タイキの判断
【タイキ】
「どうやらピンチみたいだな……アイファさんが」
ようやくアイファ達がスクリーンに映ったと思ったら、城の中で死にかかっているではないか。
城内で暴れるわ、アイファは捕まっているわ、ディツェンとユーリは見知らぬ誰かと一緒に戦っているわと、現場にいないこちらは大混乱である。
「大丈夫かな、これ」
動揺を抑えつつ、スクリーンに映る光景にそんな言葉を漏らすと、そわそわしながらこちらを盗み見ていたエイラが我慢出来ずに口を開いた。
「あ、あの……! タイキ様がゴーレムを更に送り出して下さったことには安心したのですが、何故ヴィオレット将軍まで一緒に……」
「ああ、ヴィオレットさん? ほら、皇帝を説得してくれるっていうし、一応ね。あの感じじゃあ期待薄だけど」
そう答えて苦笑すると、エイラは眉をハの字にして上目遣いにこちらを見る。可愛い仕草である。
「しかし……もし、ヴィオレット将軍の提案が嘘ならば皇帝の手勢を増やすことに……」
「ああ、それは大丈夫だよ。ヴィオレットさんが敵に回っても大丈夫なように援軍も送り出したから」
「援軍……?」
首を傾げるエイラを見て、右側のスクリーンの映像を操作する。映像は天空の城の周辺から無数の黒い影が浮かぶ空に替わった。
空を飛ぶ、ロボット百体の映像である。最後尾のロボットの後ろに遠視カメラを付けており、そこからの映像を映し出していた。ヴィオレットはその最前列のロボットの背に乗っている。
「こ、これは……」
そう呟いたきり絶句するエイラに、一応返答する。
「ヴィオレットさんが敵対しても、何とかなると思うよ?」
「私も、そう思います」
俺の言葉に、エイラからは呆れたような声が返ってきた。
【メーア】
どうしようもなく腹が立った。
ブラウ帝国の皇帝を初めて目の前にして、私は怒りに打ち震えている。
皇帝は、エルフの人達を捕まえて森から連れ出したと聞いていた。それだけでも絶対に許せないと感じていたのに、更に他の国までもがエルフの人達を狙うように仕向けたのだ。
祠を守る使命を持つ護人の私達にとって、エルフが森を、精霊樹を守って暮らしていると聞き、密かに親近感を抱いていた。
もし歳の近いエルフの子がいたら友達になりたい。そんなことも考えていた。
故に、皇帝の言った言葉は私にとって最も腹立たしいことと言えた。そのうえ、皇帝はこれからも侵略を続けると告げている。
バルトやトレーネが言っていたことだが、戦争になれば兵士が要る。そうなれば、貧しい町や村からも人は兵士として連れていかれるし、時には奴隷狩りも行われる。
そして、負けた国の民は殺されたり奴隷になったりするのだ。
その帝国の領土に住んでいたとはいえ、奴隷になりかけた私達にとって帝国は明確な敵である。
その敵の親玉が、更に戦争を続けると口にするのだ。私にとって、これ以上の悪人は存在しないだろう。
「……タイキ様のゴーレムなら、いける?」
私がそう呟くと、隣に立つシュネーが低く唸り、首を左右に振った。
「……駄目だよ。タイキ様からの指示はエルフを助けろって話だからね。アイファが死ぬかもしれないのに、下手なことは出来ないよ」
「でも……」
このままじゃ、という言葉は飲み込んだ。
シュネーもそれは分かっているから、眉間に深いシワを作って周りを睨んでいる。
思いきり暴れたから、兵士も魔術師もゴーレムを警戒して動かない。だが、こちらが反撃できないと知れば私達はすぐに捕まってしまうだろう。
どう考えても、そっちの方が駄目だ。
しかし、アイファが捕まっている以上、こちらは動けない。
そう思っていたら、視界の端でフィアトーラと呼ばれたエルフの人が動き出した。
小さな声ながら、それは確かに魔術の詠唱だった。
「ちょ、フィアトーラ殿!?」
ディツェンの戸惑ったような声が響いたが、詠唱中のフィアトーラは答えない。
アイファを捕まえている兵士の人達は警戒し、後方の魔術師達はすぐさま魔術の詠唱を開始する。
「アイファが死ぬよ!?」
シュネーが思わず大声で怒鳴った。それに、フィアトーラの後ろにいた豪華の鎧を着た男の人が口を開く。
「……アイファには悪いが、こうするしかないのだ。エルフの為にも、隣国の為にも、そして帝国の為にも……ここでケーニヒス・ブラウ皇帝には舞台を降りてもらわねばならん。アイファ、我が国に振り回され、最後には命を奪うことになってしまった」
「気にするな。私の死で、家族が助かるなら、なんら問題は無い」
男の人はアイファとそんな会話をして理解し合っているが、こちらはそうもいかない。
帝国が変わるという部分は大賛成だが、アイファが死ぬというのは困るからだ。
「こっちはアイファに死なれたら困るんだってば!」
シュネーが文句を言い、私も頷く。
すると、ユーリ様が困ったような微笑みを浮かべた。
「あ、それは言わない方が……」
ユーリ様がそんな言葉を口にすると同時に、アイファの首に剣を押し当てていた兵士達が叫んだ。
「動くのはそこのエルフとシュバルツだけだ!」
「貴様ら動くなよ!? こいつの首が落ちるぞ!」
それが合図となり、兵士はフィアトーラ達に殺到した。フィアトーラも魔術を放つが、敵の魔術師が二人掛かりで相殺してしまう。
一気に不利になった状況で、ディツェンとユーリ様がこちらに向かって来る。
「困ってしまいましたね。何か新たなご指示などはありませんか?」
こんな場にあっても、ユーリ様はゆったりとした口調でそう尋ねる。対してディツェンは冷や汗をかきながら戦場を指差して口を開いた。
「もう無理ですよ! タイキ様のゴーレムなら何とかなるかもしれないし、一か八か戦いましょう!」
ディツェンにそう言われ、シュネーは眉根を寄せる。
「駄目だったらどうするのよ」
「いや、でもこのままじゃ明らかに全滅で……」
二人が揉めていると、奥に座したままの皇帝が面白そうな顔で私達を見た。
「そこの者らよ。今、タイキのゴーレム、と申したな? アツール王国と同盟を結んだ天空の国の王と同じ名だ。まさか偶然の一致などということもあるまい」
そう口にして、皇帝は立ち上がる。よく見れば片方の足は棒のようなものだったが、皇帝は慣れた様子で立っている。
「空飛ぶ島のゴーレム……先の戦いでも我が国のゴーレム達が相手にもならなかったというが、納得の強さだ」
皇帝はそう呟くと、笑みを深めた。
「そのゴーレム、欲しいな。だが、奪ったところで制御の為の研究には時間が掛かるか……やはり、まずは精霊樹を」
ぶつぶつと皇帝は何か呟き、顔を上げて口を開いた瞬間、広間が揺れるような衝撃が起きた。
次々と窓が破壊され、壁は軋んでパラパラと石や木の破片が落ちてくる。
「シュバルツとエルフを捕えよ! 急げ!」
何が起きたのか把握も出来ない内に皇帝が何か叫び、続けて兵士の怒鳴り声が響いた。
混乱の最中、動きを止めてしまったシュバルツとフィアトーラは瞬く間に組み伏せられて眼前に剣を突き付けられてしまう。
「……どうしよう」
このまま動かないべきか、アイファとフィアトーラを助けるべきか、あえて皇帝に向かうべきか。
手遅れ、という言葉は思い浮かべないように意識した。そして、今の自分がとれる手段を混乱する頭で考えていると、何処かで聞いた声が広間に響き渡る。
「あらあらぁ……随分と煮詰まってますねぇ? まぁ、宮廷魔術師団の方々が何人も揃っているのに情けない……」
破壊された窓の一つからタイキ様のゴーレムと共に声が落ちてくる。
現れたのは、空の上にいるはずの帝国の将軍、ヴィオレットだった。
ヴィオレットは不敵な笑みを浮かべ、広間をゆっくりと見回していた。
天空の城から帝都までロボットを使うと10分。快適な空の旅を約束します




