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一カ月後

 太陽が海に触れ、空が赤く染まる。


 そんな幻想的な光景をぼんやりと眺めながら、俺はプールに浸かってホッと息を吐いた。涼しい風を感じながら入る温水は気持ちが良い。


 カメラで確認したプールらしきものは温水プールであった。シャワーを浴びる建物が二つあり、どちらにもシャンプーやボディーソープなどが常備されていた為、俺はそこで身体を綺麗にし、風呂がわりに温水プールでゆったりしている。


 夕陽を眺めていると、小型のワイバーンの群れが視界に入った。データによると、生後十年未満の小型のワイバーンは数十にも及ぶ群れで行動し、数の力で狩りを行うらしい。


 小型と言っても翼開張二メートル以上あるので、鳥と同じ感覚で眺めていると馬鹿みたいに大きいが。


 小型のドラゴンが何十体と聞いて最初は焦ったが、最近は良く見るようになったので落ち着いてきた。


 ワイバーンの群れはグングン俺の方へ接近してくるが、俺はプールに浸かったまま眺めているだけだ。


 その距離はもうすぐ目の前である。


 しかし、ワイバーンの群れは飛行島に到達する瞬間、見えない壁に衝突して弾き飛ばされた。


 何も無い筈の空間に、白い線による波紋が幾つも広がり、空を薄っすらと白く染める。


 防御用結界である。


 調べて見たが、最上位のドラゴンのブレス一発分くらいは耐えられるという代物らしい。つまり、殆どの攻撃を結界だけで防ぐことが出来るのだ。


 大型のドラゴンの群れが攻めてきたりしたらヤバイと思われるが、危険度C以下の若年層のワイバーン如きではヒビも入らない。


 一部の勢いがつき過ぎて衝突したワイバーンがグッタリしながら海へ落ちていくのを眺めて、俺は溜め息を吐く。


「……暇だ」


 正直なところ、城探索は二週間で飽きた。漫画読んだりゲームしたりしてダラダラするのも一週間で飽きた。


「……というか、寂しい」


 思わず、ボソリと呟く。


 夕陽を見てセンチメンタルになっているわけでは無い。本当に、心の底から溢れた言葉である。


 俺はプールを出てバスローブを羽織り、城まで戻る。自堕落極まりない格好だが、どうせ誰もいないのだ。


 五階に上がり、タッチディスプレイの画面に触れた。項目の中から、遠方偵察の文字を選ぶ。


 四方のスクリーンには海ばかりが表示され、流れるような速度で景色が変わっていく。


 ここ三週間、定期的にこの機能を使って周囲を探索しているのだが、一向に陸地に着かないのだ。


 この天空の城がある飛行島自体は速度を調整出来、最大で時速百キロほどの速度が出る。


 飛行機などよりは遥かに遅いが、それでも時速百キロだ。日本を縦断するなら二日でいけそうな速度である。


 最初は速度の変え方が分からなかったから仕方がないが、それでも時速百キロに変更して一週間。一日が二十四時間ならば一日で二千四百キロという計算だ。


 一週間で一万七千キロ近く一方向に進み続けているのに、なぜ陸地が見えないのか。


 まさか、海しか無い世界ではなかろうか。


「有り得る……あの天使とやらはどうも天然ボケっぽかった」


 俺は不安に押し潰されそうになりながらスクリーンを眺め続けた。


 そして、スクリーンの中で薄っすらと見えた何かに目を細める。


「……ん?」


 目を凝らしてみると、水平線に微かに、陸地らしきものが目に入った。


「キタァーッ!」


 椅子が倒れる勢いで立ち上がり、思わず奇声をあげてしまった。


 スクリーンの中で、陸地は徐々に大きくなり、奥に見える山らしき影もハッキリとしてくる。


 間違いない。本物だ。ちゃんとした大地が映し出されている。


「頼む! 無人島なんてオチは止めてくれ! ムサいオッサンでも良いから!」


 そんな馬鹿なことを口走りながら両手を合わせて拝む。


 ウッホウッホ言う原始人の場合はどうしようとか、そんな言葉が脳裏をよぎったが、それは考えないことにした。


 暫くして、ようやく地上の様子が分かりそうなくらい映像がハッキリしてきた。


 どうやら、海側は抉れたようになっている岸壁の崖らしい。随分と海面から高低差がありそうである。


 遥か奥には頂上が尖った山々が連なっているようで、今のところ街などは見えない。


 というか、崖と森と山しか見えない。


「船も無いのかなぁ」


 そんな独り言を呟きながらスクリーンを穴が開くほど眺める。


 一人暮らしが長くなってから独り言が増えたが、ここ三週間はいつも独り言を言うようになってしまった。


 寂しさの弊害である。


 と、そんな下らないことを考えていると、崖の上に何かを発見。


 段々と近付いていく中、それが人工物であることが分かってきた。


 四角い箱状のものである。どうやら横に大きな輪っかが付いているようにも見えた。


 あ、馬がいる。


「馬車だ!」


 俺は飛び上がって喜んだ。文明の発見だ。日記に書いておこう。


 浮かれ過ぎるほど浮かれた俺は馬車を観察するべく立ち上がってスクリーンに近付いた。


 ふむふむ、馬が小さくなければあの馬車は結構大きいぞ。馬車自体は少し地味だが、中々しっかりした作りに見える。


 と、画面の中で馬がゴロンと横になるのが見えた。斜め上からの映像だから、何とも判断が難しい。


「馬ってあんな犬みたいな寝方するっけ?」


 やはり馬では無く異世界の馬的な生物なのか。


 そんなことを考えていると、森の方から馬が走ってきた。上には人が乗っている。


「おお! 鎧着てる! 格好良い!」


 俺はスクリーンに向かって拍手をしながら声を上げた。馬車の向こう側では三頭の馬と、それに騎乗した三人の騎士の姿がある。銀色に輝く見事な鎧だ。手には剣も握られている。


 映画のような光景だなぁ。


 面白い見世物を見るような気分で観察していると、今度は馬車の横から人が飛び出て来た。


 地味な茶色のスカートがヒラヒラしているので、女性だろう。目も覚めるような長い赤い髪を揺らし、女性は崖の縁を走っていく。


 映画の中でも良くあるシーンだ。海辺を走る美女。良く映える映像だろう。


「崖の上なのが少しアレだけど」


 そう言って苦笑し、腕を組んで眺めた。


 だが、思ったより女性が本気で走っていることが気になる。


「あれは、アレだな。春先に露出狂に遭遇した時のドン引き走りだ。間違いない」


 さてはあの騎士達は変態か?


 我ながらそんなアホなことを考えていると、崖の端っこまで辿り着いた女性が背後を振り向いた。剣を構えた騎士達が馬から降り、ジワジワと女性に向かって歩いていく。


「……おや?」


 俺は想像と違う展開に首を傾げ、スクリーンを凝視した。もうカメラはかなり陸地に近付いており、場の雰囲気を映像越しにも感じさせてくれる。


 何処かで見たこの構図、状況。


「って、火サスじゃねぇか!」


 火のサスペンス劇場……! 常に犯人は崖に追い詰められて死ぬか生きるかする王道ミステリーである。


 そして、この映像はまさにその火サスにそっくりなのだ。


「第一村人が死んじゃう!」


 俺は慌ててタッチディスプレイの前へと戻った。



会社にいる時は小説家になろうで更新。

家に帰ったら原稿を書く。

つまり、今日は祝日だけど働いているのです。

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