部活鉄則、先ず入れ。
文芸部には人が集まらない、そういう偏見が少しはあった。根拠は無い。
しかし、ここの文芸部はその根拠がはっきりしている。
「───あ、新入生ですか?」
俺たちは何も言えなくなっていた。
目の前に転がっていた女は、そこでようやく立ち上がった。
「初めまして、部長で二年の芦屋川 御影です。どうぞよろしく」
「豊中 蛍です。こちらこそ」
そういうとその女は手を差し出した。握手のつもりだろうか、俺はやるつもりはない。
しかし隣の人間は固い握手を交わしている。あーそうかい、こいつまでついてくるとは想定外だ。
「とりあえずそこに座って、いまお茶を出しますね」
そういうと女───芦屋川は冷蔵庫から缶飲料を二本取り出した。
でもこれ。
「どっからどう見てもエナジードリンクの類じゃないですか?」
こう言わずにはいられなかった。
「エナジードリンクと思うじゃないですか、でもこれ緑色でしょう?だからお茶なんですよ」
そんな滅茶苦茶な話があるか。と思いながら、手渡されたものを飲む。
不味い。不味いとまではいかなくても、とりあえず美味いわけではない。
無理やり元気になるには、何かしらの代償が付きまとう。
「ああそうだ、せっかく文芸部に来ていただいたからにはここについて知ってもらわなきゃいけませんね」
そういうと芦屋川は机の前に腰掛け、広報担当の如き目付きをし始めた。
「ようこそ文芸部へ。まだこれから仮入部の段階でしょうけど、面倒なので既に本入部する意思はあるとします」
「部活選択の自由は……?」
「一番に文芸部に来たと見えます、その時点で他の部活なんか興味無いでしょう」
言ってしまえば、確かにそうだ。いやそうとも限らない人間もいると思うが。
そして、芦屋川は息をふっと吐き、また吸うと、一気に捲し立てる。
「活動内容、読む、書く、作る、以上。読むというのは本を読む、書くというのは物語を書く、作るというのはこんなパンフとかを作ることです。部活としての体裁を保つために年に一回以上は書いたものをどこかに寄稿してますが、こんなの私がやっておくので気にしなくていいです」
軽い身振り手振りも交えた賑やかで端的な説明をありがとう、芦屋川さん。
ところで。
「顧問は?」
「今日はいません。ちなみに顧問も本の虫なので、安心してお過ごしください」
部活に対して使う言葉なのか、それ。
話を聞いてない振りをしていたら、隣に座っていた豊中が手を挙げた。
「官能小説は書いていいですか?」
「書けるものなら書いてみてください、時間ならありますので」
そう言うと芦屋川はパソコンを豊中の方に流した。
そして豊中は「めっちゃドエロいもの書いてやるぜ!」と息巻いている。
官能小説、結構難しいと思うんだが。少なくとも俺は書きたくない、書けない。
で、一時間半。
「できました、どうぞ濡れてください」
「それだけ早いということは間違いもあり、しかも雑で、そのくせ自分は上手いと思っている、ロクに相手を満足させられないものだと見ますが、いいですね?」
「ええ、俺もそう思います」
誤解しかないが、卑猥は一切ない。
しかし、芦屋川の判定も早かった。
「ダメですね」
「何でですか?俺めっちゃ頑張りましたけど」
「ここにダメな点を上げておきました、これを確認してください」
とりあえず俺も豊中の文と、芦屋川の評価を見てみることにする。
・全体的に雑
・誤字脱字が多すぎて集中して読めない
・直接的な描写しかなくて面白みも参考になる点もない
・ボディビルダーの大会に行って「筋密度が東京駅!」とか叫んでみてください、少しはマシになると思います
「まあ、そうなるよな」
「俺も真面目に書いてなかったし!時間短縮したかったから仕方ないな!」
「私は真面目に読みました」
「ごめんなさい」
そして芦屋川はパソコンを自身の手元に戻した。
「ですが、私の元につけば、少しくらいは読める文章にまで押し上げますよ」
そりゃ大変頼りになる話だ。
だが俺は書くために来た訳では無い、ただの腰掛け入部だしな。とは、さすがに声に出しては言えない。
「改めて、色々あると思いますが、これからもよろしくお願いします」
よろしくお願いします。と声に出したが、まだ仮入部の意思すら伝えてないことを思い出したのは、部室を出た後だった。