「運」とは実力である。
何処か儚く、触れようとすると何処かへ消えていく。どれだけ魅入っても「それ」には触れることさえ許されない。そんなものを少なくとも私は「夢」と定義する。
天之星高等研究大学。ここは、オデュッセウスシステムの解明を目的とした世界最高峰の技術と人材が集まった場である。年齢問わず、解明に関わる能力と実力さえあれば誰でも入学することが出来る、そして世界初の複数国による管理された大学である。故にこの大学は人工的に作られた島にあり、大学の名称もまた、国によって少し違う部分がある。入学と同時に手に入る、他国へ何時でも行くことが出来るフリーパス、身の安全を確保する万全なセキュリティーなど、目を輝かせるものが多くあるのだ。だが、当然ながら入学するには並みならぬ努力と能力が必要だ。一年中入学審査を行ってはいるが、何せ世界トップの施設であるため、応募者は数億といる。その中で年間合格者は平均凡そ「十七人」たったこれだけの人数しか通る事の出来ない狭き門なのに私、未道星は何故かその大学へ向かう直行便に搭乗しているのだった。
遡ること四日前、四月に少なくともこの国では有名な私立高校に入学したばかりで、初めての一人暮らしで、更には可愛い娘が同じクラスだった所為で気分が高揚していた。そして偶然電車に貼ってあった星之星高等研究大学の広告を見た私は、馬鹿なのかそれとも只の気まぐれか、入学審査に申し込んでしまったのである。入学審査というのは簡単で、自身の氏名と住所、志望理由をメールで送るだけで結果が分かるらしい。そこにも「オデュッセウスシステム」を応用したものを使っているなどの噂を何処かで聞いたことがある。
しかし、どうせ受かる訳が無いと思った私は自宅のパソコンで応募した直後、寝た。それもまだ午後八時である。そんな奴が受かる訳がない。大事なことだから二回言っておこう。受かる訳がない。だが、予想を斜め上どころか垂直にもなりそうな事に朝起きたら知らない大柄の如何にもスパイ映画に登場しそうな黒スーツの男が数人私の部屋にいるのであった。
(は……?)
起きて未だ脳が活動してもいないのにこんなことが起きたのだ。誰でも言葉がでないだろう。そんな唖然としていた私に大柄黒スーツ姿の男が
「未道星様、お迎えに上がりました。」
(迎え?何の話だ?いや待て。腐っても偏差値六十九の私だ。脳内にあるありとあらゆる情報を集めるんだ! )
そして大したことも詰めていない脳をフル回転させた結果、
「入学審査...。」
ふと口から溢した一言だった。
「左様。入学審査の結果、貴方様は見事に合格されました。さぁ、荷物は我々が片づけましたのであとは未道様が着替えて出発するだけです。」
スーツ姿の男がそういった途端私は自分の部屋の中を見渡した。何も無い。文字通り何も無いのである。パソコンや机、挙句の果てに最近買ったばかりのちょっとエッチな雑誌すら残っていなかった。あるのは今まで寝ていたベットと、用意された着替えのみである。
「ちょっと待って。出発って研究大学に?いくら何でも早すぎるよ!高校の手続きは?俺の親はこの事を知らないだろうし...。」
混乱した中で少々乱れたが正しい疑問の筈だ。
「それらの事は全て我々にお任せ下さい。未道様は何の心配もなく出発して下さい。」
それを告げる黒スーツの男の指示に従うしかなかった。小中一貫校で陸上部に所属していた私なら、逃げ足ならこの大男に勝るかもしれないが、何せ正体がわからない相手だ。本当がどうか今は従うしかないのだ。
少しの沈黙の結果、私は用意された衣服に着替え始めた。
「これは。」
そう、紛れもない正真正銘、本物の天之星高等研究大学の制服だった。最早驚いてはならないと思い、直ぐに制服に着替える中、
(どうやってサイズを調べたんだ?)
などと馬鹿な疑問が浮かんできた。それはすぐに忘れ、黙々と制服に着替え、準備が出来た私を見た男はトランシーバーを出し、
「こちらαⅢ、目標の準備が完了、直ちに輸送に移る。」
そうトランシーバーに告げたあと私あとは、黒スーツの男たちが用意した車に乗る、そう考えていた。しかし、向かうのは玄関ではなくベランダに誘導され、その瞬間私はまさか、いや、本当にまさか...と心の中で浮かんできたことがあった。そしてその三秒後見事に的中した。 「えーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
そう、ヘリコプターが飛んできた。一人暮らしの7階建てマンションの上から。
「こ、これが国の本気なのか...。」
直後、特殊隊員のような人がヘリから降り、すぐさま私をベランダから担ぎ、一瞬でヘリの中へと運ばれた。黒スーツの男に別れも告げぬままヘリと運ばれ、そこで目にしたものは...
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