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EP7〜戦い〜

アレクスは時空の亀裂を目前にしていた。

下には大海原が広がっている。


間近でみる時空の亀裂は大きなアーモンドアイの形に開かれている。

中は漆黒の闇だった。


巨大な朱雀が吸い込まれてしまいそうな強風が吸い込まれては吐き出されている。

まるでこの亀裂は呼吸しているように見えるのだ。


「くっ…!皆気をつけろ!取り込まれたら二度と戻れなくなるぞ…!」


亀裂から朱雀を遠ざけてアレクスが叫んだ。想像していたより遥かに難易度が高い仕事だ。


王宮の儀式の間にも、四神を通して強風が吹き始めた。


「すげぇな、これは…」


リアムも閉口した。

西に走った白虎も時空の亀裂のそばで立ち止まった。

今にも吸い込まれそうだ。


「私もたどり着きました」


青龍を通してカディルの目前にも時空の亀裂が見える。

地上は住宅地が広がる街中だ。

この亀裂から何かが堕ちてきたら下に住む住民達は無事では済まないだろう。


こんな場所からフィラは堕ちてきたのだ。

よく無事で済んだとカディルは思った。


カディルは時空の亀裂を前にして、その危険性を肌で感じた。

今この瞬間にも「何か」が堕ちて、尊い民の命が失われるかもしれないのだ。


(フィラ…あなたはこんな亀裂から天界に帰ることなどできません。私にはそれがよく分かりました。だから…私は)


杖を力強く握り直し、カディルは迷いを捨てた。


「呪縛して強制的に閉じます…!」


「ーーまぁ、それしかないよね」


日頃は無関心なランベールも、現場を見てさすがにマズイと思ったのだろう。

声に緊迫感が加わった。


「全員っ…たどり着いたな!?」


今や儀式の間は強風が吹き荒れて、いたるものが開かれたドームの天井から吹き飛んでいく。

リッカルドとフェリクスは姿勢を低くして、柱に掴まっていた。

気を抜くと体を舞い上げられてしまいそうだ。

小さな白龍も流石に目を覚ましてリッカルドの腕に巻きついている。


「アレクスとリアムも準備は良いか!」


「はい」


リッカルドに二人は応えた。


ディユ達はオーラに護られて強風の影響を受けることはないのだが、四神の苦痛が伝わって、ひどく精神を消耗していく。


しかし、カディルは構わず手に持った杖を床に鋭くついた。

杖の蒼石が眩しい光を放ち、足元から噴き上がった風がカディルの髪を舞い上げる。

左腕の痣が、蒼く光り輝いているのが風で煽られた衣から見え隠れした。

青龍が天に突き抜けていくような凄まじいエネルギーがカディルの身を貫いた。


「汝の力を解放せよ!シレオレガートゥラム(束縛し沈黙させよ)…!」


カディルが命じると青龍は吠え、時空の亀裂に突進した。

金の眼がカッ!と光り亀裂の動きを麻痺させて封じる。青龍は長い身体を亀裂に巻きつけて縛り上げた。


亀裂は開こうと抵抗するがさらに締め上げられて糸のように細くなり、やがてバチバチと雷が弾けて消滅した。


「亀裂がひとつ消滅しました…!!」


フェリクスが観測データを見て叫ぶとリッカルドは安堵のため息をついた。


しかしまだ先は長い。


「皆の者、カディルに続け!ひとつも残らず亀裂を消滅させるのだ!」


リッカルドは唇を噛み締めた。

戦力になれなかったことが悔しかった。

この国の王子であっても、白龍の器の素質があったとしても、このざまだ。


もし今、王である父がこの場にいたらもっと統率が取れていたに違いない。


ディユの中ではカディルが群を抜いて能力が高いけれど、率先して戦う性格ではない…。

そのカディルが嫌でも先陣を切らなくてはならない状況を作ってしまった。

自分の未熟さが悔しくて堪らなかった。


リッカルドの腕に巻きついて風をしのぐ白龍が今の自分の力量なのだ。


今はディユ達にこの国の未来を託すしかない…!


「頼む…」


誰にも聞こえない小さな声でリッカルドは呟いた。


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