謎のゴーレム達
【帝国軍】
ゴーレムの後ろに身体を隠しながら進む若い兵は、自らの持つ槍の柄を握り締めて顔を上げた。
高く聳え立つ城壁を眺め、歯を食い縛る。
「おい」
突然掛けられた声に、若者は息を飲んで斜め後ろを見た。
「硬くなり過ぎんなよ。動けない奴はすぐ死んじまうぞ」
使い込まれた鉄の鎧を着た二十代前半ほどの男がそう言うと、若者は眉間に皺を寄せて口を開く。
「あんたらみたいな傭兵と一緒にしないでくれ。僕は、僕達は帝国に侵略されて、無理矢理兵士にされたんだ。それに、どうせ一番に戦う僕達は皆死ぬに決まってるだろ」
青い顔で若者がそう言うと、男は大きな溜め息を吐いて前を指差した。
「今回は誰がどう見ても勝ち戦だぜ? 見ろよ、あの傷一つないゴーレム。三体に一体は新品のゴーレムが並んでやがる」
男がそう告げると、若者は眉根を寄せて顎を引いた。その様子にまた溜め息を吐き、男は首を左右に振る。
「ほとんどの国がゴーレムを作ってるが、帝国みたいに毎回新しいゴーレムなんて用意できないんだよ。そんだけ力が違うってことだ。必死に生き残ることだけ考えとけば、三日もすりゃ向こうから降伏してくるだろ。王の首を手土産にな」
そう言って笑う男に、若者はホッとしたように顔を前に向け、ゴーレムを見た。
その時、誰かが後方で声を上げた。
「お、おい……」
ざわめきが起こり、若者が周りを見回すと周囲の者達は顔を上に向けている。若者が遅れて上に目を向けると、視界を黒い何かが妨げた。
その黒い何かは、大きく、人のような形をしていた。
「……え?」
若者が気の抜けた声を漏らす中、周囲から悲鳴や怒号が響き渡り始めた。
その騒ぎが大きくなると、若者は慌てた様子で槍を持ち上げ、黒い何かを見上げる。
「て、敵のゴーレムだ!」
誰かが叫んだ。
直後、得物を構えたまま立ち尽くす若者のすぐ横を、無数の槍が一斉に突き出される。その槍は謎のゴーレムの身体や頭、四肢に鋭く突き込まれた。
そして、ゴーレムに命中すると同時に穂や木製の柄がヘシ折れてしまう。
「き、傷一つつかねぇだと!? 鎧すら付けてないのに!」
「魔術師は何処だ!?」
「だ、ダメだ! まだ後ろの方だ!」
突如として現れたゴーレムに混乱しながらも、兵達は何とか対処しようと動いた。
その間に帝国のゴーレムは新たに現れた謎のゴーレムへ向き直り、各々の武器を構えて突撃する。やはり、図体に似合う巨人のような力強さのある動きだ。
その帝国のゴーレムに向かって、謎のゴーレムは静かに歩き出した。
ゴーレムとゴーレムの巨体が衝突するその瞬間、謎のゴーレムの腕が霞み、帝国のゴーレムの一体の頭部が吹き飛んだ。
その光景に帝国兵達は固まる。
風を切る音と金属が切断される鋭い音が鳴り響き、頭部を失ったゴーレムは身体が二つに裂けた。
身じろぎ一つ出来なくなった兵士達とは違い、他のゴーレム達は仲間をやられても動きを緩める事無く謎のゴーレムに立ち向かう。
しかし、一体は腕を失い、一体は足を失い、最後の一体は胸に穴が空いた。
そして、瞬く間に四体のゴーレムのバラバラになった身体が地面に転がる。
若者が助けを求めるように周りを見ると、既に帝国軍が誇る最強のゴーレム達はその姿を消していた。
代わりに、あの謎のゴーレムがズラリと並び、たちふさがっている。
「……う、うわぁあああっ!?」
兵士達の絶叫に若者が振り返ると、皆がゴーレムから逃げるように走り出していた。
「な、何が起きたのですか……!? あれは……空から降ってきたあのゴーレム達は……!?」
王都を攻める一軍の遥か後方の丘の上で、ヴィオレットは呻くようにそう口にした。
遠目からでも帝国軍の戦線が崩壊していくのが分かり、ヴィオレットは歯を嚙み鳴らす。
所々で魔術による炎が上がるものの、兵達は隊列の崩壊など気にもせずに、散り散りになって逃げ回っていた。
「……我が軍のゴーレムは壊滅したようです。そして、身を呈して足止めをする筈の歩兵達が戦意を喪失して逃走しております」
騎兵の一人がそう告げると、ヴィオレットは椅子から立ち上がって目を細める。
「指揮官達は何をしているのです……! いくら寄せ集めの兵達とはいえ、あまりにも無様ではありませんか。まさか、指揮官を先に……?」
ヴィオレットがそう呟くと、騎兵の男は言い辛そうに首を左右に振った。
「いえ、軍旗を数えましたが指揮官は無事のようです」
その言葉に、ヴィオレットは怒りに顔を歪める。
「下がれば処罰されると分かっていても逃げるとは……我が帝国よりも大きな畏怖を感じた、と? 何なのですか、あのゴーレムは……!」
「こちらから援軍は……」
「……これだけの数の優位を確保していて悔しい限りですが、西から錐の陣形で攻めましょう。中心には重歩兵、左右を騎兵で固めて向かいます。先陣を切る重歩兵がゴーレムと衝突する瞬間、騎兵は左右に分かれて他のゴーレムを機動力で翻弄し足止めします。重歩兵がぶつかるゴーレムを重点的に魔術にて破壊することが目的です」
ヴィオレットが周囲の騎兵達を眺めながら指示を出し、最後に背後を振り返った。馬車に付き従うように歩く大きなゴーレムに、周囲の兵達も畏怖の目を向ける。
「一対一ならば、私のゴーレムの方が強いでしょう。重歩兵の部隊でも足止めが難しい時には私のゴーレムで対抗します」
そう口にした瞬間、空から黒い影が舞い降りた。
地響きを立てて、その黒い影はヴィオレットの正面に降り立つ。
表面はのっぺりとして、ずんぐりとした体型のその姿を見て、ヴィオレットは身体を震わせる。
「ご、ゴーレム……? こんな、こんなゴーレム見たこと……」
「しょ、将軍! 離れて下さい!」
周囲から声を掛けられ、ヴィオレットはハッと顔を上げた
「い、一体で本陣を強襲するなんて、舐めないで欲しいですね!」
そう言って片手を上げると、馬車の後ろにいたゴーレムがその巨体に見合わない素早さで動き、謎のゴーレムに迫る。
分厚く巨大な両刃の剣を軽々と振り上げ、ヴィオレットのゴーレムが人間のように滑らかな動きの斬撃を見せた。
だが、金属が衝突するような激しい音が鳴り響いても、謎のゴーレムは何事も無かったようにその場に立っていた。
遅れて、巨大な両刃の剣が地面に突き刺さる音が響き渡る。
馬車のすぐ脇の地面に突き立った両刃の剣には、ヴィオレットのゴーレムの腕が付いたままだった。
「そ、そんな馬鹿な……」
そう言って振り返ったヴィオレットの目の前で、ヴィオレット自慢のゴーレムは身体を三つに分けて破壊された。
「ぬ、ぬぁああっ!」
「さ、下がれ! 将軍を連れて下がれ!」
呆然とするヴィオレットに、周囲の兵達は声を荒げながら謎のゴーレムへと襲い掛かる。
だが、槍も剣もゴーレムの両手によって破壊され、さしもの帝国軍の精鋭達も怯んでしまった。
そんな中、ゴーレムは周囲を見回すようにゆっくりと頭部を動かし、ふわりと、その巨体からは想像も出来ないほど自然に空へと浮かび上がっていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あ、あなたを作った魔術師は誰!? あなたは何処の国のゴーレムなのですか!?」
ヴィオレットが叫びながら追い縋ろうとしたが、ゴーレムは振り返ることも無く、徐々に速度を上げて空へと飛んでいってしまった。
【王都】
空から舞い降りたゴーレム達の圧倒的な力を前に、城壁の上にいた兵士達は驚愕の声を上げた。
「な、なんだ、あのゴーレム達は……!?」
「帝国軍があっという間に蹴散らされて……」
兵士達の声を耳にしながら、ドゥケルは唸る。
「……あのゴーレムが攻めてきたら、この王都は……いや、どんな都市もすぐに占領されてしまう。敵なのか、味方なのか……」
「どぅ、ドゥケル将軍! ど、ど、どうするおつもりか!? あのゴーレムを相手に、勝算は……!?」
白いローブの男が顔面蒼白でそう言うと、ドゥケルは空を見上げて溜め息を吐いた。
「どうもこうも……勝ち負けを考えることすら馬鹿らしいわ」
ドゥケルがそう言って空を睨みながら腕を組むと、白いローブの男は顔を上げて、息を呑んだ。
空から王都を見下ろすゴーレム達の姿に、男は腰を抜かして地べたに座り込む。
怯える周囲の者達を横目に、ドゥケルは野太い声を発した。
「……逆らう気は無い。使者を一名送らせてもらえるだろうか。話がしたい」
ドゥケルがそう言うと、白いローブの男はカチカチと歯を鳴らしながらも反論を口にする。
「へ、へへ、陛下に、陛下に一度お伺いを……」
そんな白いローブの男の言葉に、ドゥケルは鼻を鳴らして口を開いた。
「誰が使者になったって一緒だろうが。それなら、俺が直接使者になって話す。こんなゴーレムを作る魔術師に会ってみたいってのが正直なところだがな」
そう言って笑うドゥケルの前に、ゴーレムの一体が降り立った。
アーマードコア仲間が多い事に驚愕しました。
ちなみに、本作ではアーマードコアのようなバッドエンドはありません。




