表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集・散文集

着信待ち

作者: Berthe

 彼に電話してみたものの繋がらず、また十五分ほどして掛けるも事態にすこしも変わりはなくて、さすがに何度も着信を残すのは嫌だし、というより嫌われそうで、それから二十分ほどはたいして解けもしないクイズ番組を見るともなく見ながら、余計なことは考えないようにしつつも横目に入るスマホのあたりへ視線がそれるのは止められない。結局もう一度発信をタップしかけた人差し指を、きっと折り返しは来るはずだから待ったほうが賢明とあやうく抑えると、何とはなしに映像から音楽へ切り替えて、イヤホンをいつものように心持ち大音量にしてこれなら着信にもすぐ気づけるからと思うともなく聴いてみるうち、旋律と一緒に流れ込んでくるのは男女の哀切を伝える歌詞である。今の自分と同じ年の頃につくられたであろうそれが、自分そっくりな声で再生されるのに耳をそばだてるうち、今の切なさよりもわたしにだってこういうのが創れるかもしれないとの思いがにわかに湧いてきて、楽といえば楽なのはいいもののやりがいなど見つけられるはずもない事務仕事に倦み果てた心を救うのはこれしかないのだと一気に決めつけた彼女ではあったが、といって音楽の素養などひとかけらもないのだからまずは誰かに話を聞いてみたいと思ってみると、その適任が誰あろう自分が着信を待ちこがれる彼そのひとであることに気づかないわけにはいかない。


 音律が変わった。思わずイヤホンを外す。親友だった。昨日も掛けてきたし、おとといも掛けてきて、その前の日だってその前の前の日だって電話で喋っていた。今日もそれくらいの時間になっている。別に話すともなく話すのだけれど、最近は自分から掛けるのは減ったかもしれない。今日は着信がやまない、気がした。電話に出た。いつもと変わらない調子でいつもと変わらないことを話す。いつもと同じように口の動くままだらだら喋った。話を聞いた。こっちが本当だと思う。さっき考えたことも電話を切る頃にはあほらしかった。彼からの電話は要らない。いるけどいらない。必要なし。話し足りない。ううん、また明日にしよう。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 携帯電話にカケホーダイプランができたり、アプリで通話できるようになったのが本当に助かりますよね。 前は携帯電話で長時間話そうものなら悲惨なものになってまりしたからね。 メールでもとんでもない…
2019/08/12 03:12 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ