表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空の城を貰ったので異世界で楽しく遊びたい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/127

大騒動

コミカライズ決定しました。

物凄く上手なラフを見せていただき、ワクワクしています……ふふふ……。

 城内を駆け巡る兵士の緊迫した声と金属が当たり合う硬い音が響く。


「いたか!?」


「一階、奥だ!」


「馬鹿な奴らだ! 行き止まりに自ら向かったのか!」


 城内は蜂の巣を突いたような大騒動となっており、逃げ惑う文官やメイドなどの非戦闘員と、現場へと向かう兵士や魔術師とが入り乱れた混沌の場と化していた。


「地下牢への階段は狭い! 前列は盾と槍を構えて二列になって進め!」


 指揮官らしき中年の男が大声でそう指示すると、乱雑だった兵士達の歩みがすぐさま統率される。一階の通路を埋め尽くす兵士達と数人の魔術師を率いて、男は抜き身の剣を頭上に掲げた。


「さぁ、閉じ込めたぞ! 少しずつ階段を下れ!」








【ディツェン】


 じめじめと水気の多いカビ臭い地下の通路を進み、最後の檻の前まで来た。


 しかし、中に入っていたのは拷問の限りを尽くされたのだろうボロボロの男一人だけである。男は血に塗れて黒くなった布切れを体に巻き付け、死んだように寝ていた。ぼさぼさになった銀色の髪や髭を見るに、かなり長く捕えられているらしい。


「どうやら外れのようだ。次は婦人の館に向かう」


 と、アイファは凄惨な現場をことも無く無視し、そうのたまった。言いたいことは山ほどあるが、今はそれよりも自分の身である。


「階段を降りてくる足音が聞こえますよ、アイファ殿。もしかしたら兵士がいっぱい押し寄せて来るところへ突っ込むつもりでしょうか」


 明らかに絶対絶命なこの状況に、私は思わず変な敬語でそう尋ねた。


「いや、兵士は避けて移動しよう」


「どうやって!? こちらは行き止まりでございます!」


 牢屋を指差しで状況を説明すると、アイファは鼻を鳴らして上を指差す。


「作れば良い。この地下牢は堅牢だが、私が何かすることは想定していない」


「は?」


 アイファの台詞に思わずそんな生返事が口から出た。階段を降りる時、いったい何段降ったのか覚えていないのだろうか。


 この分厚い天井は簡単に破壊出来るものでは無いだろう。


 そんなことを思って懐疑的な視線をアイファに向けていると、隣からユーリの声が聞こえた。


「さて、これで少しは良いでしょうか」


 振り向くと、牢屋の中の男に向かってユーリが手を伸ばしており、男の露出していた肌にあったはずの無数の傷が消えているのが分かった。


「な、何をしてるんですか、ユーリ様……」


 これから城内を走り回ることで術を使うという時に、どうして牢屋の中の死にかけた人の傷を治すのに使ったのか。


 ただ牢屋を壊して解放するならともかく、よりにもよって癒しの術である。


「……回復魔術を使えるのか。珍しいな」


 アイファも流石に驚いたのか、眉根を寄せてそう呟いた。


 すると、ユーリは「はい」と頷いてこちらを振り返る。


「痛そうでしたので、つい」


 微笑むユーリに、私は肩を落として口を開いた。


「そうですか。それはその方も喜ぶことでしょう。じゃ、そろそろ行きますよ。アイファ殿が何とか地下から脱出出来ると申していますので」


 そう言ってアイファを横目に見る。しかし、アイファは私の視線など気付きもせずに顔をあげた。


「まずは、土」


 アイファが呟いた瞬間、地鳴りのような音をあげて地面が小刻みに揺れる。


 そして、地下牢の天井が動いた。石の一部が生き物のように次々に通路の床に落ちていく。その光景に私は眉を顰めた。


「兵士が来る方が早いのでは?」


 不満たっぷりにそう聞くと、アイファは溜め息混じりに答える。


「一気にやれば崩落する。だから、部分ごとに崩し、即座に上部の土を魔術にて固める。これを繰り返して穴を開けるのだ。余分な石や土は通路を塞ぐ為に使っている。そう簡単にはここまで来ることは出来ない」


 言いながらドサドサと石と土を落としていくアイファ。確かに、通路のすぐ先には瞬く間に壁が出来上がっていくではないか。


「あ、な、なるほど……なんかすみません」


 納得して謝罪していると、今度は後方で短い悲鳴が聞こえた。


「私を、此処から出せ……」


 地の底から響くような重い声だ。何事かと振り向くと、牢屋から出た両手がユーリの首を掴んでいた。ユーリは驚いたような顔で目をぱちぱちと開け閉めしている。


「ちょ、ちょっとちょっと! ユーリ様が傷を治してあげたっていうのに、それは無いでしょ!?」


 思わずそんな台詞が口を突いて出た。すると、牢屋の中の男は眉間に深い皺を寄せて奥歯を嚙み鳴らす。


「自分のやっていることは十分に承知している……だが、私には時間が無いのだ。早く、私を此処から出せ。出せば、絶対に怪我はさせない……」


 覚悟と共に深い悔恨の篭ったような声を聞き、これは説得は不可能であると瞬時に理解した。


「わ、分かった! 分かりました! ちょっと待って!」


 すぐにそう叫び、口の中で小さく呟いて土の術式を発動する。太い鉄の牢屋を破壊するのは大変なので、一部の地面と天井を脆くした。


「よいしょ!」


 気合いの掛け声を発して格子である鉄の棒を蹴り付ける。すると、鉄の棒は微妙に角度が変わった。


「よし、後五回くらい蹴ったら壊れ……」


「この方が早い」


 私が必死に牢屋を蹴り壊そうとしていると、後ろからアイファが一言呟き、天井の石材の一つをこちらに飛ばしてきた。


 ごうっと音を立てて顔の横を通り過ぎた石の塊は、鉄の棒をへし曲げながら牢屋の奥へと弾き飛ばす。


 二本分の格子が瞬く間に失われ、牢屋は役目を果たせなくなった。確かに早い、しかし。


「危なかった! 今のは死ぬかと思いました!」


 文句を言いながら振り返ると、アイファがつまらない物を見るような目でこちらを見て、また天井に向き直った。


 なんと腹の立つエルフだろうか。


「……ようやく、出られたか」


 と、そんな言葉を口にしつつ、ユーリの首に手を掛けたままの男が牢屋を出てきた。


「あの、そろそろ離して欲しいのですが……」


 やんわりとユーリがそう呟くが、男は静かに首を左右に振る。


「お前達は皆魔術師なのだろう? 悪いが、私が外に出るまで解放することは出来ない」


 そう告げる男に、私は我慢出来ずに疑問を口にした。


「いや、この状況であなたを兵士に突き出したりしませんよ。その時は我々の方が先に捕まるんですからね。だいたい、あなたは誰なんですか?」


 正体を尋ねると、男は髭の伸びた顎を引き、深く深く溜め息を吐き答える。


「……私は、ケーニヒス・ブラウの子、シュバルツ・ブラウである。元は、帝位継承権第一位であったが、今は剥奪された身だ」


 その言葉に、私は目を丸くした。


「……第一王子? いや、皇太子、ですか。何故、こんな地下牢になんて……」


 私のそんな疑問にシュバルツは苦虫を噛み潰すような顔で口を噤み、代わりにアイファが口を開く。


「……その者は確かに皇太子本人だ。一年前までは将軍として一軍を率いていたが、叛乱の恐れありと判断されて継承権を剥奪されたのだ」


 どうでも良さそうにそう言うアイファに、シュバルツは怒りの形相で吠えた。


「叛乱などではない! 私は父上のやり方に疑問を持っただけだ! 領土を拡げることに躍起になり過ぎて、新たに手にした領地の大半が管理できていない! このままで外に刃先を向けている間に、鎧の内側から身を斬られることとなるだろう! 拡大した領土を隅々まで統治し、力を持った領主が逆らわないように完全に支配しなければ、帝国に未来は無い! その為には時間が必要なのだ!」


 痩せ細った身体のどこにそんな力が残っていたのか、シュバルツは猛烈なまでの熱弁を振るった。しかし、アイファは見向きもしない。


「この国の未来など、私には関係無い」


 そう切り捨てたアイファに、シュバルツは鋭い目で睨む。


 私はそんな二人を見て、次にユーリを見た。強い力で掴んでいるわけでは無いのだろう。ユーリは困ったような顔のまま話を聞いていた。


「……厄介な人物を助けましたね、ユーリ様」


 そう呟くと、ユーリは苦笑を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ