アジト
アジトは貧民街の一角。見た目はほぼ廃墟みたいな建物の中だった。
石材と木材が半々くらいに使われた二階建ての建物で、古びた家具類を見るに元はそれなりに裕福な者が家として使っていたのだろう。
今はレジスタンスのアジトとしてこっそりと使っているらしく、窓は板が貼られて中が見えないようになっている。本来ならば真っ暗だろうが、幾つかのオイルランプが薄暗い室内を照らしていてそれなりの明るさは確保されていた。
「いや、まさに古き良き貴族の模範ともいうべき方ですな」
「本当に」
「皆がタイキ様のような方であれば、この国もずっと良くなっていたに違いない」
口々にそう言われ、俺は苦笑いという名の愛想笑いを浮かべて椅子に座っている。
奥の部屋に通され、アジトに居た十五人のレジスタンスメンバーに取り囲まれるようにして椅子に座らされたのだ。
どうやら、レイと呼ばれた老人は中々発言力が高かったらしく、俺達はあっという間に受け入れられてしまった。
「つまり、生まれが違うだけで、タイキ様は王様も貴族も、皆同じ人間だと仰った!」
「おぉ……」
「そのような……」
リヒトはまるで選挙の演説のように長々と話し続けているが、内容が全て俺の賛美の為、居心地の悪さと気恥ずかしさしか無い。
「タイキ様のような貴族様が味方についたのなら……」
「ああ。勝ったも同然だな」
そんな謎の会話すら聞こえてくる。いったい何に勝つというのか。
なんと答えて良いものか分からずに黙っていると、一人の中年の男が前に出てきた。
「……タイキ様。我々に、知恵をお貸しください。どうすれば、奴隷は減るのですか? 犯罪を犯した者への罰ならば仕方がないでしょう。ですが、戦争に負けた国の者や、自衛力の無い貧しい村の者などは、無理矢理奴隷にされてしまうこともあります。これは、あんまりではないでしょうか」
男がそう訴えると、またも全員の視線がこちらに向く。
いやいやいや、そんな重い質問、どう答えて良いか分かりませんよ?
そう思ったのだが、皆の前で分からないなどとは言えない。というか、言える雰囲気では無い。
「……そうですね……」
冷静に考えるフリをしつつ目を閉じる。頭の中はぐるぐると色んな事柄が巡り巡っていて纏まらない。
奴隷商人を強襲して奴隷を奪うか。いや、そんな盗賊みたいなことしてもダメだ。
じゃあ、戦争奴隷を無くす為に世界中の戦争を止めるか。いや、そんなことは不可能だ。
「……奴隷は、どうやって売られるのか」
まず、戦争の捕虜や借金奴隷、犯罪奴隷は各地である意味公式の奴隷となる。
後は、カタにはめられて無理矢理奴隷にされる者や、メーア達の時のように奴隷狩りにあって違法に奴隷にされる者達だろう。
こちらは、非合法な奴隷なのだから解放しても良いと思うが、問題は誰がそういった存在なのか判断が難しいということだろうか。
「……この国に関しては、奴隷は必ず王族が確認するんだったな」
一箇所を抑えれば良いのならば、もしかしたらどうにか出来るかもしれない。
そう思った俺は、無意識に結論を口に出した。
「……この国の国王に会いに行くか」
その一言は、場の時間を止めるのに十分な力を持っていた。
「た、タイキ様?」
「国王と謁見を?」
「そんなことが可能なのか……?」
ひそひそと戸惑いを含んだ声が聞こえる。
「いや、とりあえずは対話かなと思いまして……言葉で言ってみて、ダメなら違う方法を考えます。あ、大丈夫。この場のことは決して言いませんよ」
そう言うと、困惑しながらも全員が頷いたのだった。
アジトを出た俺達は、リヒトの案内でまた街の外へと戻った。
そして、レティシアの元に戻ると、事の顛末を聞いたレティシアが目を丸くするのだった。
「……国王陛下に直接、ですか。それは、また凄いお話に……すみません、なんと答えたら良いのか……」
混乱するレティシアに、俺は苦笑しつつ首を左右に振る。
「言ってみるだけですよ。結局ダメだろうし。なにせ、この国の最大の産業なわけだし、まず間違い無く口は挟めないでしょうね」
「……その言ってみるだけ、ということが難しいのだと思いますが……」
レティシアは呆れたような顔でそう呟いた。




