城に入れなかったメーア
目覚まし時計の電子音が聞こえ、布団から手だけを出して時計の上に手を置く。
音が止まると、掛け布団を被ったまま数秒ボンヤリとダラけ「よいしょ」と声を出して上半身を起こした。
顔を洗い、着替えてから階段を降りる。
「おはよう」
階段下で待っていたA1に声を掛け、エレベーターに乗った。
二階に降りて通路を歩いていくと、食堂から光が漏れている。
「あ、おはようございます」
「おはよう。随分早いね」
入ると、食堂でテーブルを拭くエイラの姿があった。挨拶を交わし、ピカピカになったテーブルに微笑む。
「よし。エイラが準備もしてくれたわけだし、もしかしたら一緒に食べるかもしれないからトレーネさん達を迎えにいこうか」
そう言うと、エイラは返事をして駆け寄ってきた。
エイラとA1を連れて一階に向かうと、何故か正門前で門番ロボット二体が門を押さえて立っている。両手を門に押し当てて仁王立ちする二体を見て、首を傾げた。
「……なんかあったのかな? 開けてくれるかい?」
そう聞いてみると、二体はゆっくりとした動作で門を開け始める。
もしかして、門の建て付けが悪くてガタガタになっちゃった?
我ながら貧乏性な推測をしていると、開かれた門の向こうに小さな人影が立っていた。
「メーアちゃん?」
名を呼ぶと、人影は少し拗ねた様子で顔を上げる。
「……おはよう、ございます」
「おはよう。どうかしたかい?」
メーアは何とも言えない表情で頷く。
「タイキ様に収穫した野菜とかを持っていこうと思ったけど、追い出されました」
「へ? 誰に? まさか、門番の二人?」
そう言って門の後ろに立つ二体を指差すと、メーアは無言で首肯した。
外からの侵入者ならともかく、島に住んでる人もダメなのかな?
そう思ってエイラを振り向く。
「エイラ、ちょっと外に出て見てくれる?」
「あ、はい。分かりました」
エイラだけ外に出て門を閉める。ノックの音がすると、門番の二体が少し門を開け、エイラが城内に入ろうとすると進行方向に手を置いてブロックした。
城の中に住んでいるエイラが入れない? もしかして毎回この二体に許可を出さないといけないのだろうか。
エイラを迎えに行き、ふとある事を思い出した。
「あ、分かったかも。ちょっとおいで」
そう言って二人とA1を連れてエレベーターに戻り、怯えるメーアの背を押して操作室へと向かう。操作室に着いて、目を瞬かせるメーアに笑いながら、操作画面へと歩み寄った。
画面に指先を当てて操作していくと、承認という画面に辿着く。
かなりの数がある項目の中に、新規入居という文字を見つけた。この画面を当たり回していた初日に見つけていたのだが、うっかり忘れていたのだ。
その文字を指で触ると、二人と思しき人間女十六歳と猫獣人女十四歳の文字が。
「十四歳?」
エイラが画面を見てそう呟くと、メーアは視線をそっと逸らした。
「後、三ヶ月で十五歳、です」
二人の様子に苦笑しながら、俺はまずエイラらしき人間女の項目を選択した。
すると、あのセクハラマシンに表示された全データがビッシリと現れる。
「…………おや?」
さも初めて見たといった雰囲気を作り出して隣を見たが、すでにエイラは涙目で耳まで真っ赤になっていた。
どうやら、この世界でもスリーサイズは数字だけで意味が通じるらしい。悪気はなかったのだが、少し見てしまったのは間違いないのでバツが悪い。
ちなみにメーアは良く分かってなさそうだった。まぁ、服装的に詳細な採寸とかしてなさそうだしな。
「えっと、なんかゴメン」
「い、い、いい、良いのです。わ、私の……くぅ……」
挙動不審になったエイラに合掌しつつ、俺は画面の下にある項目を確認する。
一階は門、エレベーター、塔などの項目があり、二階にはエレベーター、厨房などである。
どうやら、これにチェックを入れておけば好きに城内を歩けるようだ。
「ん? ということは、エレベーターも一人じゃ乗れなかったのか?」
そう尋ねると、エイラが頷いた。
いつも二階で解散していたから分からなかったのか。
一人で納得し、二人には全ての場所へ行けるようにチェックを入れた。
だが、操作画面の項目のロボット関連や防衛設備関連などはロックしておく。この辺りは間違えて操作されたら大変だしね。
「よし。それじゃあ、トレーネさん達を呼びに行こうかな」
「ん? なんで、ですか?」
「皆で朝ご飯でも、と思ってさ」
そう言って笑いかけると、メーアは少し驚いたような顔をして頷いた。
トレーネ達を迎えに行くと、誰もいない白い家が待っていた。辺りを見回しても気配すら無い。
「あれ? 何処行ったんだろう?」
そう呟くと、メーアが庭園の方を指差した。
「多分、野菜の収穫、だと、思います。収穫時期じゃなさそうな野菜とかまで熟れていたみたいなので」
「あれ全部収穫しようとしているのか! そりゃ大変だ」
メーアの台詞に驚き、俺は慌ててトレーネ達を探しに走った。
段々状になった庭園を見れば、既に籠山盛り一杯に野菜を収穫した三人の姿がある。
「おーい!」
声を掛けると、それなりに近くにいたラントとシュネーはともかく、かなり離れた場所にいるトレーネも反応した。
「おはようございます」
そう言って、三人は収穫したばかりの野菜が入った籠を背中に担いで歩いてきた。
大量である。恐らく、全員で頑張って食べて一ヶ月分くらいあるだろうか。
「うわぁー! いっぱいとれたね!」
「はい。タイキ様だけでなく、まだお会いしていない大魔術師様の分まで収穫しておこうと思いまして」
一番にこちらへ辿り着いたラントにそう言われ、俺はきちんと情報を伝えられていないことに気が付いた。
「あ、ごめんなさい。島には誰も住んでないって言ったのを勘違いしたんですね。城にも、今は俺とエイラしか住んでないんですよ」
「……え?」
と、唖然としたラントとシュネーの顔を見たところで、改めて城と島を合わせた人口の話と、野菜がどれくらいの頻度で出来上がるかを教えた。
あとは、お昼ちょうどになったら毎回ロボットが自動で水撒きをし、一週間に一回別のロボットが木々や野菜の葉などを切っていき、庭園の外観を揃えてくれることも教える。
ただし、収穫はしていないので、せっかく出来た作物も切られた枝や葉と一緒に棄てられてしまうのだ。
「えぇ! 勿体無い!」
珍しくシュネーが大きな声を出した。
「まぁ、毎週収穫出来ますからね。枯らさないように気をつけて、この人数が食べられるだけの分を収穫してくれたら大丈夫ですよ」
そう言うと、三人は成る程と頷くと「そんな畑聞いたこともありませんが、大魔術師様ならば納得です」みたいな事を言っていた。
まぁ、こんなとんでもない環境俺だって信じられないしね。仕組みとか考え出したら、気が付いたらお爺ちゃんになってしまいそうだ。
「それじゃあ、皆さんが収穫してくれた野菜を使ってお食事としましょう」
そう言って一先ず話を打ち切ると、何故かメーアの腹が音を立てて鳴った。
皆からの視線を受けて、メーアは怒ったような顔をして自らのお腹に手を置く。
「…………お、お肉も、食べたい。です」
「うん。いっぱい入れて上げようね」
笑いながらそう答えると、メーアの耳が嬉しそうにピンと立ち、トレーネ達からも笑顔が溢れた。
だが、背後のA1とエイラからは微妙に冷たい気配を感じていた。
次話では、そろそろ王国へと踏み込みたいと思っております。王国は天空の城にどのような態度を見せるのか。
面白く書けるように頑張ります!




