エルフの行方
【ディツェン】
秘密裏にエルフの後を追う為、一応物陰に隠れながら移動した。変装しているとはいえ大きなロボットを連れているので大した効果があるとは思えないが、運良く尾行は上手くいっている。
まさに隆盛を極めているといった大国であるブラウ帝国は、成る程人々の活気も半端ではない。大通りでは行商人が馬車を引いて行き交い、所狭しと並ぶ店々からは活気の良い声が聞こえてくる。建物や道、人々の衣服。どれをとっても我が国より技術は上かもしれない。
ただ、見た目で違いが分かるほど貧相な格好の者達も多く見られた。そういった人々は、ほとんど例外無く通りの隅の方を移動している。
「彼らが二級市民というやつかな?」
帝国が侵略した国や、降伏して属国となった国の民だった人々を帝国二級市民として扱っているという話は聞いていたので、何となく彼らがそうであると直感した。
奴隷もそれなりにいるようだが、腕や足を失った者が多い。恐らく、戦争で負けた国の兵士達だろう。場合によっては敵国の兵士は皆殺しに合うこともある中で言うと、帝国は寛容な方なのかもしれない。
しかし、結局生き残っても奴隷として売られるのならば気持ち的には極刑と変わらないだろう。
事実、奴隷の者達は大半が死んだような目をしている。
それらを横目に見つつ、私は首を竦めて足早にその場を通り過ぎた。
「怖い怖い。捕まれば私の場合はもっと酷い目に遭うに違いない」
私は独り言を呟き、己の想像した未来に恐れ慄いた。
なにせ、帝国がいまだ占領していないブリーダー皇国の術師である。拷問に次ぐ拷問が繰り返されるに違いない。
「……うわぁ、逃げたい。物凄く逃げたい……」
身震いしながらそう呟いたが、結局逃げずになおも追跡を続けた。
「これも祖国では無く、あの素晴らしき天空の国の為。ひいては自分の為。見ず知らずのエルフだろうと追い掛けないと」
そう言って自らを鼓舞し、どんどん帝都の奥へと足を踏み込む。
後ろを振り返れば、殆ど音を立てずにタイキ様のゴーレムが追従してくれている。この存在のおかげで辛うじて冷静でいれるのだろう。
前を見れば、エルフを取り囲む兵士達はズンズンと通りを進んでいく。一度二度と道を曲がる度に少しずつ道の幅が狭くなっているようだ。最初は馬車二台はゆっくり通れるような広さだったのに、今や馬車一台すら怪しい。
そして、そういった狭い道になればなるほど、往来も店の数も寂しくなっていく。
「困った……人混みに紛れる作戦が……」
呟き、私は建物の陰に張り付くようにして姿を隠した。
一瞬遅れてタイキ様のゴーレムも隣に移動する。凄いのは何一つ指示も出していないのに、自分と同じように人目につかないように身を隠していることだ。
いや、姿が見えないどころではない程遥か遠くからゴーレムを動かしているタイキ様も恐ろしいが、何も言っていないのにこちらの意図を理解して動くこのゴーレムも恐ろしい。
タイキ様はどういう風な命令を下し、このゴーレムはどれだけ自発的に動くのか。
まさか、実は近くにタイキ様も来ていてこちらの動きを見ながら操作しているわけではないだろう。カメラというものがあるというのは聞いたが、こちらの様子を見て空の上から魔力で新たな命令を下すのは絶対に不可能である。
私はタイキ様のゴーレムを見上げ、唸る。
「……見れば見る程不思議なゴーレムだなぁ。分解してみたい……」
本当に小さくそう呟いたのだが、タイキ様のゴーレムはまるで人間のようにこちらを振り返り、一歩離れて距離をとってしまった。
「う、嘘です。ごめんなさい」
その自然な所作に思わず謝ってしまった。ゴーレムを相手に何をやっているんだと自嘲気味に笑ったが、なんとゴーレムは顔を上げてこちらに一歩近付いてくる。
そして、じっとこちらが動くのを待つように動かなくなった。
「……許してくれたのかな?」
そう聞いてみると、ゴーレムは静かに顔をこちらに向けた。
驚愕である。
偶然かもしれないけど、主語もない抽象的な発言に対してゴーレムが反応を示したのだ。
ちょっと色々試したくなってきたが、今はしなくてはいけないことがある。
「くそぉ……後で色々やってみないと」
密かに決意し、私は物陰から顔を半分出してエルフの後ろ姿を探す。
しかし、エルフどころか通りの奥に向かっていたはずの兵士達の後ろ姿も全く見当たらない。
「……しまった!」
どうやらタイキ様のゴーレムに気を取られて思った以上の時間が経過していたらしい。
慌てて奥へと走るが、そこから通りが交差しており、四方に目を向けるが見当たらない。
背筋に冷たい水が流れるような感覚に陥り、頭から血の気が引く音が聞こえた気がした。
「な、なんてことだ……! た、タイキ様になんと説明したら……!」
そう言って交差点の真ん中でグルグルと回ったディツェンは、ハッと顔を上げてロボットの方に向き直る。
そして、地べたに跪いて頭を下げた。
「申し訳ありません! 今から急いで捜索します!」
ディツェンはそう叫び、ロボットに土下座したのだった。
【タイキ】
「……タイキ様。ディツェン様が人通りは少ないとはいえ、通りの真ん中で地面に……」
エイラが困ったようにそう報告してきたが、俺に言われても困る。
「……め、目立ってるね。ちょっとディツェンさんに違う区画の捜査をお願いしようか。あそこには違う人を派遣しよう」
そう口にして、俺は誰を派遣しようかとスクリーンに映る映像を切り替えたのだった。




