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天空の城を貰ったので異世界で楽しく遊びたい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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陛下お帰り

【シュバルツ】


 柔らかな風が吹き、私の頬を撫でた。


 首を回して景色を見れば、視界の殆どを雲一つない大空が広がる。地上からは決して見ることのできない、深い青だ。


「どうかしましたか?」


 そんな声を掛けられ、振り向く。


 そこには、周りを流れる風に似た柔らかな雰囲気の青年の姿があった。


 たった一人でこの城を島ごと浮かせ、無数のゴーレムを操る大魔術師。


 タイキ殿の案内で見た数々の驚異的な技術力と、数百体にも及ぶゴーレムの一軍。ドラゴンすら一撃で屠るという、常軌を逸したその魔力。


 その事を知っても尚、そんな風に見ることが出来ないような毒気の無いのんびりとした空気を持つ人物だ。内包する力を誇示することも無く、むしろ人の目など気にもしていないようにすら思える。


 まさに、この空の上を流れる風のようだ。


「……改めて、天空の国の王という存在を胸に刻みました。これからは、どうか密に友好の関係を。もしも我が国に来て下さる時には、最大限の歓迎の式典を致しましょう」


「あ、いや、その時は人知れずひっそりと行かせてもらいますので、地味に地味に歓迎してくれると嬉しいです」


 タイキ殿が困ったように笑いながらそう言ったのを見て、こちらまで思わず笑ってしまう。


「……分かりました。控えめに、されど精一杯のおもてなしを約束致します」


 そう答え、私は無欲なる空の覇者と笑い合った。


 天空の国の王は、その器こそが最も計り知れない大きさなのかもしれない。





【タイキ】


「また必ずご招待を」


 そう言い残し、シュバルツはエルフ達と共に地上へと向かった。


 姿が見えなくなるまで皆で見送り、両手を伸ばして背筋を伸ばす。


「あー……疲れたぁ……」


 成ったばかりとはいえ大国の王のおもてなしである。頑張って色々と会話をしてみたが、感触はいまいち掴めない。


 隣で微笑むエイラに顔を向け、苦笑する。


「どうだった? 威厳とかは出せないけど、意外と堂々と相手を出来た気がするけど……いや、気のせいか」


 途中から恥ずかしくなって自ら否定したが、エイラは首を左右に振って口を開いた。


「いえ、本当にご立派でした。皇帝も終始圧倒されたのに、気付けば何度も笑顔になっていましたし、良い対談がなされたと思います。タイキ様の力はしっかりと見せつけつつ、タイキ様のお人柄も十分に伝えられたのではないでしょうか」


 と、エイラは大絶賛である。


「私もそう思います。圧倒的な力で威圧するよりも、タイキ様のやり方の方が強固な同盟関係を作ることが出来ると思いますよ」


 更にユーリが同意し、俺は恥ずかしさに両手で顔を隠した。そんなに深く考えてなかったなんて言える空気ではない。


 調子に乗った数十秒前の自分に悶絶していると、これまで静かに控えていたアイファが口を開く。


「……さて、タイキ殿。せっかく此処に残ることになったのだから、私に何か役目をいただけないだろうか」


「え?」


 アイファの不思議なセリフに眉根を寄せて振り向く。


「働きたいの?」


 そう聞くと、アイファは難しい顔で顎を引いた。どうやら働きたいらしい。


 ひと段落ついてエルフ達が森に帰る際、俺はアイファとフィアトーラを通じて『エルフの友』という立場になった。


 これは言葉通りの軽いものでは無く、エルフという一族との恒久的な友好関係を約束するものであり、何かあった時、見知らぬエルフであっても俺を助けてくれるという非常に義理堅い代物である。


 その証明となる物として、俺の手首には木と金属の鎖で作られたアクセサリーが巻かれている。


 ミスリルと精霊樹の枝で作られた大層な逸品らしいが、いまいち価値は分からない。初めて見た時はなんとなくヒッピーっぽいという感想が頭の中に浮かんで消えたのを覚えている。


 その後エルフ達は何度もお礼を言いながら森に帰ったのだが、俺がもし心変わりをして精霊樹を見たいと言った時の為に誰かが天空の国に残るという話になったのだ。


 それを聞いた時、ほんのちょっとだが美しきエルフの少女であるフィアトーラが残ったら良いなぁ、とは思ったのだが、話し合いの末多少付き合いが長いアイファが残ることとなった。


 アイファも何故か嫌がらず、さも当然といった様子で俺に頭を下げ、


「これからはタイキ殿を師として魔導の道を歩みたいと思う。よろしくお願いする」


 という謎の挨拶をされた。それからは微妙に敬語になったのだが、顔は相変わらず仏頂面なのであまり弟子という雰囲気も無い。


 とりあえず、住む場所はメーア達と同じ区画の白い家を一軒与えたのだった。


 とはいえ、アイファに魔術なんて教えられるわけも無いし、ロボットの作り方を学ぶのも無理だろう。


 仕事を与えるにしても、農作業とか城の家事などはトレーネ達が主としてやってくれているし、空の上にいたら護衛なども必要無い。


 そんな風に悩んでいると、ふと、あることが思い浮かんだ。


「……ん? 護衛?」


 口の中で呟き、顔を上げる。視線の先にはシュバルツとエルフ達を見送る為に出てきていたエイラやユーリ、ディツェンとメーア達がいる。


 そして、アイファだ。


「このメンバーなら、地上に降りても何とかなるかな?」


 これまではエイラや、メーア達しかいなかったから無理だったが、今ならば魔術師として一流のアイファやユーリ、ディツェンがいる。


 いや、流石に城に一人は戦力になりそうな人が残った方が良いかもしれないが、それでも人数に余裕があるではないか。


 そう考えた俺は、ワクワクを抑えきれずに無意識に笑みを浮かべていた。


 そして、口を開く。


「アイファさん、護衛を頼んでも良いかな?」


 俺がそう言うと、アイファだけでなく、皆が怪訝そうに首を傾げたのだった。



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