだ」


 そして…………喋った。


「!!!!」




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