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時を越えて出逢う夏  作者: 藤
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ふつつか者ですが

 毛布を私に渡すと恩人の無愛想さんは、家の置くに消えていった。

 お風呂を沸かしに行ったのだろう。

 見かけによらず面倒見が良いところ迄、鬼先にそっくりだ。

 それにしても………記憶は有るのに自分の名前だけが思い出せない。

 ここが何処かも検討もつかない。体も冷えて疲れも出ているせいかマイナスな思考だけが頭を過る。私は勝手だ。

 決められた安全なレールの上にいるときは、あんなに反発したのに、いざ庇護下を出れば自由よりも不安になるなんて。

 一体何をしたかったのか迄解らなくなってくるのだから……。

 面倒を見てくれる人が居るだけでも幸せな事なのに。


「おい………おい!風呂が沸いたから入れ」


 どれくらい考え事をしていたのか、恩人無愛想な彼が私を呼んだ声で我に帰る何て無用心にも程があるか。


 いや、自分で言うのも何だけどこんな小娘をどうこうしよう何て思わないか。………私はモテたためしがないもの。

 勉強一筋で来ていたから、それ以外をしたことがなかった。

 遊んだことも、友達と出掛けた事も数える位しかない。


「こんな状況だ………考えるな、という方が難しいだろうが、取り敢えず風呂に入って身体だけでも甘やかしてやれ」


 そう言うと無愛想な彼は女性も物の浴衣を渡してくれた。


「有り難うございます。えっと?」


 そういえば名前も知らない。


「才賀だ。才賀忍。………お前、名前は?っと、すまん。解らないんだったな」


「えっと、忍さん。浴衣有り難うございます。………それと名前は好きに呼んでください」


「ああ、亡くなった母親の物で悪いが、ちゃんと洗濯してしまってあるから綺麗だぞ?」


「お母様の?…え、そんな悪いです……」


 返そうとするも受け取って貰えない。

 だって、それって形見と同じではないか。

 でも、そんな事を考える頭の片隅で、何だ彼女の物じゃないんだ、とも考えてしまう。だって、彼女の物ならそれはそれでとても申し訳ないから。


「あんたが嫌じゃなければ使ってくれ。………それにしても………名前がなけりゃ不便だな。………月、月子はどうだ」


 忍さんはふと窓から見える月を見上げ、私を月子と名付けた。

 何気ない………行動だったと思う。そこに深い意味なんて無いって思うでしょ。


「嫌か?」


 果たしてそれはどちらを聞いているのだろうか?



「名前、有り難うございます。月子が良いです。………あと、有り難く使わせて頂きます」


「ああ……」


 彼、忍さんは初めて笑った。


 お風呂場を案内されて、さてお風呂の使い方が解るかな?何て考えたけど、レトロ過ぎてある意味解んないけど、もう使えるとか使えないとかではなかった。

 薪で沸かす昔ながらのお風呂で、既にいい湯加減に調整済みだ。

 至れり尽くせりとは正にこの事。少し熱目のお湯がまた良い。


 すっかり見も心もほっこほこに温まって、渡された浴衣に袖を通した。うち合わせ位は解ったけれど、どうしてもはだける。


 居間に戻ると、忍さんが寛いで新聞を読んでいた。


「お風呂、有り難うございました。お湯、い湯加減でした」


「!!…そうだろう?風呂はあのくらい熱い方が入った気がするよな!?」


 無愛想さんなのに、子供みたいに笑う。

 笑うと笑窪が出来るギャップは反則だと思う。


「そうですね、気持ち良かったです」


 ニコリと笑う私は消して社交辞令ではなかった。


「気が合うな!!月子」


「……………そうですね」


 同性なら未だしも、異性の同意は初心者には難解ですよ。

 そんな勉強はしてきませんでした。


「おい、着崩れてるぞ…」


 忍さんはそう言って月子の浴衣の併せてを器用に直した。

 そう、調整するのに胸元に手を伸ばして危険な位置で直したのだ。乙女の胸元は絶対進入禁止エリアだって知らないのだろうか?

 初めは気付かなかった月子だが次第に顔が真っ赤になる。

 ただ、直した本人は気にした様子すらないから………それはそれで悲しくなってくる。だって、異性として意識されていないって事だから。

 いや、意識されても困るのだが。

 大きな矛盾。私、こんなに感情がハッキリしない性格だったかな?…もっとシンプルでハッキリしていると思ってた。


「どうした?直ったぞ」



 ええ確かに自分で着た時よりちゃんと着れている。

 だって日頃は洋服だったもの。

 だが、黙っていたのを違う意味で解釈されてしまった。


「お腹すいたか?」


「………お腹…………空いてないです」


 って言うより先にお腹がグーっとなった。

 だって………さっきまでそんなつもり全然無かったもの。


「お腹は正直だぞ?…良いことだ、正直に生きられるの良いことだぞ…………待ってろ?今何か作ってやる」


 立ち上がって台所に向かう忍さん。

 え?……無愛想なのに作れるの?(←失礼)


「忍さん、作れるんですか?」


「お?出来ないと思っているな。…一人暮らしが長いんだ、料理くらいする」


 ブスッとしてるけど、これは怒っている訳では無さそうだ。


「良ければ私が作りましょうか?」



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