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時を越えて出逢う夏  作者: 藤
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初めまして?

 必死に浮かび上がった。

 光が見える上に浮かびたくて、とにかく必死に浮上して、光を地上を掴みたくて力一杯伸ばした手を力強い大きな手に捕まれ、急に手を引き上げられる。


「大丈夫か!?」


 まだ良く見えない目では誰だかは解らないが、声から男性で有ることが解った。


「だっ…ゲホッ!!大丈っ……ゲホッ!!…夫……」


 話そうとするが、蒸せて咳き込み声がでない。


「ああ、呼吸が出来るなら、無理して喋ることはない。苦しいだろう?」


 そのまだ見ぬ男性は、私の背中を擦ってくれる。

 優しい…………人なのだろうか。


「何だってこんな場所で溺れているんだ!?…ここは一度沈むと2度とは上がってこれないと言われている底無し沼だぞ!?」


 内容に度肝を抜かしそうになった。だって自分は旧校舎の2階にいたのであって、消して底無し沼に何ぞ足を踏み入れてはいないのだから。


 それにしても………心配されたと思ったら今度は怒られてしまった。

 何だか知っている人を連想させる。


「…………鬼……先?」


「誰が鬼だ!!」


 怒鳴られてしまった。

 でも不思議と怖くない。

 男の人の低い声なのに不思議。


「ごめんなさい……知り合いかと思いまして………」


 次第に出始める声でどうにか会話になってきている。

 声を聞いて安心したかの様に、私を支える声の主も声のトーンが落ち着いてくる。


「お前の知り合いは鬼なのか?」


 随分斜めな方向に考えが行く人だな、とは正直思った。


「名前に鬼がつくけど、普通の人間です。それに優しい人です」


 鬼先を勘違いとは言え鬼扱いされた事にムッと苛立った私は、大人げなく否定してしまった。

 命の恩人なのに。


 そんな会話をしていて初めて廻りを見渡せる余裕も出来ていた。


「…………え?……ここどこ?…」


 いや、旧校舎の2階からの沼落ち疑惑だから、多少の事では驚かない積もりだったけど、私はこんな景色を知らない。

 ここは本当に現代の日本なのだろうか?

 山深い自然豊かな場所………と言えば聞こえがいいが、どうみても自分が住んでいた市町村にはこんな場所はない。


「ここ何処って、お前記憶喪失なのか?」


 目の前の恩人が心配そうに問い掛けてくる。


「え?……記憶はあります。…私は……………私は?」


 記憶はある。有るはずなのに自分の名前が思い出せなかった。

 どうして?…そんな事あり得るの?

 物心ついてから、だって17年間も使ってきた呼ばれ続けた名前なのよ?思い出せない何て事…………。

 でも、どうやっても思い出せない。


「自分の名前が解らないのか?…お前、ここが何処か解るか?」


 "…"は首を左右に降って意思表示をした。

 だって………ここは解らない。


「そうか……」


 目の前の男の人は暫し考えるような素振りを見せると徐に私をお姫様抱っこするではないか!!


「きゃあああ」


 驚いて悲鳴をあげる私。


「ちょっと黙っていろ。…舌を噛むぞ?…」


「何処に連れていくんですか!?」


 パニックに陥っている私は半狂乱だ。


「俺の家だ………このままです濡れたままじゃ風邪をひくだろう?かといってお前の家は解らないのだから、取り敢えず俺の家で服を着替えるといい」


「!!!……すみません……」


 正直助かる。

 だってここが何処か解らないのに、置いてきぼりにされたのでは堪らないから。


「私、歩けます」


 なけなしの理性が発した言葉だが、正直体はダルいから歩ける自身なんてない。


「おとなしく抱かれてろよ。…お前は溺れかけたんだ。自分が考えているより体にきている筈だ」


 暗くて良く見えないけれど、きっとこの人は強面だろう。

 身長も高い。肩幅も有るし腕も長い。………気付いてしまったが、胸板も厚い。って何を考えてるのよ、私!!!

 いいえ、これは現状把握の為の観察…………って誰に言い訳してんだか。

 そんな事を考えている間にも男はずんずん歩いて進んでいく。

 ちょうど山の獣道を下って行っている様だ。

 思っているほど山深い場所では無いようで直ぐに民家の灯りが見えてきた。純日本家屋の庭付き2階建てで、庭も大きい。

 門を潜ると、玄関の引戸をがらがらと開けた。

 鍵をかけていないんだ、随分無用心だな。

 そんな事を考えていると、男は灯りをつけて家に上がった。

 そこで初めて、私を抱き上げている男の顔をちゃんと見ることが出来た。


 切れ長の目と眉。薄い唇に高く通った鼻。シャープな顔のラインは、男が整った顔をしている事を私に教えてくれた。

 とても無愛想で強面だけれど、もう既に私は彼が優しいことを知っている。


 私よりはどうみても年上だろう。

 20代後半いや30代だろうか?

 消して10代には見えない。


「今、風呂を沸かすから、お前は風呂に浸かって温まるんだぞ?」


 自分だってびしょ濡れの私を抱えていたから濡れているのにそんなのお構い無しだ。

 濡れた私を畳に下ろすと、タオルと毛布を持ってきて掛けてくれた。


「あの、濡れちゃうから………」


「そんな事は気にする事じゃない。………今はちゃんと温まる事だけ考えろ」


 顔の表情と言葉の内容が合っていないけど、私には彼が心配してくれているのが良く解った。

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