城を調べたい
とりあえず、目の前のタッチディスプレイを操作すれば何かわかるに違いない。
そう思った俺は、一先ず気になる文字をタッチしていく。
「上空カメラ……うん、空ばっかりだよな。お、城外南?」
押してみると、巨大なスクリーンに分割されてあの庭園が映し出された。
様々な角度から庭園の各場所が映し出されており、上からだけでは見えなかったものも見えてくる。
「果樹園に、畑……あ、所々にあった建物、なんか家みたいだな」
畑や果樹園の横にある四角い建物は、人一人分くらいの大きさのドアが付いており、見た目は小さな住居に見えた。
他にも階段状になっている段差の間には小川が流れていたり、目立たないが細い線路のようなものもあるみたいだった。
暫く庭園の様子を眺めていると、これまで静かだった庭園に動きがあった。
あの小さな住居のドアが開かれたのだ。
そして、ドアの向こうから手足の細いロボットが姿を見せた。のっぺりと凹凸の無いロボット達は、ゆっくり庭園の中を歩き、小川に丸い管を引いて果樹園や畑に水を撒き始める。
手には何も持っていないようだから、恐らく体内にポンプがあり、あのホースの先から吸い込んだ水を手の先からシャワー状にして放出しているのだろう。
「もしかして収穫もしてくれたりして」
俺はそんなことを言いながら暫くロボットによる水撒きを眺め、画面に視線を落とす。
城外カメラのメニューには他にも東西北がある。南が庭園ならば、東と西はあの白い住居群だろう。
では北は何か。
文字を押してみると、そこにはこれまでとは違った景色が映し出された。
青である。一瞬海かと思ったが、どうやら違うらしい。
分割された画面の半数近くは青ばかりだが、他は白い床や住居、壁などが目に付く。
「プールか温泉、か?」
実際に見ないと分からないが、どうも屋外プールみたいな雰囲気である。建物もかなりの数がありそうだが、プールも随分と大きい気がする。
「ははぁ、空の上でも泳げるのか。至れり尽くせりだな」
画面を眺めながらそう言って、またタッチディスプレイを操作した。
カメラの項目だけでも随分と沢山ある。二階や三階も見てみようかと思っていると、急に電子音のような高い音が連続して鳴った。
目覚まし時計みたいだな。
そんなことを思って辺りを見渡していると、四方のスクリーンが真っ黒に染まっていることに気が付いた。黒いスクリーンの真ん中に白い字で何か書かれている。
「……警報、接近する物体を検知。識別、脅威と認識?」
この城に何かが迫ってるってことか?
「……え? ヤバいじゃん」
俺はそう呟くと、慌ててタッチディスプレイを見た。接近する物体とやらの姿を確認しようと思ったのだが、画面には先程までと違う文字が踊っている。
「防衛操作選択?」
画面にはカメラの項目と設備の操作内容が表示されている。
カメラの項目にはすでに島外西と島外南の二つが表示されている。
「まさか、両方から?」
俺は不安になりながら島外西の文字を押してみた。
すると、スクリーンに水平線で切り分けられた大空と海が広がる。その左端の方に、小さな点が見えた。緑色の何かが翼を広げてこちらに向かってきているようである。
大きな翼は分かるが、身体の形状などはハッキリしない。ただ、鳥では無いことは間違いない。
「拡大したい。拡大は無いのかぁー」
俺はブツブツと呟きながら急ぎで画面に踊る文字から目的のものを探す。
と、カメラの項目の右側に詳細識別とあった。迷う事なくプッシュである。
すると、スクリーンの映像が真ん中左右に三分割され、一番左に先程の遠視の画面。真ん中は拡大された画面になった。右側は黒くなって何も無い。
「……お、おぉ!」
そして、真ん中の画面に映し出された映像に、俺は思わず感嘆の声を上げた。
巨大な翼を広げたその主は、大きく裂けた口と細い眼を持っていた。口には大小様々な牙が並び、頭にも長いツノが生えている。
恐竜にも少し似たその姿は、俗に言うドラゴンという存在を連想させた。
「つーか、まじでドラゴンじゃん! いやいやいや、これはヤバいんじゃない? 」
そんなことを言っていると、スクリーンの右側の黒い部分に白い文字が浮き出てきた。
「……エメラルドドラゴン、推定八十歳。雄。体長十五メートル。翼開長四十メートル超。体重約五十トン。危険度A」
すっごいドラゴン。本当にドラゴン。危険度Aって基準が分からんっての。なんで何十トン単位の生物が翼で飛んでんだよ。
文句が湯水の如く溢れるが、すぐに冷静さを取り戻して画面に視線を戻す。
防衛という項目を押し、設備一覧が表示される。
「あ、自動防御結界とかいうのがオンになってる! なら焦らなくても大丈夫、か?」
少し安心しつつも、念の為追い払う為の迎撃装置も確認した。
幾つか項目がある中で、気になるものを見つける。
「電撃? 良し、これを試してみよう」
そう口にして文字を押し、顔を上げてスクリーンを見た。
もう一番左の遠望画面に映るドラゴンはかなり大きくなっている。
と、次の瞬間、画面から目に焼きつくような白い光が溢れた。
「うわ」
顔を腕で覆って光から視界を守る。周囲を照らす光の明滅が終わり、恐る恐る顔を上げると、スクリーンの中で動きを止めたドラゴンの姿が目に入った。
ドラゴンは空中で背筋を伸ばしたような格好で停止していたが、やがて白い煙を全身から発しながらグラリと身体を傾ける。
ゆっくりと海へ落下していくドラゴンの様子を、俺は呆然と眺める。
「……完全に雷じゃないの」
俺が小さくそう呟くと、スクリーンの一番右側の黒い部分に、新たな白い文字が流れた。
「対象の排除を確認……エメラルドドラゴンの素材を回収?」
淡々と表示される事後報告に、俺は乾いた笑いを発した。
ヤバい城を手に入れてしまった。
シロナガスクジラが30メートル前後で100トンとして、それよりも遥かにスマートでも筋肉質で硬い鱗があるからドラゴンは50トン前後?
飛行機より軽いとはいえ、中々飛べそうにない形状。
空を飛ぶのは魔法の力ですね!