激震
城を案内してみようということで、塔を降りて二階に連れていくことにした。
エレベーターに乗ると、もう三回目にも関わらず感心するヤヌアル達。
「どうやって動いているのか、見当もつかん」
「多分みんなで引っ張っているのでしょう」
「何という怪力だ。そうか、ゴーレムが引っ張っているのだな?」
「ゴーレムさんがいっぱいですねぇ」
ヤヌアルとユーリがそんな会話をしていると、ディツェンが真剣な顔で腕を組み、唸った。
「あの二人の意見と同じと思うと口惜しいが、確かに分からない。タイキ様、この部屋は何故動いているのでしょう?」
エレベーターが上下に動いているのだということは理解した三人だが、その仕組みは分からないらしい。
いや、俺も分からないけど。
もしかして、操作室上にある自室の更に上にウィンチでもあってワイヤーで吊り上げているんだろうか。
本当にロボットが上げ下げしている可能性もある為、ディツェンには曖昧に笑っておくだけにしておく。
二階に着くとズラッとドアが並ぶ通路があり、落ち着いた間接照明と綺麗に敷き詰められた絨毯。
そんな光景に、ヤヌアルが深く頷く。
「この灯り一つ見ても興味深い。何故ランプの前に壁を設置しようと思ったのか」
「でも、こちらのほうが優しい光になっている気がしますねぇ。私としましてはもう少し明るくても良いとは思いますが」
「ふむ。確かに他の広間を見る限り屋内を昼間のように明るくする技術がある筈だが、何故あえて薄暗くするのか」
こちらを見る二人に、俺は苦笑して答えた。
「どこもかしこも昼間のようだと落ち着かないでしょう。特にこの階は客間が並んでいるので、寝る前に少し暗い通路を通ればより落ち着くかと思いまして」
ようは雰囲気作りだと告げたのだが、二人は思いの外納得したらしく、何度も頷きながら通路の奥へ歩き出した。
「なるほど。確かに落ち着く気がする。しかし、あえて暗くするというのは……我々には想像も出来ない贅沢だな」
「確かに。我々ならば、大きなシャンデリアを用意して眩しいくらいに明るくすることで豪華に演出するでしょう」
二人が上機嫌に会話をしていると、背後ではディツェンが通路の床に這いつくばっていた。
「灯りがオイルランプじゃない……揺らめきが無いということは何かしらの術式か……? ダメだ、分からない……」
ブツブツと呟きながら床を這いずるディツェンに、ヤヌアルがゴミを見るような目を向ける。
「……タイキ殿、あの虫のような者は気にせず案内を続けてもらいたい」
「まぁ、ディツェン様を虫だなんて……あら、本当。虫みたいですよ、ディツェン様?」
「ははは……じゃあ、まずはこの部屋をご案内しましょうか。この城に滞在するならこちらに泊まっていただくことになりますからね」
ディツェンに辛辣な二人に苦笑いを返し、手近な部屋のドアを開ける。ちなみに、エレベーターに一番近い部屋はエイラの部屋なので二つ隣の部屋にしておいた。
後ろで静かに付いてきているエイラを確認すると、笑顔で首を傾げられたので大丈夫と判断する。
ドアを開けて二人を振り返ると、まずはユーリが口を開いた。
「まぁ、可愛らしい個室」
そう言うと、こちらに会釈をして中に入っていく。
ユーリは室内を見て歩き、各設備に頭を捻る。そこにヤヌアルも加わるが、珍回答の数が増えただけだった。
そこで順番に使い方などを説明していき、二人が手品を見た子供のように喜ぶといった展開が続いた。
ちなみに、ディツェンはその度にトイレやシャワー、ドライヤーなどにへばり付いてブツブツ呟いていた。
食堂は夕食の時に紹介することにして、次は三階に三人を連れていく。
「ちょ、ちょっと待って欲しい! このトイレを! このトイレをもう少し!」
ディツェンがトイレにしがみ付いて何かわめいていたが、ヤヌアルとユーリに両手を拘束されてエレベーターに放り込まれていた。
少し可哀想だったが、向かう先が三階なので大丈夫だろう。あそこには沢山のロボットが並んでいるし、俺にも理解不能な医療設備もある。
メカオタクっぽいディツェンには最高の環境だ。
と、そのくらいの気持ちでいたのだが、実際は予想を三段階くらい上回っていた。
エレベーターが開き、いまだにブツブツと文句を言っていたディツェンが声を上げる。
「……っ!? ぉ、おぉっ!? おぉおお……!?」
目の前に居並ぶ大量のロボット達に、ヤヌアルやユーリでさえも息を呑んだ。
他のフロアと違い、極端に広い室内にロボットがギッシリと並んでいるのだ。迫力は抜群だろう。
「な、なんという数だ……」
「……凄いですね、ヤヌアル兄様」
二人はそう言って、ふらふらと一番前に並ぶロボットに近づく。
「数も信じられないが、この一体一体の出来も素晴らしい」
「このように見た目を統一するとまた凄い圧力を感じますねぇ」
そんな二人の感想に笑って頷き、ディツェンに顔を向けた。
感動のあまり声も出ないのかな?
そう思って振り返ったのだが、ディツェンは目を丸くしたまま、ただ突っ立っているだけに見える。
俺の視線に気が付いたエイラがディツェンの前に移動して手を振ったり声を掛けたりしてみるが、反応は無い。
「……気を失っているようです」
そんなエイラの言葉に、俺は何も返すことが出来ず、とりあえず頷いておいた。
次回くらいからディツェンが正常な状態に回復する、かもしれません。




