最後のエルフ
色々と矛盾があったので、書籍版はまた大幅改稿致します。全体的な流れは変えない予定です。
アイファの下調べとユーリの活躍でエルフは順調に見つかっていった。しかし、やはり懸念していた最後のエルフの姿は見つからなかった。
いや、居場所は分かっているが、安易に手を出せないというべきだろうか。
城内の何処かにいるだろう。そこまで分かっていても、簡単には対処出来ないでいた。
「出来ることなら、皇帝が城を空けた隙に救出してしまいたいけど……」
思わず空き巣みたいなことを呟き、溜め息を吐く。
なにせ、強引に城に押し入った場合、下手をすると皇帝がエルフを人質にとってしまうかもしれない。まずは、皇帝が指示を出せないようにしておきたいところである。
しかし、城にロボット達を突入させるのは最後の手段にしたい。
そんなことを考えている内に、スクリーンにはエルフの姿が映り込む。
「またユーリ様ですね。これで残りは……」
「最後の一人は、城の中、か」
エイラの台詞を引き継ぐようにしてそう呟き、深く息を吐く。
もう時間は残されていないだろう。そろそろ皇帝の耳にエルフが消えたという報告がいく可能性が高い。
ならば、やはり最後は力押ししか無いか。
そう思って指示を出そうとしたその時、スクリーンにアイファがユーリとディツェンに対して何か話をしている姿が映った。
【帝都】
「……後は、城内しか考えられない。私が城内に入る。皇帝に帰城を知られるまでの時間は僅かだ。その間に、二人に協力してもらい、見つけ次第帝都を脱出しようと思う」
アイファがそう告げると、ユーリは困ったような顔で小首を傾げ、ディツェンは目を見開いた。
「そ、それは流石に……ほぼ間違いなく城内から出られないと思いますが……」
「それ故、出来る限り迅速にする。調べるのは二箇所。地下牢と妃、姫の住まう婦人の館と呼ばれる城の南側の塔だ。この二ヶ所は私が立ち入ることの出来ない数少ない場所であり、最も可能性の高い場所でもある」
「婦人の館……」
アイファの説明に、何故かディツェンがソワソワしながらそう呟く。
一瞬の沈黙が訪れたが、やがてユーリが口を開き、二人はそちらに顔を向けた。
「しかし、これまでは誰がエルフ様を連れ去ったか証拠を残さずにやってきましたが、城内に押し入ってアイファ様自らエルフ様を連れ去るとなると……」
「タイキ殿にもフリーダー皇国にも迷惑は掛けないつもりだ」
ユーリの危惧もアイファがハッキリと断ってしまった。その言葉の強さに何かを感じたのか、ユーリは口を噤む。
だが、押し黙ったユーリの代わりにディツェンが口を開いた。
「いや、それは全て皇帝がどう思うかだと思ったり思わなかったり……」
「私が全て計画し、協力者を集って行ったと告げる」
「え、えぇ……? 逆に怪しい気が……」
アイファの返事にディツェンが顔を引きつらせた。その様子にユーリも困ったような笑みを更に深くしたが、アイファの決意は固かった。
「時間が無い。今日、帝都中心部の家族達を一斉に連れ出した後、決行する」
「ちょ、そうするとタイキ様のゴーレムがいないということになるのでは……」
不安そうに自分の背後を見るディツェン。そこにはタイキのロボットが三体、並ぶように立っていた。
「問題無い。城内に入るといってもまともに戦うわけでは無いのだ。それに家族を二人に託した後は、私が城内を混乱させる為に残ろう」
その言葉に、ユーリとディツェンは顔を見合わせる。
そして、ユーリが眉をハの字にして首肯を返した。
「……死も覚悟の内、ですか。仕方がありません。最後のお仕事には、ディツェン様を派遣致しましょう。殿方お二人が暴れている間に、エルフ様は私が責任を持って外へ」
ユーリがそう言うと、ディツェンが目を剥いた。
「ゆ、ユーリ様!? 何故か当然のように私の行く末が……」
悲鳴を上げるディツェンをよそに、アイファはユーリに対して深く頷く。
「……かたじけない」
「え!? 決定!? 決定ですか!?」
二人のやりとりにディツェンが不満を露わに叫ぶ。すると、ユーリは苦笑とともにディツェンを見やった。
「アイファ様がご家族の為に命を賭してらっしゃるのですから、きっとディツェン様も命を賭けて協力なさると思いまして。やはり、殿方の友情というものは素晴らしいですね」
「い、いつ命を賭けるほどの友情が築かれたのか……」
ガックリと項垂れるディツェンだったが、他の二人は気にせず細かな話を詰め始めたのだった。
【城内】
夕刻となり、中庭を挟んで二重となっている城門の外側の門が閉ざされようとした時、門番の兵士の一人が慌てて声を発した。
「閉門まて!」
その声で閉門間近だった門が人一人分ほどの隙間を残して止まり、その隙間から金髪の人影が姿を見せた。
「あ、アイファ様!? アイファ様がお帰りだ! 開門!」
最初にアイファを発見した兵士がそう叫んだが、アイファが軽く目を細めて首を左右に振った。
「気にするな。馬車は無い。それよりも、火急の用である。速やかに通せ」
「は、はい! どうぞ、お通り下さい!」
そう言って兵士が一歩下がって道を譲ると、アイファが門をくぐった。
しかし、その後に続くローブ姿の二人を見て、他の兵士が待ったをかける。
「……お待ち下さい。そちらの方々は?」
そう言われ、アイファは眉間に皺を寄せて兵士を睨む。
「この者達は我が国に士官したいという魔術師である。陛下との謁見の時間はもう無い為、明日の朝に報告を上げる」
そう告げて、目で退けと命じるアイファに、兵達の目に不信の色が浮かび上がった。
「……アイファ様。申し訳ありませんが、暫しこちらでお待ちくださいますよう……」
「まだ正確な報告は上がっていませんが、帝都内に住まうエルフ二人が行方をくらましたという話も耳にしております」
口々にそんなことを言い出した兵達に、アイファは眉間に皺を寄せて口を開いた。
「……こうなっては仕方がない。押し通るぞ」
その一言と共に、アイファは広範囲に向けて風の魔術を放った。突然攻勢に打って出たアイファに、兵士達の大半が為すすべなく吹き飛ばされる。
「仕方がないじゃないでしょ! 言い訳が下手過ぎ!」
フードを被ったままディツェンが悲鳴混じりにそう叫び、援護射撃とばかりにさらなる風の魔術を放つ。それによりゴーレムを動かそうとした兵士も吹き飛ばされて地面を転がる。
騒ぎは瞬く間に広がり、侵入者をアイファと知らない兵士達も武器を手に城門に向かって集合し始めた。
それを敏感に察知したユーリは、頬に片手を添えて笑いを零す。
「まぁ……何かドキドキしますね」
「しません!」
ユーリの他人事のような台詞にディツェンがそう怒鳴ったのだった。




