起きたら何ココ。ヤバイ。
本日5度目の更新
休日出勤って何だっけ?
【目覚めた少女】
「ん……」
身体を包み込むような暖かさと柔らかいベッドの感触に気が付き、私は薄く目を開けた。
ボンヤリとしか見えないが、白い光を感じる。
何があったのか。まだ寝惚けた頭が上手く整理してくれない。
徐々に目が見えるようになってきて、私の目の前に白い板のような物があると分かった。
「なに、これ……?」
力の入らない身体を両手で何とか支え、身体を起こす。
真っ白な壁や床がある。石膏ではないだろうけど、見たことが無い壁や床だ。
下を見ると、随分と小さなベッドで寝ていたのだと分かった。こちらも不思議なもので出来ている。石でも木でも鉄でも無い。
表面がスベスベの貝殻とかの触感に近いだろうか。
なにを見ても不思議なものばかり。
その時、私は微かに痛む頭に手を置いて呻いた。
そうだ。私は、あいつらに追い詰められて、崖の上で死のうと……?
……いや、死ねなかったんだ。あの騎士の言葉に揺さぶられて、なけなしの、小っぽけな勇気が折れてしまった。
怖くて、怖くて怖くて、死にたくないと思ってしまった。
そして、何かがあって、私は……?
「そ、そうだ……あのゴーレム……っ!?」
そう口にした瞬間、ヌッとあのゴーレムが姿を現した。
「ひっ!?」
ベッドの上で後ろに下がろうとするが、何かに引っかかって下がれない。
「こ、殺さないで……」
情けなくも、私の口から震えた声でそんな言葉が発せられた。
こんな弱い自分が嫌いで、最後くらい意地を見せて死んでやろうと思ったのに。
自身の弱さに愕然とする中、ゴーレムは指一つ動かさずに私を見続けていた。
「…………な、なにも、しないの?」
何故かゴーレムに話し掛けてしまった。答えるわけがないのに。
だが、前屈みになっていたゴーレムは身体を起こすと、こちらに背を向けて歩いて行った。
まるで、私の言葉が分かるかのように。
白い部屋。その部屋の中で扉らしき場所は一つだけだ。その扉の側で、ゴーレムはただ立ち尽くしている。
「……こっちに来いってこと?」
そう尋ねるが、ゴーレムはなにも答えない。喋らないのはゴーレムだから当たり前だ。しかし、それでもあのゴーレムは変だ。
魔術人形、もしくは魔導兵器。ゴーレムはそれらを総称して呼ばれる。ゴーレムには人一人分では足りない魔力が必要であり、それも単純な命令しか聞くことは出来ない。
だが、石や鉄で造られたゴーレムは強靭である。動くものを殴れと命令されたゴーレムが戦場では相当な脅威となるのだ。
しかし、普通の魔術師では二人で一体のゴーレムを操ることしか出来ない。それなら、時と場合によっては魔術師二人がそのまま戦場に出るほうが強いだろう。
つまり、ゴーレムを操り自らの護衛とする魔術師は、それだけで恐るべき力を持つ魔術師であると知れる。ゴーレム一体連れているなら普通の魔術師三人分以上の魔力を保有しているということなのだから。
このゴーレムを見る限り、命令は単純なものではないだろう。ゴーレムに複雑な命令を実行させる……それは稀代の大魔術師か大魔導士と呼ばれる存在に違いない。
ピクリとも動かず立ち続けるゴーレムに緊張しながら、私は扉に向かって歩き出した。
このまま此処にいても仕方がない。まずは此処が何処なのか探らないと。
そう思い、私は扉を開けた。
「……え?」
扉を開けた瞬間目に飛び込んできたのは、どれだけいるのかも分からないゴーレムの大軍だった。
全てが、この異常に高度なゴーレムと同じである。
「な、な、なに、これ……!? こんな、こんなことが……」
私はその場で腰を抜かしてへたり込んでしまった。
このゴーレム一体造るのに何年掛かるのかは分からない。けれど、この異常な数のゴーレムを造ることの出来る者が存在していることは間違いない。
「王国の宮廷魔術師じゃ皆で一緒に造っても十体よね……いいえ、ブラウ帝国でもそんなに作れないかもしれない……」
いったいどんな魔術師が棲んでいるのか。これだけのゴーレムを見れば、宮廷魔術師クラスの人材が千人いると言われても私は驚かないだろう。
私は力の抜けた膝に手を押し当て、立ち上がった。
このゴーレムの持ち主達に会ってみよう。
隣に並んで立つゴーレムを見上げるが、もうこれまで程怖いとは思わなかった。
【厨房】
やはり、誰でも大好きイタリアンが無難か。味噌や醤油の匂いがダメって外国の人もいるからなぁ。
そんな考えのもと、俺は厨房でパスタを茹でていた。
既にオリーブオイルでニンニクと唐辛子を炒めているので、後はパスタ麺が茹で上がるのを待つだけである。
ちなみに、麺の類は近未来的な製麺機があり、各材料を材料ボックスに入れて置くだけで自動で麺を作り出してくれる優れものだ。
材料は残念ながら自分で収穫しなくてはならなかったが、医療室にあった『畑の全力』という本に詳しく載っていたので助かった。
そんなこんなで、後は粗挽きの黒胡椒と塩を振れば完成である。
と、その時、甲高い電子音が鳴った。
一瞬なんの音か分からなかったが、ドラゴン襲来時の警報とは音が違うので、あの少女の事だろうと察しがついた。
「起きたのかな。とりあえず、急ぎで麺をあげて……」
俺は大急ぎで麺をオリーブオイルたっぷりの鍋に取り、塩と黒胡椒を振って混ぜ合わせた。
これぞ、男飯といった豪快さである。
「よし! 迎えに行こう!」
年甲斐も無くドキドキしながら、エレベーターに向かって歩く。急ぎ足である。
「あの女の子、十六歳だったよな。変な考えはいけないぞ。俺はもう三十路なんだから」
三十歳という節目を迎えたからには紳士的にいかなくてはならない。目指せ、ジェントルマン。目指せ、A1。
逸る気持ちを抑えつつ、俺はエレベーターにまで真っ直ぐ続く廊下に出た。
ズンズンと歩いていくと、エレベーターに着く寸前で、エレベーターが勝手に開いた。
中に乗っていたのは、A1とあの少女であった。
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