蛾
真っ黒な蛾が
死んでいた
鈍色のポストが張り付いた
煤けたクリーム色の壁に
ひしゃげた胴体を押し付けて
無様に磔られていた
昨日の夜はそこに居て
淡い照明に身を輝かせながら
そよぐ風に任せ
静かに触角を左右に揺らし
羽根を休めていた
あいつ
今夜は誰の怒りに触れたか
片付けられることもなく
押し潰された勢いのまま
目を覆いたくなる晒し者
そんな光景を目にしても
何事もなく夕刊抜き取り
目を背けた私の耳に
やけに明るい歌が聞こえる
「無常の世界で」
「やりたいことは何だ」